アレフ数のソースを表示

{{Redirect|アレフ・ワン|ゲームエンジン|Marathon#AlephOne}}
[[Image:Aleph0.svg|thumb|right|150px|アレフ・ゼロ、最小の無限基数]]
[[数学]]を基礎付ける[[集合論]]において、'''アレフ数'''（アレフすう、{{lang-en-short|''aleph number''}}）は[[無限集合]]の[[濃度 (数学)|濃度]]（あるいは大きさ）を表現するために使われる[[順序数]]のクラスである。

名称はそれらを表記するのに使われる文字、[[ヘブライ文字]]の第一文字[[א|アレフ]] (א&rlm;) に由来する<ref>{{Cite |和書 | author = 黒木哲徳 | title = なっとくする数学記号 | date = 2021 | pages = 125 | publisher = 講談社 | isbn = 9784065225509 | series = ブルーバックス | ref = harv }}</ref>。

[[自然数]]全体の集合の濃度は'''アレフ・ノート {{math|ℵ{{sub|0}}}}'''（{{en|aleph-naught}}; '''アレフ・ヌル''' (aleph-null) あるいは'''アレフ・ゼロ''' (aleph-zero) とも）であり、それより一段階大きい濃度が'''アレフ・ワン {{math|ℵ{{sub|1}}}}''', 次はアレフ・ツー {{math|ℵ{{sub|2}}}} と以下同様に続く。このように続けて、すべての[[順序数]] {{mvar|α}} に対して以下に述べられるように一般のアレフ数となる[[濃度 (数学)|濃度]] {{mvar|ℵ{{sub|α}}}} を定義することができる。

概念は[[ゲオルク・カントール]]までさかのぼる。彼は濃度の概念を定義し無限集合には異なる濃度があることに気付いた。

アレフ数は代数学や微積分でよく見る[[無限|無限大]] (∞) とは異なる。アレフ数は集合の大きさを測るものだが、一方無限大は一般に（[[関数 (数学)|関数]]や[[数列]]が「無限大に発散する」とか「限りなく増大する」という形で現れる）[[実数直線]]上の非有限[[極限]]、あるいは[[拡大実数]]直線の[[極点]]として定義される。

== アレフ・ノート ==
'''{{math|ℵ{{sub|0}}}}''' はすべての自然数からなる集合の濃度であり、[[超限数|無限基数]]である。すべての有限[[順序数]]からなる集合は、'''{{mvar|ω}}''' あるいは '''{{math|''ω''{{sub|0}}}}''' と呼ばれ、濃度 {{math|ℵ{{sub|0}}}} をもつ。集合の濃度が {{math|ℵ{{sub|0}}}} であることは、[[可算無限]]である&mdash;すなわち[[自然数]]全体の成す集合との間に[[全単射]]（一対一対応）がある&mdash;ことと同値である。そのような集合の例は

* すべての[[平方数]]からなる集合，すべての[[立方数]]からなる集合，すべての[[二重平方数|四乗数]]からなる集合，……，
* すべての[[累乗数]]からなる集合，すべての[[素数]]の冪からなる集合，
* すべての[[偶数]]からなる集合，すべての[[奇数]]からなる集合，
* すべての[[素数]]からなる集合，すべての[[合成数]]からなる集合，
* すべての[[整数]]からなる集合，
* すべての[[有理数]]からなる集合，
* すべての[[代数的数]]からなる集合，
* すべての[[計算可能数]]からなる集合，
* すべての{{仮リンク|定義可能数|en|definable number}}からなる集合，
* すべての有限長の二進[[文字列]]からなる集合，
* 任意に与えられた可算無限集合のすべての有限[[部分集合]]からなる集合。

無限順序数 {{math|''ω'', ''ω'' + 1, ''ω''&sdot;2, ''ω''{{sup|2}}, ''ω{{sup|ω}}''}} および [[エプシロン・ノート|{{math|''ε''{{sub|0}}}}]]（[[イプシロン数]]も参照）は可算無限集合からとれる<ref>{{Citation | last1=Jech | first1=Thomas | title=Set Theory | publisher= [[Springer-Verlag]]| location=Berlin, New York | series=Springer Monographs in Mathematics | year=2003}}</ref>。例えば、すべての正の奇数のあとにすべての正の偶数を並べた（[[順序数]] {{math|''ω''&sdot;2}} をもつ）列

: {{math|{{mset|1, 3, 5, 7, 9, …, 2, 4, 6, 8, 10, …}}}}

は正の整数全体の（濃度 {{math|ℵ{{sub|0}}}} の）集合の整列である。

[[可算選択公理]]を仮定すれば、{{math|ℵ{{sub|0}}}} は他のどんな無限基数よりも小さい。

== アレフ・ワン ==
{{See also|最小の非可算順序数}}
'''{{math|ℵ{{sub|1}}}}''' はすべての可算[[順序数]]からなる集合の濃度で、'''{{math|''ω''{{sub|1}}}}''' あるいは（ときに）'''{{math|Ω}}''' と呼ばれる。この {{math|''ω''{{sub|1}}}} はそれ自身順序数でありすべての可算順序数より大きく、したがって[[不可算集合]]である。それゆえ、{{math|ℵ{{sub|1}}}} は {{math|ℵ{{sub|0}}}} とは異なる。{{math|ℵ{{sub|1}}}} の定義は、（選択公理の''ない'' ZF、[[ツェルメロ・フレンケル集合論]]において） {{math|ℵ{{sub|0}}}} と {{math|ℵ{{sub|1}}}} の間に基数は存在しないことを意味している。[[選択公理]] (AC) を使えば、さらに次のことが証明できる。基数のクラスは[[全順序]]でありしたがって {{math|ℵ{{sub|1}}}} は 2 番目に小さい無限基数である。AC を使って集合 {{math|''ω''{{sub|1}}}} の最も有用な性質の 1 つを証明できる。{{math|''ω''{{sub|1}}}} の任意の可算部分集合は {{math|''ω''{{sub|1}}}} において上界をもつ。（このことは AC の最もよくある応用の 1 つである可算集合の可算和は可算であるという事実から従う。この事実は {{math|ℵ{{sub|0}}}} における状況に類似である。すなわち、自然数からなるすべての有限集合は再び自然数である最大元を持ち、有限集合の[[合併 (集合論)|有限和]]は有限である。

{{math|''ω''{{sub|1}}}} は多少エキゾチックに聞こえるかもしれないが実は有用な概念である。応用例は可算の操作に関して「[[閉性質|閉じるようにする]]」ことである。例えば、部分集合の任意の集まりによって生成される[[完全加法族|σ-代数]]を明示的に記述しようとすること（例えば[[ボレル階層]]を見よ）。これは代数（[[ベクトル空間]]や[[群 (数学)|群]]など）における「生成」のたいていの明示的な記述よりも難しい。なぜならばこれらのケースにおいて有限の操作 - 和、積、などに関して閉じているだけでよいからだ。各可算順序数に対して、[[超限帰納法]]を経由して、ありとあらゆる可算和と補集合を「投げ込んで」集合を定義し、{{math|''ω''{{sub|1}}}} のすべてに渡ってすべてのそれの和集合をとる、ということをその操作（σ-代数の生成）は含む。

==連続体仮説==
{{main|連続体仮説}}
{{see also|ベート数}}
[[実数]]の集合の[[濃度 (数学)|濃度]]（[[連続体濃度]]）は {{math|2{{sup|ℵ{{sub|0}}}}}} である。この数がアレフ数の列のどこに一致するかは ZFC（[[選択公理]]を伴った[[ツェルメロ・フレンケル集合論]]）から決めることはできないが、ZFC から「連続体仮説 (continuum hypothesis, '''CH''') は等式 {{math|1=2{{sup|ℵ{{sub|0}}}} = ℵ{{sub|1}}}} と同値である」ことが従う。CH は ZFC から独立である。（ZFC が無矛盾であれば）CH はその公理系において証明も反証もできない。それが ZFC と無矛盾であることは [[クルト・ゲーデル]] によって 1940 年にその否定が ZFC の定理でないことを示したときに証明された。それが ZFC と独立であることは [[ポール・コーエン (数学者)|ポール・コーエン]] によって 1963 年に逆に CH 自身は ZFC の定理でないことを（当時は新奇な）[[強制法]]の手法によって示したときに証明された。

== アレフ・オメガ ==
慣習的に最小の無限順序数は {{mvar|ω}} と表記され、濃度 '''{{mvar|ℵ{{sub|ω}}}}''' はアレフ数の中で
:<math>\{\aleph_n : n\in\{\,0,1,2,\dots\}\}</math>
の最小上界である。

{{mvar|ℵ{{sub|ω}}}} はツェルメロ・フレンケル集合論においてすべての[[実数]]からなる集合の濃度 {{math|2{{sup|ℵ{{sub|0}}}}}} に等しく'''ない'''ことが証明できる最初の不可算濃度である；任意の正整数 {{mvar|n}} に対して矛盾なく {{math|1=2{{sup|ℵ{{sub|0}}}} = ''ℵ{{sub|n}}''}} と仮定でき、さらに {{math|2{{sup|ℵ{{sub|0}}}}}} は好きなだけ大きいと仮定できる。ZFCにおいて {{math|2{{sup|ℵ{{sub|0}}}}}} に関する主な制約は、[[共終数]]が {{math|ℵ{{sub|0}}}} である特別な基数とは等しくないということである。非可算無限基数 ''κ'' の共終数が ℵ<sub>0</sub> であることは、極限（つまり最小上界）が ''κ'' である基数 ''κ<sub>i</sub>'' < ''κ'' の（可算な長さの）列 ''κ''<sub>0</sub> ≤ ''κ''<sub>1</sub> ≤ ''κ''<sub>2</sub> ≤ ... が存在することを意味する（{{ill2|イーストンの定理|en|Easton's theorem}}を見よ）。上記の定義に従うと、 ℵ<sub>ω</sub> はそれより小さな基数の可算な長さの列の極限となる。

== 一般のアレフ数 ==
任意の順序数 {{mvar|α}} に対して '''{{mvar|ℵ{{sub|α}}}}''' を定義するために、{{ill2|後続基数|en|successor cardinal|label=基数の後者演算}}を定義する必要がある。これは任意の濃度 {{mvar|ρ}} に対して次に大きい[[整列]]された濃度 {{math|''ρ''{{sup|+}}}} を割り当てる（[[選択公理]]が成り立てば、これは次に大きい濃度である）。

するとアレフ数を次のように定義できる。

:<math>\aleph_{0} = \omega</math>
:<math>\aleph_{\alpha+1} = \aleph_{\alpha}^+</math>

そして無限極限順序数 {{mvar|λ}} に対して、

:<math>\aleph_{\lambda} = \bigcup_{\beta < \lambda} \aleph_\beta.</math>

{{mvar|α}} 番目の無限始数は {{mvar|ω{{sub|α}}}} と書かれる。
その濃度は {{mvar|ℵ{{sub|α}}}} と書かれる。[[始順序数]]を参照。

ZFC においてアレフ関数 {{mvar|ℵ}} は順序数と無限濃度の間の全単射である<ref>{{PlanetMath | urlname=AlephNumbers | title=aleph numbers | id=5710}}</ref>。

== アレフ関数の不動点 ==
任意の順序数 {{mvar|α}} に対して
:<math>\alpha\leq\aleph_\alpha</math>
が成り立つ。多くの場合 {{mvar|ω{{sub|α}}}} は {{mvar|α}} よりも真に大きい。例えば、任意の後続順序数 {{mvar|α}} に対してこれが成り立つ。しかしながら、{{ill2|正規関数の不動点補題|en|fixed-point lemma for normal functions|label=正規関数の不動点補題}}によって、アレフ関数 <math display="inline">f(\alpha)=\aleph_\alpha</math> の[[固定点|不動点]]である極限順序数が存在する。最初のそのようなものは次の列の極限である。

:<math>\aleph_0,\ \aleph_{\aleph_0},\ \aleph_{\aleph_{\aleph_0}},\ldots</math>

任意の弱[[到達不能基数]]はまたアレフ関数の不動点である<ref name="Harris 2009">{{cite web | url=http://kaharris.org/teaching/582/Lectures/lec31.pdf | title=Math 582 Intro to Set Theory, Lecture 31 | publisher=Department of Mathematics, University of Michigan | date=April 6, 2009 | accessdate=September 1, 2012 | author=Harris, Kenneth}}</ref>。これは ZFC において次のように示せる。
{{math|1=''κ'' = ''ℵ{{sub|λ}}''}} が弱到達不能基数とする。{{mvar|λ}} がもし[[後続順序数]]であれば、{{mvar|ℵ{{sub|λ}}}} は{{仮リンク|後続基数|en|successor cardinal}}になりしたがって弱到達不能でない。もし <math>\lambda</math> が {{mvar|κ}} よりも小さい[[極限順序数]]であれば、その [[共終数]]（そしてしたがって {{mvar|ℵ{{sub|λ}}}} の共終数）は {{mvar|κ}} よりも小さく、したがって {{mvar|κ}} は正則でなくゆえに弱到達不能でない。したがって {{math|''λ'' &ge; ''κ''}} であるので {{math|1=''λ'' = ''κ''}} であり不動点である。

== 選択公理の役割 ==

任意の無限[[順序数]]の濃度はアレフ数である。また、どのアレフ数もある順序数の濃度である。濃度がアレフ数である順序数のうち最小のものはアレフ数の[[始数]]である。濃度がアレフ数である任意の集合はある順序数と[[等濃]]であり、したがって整列可能 (well-orderable) である。

任意の[[有限集合]]は整列可能であるが、その濃度はアレフ数ではなく、有限の自然数である。

任意の[[無限集合]]の濃度がアレフ数であるという仮定は、ZF におけるすべての集合の整列の存在と同値であり、これは[[選択公理]]と同値である。ZFC 集合論では選択公理を含むため、すべての無限集合の濃度はアレフ数である（すなわちその始数と等濃である）ことが導かれ、したがってアレフ数の始数をありとあらゆる無限濃度の代表元のクラスとして扱うことができる。

選択公理のない ZF のもとで濃度を考えた場合、「任意の無限集合の濃度はアレフ数である」ことを証明することはできない。濃度がアレフ数である集合は厳密に整列可能な無限集合となるからである。ZF のもとで濃度の代表元を構成する代替手段として、[[スコットのトリック]]が使われることがある。

==関連項目==
* [[正則基数]]

==注==
{{reflist}}

==外部リンク==
*{{Kotobank|アレフ(〓)}}
* {{MathWorld|urlname=Aleph|title=Aleph}}
** {{MathWorld|urlname=Aleph-0|title=Aleph-0}}
** {{MathWorld |urlname=Aleph-1|title=Aleph-1}}
* {{nlab|urlname=aleph|title=aleph}}
* {{PlanetMath|urlname=AlephNumbers|title=aleph numbers}}
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Aleph_Number|title=Definition:Aleph Number}}
* {{SpringerEOM|urlname=Aleph|title=Aleph|first=B.A.|last=Efimov}}
** {{SpringerEOM|title=Aleph-zero|last=Efimov|first=B.A.|urlname=Aleph-zero}}

{{DEFAULTSORT:あれふすう}}
[[Category:基数]]
[[Category:無限]]
[[Category:数学に関する記事]]