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'''イオン結合'''(イオンけつごう、[[英語]]:ionic bond)は正電荷を持つ[[陽イオン]](カチオン)と負電荷を持つ[[陰イオン]](アニオン)の間の[[静電相互作用|静電引力]](クーロン力)による[[化学結合]]である。この結合によって[[イオン結晶]]が形成される。[[共有結合]]と対比され、[[結合性軌道]]が[[電気陰性度]]の高い方の原子に局在化した極限であると解釈することもできる。<!--イオン結合には方向性が少なく、静電引力が最適化されるように、[[最密充填]]のような密な構造をとりやすい?…各イオンの大きさも関係するはず…--> イオン結合は[[金属元素]](主に陽イオン)と[[非金属元素]](主に陰イオン)との間で形成されることが多いが、[[塩化アンモニウム]]など、非金属の多原子イオン(ここでは[[アンモニウムイオン]])が陽イオンとなる場合もある。イオン結合によってできた物質は[[組成式]]で表される。 == イオン間の静電引力 == イオン結晶の[[結合エネルギー]]のうち、イオン間の静電相互作用によるエネルギーを'''[[マーデルングエネルギー|マーデルング・エネルギー]]'''(Madelung energy)という。 === マーデルング・エネルギーの導出 === はじめに2つのイオン間の相互作用について考える。陽イオンと陰イオンの電荷をそれぞれ<math>\pm q</math>とすると、イオン<math>i</math>と<math>j</math>の間の相互作用エネルギー<math>U_{ij}</math>は : <math>U_{ij}=\lambda e^{-{r_{ij} \over \rho}}\pm{q^2 \over r_{ij} }</math>{{nb5}}(1) と書くことができる。イオン<math>i</math>と<math>j</math>の間の距離を<math>r_{ij}</math>とした。第1項は[[パウリの排他原理|パウリの排他律]]による斥力ポテンシャルで、<math>\lambda</math>と<math>\rho</math>はそれぞれ、斥力の大きさと斥力が働く距離を決定する[[媒介変数|パラメータ]]である。第2項はクーロンポテンシャルを表す<ref group="注釈">国際単位系では、クーロン相互作用は<math>\pm{q^2 \over 4\pi\epsilon_0 r}</math>であるが、ここではクーロン相互作用を<math>\pm{q^2 \over r}</math>とするCGS単位系を採用した。</ref>。 (1)式の<math>+</math>符号は同種の電荷に対して、<math>-</math>符号は異種の電荷に対してとる。ただし、イオン結晶での[[ファンデルワールス力]]の部分は凝集エネルギーの<math>1\sim2\%</math>程度の比較的小さな寄与しか与えないので、ここでは無視した<ref>『キッテル:固体物理学入門』pp.67</ref>。 次に結晶について考える。結晶の最近接イオン間距離を<math>R</math>とおき、<math>r_{ij}=p_{ij}R</math>となる<math>p_{ij}</math>を導入すると<math>2N</math>個のイオンからなる結晶の全[[格子エネルギー]]<math>U_{tot}</math><ref group="注釈">全格子エネルギーは、結晶を互いに無限に離れたイオンに引き離すのに要するエネルギーと定義される。</ref>は、 : <math>U_{tot}=N\biggl(z\lambda e^{-{R \over \rho}}-{\alpha q^2 \over R} \biggr)</math>{{nb5}}(2) と書くことができる。ただし斥力ポテンシャルは、最近接イオン間相互作用のみを考慮し、それ以外は無視した。<math>z</math>は最近接イオンの数である。<math>\alpha</math>はマーデルング定数とよばれ、 : <math>\alpha=\sum_{j}{S_{ij} \over p_{ij} }</math> で定義する。ただし<math>S_{ij}</math>はイオン<math>i</math>と<math>j</math>が異符号のときは<math>+1</math>、同符号のときは<math>-1</math>をとる。 イオンが静止した温度ゼロの状態を考える。圧力がゼロという条件の下では、体積に対して<math>U_{tot}</math>が最小となる。これは平衡距離<math>R_{0}</math>で<math>U_{tot}</math>が最小となることに等しいので<math>{dU_{tot} \over dR}=0</math>が成り立つ。(2)式より : <math>{R_{0} }^2 e^{-{R_0 \over \rho}}={\rho \alpha q^2 \over z\lambda}</math> 平衡距離<math>R_0</math>での2個のイオンからなる結晶の全格子エネルギーは : <math>U_{tot}={\rho \over R_0}\cdot{N \alpha q^2 \over R_0}-{N \alpha q^2 \over R_0}</math> と書ける。第1項が斥力項、第2項がクーロン項すなわち[[マーデルングエネルギー|マーデルング・エネルギー]]を表す。 == イオン結合性と共有結合性 == 例えば水素(H₂)や酸素(O₂)など等核[[二原子分子|2原子分子]]は、純粋な[[共有結合]]によって形成されている。しかし[[一酸化窒素]](NO)や[[一酸化炭素]](CO)のような異核2原子分子は、共有結合性とイオン結合性が混ざっている。これは分子を形成する際の[[電荷分布]]の変化によって生じる。 原子A,Bからなる2原子分子について考える。結合前の原子A,Bの電子の存在確率密度をそれぞれ<math>\rho_A</math><sub>、</sub><math>\rho_B</math>とすると、2原子分子の電子の存在確率密度<math>\rho_{AB}</math>は次の形で与えられる。 : <math>\rho_{AB}=(1+\alpha_i)\rho_A +(1-\alpha_i)\rho_B +\alpha_c\rho_{bond}</math> 右辺第一項と第二項は、<math>\alpha_i</math>個だけの電子が原子Bから原子Aに移動し、2原子分子において[[電子]]が偏っていることを表す。<math>\rho_{bond}</math>は原子A,Bが結合したときに中間部分に電子密度が高くなってできた結合電荷であり、全空間での<math>\rho_{bond}</math>に関する全電荷はゼロに等しい。<math>\alpha_i</math>、<math>\alpha_c</math>は、結合のイオン性(ionicity)と共有性(covalency)の尺度を表し、<math>{\alpha_i}^2 +{\alpha_c}^2 =1</math>を満たす。等核2原子分子は電子の偏りはないので<math>\alpha_i=0,{\displaystyle \alpha _{c}=1} </math>である。電子密度は : <math>\rho_{AB}=\rho_A +\rho_B +\rho_{bond}</math> と表せ、結合前後の電荷密度の変化は結合電荷の寄与<math>\bigl(\rho_{bond}\bigr)</math>のみによって与えられる。一方、異核2原子分子は<math>\alpha_i\neq0,\alpha_c\neq1</math>であるので電子密度は : <math>\rho_{AB}=\rho_A +\rho_B +\alpha_i(\rho_A -\rho_B)+\alpha_c\rho_{bond}</math> と表せる。共有結合性の電荷の寄与<math>\bigl(\alpha_c\rho_{bond}\bigr)</math>に加えて、イオン結合性の電荷の寄与<math>\bigl(\alpha_i(\rho_A-\rho_B)\bigr)</math>を含んでいる。 これより、等核2原子分子では、結合は純粋に共有性であり、異核2原子分子では共有性とイオン性が混ざった性格を示す。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 注釈 === {{Notelist}} === 出典 === {{Reflist}} == 参考文献 == * Charles Kittel (2005) 『キッテル:固体物理学入門』( 宇野 良清・新関 駒二郎・山下 次郎・津屋 昇・森田 章 訳) 丸善株式会社 * David Pettifor(1997)『分子・固体の結合と構造』(青木正人・西谷滋人 訳) 技報堂出版 == 関連項目 == *[[共有結合]] *[[金属結合]] *[[水素結合]] *[[ファンデルワールス力]] *[[イオン化エネルギー]] *[[マーデルングエネルギー]] *[[分子間力]] *[[電子親和力]] *[[物性物理学]] {{化学結合}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:いおんけつこう}} [[Category:イオン]] [[Category:化学結合]]
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