ウラムの螺旋のソースを表示

[[File:Ulam 1.png|right|thumb|200×200のウラムの螺旋。黒点が素数を示す。素数が高密度に集まった対角線、水平線、垂線がはっきりと見て取れる。]]
'''ウラムの螺旋'''もしくは'''素数螺旋'''（ウラムのらせん、そすうらせん、言語によっては'''ウラムの布'''とも）とは、[[素数]]の分布をある簡単なルールに従って2次元平面に並べ、可視化したものである。これにより、いくつかの二次多項式が非常に多くの素数を生成する傾向にあることが容易に示される。これは1963年、数学者の[[スタニスワフ・ウラム]]によって発見された。彼によれば学会の「長くて非常に退屈な論文」の発表の際に落書きをしていてこれを発見した{{Sfn|Gardner|1964|p=122}}。その後間もなくして、ウラムはマイロン・スタインやマーク・ウェルズと協力し、[[ロスアラモス国立研究所]]の{{仮リンク|MANIAC II|en|MANIAC II}}を使って65,000までの範囲の螺旋を、当時まだ初期の段階にあった[[コンピュータグラフィックス]]を使用して描いた{{Sfn|Gardner|1964|p=122}}{{Sfn|Stein|Ulam|Wells|1964|p=520}}{{Sfn|Hoffman|1988|p=41}}。翌年の3月、[[マーティン・ガードナー]]が''[[サイエンティフィック・アメリカン]]''で連載を持っていた数学ゲームに関するコラムでウラムの螺旋について紹介し{{Sfn|Gardner|1964|p=122}}、そのコラムが掲載された号はウラムの螺旋が表紙を飾った。

''サイエンティフィック・アメリカン''のコラムについて補足すると{{Sfn|Gardner|1971|p=88}}、ガードナーは爬虫両棲類学者{{仮リンク|ローレンス・モンロー・クローバー|en|Laurence Monroe Klauber}}が1932年、ウラムの発見に先立つこと30年以上前にアメリカ数学会で発表した、素数を多く生成する二次多項式を発見するための素数の2次元配列の研究についても言及している。クローバーの配列はウラムのような螺旋状ではなく、方型というよりは三角形状であった<ref>{{Citation
 | title = Guide to the Martin Gardner papers
 | publisher = The Online Archive of California
 | year = 2009
 | page = 155
 | url = http://www.oac.cdlib.org/findaid/ark:/13030/kt6s20356s/
}}.</ref>。

== 構造 ==
ウラムは数字の螺旋を中心の1から始めて、渦巻状に、長方形の格子状に書き下した。

[[File:Ulam spiral howto all numbers.svg|200px|center|1から49までの数字を螺旋状に並べた]]

そして素数に印をつけ、次の図を得た。

[[File:Ulam spiral howto primes only.svg|200px|center|小さなウラムの螺旋]]

驚くべきことに、素数は45度の斜線に沿って並ぶ傾向があった。上に示された例に比べれば水平線や垂線はやや目立たないが、やはり明確である。

ウラムの螺旋の構成方法から、仮に奇数を黒、偶数を白と塗り分ければ[[チェスボード]]のような模様になる。素数は2を除き全て奇数であるから、（2以外の）素数が黒マスにのみ存在するのは自明である。驚くべきは、黒マスの中でも素数の分布が濃いラインと薄いラインに明らかな傾向が見られることである。

より範囲を広げて[[:File:Ulam4004001.png|ウラムの螺旋を描いてみても]]、斜線が浮かび上がることが今までのところ確認されている。こうした模様は、最初の真ん中の数字が1でなくても同様に現れるように思われる（実際、1よりはるかに大きくできる）。このことはつまり、関数

: <math>f(n) = 4 n^2 + b n + c</math>

を考え、ここで''n''を{1, 2, 3, ...}と動くものとし、また''b''、''c''を整数とするとき、大多数の場合と比べて多くの素数を生成するような整数の組''b''、''c''が多く存在することを示唆している。

この特徴的とも言えるパターンが確認されているにも拘らず、未だにこれだけの手掛かりしか得られていない。

以下の表は基準 [[1]] からみたときの出現する数の特徴である。

:{|class="wikitable" style="text-align:center"
!方向!!具体的な数（'''太字'''は素数）!!数の形!!オンライン数列!!素数列
|-
!右横
|'''[[2]]''', '''[[11]]''', [[28]], '''[[53]]''', [[86]], '''[[127]]''', [[176]], '''[[233]]''', [[298]],…|| 4''n''{{sup|2}} &minus;3''n'' + 1 ||{{OEIS2C|A054552}} ||{{OEIS2C|A168022}}
|-
!右上
|'''[[3]]''', '''[[13]]''', [[31]], [[57]], [[91]], [[133]], [[183]], '''[[241]]''', '''[[307]]''',…|| 4''n''{{sup|2}} &minus;2''n'' + 1 ||{{OEIS2C|A054554}} ||{{OEIS2C|A073337}}
|-
!上
|[[4]], [[15]], [[34]], '''[[61]]''', [[96]], '''[[139]]''', [[190]], [[249]], [[316]],…|| 4''n''{{sup|2}} &minus;''n'' + 1 ||{{OEIS2C|A054556}} ||{{OEIS2C|A168023}}
|-
!左上
|'''[[5]]''', '''[[17]]''', '''[[37]]''', [[65]], '''[[101]]''', [[145]], '''[[197]]''', '''[[257]]''', [[325]],…|| 4''n''{{sup|2}} + 1 ||{{OEIS2C|A053755}} ||{{OEIS2C|A002496}}
|-
!左横
|[[6]], '''[[19]]''', [[40]], [[69]], [[106]], '''[[151]]''', [[204]], [[265]], [[334]],…|| 4''n''{{sup|2}} + ''n'' + 1 ||{{OEIS2C|A054567}} ||{{OEIS2C|A168025}}
|-
!左下
|'''[[7]]''', [[21]], '''[[43]]''', '''[[73]]''', [[111]], '''[[157]]''', '''[[211]]''', [[273]], [[343]],…|| 4''n''{{sup|2}}  + 2''n'' + 1 ||{{OEIS2C|A054569}} ||{{OEIS2C|A168026}}
|-
!下
|[[8]], '''[[23]]''', [[46]], [[77]], [[116]], '''[[163]]''', [[218]], '''[[281]]''', [[352]],…|| 4''n''{{sup|2}} + 3n + 1||{{OEIS2C|A033951}} ||{{OEIS2C|A168027}}
|-
!右下
|[[9]], [[25]], [[49]], [[81]], [[121]], [[169]], [[225]], [[289]], [[361]],…|| (2''n'' + 1){{sup|2}} ||{{OEIS2C|A016754}} ||
|-
|}

== ハーディ・リトルウッドのF予想 ==
[[ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ]]と[[ジョン・エデンサー・リトルウッド]]は1923年の[[ゴールドバッハの予想]]に関する論文の中でいくつかの予想を述べているが（[[ハーディ・リトルウッド予想]]と総称される）、その中にはもし真であればウラムの螺旋の特に目立つ特徴について説明を与える可能性があるものが含まれている。ハーディとリトルウッドが“F予想”と呼ぶこの予想は、{{仮リンク|ベイトマン・ホーン予想|en|Bateman–Horn conjecture}}の特殊な場合であり、''ax''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''の形をした素数の個数の漸近式について主張するものである。ウラムの螺旋の中央部から生じる、水平線と垂線に対し45°の角度をなす半直線上に乗る数字は4''x''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''で表すことができ、ここに''b''は偶数である。水平もしくは垂直な半直線の上に乗る数字は先述の公式で''b''が奇数の場合である。F予想は、こうした半直線上に乗る素数の密度を見積もる公式を与える。これは半直線によって密度が相当ばらつくことを示唆している。とりわけ、密度は判別式''b''<sup>2</sup> − 16''c''にかなり左右される。

[[File:Ulam 2.png|250px|right|thumb|4''x''<sup>2</sup> − 2''x'' + 41(''x'' = 0, 1, 2, ...)で与えられる素数を強調した。画像の下半分にある、特に目立つ平行な半直線は、4''x''<sup>2</sup> + 2''x'' + 41に相当する。あるいは、元の半直線の''x''が負の整数の場合とも言える。]]
F予想は''ax''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''の''a''、''b''、''c''がすべて整数であり、''a''が正の整数の場合を考えるものである。もし係数が1より大きい公約数を持っているか、もしくは判別式Δ = ''b''<sup>2</sup> − 4''ac''が[[平方数]]であるならば、この多項式は因数分解できるので''x''が0, 1, 2, ...の値をとれば[[合成数]]を与える（ただし、''x''の取り方によっては片方の素因数が1である可能性はある。そのような''x''は高々2個存在する）。さらに、''a'' + ''b''と''c''が両方とも偶数であれば、多項式はすべて偶数となり、したがって合成数である（素数2である可能性はある）。ハーディとリトルウッドはこうした場合を除外すれば、''ax''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''(''x''=0, 1, 2, ...)からは無限の素数が生成されると予想した。これはより古い[[ブニャコフスキー予想]]の特殊な場合であり、現在まで証明されていない。ハーディとリトルウッドはさらに進んで、''ax''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''から生成される、''n''以下の素数の個数''P(n)''は次の公式で近似できると予想した。

: <math>P(n)\sim A\frac{1}{\sqrt{a}}\frac{\sqrt{n}}{\log n}</math>

ただし、ここで''A''は''a''、''b''、''c''に依存するが、''n''からは独立な値である。[[素数定理]]によれば、公式の''A''を1とすれば、''n''以下の整数のうち素数が占める密度と、''ax''<sup>2</sup> + ''bx'' + ''c''により生成される''n''以下の素数の密度は漸近的に等しいということになる。しかし''A''の値は1以上も1以下も取りうるので、この予想によればいくつかの多項式はより多く素数を生成し、他はより少ない。非常に多くの素数を生成する多項式として4''x''<sup>2</sup> − 2''x'' + 41があり、これはウラムの螺旋において視覚的に目立つ半直線を形成する（図を参照されたい）。この多項式の場合、定数''A''は約6.6であり、予想によればこの多項式から生成される''n''以下の整数の集合と、同じ個数だけランダムに''n''以下の整数を集めた集合を比較した場合、前者のほうが約7倍も素数を含んでいることを示している。この多項式は[[レオンハルト・オイラー]]の素数生成多項式''x''<sup>2</sup> − ''x'' + 41と密接な関係があり、オイラーの式の''x''を2''x''で置き換えるか、''x''を偶数に限定することで得られる。

ハーディ・リトルウッドの予想では式中の''A''は以下の式で与えられる。

: <math>A=\varepsilon\prod_p\left(\frac{p}{p-1}\right)\prod_{\varpi}\left(1-\frac{1}{\varpi-1}\left(\frac{\Delta}{\varpi}\right)\right)</math>

ただし、''p''は''a''と''b''の両方を割り切るような素数であり、<math>\varpi</math>は''a''を割りきらないような奇素数である。εは、''a'' + ''b''が奇数であれば1、''a'' + ''b'' が偶数であれば2である。<math>\left(\frac{\Delta}{\varpi}\right)</math>は[[ルジャンドル記号]]である。現在までに知られている最大の''A''は約11.3で、ヤコブソンとウィリアムズによって発見された<ref>{{Citation|last1=Jacobson Jr.|first1=M. J.|last2=Williams|first2=H. C|title=New quadratic polynomials with high densities of prime values|year=2003|journal={{仮リンク|Mathematics of Computation|en|Mathematics of Computation}}|volume=72|pages=499–519|doi=10.1090/S0025-5718-02-01418-7|issue=241}}</ref><ref>{{Citation |author=Guy, Richard K. |url=https://books.google.co.jp/books?id=1AP2CEGxTkgC&printsec=frontcover&redir_esc=y&hl=ja |title=Unsolved problems in number theory |publisher=Springer |edition=3rd|year=2004 |isbn=978-0-387-20860-2|page=8}}</ref>。

== 亜種 ==
===クローバーの三角形===
[[File:KlauberTriangle.png|thumb|150px|クローバーの三角形。オイラー多項式の''x''<sup>2</sup>  −  ''x''  +  41の部分を強調した。]]
クローバーが1932年の論文で言及したのは三角形状で、''n''行目が(''n''  −  1)<sup>2</sup> + 1から''n''<sup>2</sup>までの数字で構成されている。ウラムの螺旋と同じように、二次多項式によって生成される数は直線をなす。垂線上の数字は''k''<sup>2</sup> − ''k'' + ''M''の形で書くことができる。素数の密度が高い垂線や斜線は図から明らかである。

===正三角ウラムの螺旋===
正三角形上に自然数を並べたもの。
[[File:Ulamtriangle.png|thumb|150px|正三角形上に自然数を並べたウラムの螺旋。最初の7503個の素数を示す]]

===六角ウラムの螺旋===
正六角形上に自然数を並べたもの。
[[File:Hexgrid prime number spiral.svg|thumb|150px|六角形上に自然数を並べたウラムの螺旋。素数は緑、合成数は青で示される。]]

===サックスの螺旋===

ロバート・サックスは1994年にウラムの螺旋の亜種を考案した。ウラムの螺旋が四角の螺旋状だったのに対して、サックスの螺旋は[[代数螺旋#アルキメデスの螺旋|アルキメデスの螺旋]]状に非負の整数を並べ、1周ごとに[[平方数]]が来るようにする（ウラムの螺旋では1周につき2つの平方数が含まれる）。[[素数#素数生成式|オイラーの素数生成多項式]]''x''<sup>2</sup> − ''x'' + 41は''x''の値が0, 1, 2, ...と動くとき、1本のカーブとして現れる。曲線は図の左半分側にて、漸近的に水平線に近づいていく（ウラムの螺旋では、オイラーの素数生成多項式による数字は2本の斜線を形作る。上半分は''x''が偶数の場合、下半分は''x''が奇数の場合に相当する）。
: <math>\begin{cases} x = \sqrt{n}\cos(2\pi\sqrt{n}) \\ y = \sqrt{n}\sin(2\pi\sqrt{n})\end{cases}</math>
もしくは、極座標表示で
: <math>\begin{cases} r = \sqrt{n} \\ \theta = 2\pi\sqrt{n}\end{cases}</math>
と表される。
[[File:Sacks spiral.svg|150px|thumb|サックスの螺旋]]
===約数の数を表すウラムの螺旋===
[[File:Spirale Ulam 150.jpg|150px|right|thumb|150×150のウラムの螺旋。素数と合成数の両方を示した。]]
ウラムの螺旋に[[合成数]]を加えるとさらなる構造が見えてくる。1は自分自身しか[[約数]]を持たない。全ての素数は自分自身と1しか約数を持たない。合成数は少なくとも3つの約数を持つ。点の大きさを対応する数字の約数の数で表現し、素数を赤、合成数を青とすると、このような図が現れる。

上記の六角ウラムの螺旋も、影の濃さで約数の数が表現されている。


{{-}}

==脚注==
{{Reflist}}

==参考文献==
{{Refbegin}}
*{{Citation
 | last = ガードナー | first = M. | author-link = マーチン・ガードナー
 | month = March
 | year = 1964
 | journal = [[サイエンティフィック・アメリカン]]
 | pages = 120–128
 | title = Mathematical Games: The Remarkable Lore of the Prime Number
 | volume = 210
 | doi = 10.1038/scientificamerican0364-120
}}.
*{{Citation
 | last = ガードナー | first = M. | author-link = マーチン・ガードナー
 | publisher = [[University of Chicago Press]]
 | date = 1971
 | title = Martin Gardner's Sixth Book of Mathematical Diversions from Scientific American
 | isbn = 978-0-226-28250-3
}}.
*{{Citation
 | last1 = ハーディ | first1 = G. H.
 | last2 = リトルウッド | first2 = J. E.
 | journal = [[Acta Mathematica]]
 | pages = 1–70
 | title = Some Problems of 'Partitio Numerorum'; III: On the Expression of a Number as a Sum of Primes
 | volume = 44
 | year = 1923
 | doi=10.1007/BF02403921
}} {{クローズドアクセス}}.
*{{Citation
 | last=ホフマン | first=ポール | author-link = ポール・ホフマン
 | title=Archimedes' Revenge: The Joys and Perils of Mathematics
 | publisher=Fawcett Colombine
 | location=New York
 | year=1988
 | isbn=0-449-00089-3}}.
*{{Citation
 | last1 = スタイン | first1 = M. L.
 | last2 = ウラム | first2 = S. M.
 | last3 = ウェルズ | first3 = M. B.
 | journal = {{仮リンク|American Mathematical Monthly|en|American Mathematical Monthly}}
 | pages = 516–520
 | title = A Visual Display of Some Properties of the Distribution of Primes
 | jstor = 2312588
 | volume = 71
 | year = 1964
 | doi = 10.2307/2312588
 | issue = 5
 | publisher = [[アメリカ数学会]]
}}.
*{{Citation
 | last1 = スタイン | first1 = M.
 | last2 = ウラム | first2 = S. M.
 | journal = American Mathematical Monthly
 | pages = 43–44
 | title = An Observation on the Distribution of Primes
 | jstor = 2314055
 | volume = 74
 | year = 1967
 | doi = 10.2307/2314055
 | issue = 1
 | publisher = [[アメリカ数学会]]
}}.
{{Refend}}

==外部リンク==
*{{youTube|iFuR97YcSLM|Prime Spirals - Numberphile}}。ジェームス・グリム博士と[[ノッティンガム大学]]による映像。
*{{youTube|3K-12i0jclM|41 and more Ulam's Spiral - Numberphile}}。ジェームス・クレウェット博士とノッティンガム大学による映像。

{{DEFAULTSORT:うらむのらせん}}
[[Category:数論]]
[[Category:素数]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:予想]]
[[Category:スタニスワフ・ウラム]]
[[Category:数学のエポニム]]