アジ化ナトリウムのソースを表示

{{Chembox
|   Name = アジ化ナトリウム
|   ImageFile = Sodium azide.svg
|   ImageFile1 =  
|   IUPACName = アジ化ナトリウム<br />sodium azide
|   OtherNames = 
| Section1 = {{Chembox Identifiers
|   CASNo = 26628-22-8 
|   CASNo_Ref = 
|   RTECS = 
|   EINECS = 
|   UNNumber = 
  }}
| Section2 = {{Chembox Properties
|   Formula = NaN<sub>3</sub>
|   MolarMass = 65.0099 g mol<sup>−1</sup>
|   Appearance = 無色結晶
|   Density = 1.846 g cm<sup>−3</sup>, 固体
|   Solubility = 41.7 g / 100 cm<sup>3</sup> 水 (17 ℃)
|   MeltingPtC=275
|   BoilingPtC=300
|   Boiling_notes=分解
|   Viscosity = 
|   pKa = 
  }}
| Section3 = {{Chembox Structure
| CrystalStruct = [[六方晶系]]
| Coordination = 
| MolShape = 
  }}
| Section4 = {{Chembox Thermochemistry
| DeltaHf = 21.71 kJ mol<sup>−1</sup><ref name="Parker" />
| DeltaHc = 
| Entropy = 96.86 J mol<sup>−1</sup>K<sup>−1</sup>
| HeatCapacity = 76.61 J mol<sup>−1</sup>K<sup>−1</sup> 
  }}
| Section7 = {{Chembox Hazards
|   ExternalMSDS = [http://ptcl.chem.ox.ac.uk/MSDS/SO/sodium_azide.html External MSDS]
|   EUIndex = 
|   FlashPt = 
|   EUClass = 猛毒 ('''T+''')<br />環境への危険性 ('''N''')
|   NFPA-H = 4
|   NFPA-F = 0
|   NFPA-R = 4
|   NFPA-O = 
|   RPhrases = {{R-phrases|28|32|50/53}}
|   SPhrases = {{S-phrases|1/2|28|45|60|61}}
  }}
| Section8 = {{Chembox Related
|   Function = 
|   OtherFunctn = 
|   OtherCpds = [[シアン酸ナトリウム]]<br />[[アジ化水素]]<br />[[アジ化メチル]]
  }}
}}

'''アジ化ナトリウム''' (アジかナトリウム、sodium azide) は、[[組成式]] NaN<sub>3</sub> で表される白色無臭の[[塩 (化学)|結晶]]である。'''ナトリウムアジド'''ともいう。[[式量]] 65.01、[[融点]] 275 ℃、沸騰する前に分解するので沸点は無い。室温では[[六方晶系]]の結晶である。[[窒化ナトリウム]] Na<sub>3</sub>N（式量 82.976）と混同されやすいが、これとは全く別の化合物である。

== 製法 ==
* [[ナトリウムアミド]]と[[亜酸化窒素]]を反応させる(ナトリウムアミド法)<ref name="Cotton" />。
:<chem>2 NaNH2 + N2O -> NaN3 + NaOH + NH3 </chem>
:具体的にはナトリウムアミド粉末と亜酸化窒素を150-250 ℃で加熱して得る方法(高温法)や流動パラフィンにナトリウムアミドを懸濁させ150-180 ℃で加熱して得る方法(中温法)、ナトリウムアミドを液体[[アンモニア]]に溶いて10-30 ℃で亜酸化窒素を吹き込む方法(低温法)などがある<ref name=":2">{{Cite web|和書|url=https://patents.google.com/patent/JPH0664908A/ja |title=アジ化ナトリウムの連続的製造方法JPH0664908A - Google Patents |access-date=2023-01-04 |author=溝口 光幸}}</ref>。
* [[亜硝酸ナトリウム]]と[[ヒドラジン]]を反応させる(ヒドラジン法)。
:<chem>NaNO2 + N2H4 -> NaN3 + 2 H2O </chem>
:上記に類似した反応で、水加ヒドラジンに水酸化ナトリウムまたは[[ナトリウムメトキシド]]等のナトリウム[[アルコキシド]]の[[アルコール]]溶液を加え、亜硝酸エチル等の液状[[亜硝酸エステル|亜硝酸アルキル]]を加える方法がある。
:<chem>N2H4*H2O + NaOH +R-ONO ->NaN3 + R-OH + 3H2O </chem><chem>N2H4*H2O + R-ONa +R'-ONO ->NaN3 + R-OH +R'-OH + H2O </chem>
:これらのヒドラジン法は、前者のナトリウムアミド法に比べれば工程が簡単で爆発等の危険性は少ないが、経済性、及び生成するアジ化ナトリウム結晶の純度に問題が残っている。当該方法では副生物の生成率が高く、高純度の製品を得るためには[[再結晶]]等の精製操作を必要とする<ref name=":2" />。
* {{要出典範囲|date=2023年1月|[[硝酸ナトリウム]]と[[ナトリウムアミド]]を反応させる。}}
:<chem>NaNO3 + 2NaNH2 -> NaN3 + 2NaOH </chem>

== 性質 ==
[[生成熱|生成エンタルピー]]が正であり、[[熱力学|熱力学的]]に不安定な物質で、融点付近で
: <chem>2NaN3 -> 2Na + 3N2</chem>

の反応が起こり、[[窒素]]と[[ナトリウム]]に分解する。特に、急に加熱すると[[爆発]]の危険性もある。しかしながら、重金属元素の[[アジ化物]]が衝撃に敏感に反応して爆発することと比較して、アジ化ナトリウムは衝撃による爆発性を有しない。これはナトリウムが非常に電気陽性の強い元素であるためである。

水に非常によく溶け (17 ℃で 42 g/100 ml)、弱[[塩基性]]を示す。反応性が高く、[[二硫化炭素]]や多くの[[金属]]と反応し、爆発性の高いアジ化物を形成する<ref name=chem/>。それに加え、[[酸]]とも反応し、爆発性をもち刺激臭のある有毒ガスである[[アジ化水素]]を発生する<ref name=chem/>。

アジ化物イオン N<sub>3</sub><sup>−</sup> の構造は直線形であり[[共鳴理論|共鳴]]しており、N−N結合距離は1.15 [[オングストローム|Å]]である<ref name="Cotton" />。
: <chem>N^{2-} - N^+ \equiv N <-> N^- = N^+ = N^- <-> N \equiv N^+ - N^{2-}</chem>

== 用途 ==
アジ化ナトリウムには[[防腐剤]]・園芸用殺菌剤・医薬品原料・[[農薬]]原料・起爆剤など、さまざまな用途がある<ref name=":0">{{Cite journal|和書|author=千葉百子, 大道正義, 稲葉裕 |title=アジ化ナトリウムの生体影響と事故例 |journal=日本衞生學雜誌 |ISSN=00215082 |publisher=日本衛生学会 |year=1999 |month=jan |volume=53 |issue=4 |pages=572-579 |naid=10006375322 |doi=10.1265/jjh.53.572 |url=https://doi.org/10.1265/jjh.53.572 |ref=harv}}</ref>。かつては、その爆発・分解性を利用して[[自動車]]の[[エアバッグ]]を窒素ガスで膨らませることに用いていたが、日本では人体・環境に配慮して、2000年より使用が撤廃された<ref>{{Cite journal|和書|author=新井充 |title=自動車用安全部品とエネルギー物質 |journal=日本燃焼学会誌 |ISSN=1347-1864 |publisher=日本燃焼学会 |year=2008 |volume=50 |issue=152 |pages=107-110 |naid=130006320555 |doi=10.20619/jcombsj.50.152_107 |url=https://doi.org/10.20619/jcombsj.50.152_107}}</ref>。

[[有機合成化学|有機合成]]において、[[ハロゲン化アルキル]]から有機[[アジ化物]]を調製する際に[[求核剤]]として用いられる。
: <chem>R-X + NaN3 -> R-N3 + NaX </chem> {{mvar|(X {{=}} Cl, Br, I)}}

他の金属アジ化物を合成するための原料としても用いられる。また、加熱によってナトリウムと窒素に分解することから、純粋なナトリウムおよび窒素を得るための原料としても利用される<ref name=chem>{{Cite book|和書|author=宮川、難波|editor=化学大辞典編集委員会(編)|title=化学大辞典|volume=1|pages=63頁|edition=縮刷版第26版|publisher=共立|year=1981|month=10}}</ref>。

水質分析において、ウインクラー・アジ化ナトリウム変法によって[[溶存酸素量]] (DO) を測定する際に[[亜硝酸]]による妨害をマスキングするために用られる<ref>{{Cite book|和書|author=久谷邦夫|year=2008|editor=環境学園専門学校|title=公害防止管理者 水質関係|page=238|publisher=弘文社|isbn=9784770322906}}</ref>。また、[[二酸化硫黄]]や[[亜硫酸]]の分析においても同様に、亜硝酸による妨害をマスキングするために用いられる<ref>{{Cite book|和書|author=厚生労働省|year=2003|title=食品衛生検査指針 食品添加物編 2003|page=105|publisher=日本食品衛生協会|isbn=4889250050}}</ref>。

エイズ治療薬である[[アジドチミジン]]の原料となるほか、[[アジ化水素]]、アジ化水素酸エステル、アジ化物の原料となる。

=== 測定実験 ===
物理化学的な測定において試料セル (sample cell) と参照セル (reference cell) がある測定装置 ([[等温滴定カロリメトリー|ITC]]・[[示差走査熱量測定|DSC]]) は参照セルにアジ化ナトリウムを使用しており、上記に示されるように防腐剤の役割を果たしている。

== 毒性 ==
酸と反応して生成するアジ化水素を吸引することや、アジ化ナトリウムそのものを経口摂取することは非常に危険である。また、[[アジ化物]]イオンは[[細胞]]の[[呼吸]]を阻害する働きがある。[[一酸化炭素]]がそうであるのと同様に、[[ヘモグロビン]]に対して不可逆的な結合を形成し、これにより細胞が死（[[アポトーシス]]）にいたる。アジ化ナトリウムによって最も深刻な被害を受けるのは、多量の[[酸素]]を必要とする、[[心臓]]と[[大脳]]である。

アジ化ナトリウムの最低影響量は5mg以下と考えられる<ref name=":0" />。アジ化ナトリウム摂取後の症状として、頭痛・吐き気・発汗・筋弛緩・血圧降下・頻脈・過呼吸・徐脈・眼への作用が見られ、部検所見では必ず脳と肺の浮腫が認められる<ref name=":0" />。大量に摂取すると、[[痙攣]]・[[血圧]]降下・[[意識]]不明・[[呼吸不全]]などを引き起こし[[死]]に至る。現在、中毒症状に対する根本的な治療方法は確立されておらず、[[対症療法]]のみの治療となる。アジ化ナトリウム中毒から回復したとしても、脳などに深刻な後遺症が残る場合もある。

なお、アジ化ナトリウムは[[胃酸]]と反応し、[[アジ化水素]]を発生させ、治療者に二次被害を与える危険性がある<ref name=":1">{{Cite journal|和書|author=広瀬保夫, 畑耕治郎, 本多拓, 山崎芳彦, 堀寧, 大関暢 |title=アジ化ナトリウム集団中毒症例の検討 |journal=日本救急医学会雑誌 |ISSN=0915-924X |publisher=日本救急医学会 |year=2001 |volume=12 |issue=3 |pages=125-129 |naid=130003625799 |doi=10.3893/jjaam.12.125 |url=https://doi.org/10.3893/jjaam.12.125}}</ref>。日本でも、医療スタッフに「眩暈」「頭痛」「目の痛み」などの二次被害が発生した事例がある<ref name=":1" />。

== 法規制 ==
=== 日本 ===
食物に砒素を混入した[[和歌山毒物カレー事件]]が起きた1998年夏から秋にかけて、[[新潟県|新潟]]・[[三重県|三重]]・[[愛知県|愛知]]・[[京都府|京都]]でポットの湯などにアジ化ナトリウムが混入される事件が相次いだ。薬品のずさんな管理体制が明らかになった一連の事件を受けて、[[厚生労働省]]は1999年に[[毒物及び劇物取締法]]により、アジ化ナトリウムを[[毒物]]に指定した<ref>{{Cite journal|和書|author=伊藤八十男、小川廣|year=2001|title=イオンクロマトグラフ法による飲料水中のアジ化物イオンの定量|url=https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11626605?tocOpened=1|journal=北海道立衛生研究所報|volume=51|page=118|publisher=北海道立衛生研究所}}</ref>。

[[消防法]]において、第5類[[危険物]]（自己反応性物質）に属する。因みに、アジ化ナトリウムは、加熱すると分解し第3類危険物（自然発火性物質・禁水性物質）である金属ナトリウム(Na)を生じる。

== 出典 ==
{{reflist|refs=
<ref name="Cotton">{{Cite book|和書|author=F.A. コットン, G. ウィルキンソン|others=中原 勝儼|title=コットン・ウィルキンソン無機化学（上）|pages=418-419|publisher=培風館|year=1987|isbn=4563041920}}</ref>
<ref name="Parker">{{Cite book|author=D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal|title=The NBS tables of chemical thermodynamics properties, ''J. Phys. Chem.'' Ref. Data 11 Suppl. 2|year=1982}}</ref>
}}

{{ナトリウムの化合物}}
{{DEFAULTSORT:あしかなとりうむ}}
[[Category:アジ化物]]
[[Category:ナトリウムの化合物]]
[[Category:第5類危険物]]
[[Category:爆薬]]
[[Category:防腐剤]]