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エルゴード理論
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{{出典の明記|date=2011年12月}} '''エルゴード理論'''(エルゴードりろん、{{lang-en|ergodic theory}})は、ある[[力学系]]がエルゴード的(ある物理量に対して、長時間平均とある[[不変測度]]による位相平均が等しい)であることを示す、すなわち'''エルゴード仮説'''の立証を目的とする[[理論]]。この仮説は、SinaiらのDynamical billiardsの例などで正しいという証明が与えられている。この仮説は統計力学における[[等確率の原理|等重率の原理]]を説明すると期待されたが、疑問が持たれている<ref>田崎 p.96-100に問題点が指摘されている</ref>。また、物理学でのエルゴード性を抽象化した、[[数学]]における保測変換の理論をそう呼ぶこともある。 ;長時間平均 :統計的、事象的、観察結果 ;位相平均 :計算論的、収束するもの、あるいは一定のサイクルに収めることの出来るもの、全事象等確率的として推察できるもの 上記2つの平均が同じような値(あるいは関数)を得られるものについて、'''エルゴード的'''ということが出来る。<!--こんな感じ?--> == 保測変換 == [[確率測度]]Pにおいて保測変換Tは任意の[[事象 (確率論)|事象]]Aにおいて <math>P(TA)=P(A)</math> といった具合にAの起こりうる確率を変化させずに別又は同じ事象TAに[[変換 (数学)|変換]]するものをいう。即ち、[[確率測度]]という大きさの測り方を指定したときに、大きさを変えずに変化させる操作の総称をいう。ただし、 <math>P(T^{-1}A) =P(A)</math> であることは[[measure preserving]](邦訳:測度保存)という名がついており、[[可逆]]性を満たせば保測変換になるという広いクラスとなる。 == エルゴード仮説 == エルゴード仮説とは、長い時間尺度 (time scale) でみると、微小状態からなる[[位相空間 (物理学)|位相空間]]内で同じ[[エネルギー]]をもった領域に費やされる時間は位相空間でしめる体積に比例するというもの。すなわち、そのようなすべての実現可能な微小状態は長い目で見ると等しい確率で起こるということ。さらに言いかえれば、時間平均と、統計力学でいう[[統計集団|アンサンブル]](起こりうる微小状態の数だけある系のレプリカの集まり)内での平均は等しくなるということ。 証明されていないため仮説の域は出ないものの、この仮説を採用してシミュレーションを行うと現実を非常にうまく説明できることを疑うものはいない。その意味で特に工学分野において、証明を必要とするという意味のある「[[仮説]]」の字を避け'''エルゴード[[仮設 (数学)|仮設]]'''と書くことがある。 === エルゴード仮説による等重率の原理の基礎付け === 統計力学における[[等確率の原理|等重率の原理]]がエルゴード仮説により基礎づけられるという主張に対しては疑問が持たれている<ref>{{Cite web|和書 |url=https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/statbook/ |title=統計力学 I, II(培風館、新物理学シリーズ) |access-date=2013年10月6日 |author=田崎晴明 |authorlink=田崎晴明 |date=2009 年 9 月 11 日 |website=www.gakushuin.ac.jp |publisher=学習院大学理学部物理学教室 |quote=「統計力学の基盤はマクロな経験事実である」という立場を貫き、できるかぎり見通しのよいストーリーを提示した(既習者や専門家のために、エルゴード仮説が統計力学の基礎としては的を外している理由も解説した)。}}</ref>。 {{Main|等重率の原理#エルゴード仮説による等確率の原理の基礎づけ}} ==数学におけるエルゴード理論== エルゴード理論は[[確率論]]にもとづいた[[力学系]]の一つの分野である。 物理のみならず[[数論]]など数学の他分野への応用も多い。 {{疑問点範囲|上記のエルゴード仮説との直接の関係は薄い。|date=2024年9月}} ===重要な概念=== エルゴード理論での基本的な事柄を説明する。 主に離散力学系を扱うが、連続力学系についても同様のことを考えることが出来る。 ====可測力学系==== [[確率空間]] <math> (X, \mathcal{B}, \mu ) </math> を考える。即ち、''X'' をある集合、<math> \mathcal{B} </math> を ''X'' 上の[[完全加法族]]、そしてμを[[確率測度]]とする。 さらに <math>T : X \rightarrow X </math> を <math> \mathcal{B} </math>-可測な写像とする。 全ての <math> A \in \mathcal{B} </math> に対して <math> \mu ( T ^{-1} A ) = \mu ( A ) </math> を満たすとき、μは(''T''-)[[不変測度]]であるという。 このとき、 <math> (X, \mathcal{B}, \mu, T) </math> を''可測力学系''と呼ぶ。 ここでの興味の対象は、任意の始点 <math> x \in X </math> からの軌道 <math> \{ T ^n ( x ) \} _{n \in \mathbb{N} _0} </math> の振舞いである。 ==== エルゴード性 ==== {{main|エルゴード性}} ''T''-不変な <math> \mathcal{B} </math> の部分集合を <math> \mathcal{I} = \{ A \in \mathcal{B} : T ^{-1} A = A \} </math> とする。 ある可測力学系 <math> (X, \mathcal{B}, \mu, T) </math> が以下の同値な条件の一つを満たすとき''エルゴード的''であるという。 # 任意の <math> A \in \mathcal{I} </math> に対して、 <math> \mu ( A ) = 0 </math> または <math> \mu ( A ) = 1 </math> が成り立つ。 # 任意の <math> \mu ( A \triangle T ^{-1} A ) = 0 </math> を満たす <math> A \in \mathcal{B} </math> に対して、 <math> \mu ( A ) = 0 </math> または <math> \mu ( A ) = 1 </math> が成り立つ。 # 任意の <math> \mu ( A ) , \mu ( B ) > 0 </math> を満たす <math> A , B \in \mathcal{B} </math> に対して、ある <math> n \in \mathbb{N} </math> があり、 <math> \mu ( T ^{-n} A \cap B ) > 0 </math> が成り立つ。 # 任意の <math> f \in L ^2 _\mu </math> に対して、 <math> f \circ T = f </math> が成り立つならば、<math> f </math> は(<math> L ^2 _\mu </math>の意味で)定数関数である。 # 任意の <math> A , B \in \mathcal{B} </math> に対して <math> \lim _{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} \sum _{k=0} ^{n-1} \mu ( T ^{-k} A \cap B ) = \mu ( A ) \mu ( B ) </math> が成り立つ。 1.は、測度論の視点から見れば空間 ''X'' の自明でない''T''-不変な部分空間を持たないということを意味している。 3.で <math> A=B </math> の場合は[[ポアンカレの回帰定理]]である。 5.は混合性と呼ばれる性質の一つである。 このような力学系をエルゴード的と呼ぶ結縁は各種エルゴード定理にある。 エルゴード性は重要な概念であるが、エルゴード理論で扱う力学系はエルゴード的な物に限られるわけではない。 ====混合性==== エルゴード性より強力な性質としては以下のものがある。 任意の <math> A , B \in \mathcal{B} </math> に対して <math> \lim _{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} \sum _{k=0} ^{n-1} \left| \mu ( T ^{-k} A \cap B ) - \mu ( A ) \mu ( B ) \right| = 0 </math> が成り立つとき、 <math> ( X , \mathcal{B} , \mu , T ) </math> は''弱混合的''であるという。 また、任意の <math> A , B \in \mathcal{B} </math> に対して <math> \lim _{n \rightarrow \infty} \mu ( T ^{-n} A \cap B ) = \mu ( A ) \mu ( B ) </math> が成り立つとき、 <math> ( X , \mathcal{B} , \mu , T ) </math> は''強混合的''であるという。 ===エルゴード定理=== {{Main|エルゴード定理}} 最も代表的なのは以下の定理である。 '''バーコフのエルゴード定理''': <math> (X, \mathcal{B}, \mu, T) </math> を可測力学系とする。 任意の <math> f \in L ^1 _\mu </math> に対して、ある <math> f ^\ast \circ T = f ^\ast </math> を満たす <math> f ^\ast \in L ^1 _\mu </math> が存在し :<math> \lim _{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} \sum _{k=0} ^{n-1} f ( T ^k (x) ) = f ^\ast ( x ) </math> がμ-殆ど全ての <math> x \in X </math> で成り立つ。 さらに、μがエルゴード的なら右辺を <math> f ^\ast ( x ) = \int f d \mu </math> と定数関数にとれる。 ===例=== 以下に可測力学系の例を示す。 * <math> \mathcal{B} ([0,1)) </math> を <math> [0,1) </math> 上のボレル集合族、 <math> \lambda </math> を <math> [0,1) </math> 上の[[ルベーグ測度]]とする。さらに <math> \alpha \in \mathbb{R} </math> に対して、写像 <math> R _\alpha : [0,1) \rightarrow [0,1) </math> を <math> R _\alpha ( x ) = x + \alpha \mod 1 </math> と定義する。このとき可測力学系 <math> ([0,1), \mathcal{B}([0,1)), \lambda , R _\alpha) </math> は <math> \alpha \not \in \mathbb{Q} </math> のときに限ってエルゴード的である。 * <math> b \in \mathbb{N} </math> に対して写像 <math> T _b : [0,1) \rightarrow [0,1) </math> を <math> T _b ( x ) = b x \mod 1 </math> と定義する。このとき可測力学系 <math> ([0,1), \mathcal{B}([0,1)), \lambda , T _b) </math> はエルゴード的である。 * [[パイこね変換]](Baker's map) * [[アーノルドの猫写像|猫マップ]](Arnold's cat map) ===連分数への応用=== 写像 <math> T : (0,1) \rightarrow (0,1) </math> を <math> x </math> を <math> 1/x </math> の小数部分に写す写像とする。 つまり :<math> T ( x ) = \frac{1}{x} - \left\lfloor \frac{1}{x} \right\rfloor </math> と定義する。この写像は連分数変換やGauss写像と呼ばれることがある。ここで<math>\lfloor\,\rfloor</math>は[[床関数]]である。 このとき <math> a _n ( x ) , n = 1,2, \ldots </math> を <math> a _n ( x ) = \left\lfloor \frac{1}{T ^{n-1} ( x )} \right\rfloor </math> と定めると、これは <math> x = [0 ; a _1 (x) , a _2 (x) , \ldots ] </math> と <math> x </math> の[[連分数]]表現を与える。 つまり任意の <math> x \in [0,1] \setminus \mathbb{Q} </math> は :<math>\begin{align} x &= a _1 (x) +\cfrac{1}{a _2 (x) +\cfrac{1}{a _3 (x) +\cfrac{1}{\ddots }}} \end{align}</math> と表される。 さらに、 <math> [0,1] </math> 上のボレル確率測度 <math> \mu </math> を :<math> \mu (A) = \frac{1}{\log 2} \int _A \frac{1}{1+x} d x </math> と定義する。これはガウス測度と呼ばれることがある。 この <math> \mu </math> は <math> T </math>-不変であるので <math> ( [0,1] , \mathcal{B} ([0,1]) , \mu , T ) </math> は[[可測関数|可測]][[力学系]]となっている。 この[[力学系]]はエルゴード的であることも知られている。 == 関連項目 == * [[カオス理論]] * [[マルコフ連鎖]] == 引用 == <references/> == 関連書籍 == * 『エルゴード理論とフラクタル』 釜江哲郎・高橋智 共著 (1993, シュプリンガー・フェアラーク東京, ISBN 4-431-70645-3) * Probability : Theory and Examples (Richard Durrett, Thomson, ISBN 0-534-42441-4) * Peter Walters, An Introduction to Ergodic Theory {{Sci-stub}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:えるこおとりろん}} [[Category:統計力学]] [[Category:力学系]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:統計力学の哲学]] [[Category:仮説]] [[Category:エルゴード理論|*]] [[Category:物理学の未解決問題]] [[af:Ergodisiteit]] [[fi:Ergodinen hypoteesi]] [[pl:Hipoteza ergodyczna]] [[sv:Ergodicitet]]
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