アーベルの連続性定理のソースを表示

'''アーベルの連続性定理'''（アーベルのれんぞくせいていり）とは、[[収束半径]]が1の[[冪級数]]が収束円周上の点において[[連続]]であるための十分条件を与える定理である。冪級数は収束円板の内部で[[極限#関数列の収束|広義一様]]に[[絶対収束]]するが、収束円上の一般の点での挙動はわからない。この定理はそこでの連続性を保証している。数学者[[ニールス・アーベル]]にちなんで名付けられた。

==定理==
係数<math>a_n</math>, 変数<math>x</math>が実数の時、この定理は次のようになる。

{{Math theorem|アーベルの連続性定理（実数版）|<math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> は収束するとし、中心 <math>x=0</math> 、収束半径が1の冪級数を <math> f(x)=\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n</math> とおく。ここでは各 <math>a_n</math>, <math>x</math> は実数とする。このとき、<math>x</math> が <math>|x|<1</math> であるようにして1に近づくならば、 <math>f(x)</math> は <math>f(1)</math> に近づく。}}

係数<math>a_n</math>, 変数<math>z</math>が複素数の時、この定理は次のように拡張される。

{{Math theorem|アーベルの連続性定理（複素数版）|<math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> は収束するとし、中心 <math>z=0</math> 、収束半径が1の冪級数を <math> f(z)=\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n</math> とおく。ここでは各 <math>a_n</math>, <math>z</math> は複素数とする。このとき、<math>z</math> が <math>\left| z \right| <1</math>で <math>\frac{|1-z|}{1-|z|}</math> が有界であるようにして1に近づくならば、 <math>f(z)</math> は <math>f(1)</math> に近づく。}}

<math>\frac{|1-z|}{1-|z|}</math> が有界とは、適当な正の実数 {{Mvar|M}} が存在して <math>\frac{|1-z|}{1-|z|} < M</math> が成立することである。この条件は、「ストルツの角（{{Lang-en-short|Stolz angle}}）<ref name="StolzAngle">{{Cite web |author=Andrzej Kozlowski |url=http://demonstrations.wolfram.com/StolzAngle/ |title=Stolz Angle  |publisher=the Wolfram Demonstrations Project |accessdate=2018-03-10}}</ref>の中から近づく」という言い方をすることがある<ref name="Ahlfors1982">{{Harvnb|アールフォルス|1982|p=44}}</ref><ref name="Ahlfors2006">{{Harvnb|Ahlfors|2006|pp=41f}}</ref>。その幾何学的な意味は、実軸上の区間 <math>(-\infty,1)</math> に対称で1を頂点としてその角が180°より小さい角領域の中に <math>z</math> があるということである。

==応用例==
:<math>\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\dotsb=\frac{\pi}{4}</math>

を証明する。<math>\arctan</math> を <math>\tan</math> の逆関数で主値をとるものとする。（[[逆三角関数]]を参照）<math>\arctan x</math> を <math>x</math> で微分する。

:<math>(\arctan x)'=\frac{1}{1+x^2}</math>

よく知られているように右辺は級数に展開できて、収束半径は1である。<math>0<x<1</math> として、0を基点とする両辺の[[不定積分]]を考える。収束半径の内部で級数は広義一様に絶対収束するので、積分と無限和を交換できることに注意すると、

:<math>\arctan x = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1}x^{2n+1}</math>

が得られる。ここで、[[交項級数]]に関するライプニッツの定理によって <math>\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1}</math> が収束することがわかる。以上のことからアーベルの連続性定理が使えて、求める式が得られる。

<math>\log(1+x)</math> について同様の議論をすると、
:<math>\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n+1}=1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\dotsb=\log2</math>
がわかる。

==証明の概略==
{{Math proof|必要なら <math>a_0</math> に定数を加えて <math>\sum_{n=0}^{\infty}a_n=0</math> と仮定してよい。第 <math>n</math> 部分和を <math>s_n</math> と書くと、<math>a_n=s_{n}-s_{n-1}</math> である。これを利用すると、

:<math>\begin{align}s_n(z)&=a_0+a_1z+\cdots+a_nz^n \\ &=s_0+(s_1-s_0)z+\cdots+(s_{n}-s_{n-1})z^n \\ &=s_0(1-z)+s_1(z-z^2)+\cdots+s_{n-1}(z^{n-1}-z^{n})+s_nz^n \\ &=(1-z)(s_0+s_1z+\cdots+s_{n-1}z^{n-1})+s_nz^n\end{align}</math>

となる。<math>s_nz^n \rightarrow 0</math> であるから、

:<math>f(z)=(1-z)\sum_{n = 0}^{\infty} s_nz^n=(1-z)\sum_{n = 0}^{m-1} s_nz^n + (1-z)\sum_{n = m}^{\infty} s_nz^n</math>

と表せる。<math>s_n \rightarrow 0</math> より、任意の正の実数 {{Mvar|ε}} に対して十分大きな <math>m</math> 以降の項 <math>s_n</math> は <math>|s_n|<\varepsilon</math> にできるので、十分大きな <math>m</math> 以降の項の和の絶対値 <math>\left|\sum_{n = m}^{\infty} s_nz^n\right|</math> は[[幾何級数]] <math>\varepsilon \sum_{n = m}^{\infty} |z|^n=\varepsilon |z|^m/(1-|z|)<\varepsilon /(1-|z|)</math> で上から評価される。ゆえに、[[三角不等式]]により、

:<math>|f(z)|<|1-z|\left|\sum_{n = 0}^{m-1}s_nz^n\right|+\varepsilon \frac{|1-z|}{1-|z|}.</math>

第1項は <math>z \rightarrow 1</math> として <math>< \varepsilon</math> にできる。第2項はストルツの角から近づくという条件<ref name="StolzAngle" />により <math>< M\varepsilon</math> にできる。したがって、<math>|f(z)|<(1+M)\varepsilon</math> にできるので、定理に述べた条件のもとで <math>z \rightarrow 1</math> とすれば <math>f(z) \rightarrow 0</math> となることが証明された<ref name="Ahlfors1982" /><ref name="Ahlfors2006" />。}}

==注意==
定理の仮定にある「 <math> \sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> は収束する」という条件は必要である。この条件がないと、次のような反例がある:

:<math>\frac{1}{1+x}=1-x+x^2-\cdots </math>（収束半径1）

左辺は <math>\lim_{x \to 1-0} \frac{1}{1+x} = \frac{1}{2}</math> に収束するが、右辺は <math>1-1+1-1+\cdots</math> に近づき収束しない。

==補足==
以上の議論で「冪級数の中心は <math>z=0</math> 」としたが、一般の点を中心としても定理が成り立つ。同じく、「収束半径が1」、「円周上の点 <math>z=1</math> 」という仮定も本質的でない。これらは正規化された結果と見るべきであろう。実際、平行移動、拡大縮小、回転を施せば上の議論は一般化できる。

== 出典 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
*{{Citation |last=Ahlfors |first=Lars V. |authorlink=ラース・ヴァレリアン・アールフォルス |origyear=1979 |date=2006 |title=Complex Analysis |edition=3rd paperback international |publisher=McGraw Hill India |language=en |isbn=978-1-259-06482-1 }} - アールフォルスはアーベルの連続性定理を Abel's limit theorem と呼んだ。
**{{Cite book|和書
|first=L.V.
|last=アールフォルス
|authorlink=ラース・ヴァレリアン・アールフォルス
|translator=笠原乾吉
|date=1982-03
|title=複素解析
|publisher=現代数学社
|isbn=978-4-7687-0118-8
|ref={{Harvid|アールフォルス|1982}}
}}

== 関連項目 ==
*[[アーベルの総和公式]]
*[[ボレル総和|ボレル総和法]]
*{{仮リンク|ナッハビンの定理|en|Nachbin's theorem}}
*[[部分和分]]

== 外部リンク ==
*{{Kotobank|整級数|2=[[小林良和]]}}
*{{MathWorld | title=Abel's Convergence Theorem | urlname=AbelsConvergenceTheorem}}
*[http://www.wolframalpha.com/entities/mathworld/abel%E2%80%99s_convergence_theorem/qw/ak/4z/ Abel's Convergence Theorem] on Wolfram｜Alpha

{{DEFAULTSORT:ああへるのれんそくせいていり}}
[[Category:解析学の定理]]
[[Category:ニールス・アーベル]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学のエポニム]]