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アハラノフ=ボーム効果
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'''アハラノフ=ボーム効果'''(アハラノフ=ボームこうか、{{lang-en-short|Aharonov–Bohm effect}})は、[[電子]]のような[[電荷]]を持つ[[粒子]]が、[[空間]]の[[電磁場]]のない領域において[[電磁ポテンシャル]]の影響を受ける現象である。アハラノフ=ボーム効果の名は、[[1959年]]にその存在を指摘した{{sfn|Aharonov|Bohm|1959}}[[ヤキール・アハラノフ]]と[[デヴィッド・ボーム]]に因み、両名の頭文字を取って'''AB効果'''({{lang-en-short|AB effect}})と略記されることもある。また、ときにアハラノフの名はアハロノフとも綴られる。 アハラノフ=ボーム効果は、電荷を持つ粒子に対する[[ハミルトニアン]]が電磁ポテンシャルを含むことと、[[シュレーディンガー方程式]]などの[[量子力学]]における基本方程式が[[ゲージ理論|ゲージ変換]]に対して不変であることに関係している。ハミルトニアンが電磁ポテンシャルを含むことは古典論における[[解析力学]]からの結果であり{{sfn|須藤|2008|pp=201-204|loc=付録A 電磁場の古典論}}、また量子力学においては、[[正準量子化]]の方法を経て量子力学が古典力学と対応するための要請である{{sfn|江沢|2002|pp=117-119|loc=§13.1 基本量 (b) 電子のハミルトニアン}}。ゲージ変換に対する不変性については、古典的な[[電磁気学]]における[[マクスウェル方程式]]がゲージ変換不変であることからの要請である{{sfn|江沢|2002|pp=121-123|loc=§13.1 基本量 (d) ゲージ変換}}。アハラノフ=ボーム効果はこれらの古典論からの要請を量子力学に適用した場合に現れる量子効果であると言える。 == 概要 == アハラノフ=ボーム効果は[[量子力学]]の研究において理論的に示された現象であり、古典的な[[電磁気学]]が成り立つ範疇においては、アハラノフ=ボーム効果は現れない。このことは、電磁気論における基本方程式である[[マクスウェル方程式]]が電磁ポテンシャルに対する[[ゲージ変換]]について不変であり、同じ電磁場を与える電磁ポテンシャルの選び方には任意性があることに端的に示されている。 量子力学において、[[シュレーディンガー方程式]]が古典論からの要請を満たすように、ゲージ変換された電磁ポテンシャルに対するシュレーディンガー方程式が元の電磁ポテンシャルに対する方程式に一致するためには、電磁ポテンシャルに対する変換だけでは不十分であり、[[波動関数]]の[[位相]]部分もまた変換されなければならない{{sfn|江沢|2002|pp=121-123|loc=§13.1 基本量 (d) ゲージ変換}}。しかしながら、ゲージ変換に対する波動関数の位相の変化は変換される波動関数の全体にかかり、[[確率密度]]やその[[連続の方程式#量子力学|流れの密度]]を記述する上では、波動関数の位相そのものは影響を及ぼさない{{sfn|江沢|2002|pp=121-123|loc=§13.1 基本量 (d) ゲージ変換}}。 ゲージ変換によって現れるゲージ関数は、ゲージ変換によって得られた新たな電磁ポテンシャルの内容を含んでいる。特に、磁場のないような系を考えると、磁場はベクトルポテンシャルの[[回転 (ベクトル解析)|回転]]によって与えられるので、この場合にはベクトルポテンシャルはゲージ関数の[[勾配 (ベクトル解析)|勾配]]によって与えられる{{sfn|Aharonov|Bohm|1959|p=486}}。従って、磁場のない系におけるゲージ関数はベクトルポテンシャルの[[線積分]]によって表される。ここで、異なる経路を通る粒子に対する波動関数を考えると、ゲージ関数はそれらの経路に依存するから、はじめにそれぞれの波動関数の位相が揃っているものとすれば、それぞれの波動関数の間には経路上のベクトルポテンシャルに依存した'''位相差'''が生じることになる。[[重ね合わせの原理]]によって、系全体の波動関数はそれぞれの経路を通る波動関数の[[線型結合|足し合わせ]]として表されるから、経路が重なり合う場所においては波動関数の[[干渉 (物理学)|干渉]]が生じる。これは実際に観測され得ることであり、量子力学に特有な現象である。このような現象を'''アハラノフ=ボーム効果'''と呼ぶ。 == 実験による検証 == アハラノフとボームの指摘以来、長らく検証実験が試みられたが確かな証拠が得られないまま、その存在に懐疑的な意見もあったが、[[1986年]]、[[外村彰]]により[[電子線ホログラフィー]]の手法を用いて、その存在が実証された<ref>{{Cite web|和書|title=電子顕微鏡の功績 : FE電子顕微鏡 IEEEマイルストーン認定|url=https://www.hitachi-hightech.com/site/jp/about/ieee/product.html|website=www.hitachi-hightech.com|accessdate=2020-04-15|publisher=[[日立ハイテク]]}}</ref>。 それまで実験が困難だった原因は一つに、磁場や電場が完全に存在しない条件を満足することが困難だったことがある。それまでの実験では有限の長さの[[コイル]]が使用されたが、この場合コイルに端が存在し、そこからの磁場の漏れによる影響が無視できなかった。コイルを[[ドーナツ]]状(リング状)にすれば、理想的には磁場は漏れ出さないが、[[陰極線|電子線]]の[[波長]]の要請から、それは非常に微細(数マイクロ[[メートル]]オーダー)にする必要があった。 外村の検証実験では、非常に微細なドーナツ状の[[磁石]](ドーナツ内に磁場が存在)を[[超伝導体]]([[ニオブ]])で取り囲み、超伝導転移温度以下にしておく。このため、[[マイスナー効果]]により当該磁石の磁場は、ドーナツ外部に漏れ出すことを完全に防ぐことができる。この状態で、電子線をそれぞれ、そのドーナツ状の部分の孔の中と、ドーナツ状磁石の外側とに通し、各々の位相の差を、前述の電子線ホログラフィーを使って[[干渉 (物理学)|干渉縞]]の形で[[観測]]した。観測の結果、2つの場合の間に <math>\pi</math>(半波長)だけの[[位相]]差が存在し<ref>外村の実験にて電子線に<math>\pi</math>だけの位相差を出すには、アハラノフ=ボーム効果に加えてドーナツ状磁石中の[[磁束#磁束の量子化|磁束が量子化]]されることも必要となる。磁束量子1つにつき<math>\pi</math>だけの位相差が生じるため、実際に観測される位相差は0ないしは<math>\pi</math>のいずれかとなり、それ以外の位相差は現れない。</ref>、磁場が完全にない状態で、電子線が[[電磁ポテンシャル]](この場合は、[[ベクトルポテンシャル]])の影響を受けていることが実証された。 外村の実験後、電子線だけでなく、リング状の[[電気伝導体|導体]]や[[カーボンナノチューブ]]中を運動する電子にあってもアハラノフ=ボーム効果が発生することが観測されている。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist}} == 参考文献 == * {{cite journal|doi=10.1103/PhysRev.115.485|first1=Y.|last1=Aharonov|authorlink1=ヤキール・アハラノフ|first2=D.|last2=Bohm|authorlink2=デヴィッド・ボーム|journal= Phys. Rev. |volume=115|year= 1959|pages= 485-491|url=http://prola.aps.org/abstract/PR/v115/i3/p485_1|title=Significance of electromagnetic potentials in the quantum theory}} * {{cite book|和書|last=須藤|first=靖|title=解析力学・量子論|date=2008-9-5|publisher=[[東京大学出版会]]|isbn=978-4-13-062610-1|ref=harv}} * {{cite book|和書|last=江沢|first=洋|authorlink=江沢洋|title=量子力学 II|publisher=[[裳華房]]|date=2002-4-15|isbn=978-4-7853-2207-6|ref=harv}} * {{cite book|last1=Peshkin|first1=M.|last2=Tonomura|first2=A.|year=1989|title=The Aharonov–Bohm effect|publisher=[[シュプリンガー・フェアラーク|Springer Verlag]]|isbn=3-540-51567-4|ref=harv}} == 関連記事 == * [[物性物理学]] * [[シュレーディンガー方程式]] * [[ハミルトン力学]] * [[ゲージ変換]] == 外部リンク == * [https://www.journal.ieice.org/conts/kaishi_wadainokiji/200012/20001201-1.html 電子波で見る電磁界分布 【ベクトルポテンシャルを感じる電子波】] - 外村彰 電子情報通信学会誌 Vol.83 No.12 pp.906-913(2000 年 12 月) {{Condensed matter physics topics}} {{Normdaten}} {{デフォルトソート:あはらのふほおむこうか}} [[Category:効果]] [[Category:量子力学]] [[Category:物理現象]] [[Category:デヴィッド・ボーム]] [[Category:物理学のエポニム]]
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