ウェイト (表現論)のソースを表示

[[表現論]]という[[数学]]の分野において，[[可換体|体]] {{mvar|F}} 上の[[体上の代数|代数]] {{mvar|A}} の'''ウェイト'''（{{lang-en-short|weight}}）とは，{{mvar|A}} から {{mvar|F}} への{{仮リンク|代数準同型|en|algebra homomorphism}}である，あるいは同じことだが，{{mvar|A}} の {{mvar|F}} 上の1次元[[表現 (数学)|表現]]である{{要出典|date=2019-03-17|title=これを定義としている標準的な文献は？}}．それは[[群 (数学)|群]]の{{仮リンク|乗法的指標|en|multiplicative character}}の代数の類似である．しかしながら，概念の重要性は，[[リー環]]の[[リー環の表現|表現]]への，したがって[[代数群]]や[[リー群]]の[[群の表現|表現]]への，その応用から生じる．この文脈では，'''表現のウェイト'''は[[固有値]]の概念の一般化であり，対応する[[固有空間]]は'''ウェイト空間'''と呼ばれる．

==動機づけと一般概念==
===ウェイト===
[[対角化可能行列|対角化可能]]な[[行列]]の集合 {{mvar|S}} であって，任意の2つが[[可換行列|可換]]な場合，{{mvar|S}} のすべての元を[[同時対角化|同時に対角化する]]ことができる<ref group="note">逆もまた正しい――対角化可能な行列のある集合が可換であることとその集合が同時対角化可能であることは同値である {{harv|Horn|Johnson|1985|pp=51–53}}.</ref><ref group="note">実は，[[代数閉体]]上の可換な行列のある集合が与えられると，対角化可能と仮定せずとも，[[同時三角化可能]]である．</ref>．同じことであるが，有限次元[[ベクトル空間]] {{mvar|V}} の互いに可換な[[半単純作用素|半単純]][[線型変換]]の任意の集合 {{mvar|S}} に対して，{{mvar|V}} の基底を{{mvar|S}} のすべての元に対して''{{Anchors|同時固有ベクトル}}同時固有ベクトル''になるように選ぶことができる．これらの共通の各固有ベクトル {{math|''v'' ∈ ''V''}} は {{math|End(''V'')}} の自己準同型の集合 {{mvar|S}} によって生成される部分代数 {{mvar|U}} 上の[[線型汎関数]]を定義する；この汎関数は {{mvar|U}} の各元に固有ベクトル {{mvar|v}} の固有値を対応させる写像として定義される．この写像は乗法的でもあり，恒等写像を 1 に送る；したがってそれは {{mvar|U}} から基礎体への代数準同型である．この「一般固有値」はウェイトの概念のプロトタイプである．

概念は[[群論]]における{{仮リンク|乗法的指標|en|multiplicative character}}のアイデアと密接に関係している．これは[[群 (数学)|群]] {{mvar|G}} から[[体 (数学)|体]] {{math|'''F'''}} の[[乗法群]]への準同型 {{mvar|χ}} である．したがって {{math|''χ'': ''G'' → '''F'''<sup>&times;</sup>}} は {{math|1=''χ''(''e'') = 1}}（ただし {{mvar|e}} は {{mvar|G}} の[[単位元]]）と
:{{mvar|G}} のすべての元 {{math|''g'', ''h''}} に対して {{math|1=''&chi;''(''gh'') = ''&chi;''(''g'')''&chi;''(''h'')}}
を満たす．実際，{{mvar|G}} が {{math|'''F'''}} 上のベクトル空間 {{mvar|V}} に[[群の表現|作用]]していると，{{mvar|G}} の各元に対する同時固有空間は，存在すれば，{{mvar|G}} 上の乗法的指標を決定する：群の各元のこの共通の固有空間上の固有値である．

乗法的指標の概念は {{mathbf|F}} 上の任意の[[体上の代数|代数]] {{mvar|A}} に，{{math|''χ'': ''G'' → '''F'''<sup>&times;</sup>}} を[[線型写像]]
:{{math|1=''χ'': ''A'' → '''F''', ''&chi;''(''ab'') = ''&chi;''(''a'')''&chi;''(''b'') (''a'', ''b'' &isin; ''A'')}}
に置き換えることによって，拡張できる．代数 {{mvar|A}} が {{mathbf|F}} 上のベクトル空間 {{mvar|V}} 上に任意の同時固有空間に[[代数の表現|作用]]しているとき，これは {{mvar|A}} から {{mathbf|F}} への {{mvar|A}} の各元をその固有値に送る[[代数準同型]]に対応する．

{{mvar|A}} が[[リー環]]（一般には結合代数ではない）であるとき，指標の乗法性を要求する代わりに，リーブラケットを対応する[[交換子]]に送ることを要求する；しかし {{mathbf|F}} は可換であるからこれは単にこの写像がリーブラケットで消えること：{{math|1=''χ''([''a'', ''b'']) = 0}} を意味する．体 {{mathbf|F}} 上のリー環 {{mathbf|g}} の'''ウェイト'''は，線型写像 {{math|''λ'': ''g'' → '''F'''}} であってすべての {{math|''x'', ''y'' &isin; '''g'''}} に対して {{math|1=''λ''([''x'', ''y'']) = 0}} となるものである．リー環 {{mathbf|g}} 上の任意のウェイトは[[可解リー環|導来環]] {{math|['''g''', '''g''']}} 上消えるから[[可換リー環]] {{math|'''g'''/['''g''', '''g''']}} 上のウェイトを誘導する．したがってウェイトは主に可換リー環に対して興味が持たれる，その場合可換な線型変換たちの空間に対する一般固有値の単純な概念に帰着する．

{{mvar|G}} が[[リー群]]か[[代数群]]のとき，乗法的指標 {{math|''θ'': ''G'' → '''F'''<sup>×</sup>}} は微分によってそのリー環上のウェイト {{math|1=''χ'' = ''dθ'': '''g''' → '''F'''}} を誘導する．（リー群に対して，これは {{mvar|G}} の単位元における微分であり，代数群の場合は導分の概念を用いた抽象化である．）

===<span id="表現のウェイト空間"></span>リー環の表現のウェイト空間===
ウェイトの集合の中で，いくつかは表現のデータに関係する．{{mvar|V}} を体 {{mathbf|F}} 上のリー環 {{mathbf|g}} の表現とし，{{mvar|λ}} を {{mathbf|g}} のウェイトとする．このとき {{mvar|V}} のウェイト {{math|''λ'': '''h''' → '''F'''}}（ただし {{mathbf|h}} は {{mathbf|g}} の[[カルタン部分環]]）の'''ウェイト空間'''とは，部分空間
:<math>V_\lambda:=\{v\in V: \forall \xi\in \mathfrak{h},\quad  \xi\cdot v=\lambda(\xi)v\}</math>
である（ただし <math>\xi \cdot v</math> は {{mathbf|h}} の {{mvar|V}} への作用を表す）．'''表現''' {{mvar|V}} '''のウェイト'''とはウェイト {{mvar|λ}} であって対応するウェイト空間が非零なもののことである．ウェイト空間の非零元は'''ウェイトベクトル'''と呼ばれる．

{{mvar|V}} がそのウェイト空間の直和
:<math>V=\bigoplus_{\lambda\in\mathfrak{h}^*} V_\lambda</math>
であるとき，'''{{Anchors|ウェイト加群}}ウェイト加群'''と呼ばれる；これは環のすべての表された元に対する共通の[[固有基底]]（同時固有ベクトルの基底）が存在すること，つまり，同時[[対角化可能な行列]]が存在することに対応する．

同様に，リー群や[[結合代数]]の任意の[[表現論|表現]]に対してウェイト空間 {{mvar|V{{sub|λ}}}} を定義できる．

==半単純リー環==
<math>\mathfrak g</math> を[[リー環]]とし，<math>\mathfrak h</math> を[[半単純リー環|半単純]]元からなる[[極大元|極大]][[可換]][[リー部分環]]（[[カルタン部分環]]と呼ばれる）とし，{{mvar|V}} を <math>\mathfrak g</math> の有限次元[[リー環の表現|表現]]とする．<math>\mathfrak g</math> が半単純であるとき，{{math|1=[<math>\mathfrak g</math>, <math>\mathfrak g</math>] = <math>\mathfrak g</math>}} であり，したがって <math>\mathfrak g</math> のすべてのウェイトは自明である．しかしながら，{{mvar|V}} は，制限によって，<math>\mathfrak h</math> の表現であり，{{mvar|V}} が <math>\mathfrak h</math> についてのウェイト加群であること，すなわちそのウェイト空間の直和に等しいことはよく知られている．[[用語の濫用]]により，<math>\mathfrak h</math> の表現としての {{mvar|V}} のウェイトをしばしば <math>\mathfrak g</math> の表現としての {{mvar|V}} のウェイトと呼ぶ．

類似の定義はリー群 {{mvar|G}}, 極大可換[[リー部分群]] {{mvar|H}}, {{mvar|G}} の任意の表現 {{mvar|V}} に適用する．明らかに，{{mvar|λ}} が {{mvar|G}} の表現 {{mvar|V}} のウェイトであるとき，{{mvar|G}} のリー環 <math>\mathfrak g</math> の表現としての {{mvar|V}} のウェイトでもある．

{{mvar|V}} が <math>\mathfrak g</math> の[[リー環の随伴表現|随伴表現]]であるとき，そのウェイトは[[ルート系|ルート]]と呼ばれ，ウェイト空間はルート空間と呼ばれ，ウェイトベクトルはルートベクトルと呼ばれる．

今 <math>\mathfrak g</math> は半単純とし，選ばれたカルタン部分環 <math>\mathfrak h</math> と対応する[[ルート系]]を持つとする．正ルート {{math|Φ<sup>+</sup>}} の選択も固定する．これは単純ルートの集合の選択と同値である．

===ウェイトの空間の順序===
{{math|<math>\mathfrak h</math>*<sub>0</sub>}} を {{math|<math>\mathfrak h</math>*}} の<math>\mathfrak g</math> のルートで生成される実部分空間（それが複素のとき）とする．

{{math|<math>\mathfrak h</math>*<sub>0</sub>}} の[[順序理論|順序]]を定義する2つの方法がある．

1つ目は
:{{math|''&mu;'' ≤ ''&lambda;''}} を {{math|''λ'' − ''μ''}} が単純ルートの非負線型結合であることとする．

2つ目は元 {{math|''f'' &isin; <math>\mathfrak h</math><sub>0</sub>}} により
:{{math|''&mu;'' ≤ ''λ''}} を {{math|''&mu;''(''f'') ≤ ''λ''(''f'')}} と定める．
通常，{{mvar|f}} はすべての正ルート {{mvar|β}} に対して {{math|''β''(''f'') > 0}} となるように選ばれる．

===整ウェイト===
ウェイト {{math|''λ'' ∈ '''h'''*}} が'''整'''（あるいは {{mathbf|g}}-整）であるとは，{{mvar|γ}} が正ルートなる各[[コルート]] {{mvar|H{{sub|γ}}}} に対して {{math|''λ''(''H''<sub>''γ''</sub>) ∈ '''Z'''}} となることをいう．

基本ウェイト {{math|''&omega;''{{sub|1}}, ..., ''&omega;{{sub|n}}''}} は次の性質によって定義される：それらは単純コルート <math>H_{\alpha_1}, \ldots, H_{\alpha_n}</math> の集合に双対な {{math|'''h'''*}} の基底をなす．

したがって {{mvar|λ}} が整であるとは，基本ウェイトの整数結合であることである．すべての {{mathbf|g}}-整なウェイトの集合は {{math|'''h'''*}} における[[格子 (群)|格子]]であり，{{mathbf|g}} の''ウェイト格子''と呼ばれ，{{math|''P''('''g''')}} と書かれる．

リー群 {{mvar|G}} のウェイト {{mvar|λ}}{{clarify|reason=In view of the above it seems wrong so start with a weight for a semisimple Lie group, since the derivative of such a weight should vanish on its derived algebra, which is the whole Lie algebra, so any weight of G is locally constant|date=April 2016}} が整であるとは，{{math|1=exp(''t'') = 1 &isin; ''G''}} なる各 {{math|''t'' &isin; '''h'''}} に対して，<math>\lambda(t)\in 2\pi i \mathbf{Z}</math> となることをいう．半単純な {{mvar|G}} に対して，すべての {{mvar|G}}-整ウェイトの集合は部分格子 {{math|''P''(''G'') ⊂ ''P''('''g''')}} である．{{mvar|G}} が[[単連結]]ならば，{{math|1=''P''(''G'') = ''P''('''g''')}} である．{{mvar|G}} が単連結でなければ，格子 {{math|''P''(''G'')}} は {{math|''P''('''g''')}} よりも小さく，それらの[[商群|商]]は {{mvar|G}} の[[基本群]]に同型である<ref>{{harvnb|Hall|2015}} Corollary 13.8 and Corollary 13.20</ref>．

===優ウェイト===
ウェイト {{mvar|λ}} が'''優'''であるとは，{{mvar|γ}} が正ルートなる各コルート {{mvar|H{{sub|γ}}}} に対して <math>\lambda(H_\gamma)\geq 0</math> であることをいう．同じことであるが，基本ウェイトの非負線型結合であることをいう．

優ウェイトの[[凸包]]は ''fundamental [[ワイルの部屋|Weyl chamber]]'' と呼ばれる．

用語「優ウェイト」は，（上の意味で）優かつ整なウェイトを表すために用いられることもある．

===最高ウェイト===
表現 {{mvar|V}} のウェイト {{mvar|λ}} が'''最高ウェイト'''であるとは，上で与えられた半順序において {{mvar|λ}} よりも大きい {{mvar|V}} の他のウェイトが存在しないことをいう．ときどき，{{mvar|V}} のすべての他のウェイトが {{mvar|λ}} よりも真に小さいというより強い条件を課す．「最高ウェイト」という用語はしばしば「[[#最高ウェイト加群|最高ウェイト加群]]」の最高ウェイトを意味する．

'''最低ウェイト'''は同様に定義される．

すべての可能なウェイトからなる空間はベクトル空間である．このベクトル空間の[[全順序]]であって，少なくとも1つの非零係数を持つ正ベクトルの非負の[[線型結合]]は別の正ベクトルであるようなものを固定しよう．

すると，表現が「最高ウェイト {{mvar|&lambda;}}」を持つとは，{{mvar|λ}} がウェイトであり，すべての他のウェイトは {{mvar|λ}} よりも小さいことをいう．

同様に，「最低ウェイト {{mvar|&lambda;}}」を持つとは，{{mvar|λ}} がウェイトであり，すべての他のウェイトは {{mvar|λ}} よりも大きいことをいう．

ウェイト {{mvar|&lambda;}} のウェイトベクトル {{math|''v{{sub|&lambda;}}'' &isin; ''V''}} は，{{mvar|V}} の他の全てのウェイトが {{mvar|&lambda;}} よりも小さいとき，'''最高ウェイトベクトル'''と呼ばれる．

===最高ウェイト加群===
{{mathbf|g}} の表現 {{mvar|V}} が'''最高ウェイト加群'''であるとは，{{mathbf|g}} のすべての[[正ルート]]の空間の作用で零化されるウェイトベクトル {{math|''v'' ∈ ''V''}} によって生成されることをいう．半単純リー環 {{mathbf|g}} のすべての有限次元既約表現は最高ウェイト加群であり，表現はその最高ウェイトによって分類できる ("theorem of the highest weight")<ref>{{harvnb|Hall|2015}} Theorems 9.4 and 9.5</ref>．

これは最高ウェイトを持つ {{mathbf|g}} 加群よりいくぶん特別である．

同様にリー群の表現に対して最高ウェイト加群を定義できる．

===ヴァーマ加群===
{{main|{{仮リンク|ヴァーマ加群|en|Verma module}}}}

各優ウェイト {{math|''λ'' ∈ '''h'''*}} に対し，最高ウェイト {{mvar|λ}} を持つ[[既約表現|単純]]最高ウェイト {{mathbf|g}} 加群が（同型を除いて）一意に存在し，{{math|''L''(''λ'')}} と書かれる．

最高ウェイト {{mvar|λ}} をもつ各最高ウェイト加群は{{仮リンク|ヴァーマ加群|en|Verma module}} {{math|''M''(''λ'')}} の[[商加群|商]]であることを示すことができる．これは単にヴァーマ加群の定義における普遍性を述べ直したものである．

最高ウェイト加群はウェイト加群である．最高ウェイト加群におけるウェイト空間はつねに有限次元である．

==関連項目==
*{{仮リンク|最高ウェイト圏|en|Highest-weight category}}

==脚注==
===注===
{{reflist|group=note}}
===出典===
{{reflist}}
==参考文献==
{{ref begin}}
{{参照方法|date=2017年1月}}
* {{Fulton-Harris}}.
* {{citation|last2=Wallach|first2=Nolan R.|last1=Goodman|first1=Roe|year=1998|title=Representations and Invariants of the Classical Groups|publisher= Cambridge University Press|isbn= 978-0-521-66348-9}}.
*{{Citation| last=Hall|first=Brian C.|title=Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction|edition=2nd|series=Graduate Texts in Mathematics|volume=222|publisher=Springer|year=2015|isbn=0-387-40122-9}}
* {{Citation | last1=Horn | first1=Roger A. | last2=Johnson | first2=Charles R. | title=Matrix Analysis | publisher= Cambridge University Press | isbn=978-0-521-38632-6 | year=1985}}<!-- reference for simultaneous diagonalizable -->
* {{citation | title =Introduction to Lie Algebras and Representation Theory|first=James E.|last=Humphreys|publisher=Birkhäuser|year= 1972a|isbn=978-0-387-90053-7}}.
* {{citation | last1=Humphreys | first1=James E. | title=Linear Algebraic Groups | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Graduate Texts in Mathematics | isbn=978-0-387-90108-4 |mr=0396773 | year=1972b | volume=21}}
* {{citation|title=Lie Groups Beyond an Introduction|first=Anthony W.|last= Knapp|edition=2nd|publisher=Birkhäuser|year= 2002| isbn=978-0-8176-4259-4}}.
<!--* {{citation|last1=Roggenkamp|first1= K.|last2= Stefanescu|first2= M.|title= Algebra &ndash; Representation Theory|publisher= Springer|year= 2002|isbn=978-0-7923-7113-7}}.--><!--Not sure what this is useful for: it is the proceedings of a conference-->

{{refend}}

{{DEFAULTSORT:うえいと ひようけんろん}}
[[Category:リー環論]]
[[Category:リー環の表現論]]
[[Category:リー群の表現論]]
[[Category:数学に関する記事]]