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'''エタール・コホモロジー'''(étale<ref> ([[:fr:%C3%89tale]])仏語で、[形]静止した;(潮,河川が)動きの止まった,『海』停潮 (ポケットプログレッシブ仏和・和仏辞典 第3版(仏和の部)の解説(コトバンク)) [https://kotobank.jp/frjaword/etale#:~:text=%C3%A9tale,%E3%81%8C%EF%BC%89%E5%8B%95%E3%81%8D%E3%81%AE%E6%AD%A2%E3%81%BE%E3%81%A3%E3%81%9F%EF%BC%8E]</ref> cohomology)は[[アレクサンドル・グロタンディーク]]が[[ヴェイユ予想]]を証明するための道具として考案した[[コホモロジー]]理論であり、[[位相空間]]上の定数係数コホモロジー、すなわち[[特異コホモロジー]]の類似になっている。エタール・コホモロジーは[[ヴェイユ・コホモロジー]]の一種であるℓ進コホモロジーを構成する枠組みを与える。[[代数幾何学]]における基本的な道具の一つで、非常に多くの応用を持ち、ヴェイユ予想への貢献や[[フェルマーの最終定理]]の証明の際にも用いられた。 ==定義== 任意の[[スキーム]]''X''に対して[[エタール射]]''u'':''A''→''X''全体からなる[[圏 (数学)|圏]]を''Et(X)''であらわす。この圏は位相空間''S''の開部分集合の圏''Top(S)''の類似であって普通の開埋め込み射をエタール射に置き換えたものとみられる。しかしながらザリスキ位相の開埋め込み射よりもエタール射のほうが数が多くなっており、その分位相は細かくなっている。この位相を用いることによって通常の[[層 (数学)|層]]の理論とまったく同様に、''Et(X)''上に前層および層を定義することができる。それらを'''エタール前層'''および'''エタール層'''とよぶ。 ''Et(X)''上の層の成す圏は通常と同様にやはり[[アーベル圏]]であり、アーベル圏の理論もしくは[[導来関手]]の理論を用いることにより、エタール層''F''に対してコホモロジー :<math>H^i(X, \mathcal{F})</math> の存在および一意性が証明される。これが'''エタール・コホモロジー'''である。 もっと一般的には、同様の手順によって、任意の[[グロタンディーク位相|景]]の上でその[[グロタンディーク位相]]を用いて層を定義し、コホモロジー理論を構成することができる。景の言葉を用いるならエタール・コホモロジーは'''エタール景'''上のコホモロジーと言い換えることができる。 ==ℓ進コホモロジー群== エタール・コホモロジーは係数が'''Z'''/''n'''''Z'''の場合には上手く働くが、ねじれを持たない(たとえば整係数や有理係数)場合は満足する結果を与えない。エタール・コホモロジーからねじれを持たないコホモロジー群を得るためには、ねじれを持つ係数のエタール・コホモロジーの[[逆極限]]をとればよい。これは'''ℓ進コホモロジー'''もしくは'''ℓ進エタール・コホモロジー'''と呼ばれる。ここでℓは考えているスキーム''V''の[[標数]]''p''とは異なる任意の素数を表す。たとえば定数層'''Z'''/ℓ<sup>''k''</sup>'''Z'''のエタール・コホモロジー :<math>H^i (V, \mathbb{Z}/l^k\mathbb{Z})</math> の逆極限 :<math>H^i (V, \mathbb{Z}_l) = \lim_{\leftarrow} H^i(V, \mathbb{Z}/l^k\mathbb{Z})</math> としてℓ進コホモロジーが定義される。ここで注意しなければならないのだが、コホモロジー(右導来関手をとる操作)は逆極限をとる操作と'''可換ではない'''。したがってこのℓ進コホモロジーはエタール層'''Z'''<sub>ℓ</sub>に係数をもつエタール・コホモロジーとは'''異なる'''ものである。後者のコホモロジーは存在するが"悪い"コホモロジー群を与える。 ℓ進コホモロジーからねじれ部分群を取り除き、標数0の体上のベクトル空間としてコホモロジー群を得たいならば :<math>H^i(V, \mathbb{Q}_l) = H^i(V, \mathbb{Z}_l) \otimes \mathbb{Q}_l</math> と定義する。ここでこの記法は誤解を与えるのだが、'''Q'''<sub>ℓ</sub>はエタール層でもℓ進層でもない。 ==性質== 一般的に[[多様体]]のℓ進コホモロジー群は[[複素多様体]]の特異コホモロジー群と似たような性質を持つ。ただ特異コホモロジーは[[整数]]もしくは[[有理数]]上の[[加群]]であるのに対して、ℓ進コホモロジーは[[p進数|ℓ進整数]]もしくは[[p進数|ℓ進数]]上の加群になる。非特異な射影多様体上のℓ進コホモロジーは[[ポアンカレ双対性]]を満たすほか[[ケネスの公式]]も満たす。 一方ℓ進コホモロジーは特異コホモロジーと異なり、ガロア群の作用を持つという性質がある。たとえば有理数体上定義された複素多様体のℓ進コホモロジー群は有理数体の[[絶対ガロア群]]の作用を持ち、[[ガロア表現]]と関係が深い。 ==いくつかの計算例== ===H<sup>i</sup>(X, G<sub>m</sub>)=== :<math>H^0(X, G_m) = k^*</math> :<math>H^1(X, G_m) = Pic(X)</math> ここでPic(X)は[[ピカール群]]。 :<math>H^{i>1}(X, G_m) = 0</math> ===H<sup>i</sup>(X, μ<sub>n</sub>)=== μ<sub>n</sub>を1のn乗根の層、nは体''k''の標数と素とする。エタール層におけるクンマーの完全系列 :<math>1\rightarrow \mu_n \rightarrow G_m \xrightarrow{n}G_m \rightarrow 1</math> より長完全系列 :<math>0\rightarrow H^0(X, \mu_n)\rightarrow H^0(X, G_m)\rightarrow H^0(X, G_m) \rightarrow</math> :<math>\rightarrow H^1(X, \mu_n)\rightarrow H^1(X, G_m)\rightarrow H^1(X, G_m)\rightarrow H^2(X, \mu_n)\rightarrow H^2(X, G_m)</math> を得るが、ここに上記の結果H<sup>0</sup>(''X'', ''G''<sub>''m''</sub>)=''k''<sup>*</sup>、H<sup>1</sup>(''X'', ''G''<sub>''m''</sub>)=Pic(''X'')およびi>1に対してH<sup>i</sup>(''X'', ''G''<sub>''m''</sub>)=0を代入することによって :<math>H^0(X, \mu_n) = \mu_n(k)</math> :<math>1\rightarrow H^1(X, \mu_n)\rightarrow Pic(X)\xrightarrow{\times n} Pic(X)\rightarrow H^2(X, \mu_n)\rightarrow 1</math> となる。下式からH<sup>1</sup>(X, μ<sub>n</sub>)=Pic(X)のn等分点の成す群、H<sup>2</sup>(X, μ<sub>n</sub>)='''Z'''/n'''Z'''およびその他は0とわかる。 ==脚注== {{reflist}} == 参考文献 == * Milne, James S. (1980), ''Étale Cohomology'', Princeton Mathematical Series 33, Princeton University Press * Gunter Tamme, ''Introduction to Etale Cohomology'' * Fu, Lei, "Etale Cohomology Theory". (2011, 2015), Nankai Tracts in Mathematics, 13, World Scientific Publishing, * [[斎藤秀司]]・佐藤周友 (2012),''代数的サイクルとエタールコホモロジー'',シュプリンガー現代数学シリーズ,丸善出版 == 関連項目 == *[[モチーフ (数学)|モチーフ]] *[[グロタンディークのガロア理論]] *[[グロタンディーク位相]] *[[数論幾何]] [[Category:代数幾何学|えたあるこほもろしい]] [[Category:ホモロジー代数|えたあるこほもろしい]] [[Category:数学に関する記事|えたあるこほもろしい]]
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