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[[File:Uranyl-3D-balls.png|right|thumb|UO<sub>2</sub><sup>2+</sup> の[[球棒モデル]]。]] [[File:Uranyl-ion-structure.png|right|thumb|U-O [[結合次数]]が3と表されるウラニルイオン。]] '''ウラニルイオン''' ({{lang-en-short|uranyl ion}}) は、[[化学式]]が UO<sub>2</sub><sup>2+</sup> と表される[[ウラン]]の[[オキシカチオン]]で、ウランの[[酸化数]]は+6である。ウランと[[酸素]]の間に[[多重結合]]性があることを示す短い U-O 結合をもち、[[直線形]]構造をとる。4つまたはそれ以上の[[エカトリアル]][[配位子]]がウラニルイオンに結合する。特に酸素ドナー[[原子]]をもつ配位子と多くの[[錯体]]を形成する。ウラニルイオンの錯体は、鉱石からのウランの抽出、そして[[再処理工場|核燃料再処理]]において重要である。 == 構造と結合 == [[File:F4M0.png|thumb|100px|<math>f_{z^3}</math> 軌道]] ウラニルイオンは直線形の対称的な構造で、U-O [[結合長]]はそれぞれ約180 [[ピコメートル|pm]]である。この短い結合長はウラン原子と酸素原子の間に多重結合性があることを示している。ウラン(VI)は[[ラドン]]と同じ[[電子配置]]をもつため、U-O 結合を形成するために使われる[[電子]]は酸素原子から供給される。電子はウラン原子の空の[[原子軌道]]に供与される。最もエネルギーの低い空軌道は7s、5f、6d軌道である。[[原子価結合法]]において、[[σ結合]]は <math>d_{z^2}</math> 軌道と <math>f_{z^3}</math> 軌道を使ってつくられるsd、sf、df[[混成軌道]]によって形成されると考えられる。結合に使われた[[d軌道]]または[[f軌道]]は二重[[縮重]]しているため、U-O 結合次数は全体として3である<ref name="cotton">{{citation | author= Cotton, S | year= 1991 | title= Lanthanides and Actinides | location= New York | publisher= Oxford University Press | page= 128 }}</ref>。 ウラニルイオンは常に他の配位子と結合している。最もよく見られるのは、O-U-O 結合と直交する平面に存在する配位子、いわゆる[[エカトリアル]]配位子がウラン原子を通して結合する配置である。配位子4つでは、UO<sub>2</sub>Cl<sub>4</sub><sup>2-</sup> のように歪んだ[[八面体形]]構造をとっている。多くの場合は4つ以上のエカトリアル配位子を伴う。エカトリアル配位子の存在は、ウラニルイオンの[[対称性]]を直線形の孤立イオンの[[点群]] ''D<sub>∞h</sub>'' から、例えば歪んだ八面体の点群 ''D<sub>4h</sub>'' にまで下げる。これは、U-O 結合においてウランと酸素が使っていないd軌道やf軌道の関与を認める。 [[フッ化ウラニル]] UO<sub>2</sub>F<sub>2</sub> において、ウラン原子はウラニルイオンの2つの酸素原子と、ウラニル間を[[架橋]]する6つの[[フッ化物]]イオンとで層状構造を形成することによって、配位数8となっている。層間が共有酸素原子で結ばれていることを除いて、類似した構造がフッ化ウラニルのフッ化物イオンを酸素で置換したα-[[三酸化ウラン]]で見られる。これは比較的短い U-O 結合をもっていることによって判断される。また、構造中に孤立したウラニルイオンを含まないが、[[ウラン酸カルシウム]]の CaO<sub>4</sub> 単位でも同様の構造が見られる。このことから、ウラン酸カルシウムは Ca(UO<sub>2</sub>)O<sub>2</sub> と表されることもある<ref>{{citation|last=Wells|first=A.F|title=Structural Inorganic Chemistry|edition=第3|year=1962|publisher=Clarendon Press|location=Oxford|page=966|isbn=0198551258}}</ref>。 == 分光法 == ウラニル化合物の色は、[[可視光線|可視光スペクトル]]の青色端420 [[ナノメートル|nm]]付近の LMCT [[電荷移動遷移]]に起因している<ref>{{citation|last=Umreiko |first=D.S. |year=1965 |title=Symmetry in the electronic absorption spectra of uranyl compounds|journal=J. Appl. Spectrosc. |volume=2|issue=5|pages=302–304|doi=10.1007/BF00656800}}</ref><ref>{{citation|last=Berto |first=Silvia |year=2006 |title=Dioxouranium(VI)-Carboxylate Complexes. Interaction with dicarboxylic acids in Aqueous Solution: Speciation and Structure |journal=Annali di Chimica |volume=96 |issue=7-8 |pages=399-420 |doi=10.1002/adic.200690042}}</ref>。吸収バンドと [[NEXAFS]] バンドの正確な位置は、エカトリアル配位子の性質に依存する<ref>{{citation|last=Fillaux|first=C.|coauthors=Guillaumont, D.; Berthet, J-C; Copping, R.; Shuh, D.K.; Tyliszczak, T.; Den Auwer, C.|year=2010|title=Investigating the electronic structure and bonding in uranyl compounds by combining NEXAFS spectroscopy and quantum chemistry|journal=Phys. Chem. Chem. Phys.|pmid=20886130|volume=12|issue=42|pages=14253–14262|doi=10.1039/C0CP00386G}}</ref>。ウラニルイオンを含む化合物は通常黄色であるが、いくつかの化合物は赤色、緑色、またはオレンジ色である。 ウラニル化合物は[[蛍光]]を発する。[[ウランガラス]]の緑色蛍光の最初の研究は、[[1849年]]の[[ディヴィッド・ブリュースター]]<ref>{{citation|last=Brewster |first=D. |year=1849 |journal=[[Transactions of the Royal Society of Edinburgh|Trans. R. Soc. Edinburgh]] |volume=16 |pages=111–121}}</ref>によるウラニルイオンの分光学における広範な研究に端を発する。このスペクトルについての詳細な理解は130年後に得られた<ref>{{citation|last=Denning |first=R. G. |year=2007 |title=Electronic Structure and Bonding in Actinyl Ions and their Analogs |journal=[[J. Phys. Chem. A]] |volume=111 |issue=20 |pages=4125–4143 |doi=10.1021/jp071061n |pmid=17461564}}</ref>。K<sub>2</sub>UO<sub>2</sub>(SO<sub>4</sub>)<sub>2</sub> からの蛍光は[[放射能]]の発見に寄与した。 ウラニルイオンは、880 cm<sup>−1</sup>([[ラマンスペクトル]])と950 cm<sup>−1</sup>([[赤外吸収スペクトル]])の位置で特有の v U-O 伸縮振動をもっている。これらの波数は、いくらかエカトリアル配位子の種類によって異なる。伸縮振動数と U-O 結合長の間には相関が見られる。また、[[分光化学系列]]におけるエカトリアル配位子の位置にも相関することが発見された<ref>{{citation|last=Nakamoto|first=K.|title=Infrared and Raman spectra of Inorganic and Coordination compounds|edition=第5|series=Part A|year=1997|publisher=Wiley|isbn=0471 16394 5}}{{citation|series=Part B|isbn=0471 16392 9}} Part A, p 167. Part B, p 168</ref>。 == 水溶液の化学 == [[File:Uranium fraction diagram with no carbonate.png|thumb|240px|ウラン(VI)の[[加水分解]]における pH と各イオンの存在度の関係。]] ウラニルイオンは、高度に帯電した仮想的な U<sup>6+</sup> イオンの[[加水分解]]による最終生成物とみなすことができる。 : <chem>[U(H2O)\mathit{n}]^{6+} -> \ [UO2(H2O)4]^{2+}\ + 4H^+\ + \mathit{n}-4 H2O</chem> この仮想的な反応の推進力は、ウラン原子上の電荷密度の減少による。[[水溶液]]中ではウラニルイオンと結合している[[水]]分子の数は4である<ref>Burgess, J. ''Metal ions in solution'', (1978) Ellis Horwood, New York. p153</ref>。1つ以上のエカトリアル位の水分子が[[水酸化物イオン]]になるとき、電荷密度がさらに減少することによって加水分解が促進される。実際、ウラニルイオンのアクア錯体は[[弱酸]]である。 : <chem>[UO2(H2O)4]^{2+} <=> \ [UO2(H2O)3(OH)]^+\ + H^+</chem>; [[酸解離定数|{{pKa}}]] = ca. 4.2<ref name=scdb>[http://www.acadsoft.co.uk/scdbase/scdbase.htm IUPAC SC-Database] A comprehensive database of published data on equilibrium constants of metal complexes and ligands</ref> pH が増加すると、[[水酸化ウラニル]] UO<sub>2</sub>(OH)<sub>2</sub> が沈殿する前に、[[化学量論]]のポリマー種 <chem>[(UO2)2(OH)2]^{2+}</chem> と <chem>[(UO2)3(OH)5]^+</chem> が形成される。水酸化ウラニルは強塩基性溶液に溶け、ウラニルイオンのヒドロキシド錯体を与える。 ウラニルイオンは、金属[[亜鉛]]のような穏やかな[[還元剤]]によって酸化数+4まで還元することができる。[[ジョーンズ還元器]]を用いることでウラン(III)に還元可能である。 === 錯体 === [[File:Uranium fraction diagram with carbonate present.png|thumb|240px|ウラン(VI)の炭酸・ヒドロキシド錯体における pH と各イオンの存在度の関係。]] ウラニルイオンは[[HSAB則|硬い]]アクセプターとして振る舞い、[[水酸化物イオン]]、[[炭酸イオン]]、[[硝酸イオン]]、[[硫酸イオン]]、[[カルボン酸イオン]]のような[[酸化物イオン]]または[[フッ化物イオン]]ドナー配位子より、窒素ドナー配位子と弱い錯体を形成する。エカトリアル位には4〜6つのドナー原子が存在する。例えば硝酸ウラニル [UO<sub>2</sub>(NO<sub>3</sub>)<sub>2</sub>]•2H<sub>2</sub>O では、エカトリアル平面内に[[二座]]ニトラト配位子からの4つと水分子からの2つ、合計6つのドナー原子がある。この構造は[[六角両錐]]であると表される。他の酸素ドナー原子には[[ホスフィンオキシド]]や[[リン酸エステル]]がある<ref name = nng>{{Greenwood&Earnshaw2nd|pages = 1273–1274}}</ref>。 [[File:extracteduraniumcomplex.png|170px|thumb|left|UO<sub>2</sub>(NO<sub>3</sub>)<sub>2</sub>•2(triethylphosphate)]] 硝酸ウラニルは水溶液から[[ジエチルエーテル]]中に[[抽出]]することができる。抽出された錯体は電荷をもたず、ウラニルイオンと結合した2つのニトラト配位子をもっている。水分子はエーテル配位子と置換され、錯体全体に顕著な[[疎水性]]を与える。電気的中性であることは、錯体を[[有機溶媒]]に溶かすための最も重要な要因である。硝酸イオンは、[[遷移金属]]イオンや[[ランタノイド]]イオンよりもずっと強固なウラニル錯体を形成する。このため、ウラニルイオンとプルトニルイオン PuO<sub>2</sub><sup>2+</sup> のような他のアクチニルイオンのみを他のイオンを含む混合物から抽出することができる。水溶液中でウラニルイオンと結合している水分子を代わりの疎水性配位子で置換することは、電気的中性な錯体の有機溶媒に対する可溶性を増加させる。これはシナジー作用と呼ばれる<ref>{{citation|last=Irving|first=H.M.N.H.|year=1965|title=Synergic Effects in Solvent Extraction|journal=Angewandte Chemie International Edition|volume=4|issue=1|pages=95–96|doi=10.1002/anie.196500951}}</ref>。 水溶液中のウラニルイオン錯体は、鉱石からのウランの抽出においても、そして核燃料の再処理においてもともに重要である。工業的には硝酸ウラニルの抽出は、好ましい代替配位子に[[リン酸トリブチル]] (TBP)、有機溶媒に[[ケロシン]]を用いて行われる。このプロセスの後、これを[[硝酸]]で処理することによって有機溶媒から分離される。ウランは水相においてより溶解度の高い [UO<sub>2</sub>(NO<sub>3</sub>)<sub>4</sub>]<sup>2-</sup> のような錯体を形成する。この溶液を蒸発させることによって硝酸ウラニルが再生される<ref name=nng/>。 == 鉱物 == ウラニルイオンは、ウランに富んだ鉱物の割れ目で起こる水-岩石相互作用により生じる鉱脈から産出する。[[ツヤムン石]] (Ca(UO<sub>2</sub>)<sub>2</sub>V<sub>2</sub>O<sub>8</sub>•8H<sub>2</sub>O)、[[燐灰ウラン石]] (Ca(UO<sub>2</sub>)<sub>2</sub>(PO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>•8-12H<sub>2</sub>O)、[[燐銅ウラン石]] (Cu(UO<sub>2</sub>)<sub>2</sub> (PO<sub>4</sub>)•8-12H<sub>2</sub>O)、[[ウラノフェン石]] (H<sub>3</sub>O)<sub>2</sub>Ca (UO<sub>2</sub>)<sub>2</sub>(SiO<sub>4</sub>)•3H<sub>2</sub>O) などがウラニルイオンを含む鉱物の例である。大半のウランは[[ピッチブレンド]]から抽出されるため、これらの鉱物はほとんど商業価値を有さない。 == 利用 == ウラニル塩は、[[DNA]] の[[電子顕微鏡]]による研究でサンプルを染色するために用いられる<ref>Zobel, R. and Beer, M. (1961) [http://www.jcb.org/cgi/content/abstract/10/3/335 "ELECTRON STAINS : I. Chemical Studies on the Interaction of DNA with Uranyl Salts"] ''J. Biophys. and Biochem. Cytol.,'' vol. 10, pp. 335-346</ref>。 == 健康と環境問題 == ウラニル塩は有毒で、重篤な[[腎不全]]や[[急性尿細管壊死]]を起こすことがある。[[腎臓]]、[[肝臓]]、[[肺]]、[[脳]]に損傷を与える<ref>{{citation| author= Schröder H, Heimers A, Frentzel-Beyme R, Schott A, Hoffman W | title= [http://www.cerrie.org/committee_papers/INFO_9-H.pdf Chromosome Aberration Analysis in Peripheral Lymphocytes of Gulf War and Balkans War Veterans] | journal= Radiation Protection Dosimetry | year= 2003 | volume= 103 | pages= 211–219 | pmid= 12678382 | issue= 3 }}</ref>。[[始原生殖細胞]]<ref>{{citation| author= Arfsten DP, Still KR, Ritchie GD | title= A review of the effects of uranium and depleted uranium exposure on reproduction and fetal development | journal= Toxicology and Industrial Health | year= 2001 | volume= 17 | pages=180–191 | doi= 10.1191/0748233701th111oa | pmid= 12539863 | issue= 5-10 }}</ref>を含む組織におけるウラニルイオンの蓄積は先天性疾患を引き起こし、[[白血球]]に[[免疫機能障害]]を起こす。ウラニル塩は[[神経毒]]でもある。ウラニルイオンによる汚染は[[劣化ウラン]]の目標とその周辺で見られた<ref>{{citation| author= Salbu B, Janssens K, Linda OC, Proost K, Gijsels L, Danesic PR | title= Oxidation states of uranium in depleted uranium particles from Kuwait | journal= Journal of Environmental Radioactivity | year= 2004 | volume= 78 | pages= 125–135 | doi= 10.1016/j.jenvrad.2004.04.001 | pmid= 15511555 | issue= 2 }}</ref>。 すべてのウラン化合物は[[放射性]]である。しかし[[原子力産業]]では、ウランは通常[[劣化ウラン]]の形をとる。劣化ウランは主に4.468(3) × 10<sup>9</sup> 年の[[半減期]]で[[α崩壊]]する [[ウラン238|<sup>238</sup>U]] からなる。これは弱いα線源であるため、この放射能は直接接触するか、もしくは摂取した場合のみ有害である。 == 出典 == {{Reflist}} {{DEFAULTSORT:うらにるいおん}} [[Category:ウラニル化合物|*]] [[Category:オキシカチオン]]
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