オンシェルとオフシェルのソースを表示

{{要改訳}}
[[物理学]]、主に[[場の量子論]]において、古典力学的[[運動方程式]]を満たす物理系の構成を、'''オンシェル'''(on shell)と呼び、そうでないものを'''オフシェル'''(off shell)と呼ぶ。

例えば[[作用 (物理学)|作用]]の定式化の中での[[古典力学]]では、[[変分原理]]の極値解はオンシェル（質量殻）<ref>Thomson, M. (2013). "Modern particle physics". Cambridge University Press, ISBN 978-1107034266 , p.117-119.</ref>であり、[[オイラー＝ラグランジュ方程式]]はオンシェルの方程式である（すなわち、それらはオフシェルでは成り立たない）。[[ネーターの定理]]もまた、オンシェルの定理である。

==質量殻==
'''質量殻'''(mass shell)という用語は、'''質量双曲面'''(mass hyperboloid)という用語から来ていて、これは、次の等式を記述する[[エネルギー]]-[[運動量]]空間の[[双曲面]](hyperboloid)を意味する。この恒等式は質量殻条件と呼ばれる。

:<math>E^2 - |\vec{p} \,|^2 c^2 = m^2 c^4 \ .</math>

この式は質量 m の粒子の[[特殊相対論]]で許されるエネルギー E で運動量 p の組み合わせを記述する。ここに <math>c</math> は[[光速度]]である。質量殻の条件も、[[アインシュタインの縮約記法]]で[[四元運動量]]の項でしばしば記述される。ここに自然単位系として c = 1 とすると、<math>p^\mu p_\mu =  m^2</math> あるいは、より簡単に <math>p^2 = m^2</math> としても表される。

散乱振幅を記述する[[ファインマンダイアグラム]]の中の外線はオンシェル(on shell)、内線[[プロパゲーター]]に対応する[[仮想粒子]]は、オフシェル(off shell)で記述される。ファインマン・ダイアグラムから得られる結果は、すべてon-shell粒子のみによって記述される。なおこの過程の振幅は、オフシェルからの離れ具合に依存して減少する。またこのプロパゲーターは質量殻上に[[特異点 (数学)|特異点]]を持っている<ref>Thomson, M. (2013). "Modern particle physics". Cambridge University Press, ISBN 978-1107034266 , p.119.</ref>ため、プロパゲータの議論をする際は、便宜上この特異点を避けるような複素平面上の経路を取るように修正される。この修正を施しても、物理的な意味合いは変わらない。

古典論では粒子のエネルギーが負であることは許されないのであるが、プロパゲーターのことを言うときは、方程式を満たす E の負のエネルギーの値は、オンシェルにあるとして考える。このことの理由は、一方向へ粒子がエネルギーを運んでいる場合の一つの表現となっていることと、[[反粒子]]が反対の方向へエネルギーを運んでいることとして考え、従って、正と負のオンシェル E 単純に位置エネルギー反対の流れを表していると考える。

== スカラー場での例 ==
''D''-次元[[ミンコフスキー空間]]の中の[[スカラー場]]が一つの例である。[[ラグランジアン密度]]が <math>\mathcal{L}(\phi,\partial_\mu \phi)</math> により与えられたとすると、[[作用 (物理学)#作用 (汎函数)|作用]]は、

:<math>S = \int d^D x \mathcal{L}(\phi,\partial_\mu \phi)</math>

である。この作用のオイラー＝ラングランジュ方程式は、[[オイラー＝ラグランジュ方程式|場を変動させ変分を 0 とする]]ことにより見つけることができ、

:<math>\partial_\mu \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\mu \phi)} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi}</math>

である。ここで、無限小の時空[[平行移動]] <math>x^\mu \rightarrow x^\mu +\alpha^\mu</math> を考える。ラグランジアン密度 <math>\mathcal{L}</math> はスカラーであり、従って、<math>\delta \mathcal{L} = \alpha^\mu \partial_\mu \mathcal{L}</math> として変換する。ラグランジアン密度を[[テイラー展開]]すると、<math>\delta \mathcal{L}</math> に対し同値な表現を得る。

:<math>\delta \mathcal{L} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} \delta \phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\mu \phi)} \delta( \partial_\mu \phi) \ .</math>

（変分は時空の各々の・で独立であるので）、<math>\delta \mathcal{L}</math> へ代入し、<math>\delta( \partial_\mu \phi) = \partial_\mu ( \delta \phi)</math> に注意すると、

:<math>\alpha^\mu \partial_\mu \mathcal{L} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} \delta \phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\mu \phi)} \delta( \partial_\mu \phi) </math>

を得る。しかし場自身はスカラーであるので、これらの変換はちょうど <math>\mathcal{L}</math> のようになり、

:<math>\alpha^\mu \partial_\mu \mathcal{L} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} \alpha^\mu \partial_\mu \phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\nu \phi)} \alpha^\mu \partial_\mu \partial_\nu \phi </math>

となる。この式は独立した変換 <math>\alpha^\mu = (\epsilon, 0,...,0) , (0,\epsilon, ...,0), ...</math> に対しても成立せねばならないので、<math>\alpha^\mu</math> により次のように書き換えることができる。

:<math> \partial_\mu \mathcal{L} = \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \phi} \partial_\mu \phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\nu \phi)} \partial_\mu \partial_\nu \phi \ .</math>

この式は運動方程式（この場合は、オイラー＝ラグランジェ方程式）であるか否かにかかわらず、任意の場に対して成り立つので、'''オフシェル'''でも成り立つ方程式の例である。しかし、単にオイラー＝ラグランジェ方程式へ代入することにより'''オンシェル'''の方程式を導出することができる。

:<math> \partial_\mu \mathcal{L} = \partial_\nu \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\nu \phi)}  \partial_\mu \phi + \frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\nu \phi)} \partial_\mu \partial_\nu \phi \ .</math>

これを

:<math> \partial_\nu \left (\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial (\partial_\nu \phi)} \partial_\mu \phi -\delta^\nu_\mu \mathcal{L} \right) = 0 </math>

と書くことができ、大括弧の中の量を <math>T^\nu{}_\mu</math> と書くと、

:<math>\partial_\nu T^\nu{}_\mu = 0</math>

を得る。これは[[ネーターの定理]]の一つの例であり、[[保存量]]が[[エネルギー運動量テンソル]]である。すなわちon shellであるような粒子(もしくは場)を考えれば、つまり運動方程式を満たす場のエネルギー運動量テンソルは、唯一の保存量である。

== 参考文献 ==
{{Reflist}}
:* 中西 襄: '''場の量子論''' 培風館, 新物理学シリーズ 19, p191

{{DEFAULTSORT:おんしえるとおふしえる}}
[[Category:場の量子論]]