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{{統計力学}} '''エニオン'''({{lang-en-short|anyon}})は、[[2次元|二次元]]の系においてのみ現れる[[素粒子|粒子]]である。これは、[[フェルミ粒子]]および[[ボース粒子]]の概念を一般化したものである。 == 理論から現実へ == 1977年、[[オスロ大学]]で研究をしていたJon LeinaasおよびJan Myrheimが率いる[[理論物理学|理論物理学者]]のグループは、従来のフェルミ粒子およびボース粒子の区別は二[[次元]]内に存在する理論的な粒子に対しては適用できないことを計算によって示した<ref name=WilczekJan2006>[http://physicsworld.com/cws/article/indepth/23894 From electronics to anyonics], Frank Wilczek, Physics World, January 2006, ISSN 0953-8585</ref>。そのような粒子は、それまで知られていなかったさまざまな性質を示しうることが分かった。1982年、[[フランク・ウィルチェック]]によって、この粒子はエニオンと命名された<ref>[http://www.sciencewatch.com/interviews/frank_wilczek1.htm Frank Wilczek on anyons and their Role in Superconductivity]</ref>。[[ハーバード大学]]の[[w:Bertrand Halperin|バートランド・ハルペリン]]は、この粒子に関連する数学を使って、[[分数量子ホール効果]]を説明した。1985年、フランク・ウィルチェック、Dan Arovas、および[[ジョン・ロバート・シュリーファー|ロバート・シュリーファー]]は、明示的な計算によって、分数量子ホール効果に現れる粒子は実際にエニオンであることを検証した。 2005年、[[ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校|ストーニーブルック大学]]の物理学者のグループは、エニオンの干渉によって起こるパターンを検出するための[[準粒子]][[干渉計]]を構築した。これによって、議論の余地はあるものの、エニオンが単なる数学上の構成概念ではなく実在することを示すことができる<ref>[http://prola.aps.org/abstract/PRB/v72/i7/e075342 Realization of a Laughlin quasiparticle interferometer: Observation of fractional statistics] Physical Review, Phys. Rev. B 72, 075342 (2005)</ref>。 [[半導体]]技術の発展に伴い、薄い二次元層を堆積させることが可能となり(例えば、[[グラフェン]]シート)、[[電子技術]]においてエニオンの性質を利用する長期的な可能性が開拓されている。 == 物理学におけるエニオン == 三次元以上の空間における[[亜原子粒子|粒子]]は、それらの[[量子統計]]に従って[[フェルミ粒子]]もしくは[[ボース粒子]]のどちらかに分類される。フェルミ粒子は[[フェルミ・ディラック統計]]に従い、ボース粒子は[[ボース・アインシュタイン統計]]に従う。[[量子力学]]によって、これは粒子交換の下での多粒子状態の振る舞いとして定式化される。二粒子状態について、[[ディラック記法]]を用いて次の数式で表すことができる。 :<math>\left|\psi_1\psi_2\right\rangle = \pm\left|\psi_2\psi_1\right\rangle</math> <math>\left|\dots\right\rangle</math>内の最初の項は粒子1の状態であり、二番目の項は粒子2の状態である。これは、例えば、左側は"粒子1は<math>\ \psi_1</math>の状態にあり、粒子2は<math>\ \psi_2</math>の状態にある"と解釈される。ここで、"+"は両方の粒子がボース粒子であることに対応し、"−"は両方の粒子がフェルミ粒子であることに対応する。これらの粒子は区別可能であるため、フェルミ粒子およびボース粒子の[[混合状態|複合状態]]は取りえない。 しかしながら、二次元の系においては、フェルミ・ディラック統計およびボース・アインシュタイン統計の間を連続的につなぐ統計に従う[[準粒子]]を観測することができる。1977年に[[オスロ大学]]のJon Magne LeinaasおよびJan Myrheiminによって、このことが初めて示された<ref>{{cite journal | title = On the theory of identical particles | journal = Il Nuovo Cimento B | volume = 37 | issue = 1 | pages = 1–23 | last = Leinaas | first = J.M. | coauthors = J. Myrheim | date = 11 January 1977 | doi = 10.1007/BF02727953 }}</ref>。 先の二粒子状態の例を、二次元の系で構成し直すと次の数式で表すことができる。 :<math>\left|\psi_1\psi_2\right\rangle = e^{i\,\theta}\left|\psi_2\psi_1\right\rangle</math> ここで、''i''は[[虚数単位]]、θは[[実数]]の位相因子である。また、<math>e^{i\pi}=-1</math>であるので、<math>|e^{i\theta}|=1</math>かつ<math>e^{2i\pi}=1</math>なので、<math>\theta=\pi</math>の場合はフェルミ・ディラック統計(符号が負)となり、θ = 0 (または<math>\theta=2\pi</math>) の場合はボース・アインシュタイン統計(符号が正)となる。θがこれら以外の値(θ≠nπ)をとる場合には、また違った結果を得る。この場合には、粒子が交換されるとき、それらはあらゆる位相をとることができるので、フランク・ウィルチェックはそのような粒子を記述するために"エニオン"という言葉を提唱した<ref>{{cite journal | title = Quantum Mechanics of Fractional-Spin Particles | journal = Physical Review Letters | volume = 49 | issue = 14 | pages = 957–959 | last = Wilczek | first = Frank | date = 4 October 1982 | doi = 10.1103/PhysRevLett.49.957}}</ref>。 粒子の[[スピン (物理学)|スピン]]量子数を<var>s</var>として、<math>\theta=2 \pi s\;</math>を用いたとき、<var>s</var>が[[整数]]ならボース粒子、[[半整数]]ならフェルミ粒子となる。すなわち、次の数式が成立する。 :<math>e^{i\,\theta} = e^{2\,i \pi s} = (-1)^{2\,s}</math> or <math>\left|\psi_1\psi_2\right\rangle = (-1)^{2\,s}\left|\psi_2\psi_1\right\rangle</math> 分数量子ホール効果の端の領域においては、エニオンは一次元空間に制限される。一次元エニオンの数学的モデルは、上述の交換関係の基礎を与える。 == トポロジー的な基礎 == 三次元以上の空間では、[[スピン統計定理]]によると、あらゆる多粒子状態はボース・アインシュタイン統計もしくはフェルミ・ディラック統計のどちらかに従わなくてはならない。<var>d</var>>2ならば、[[リー群|群]][[直交群|SO(<var>d</var>,1)]]([[ローレンツ群]]を一般化する)および[[ポアンカレ群|Poincaré(<var>d</var>,1)]]は、それらの[[基本群|第一ホモトピー群]]として<math>\mathrm{Z}_2</math>を持つ。<math>\mathrm{Z}_2</math>は、二つの要素からなる[[巡回群]]であり、それゆえ、二つの状態のみが可能である。(詳しくは、それより多くの要素を含むが、ここでは二つという点が重要である。) 二次元空間では、状況は変わる。ここで、SO(2,1)およびPoincaré(2,1)の第一ホモトピー群は、'''Z'''(無限巡回)である。これはSpin(2,1) は[[被覆空間#普遍被覆|普遍被覆]]ではないことを意味する。つまり、それは[[単連結]]ではない。詳細には、SO(2,1)または[[二重被覆群|二重被覆]]である[[スピン群]]Spin(2,1)の[[線形表現]]から生じる[[特殊直交群]]SO(2,1)の[[射影表現]]が存在する。これらの表現<!-- 曖昧:あらゆるθに対する表現?もしくは、θ ≠ kπについてのみの表現? -->は、エニオンと呼ばれる。 この概念は非相対論的な系に対しても適用できる。空間回転群は無限第一ホモトピー群を持つSO(2)であるということが、ここは関連している。 この事実は、[[結び目理論]]においてよく知られる[[組み紐群]]にも関係している。二次元では二粒子の置換群はもはや[[対称群]]<math>S_2</math>(二つの要素数を持つ)ではなく、組み紐群<math>B_2</math>(無限の要素数を持つ)であるという事実を考えると、その関係を理解することができる。重要な点は、一つの組み紐はもう一つの組み紐に巻きつくことができ、時計回りでも反時計回りでも、無限回巻きつくことができることである。 [[量子コンピュータ]]における安定-[[デコヒーレンス]]問題への新しいアプローチとして、エニオンによる[[トポロジカル量子コンピュータ]]がある。ここでは、安定な[[論理ゲート]]を形成するために[[組み紐 (数学)|組み紐理論]]に基づき、準粒子はより糸として使われる<ref>{{cite journal | title = Topological Quantum Computation | journal = Bulletin of the American Mathematical Society | volume = 40 | issue = 1 | pages = 31–38 | last = Freedman | first = Michael | coauthors = Alexei Kitaev, Michael Larsen, Zhenghan Wang | date = 20 October 2002 | doi = 10.1090/S0273-0979-02-00964-3}}</ref><ref>{{cite news|last=Monroe |first= Don |url=http://www.newscientist.com/channel/fundamentals/mg20026761.700-anyons-the-breakthrough-quantum-computing-needs.html |title=Anyons: The breakthrough quantum computing needs? | work=[[New Scientist]] |date= 1 October 2008 }}</ref>。 == 関連項目 == * [[w:Plekton|プレクトン]] * [[w:Fractional quantum Hall effect|分数量子ホール効果]] * [[w:Anyonic Lie algebra|エニオンリー代数]] == 脚注 == <references /> == 参考文献 == *[http://www.arxiv.org/abs/0707.1889 "Non-Abelian Anyons and Topological Quantum Computation"], [http://stationq.cnsi.ucsb.edu/~nayak/ Chetan Nayak], [http://www-thphys.physics.ox.ac.uk/people/SteveSimon/ Steven H. Simon], Ady Stern, Michael Freedman, Sankar Das Sarma, 2007 *[http://www.optical-lattice.com/index.php?lattice-site=anyons "The Pfaffian state: non-Abelian anyons in 1D optical lattices"] *[http://dao.mit.edu/~wen/pub/qosl.pdf "Quantum Orders and Symmetric Spin Liquids"] Xiao-Gang Wen (2001) *[http://pitp.physics.ubc.ca/confs/7pines2009/readings/arovas_Stern_2007.pdf "Anyons and the quantum Hall effect— A pedagogical review"] Ady Stern (2007) *[http://www.int.washington.edu/talks/WorkShops/int_08_37W/People/Franz_M/Franz.pdf Fractionalization of charge and statistics in graphene and related structures], M. Franz, University of British Columbia, January 5, 2008 == 外部リンク == * [http://www.sciencewatch.com/interviews/frank_wilczek1.htm Interview with Frank Wilczek on anyons and superconductivity] {{DEFAULTSORT:えにおん}} [[Category:量子力学]] [[Category:場の量子論]] [[Category:物性物理学]]
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