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カオスの縁
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'''カオスの縁'''(カオスのふち、{{lang-en|edge of chaos}})とは、[[クリストファー・ラングトン]]により発見され、[[ノーマン・パッカード]]により名付けられた、[[セルオートマトン]]における概念{{Sfn|Schiff|2011|p=77}}。振る舞いが秩序からカオスへ移るような[[システム]]において、秩序とカオスの境界に位置する領域{{Sfn|井庭・福原|1998|p=76}}。[[複雑系]]や[[人工生命]]、[[生命]]の[[進化]]などの研究において着目されてきた{{Sfn|Mitchell|1993|p=2}}。[[理論生物学]]においては、[[スチュアート・カウフマン]]による、生命の発生と進化には[[自然淘汰]]の他に[[自己組織化]]が必要であり、進化の結果、生命は「カオスの縁」で存在するという仮説がよく知られる{{Sfn|井庭・福原|1998|p=133}}{{Sfn|カウフマン|2008|pp=61–62}}。 ==セル・オートマトン== 1980年代初頭から[[スティーブン・ウルフラム]]は1次元セル・オートマトンのルール(遷移関数)ごとの挙動を調査し、その挙動を以下のように4つにクラス分けした{{Sfn|Schiff|2011|pp=73–76}}{{Sfn|井庭・福原|1998|pp=83–84}}。 *クラスI:均一な一定状態に漸近する挙動 *クラスII:周期的な状態に漸近する挙動 *クラスIII:ランダムな状態を維持する挙動 *クラスIV:他のクラスほど厳密に定義されないが、上記の3クラスに当てはまらない挙動 ウルフラムはクラスIからIIIまでに対し、[[力学系]]の挙動とアナロジー的に該当するものを当て嵌めている{{Sfn|高橋|1990|pp=266–267}}。 *クラスI:安定[[不動点]] *クラスII:[[リミットサイクル]] *クラスIII:[[カオス理論|カオス]] ウルフラムによればクラスIVについては該当する力学系の挙動が存在しない{{Sfn|高橋|1990|p=269}}。クラスIVでは非常に複雑な挙動が起こる。いくつかの局所的な構造が生み出され、それらはセル空間内を移動し、相互作用を起こし合う{{Sfn|Schiff|2011|p=76}}。また、ある初期値では全て一定状態に漸近したり、別の初期値では周期的状態に漸近したり、ランダム状態を維持したりなどの変化も見せる{{Sfn|高橋|1990|p=269}}。以下の図はウルフラムのルール番号によってルール110と呼ばれるルールを採用したときのセル・オートマトンの挙動(時間発展)を示している。初期配置は黒一点のみが存在する場合である。クラスIVに分類される{{Sfn|Schiff|2011|p=77}}。 [[File:CA rule110s.png|center|650px]] クリストファー・ラングトンはクラスIVについてさらに調べるために、次のようなパラメータを導入した{{Sfn|井庭・福原|1998|p=84}}。 :<math>\lambda = \frac{k^\rho-n_q}{k^\rho}</math> ここで、''k'' は状態数、 ''ρ'' は近傍数を意味し、''k<sup>ρ</sup>'' は可能な近傍の状態数となる{{Sfn|Schiff|2011|p=45}}。状態数 ''k'' の内の任意な一つの状態 ''q'' を「静止状態」と呼ぶとする{{Sfn|Mitchell|1993|p=6}}。''n<sub>q</sub>'' は ''k<sup>ρ</sup>'' の内の次の時刻に静止状態(すなわち ''q'' )となる数を示す{{Sfn|Schiff|2011|p=45}}。''λ'' は静止状態とならない割合を示しており、一般には ''λ'' パラメータなどと呼ばれる{{Sfn|井庭・福原|1998|p=84}}。あるいは、ラングトン自身は ''λ'' パラメータのことを「あるレベルの挙動の複雑さに関連する統計量」と位置づけている{{Sfn|Schiff|2011|p=81}}。 ''n<sub>q</sub>'' の最小から最大までの範囲は、0 ≤ ''n<sub>q</sub>'' ≤ ''k<sup>ρ</sup>'' なので、''λ'' の範囲は 0 ≤ ''λ'' ≤ 1 となる。ラングトンによれば、''λ'' = 0 で最少である[[複雑性]]は、''λ'' の増加とともにも複雑性も増加し、''λ'' がある値となったところで極大となり、その後は複雑性は減少していき、''λ'' = 1 でまた最少となる{{Sfn|Langton|1990|p=32}}。複雑性が極大となる臨界値は ''λ<sub>c</sub>'' で表される。ウルフラムのクラスと一緒にまとめると、挙動とクラスと ''λ'' パラメータは以下のような関係の下に変化する{{Sfn|Mitchell|1993|p=6}}{{Sfn|Schiff|2011|p=82}}。 {|style="border-spacing: 2px; border: 1px solid darkgray; margin:0 auto; width: 70%; text-align:right" |- |挙動:|| 不動点|| || 周期的|| ||"複雑"|| ||カオス{{0}} |- |ウルフラムのクラス: ||クラス I|| ⇒ || クラスII||⇒||クラスIV||⇒||クラスIII{{0}} |- |''λ'' パラメータ:|| 0 || || || || ''λ<sub>c</sub>'' || || |} ただし、上記の区分は ''k'' や ''ρ'' が大きな値のときは良く機能するが、小さいときはあまりうまく働かない{{Sfn|Schiff|2011|p=82}}{{Sfn|井庭・福原|1998|p=85}}。 このように、クラスIVはカオス的・ランダム的振る舞いと秩序的・静的振る舞いの境界に存在し、この領域を「カオスの縁」と呼ぶ{{Sfn|Schiff|2011|pp=76–77}}{{Sfn|井庭・福原|1998|p=87}}。 ==脚注== {{Reflist|2}} ==参照文献== *{{Cite book ja-jp |author = Joel Linn Schiff |translator=足立進・磯川悌次郎・今井克暢・小松崎俊彦・李佳 |others=梅雄博司・Ferdinand Peper(監訳) |year= 2011年 |title = セルオートマトン |publisher = 共立出版 |edition=初版 |isbn = 978-4-320-12295-6 |ref={{Sfnref|Schiff|2011}} }} *{{Cite book ja-jp |author = 井庭崇・福原義久 |year= 1998年 |title = 複雑系入門―知のフロンティアへの冒険 |publisher = NTT出版 |edition=初版 |isbn = 4-87188-560-7 |ref={{Sfnref|井庭・福原|1998}} }} *{{cite book ja-jp |title=カオス―カオス理論の基礎と応用 |chapter = セルオートマトンにおけるカオスとフラクタル |author=高橋智 |editor=合原一幸 |publisher=サイエンス社 |year=1990 |edition=初版 |isbn= 4-7819-0592-7 |ref= {{Sfnref|高橋|1990}} }} *{{Cite book ja-jp |author = スチュアート・カウフマン |translator=森弘之・五味壮平・藤原進 |others=米沢富美子(監訳) |series=ちくま学芸文庫 |year= 2008年 |title = 自己組織化と進化の論理─宇宙を貫く複雑系の法則 |publisher = 筑摩書房 |edition=初版 |isbn = 978-4-480-09124-6 |ref={{Sfnref|カウフマン|2008}} }} *{{Cite journal |author1=Melanie Mitchell |author2=Peter T. Hraber |author3=James P. Crutchfield |title=Revisiting the Edge of Chaos: Evolving Cellular Automata to Perform Computations |journal=SFI Working Paper |url=http://www.santafe.edu/research/working-papers/abstract/b844be5bf9c3d5e37658a77978f2e2ed/ |year=1993 |publisher=Santa Fe Institute |pages=1–39 |ref={{Sfnref|Mitchell|1993}} }} *{{Cite journal |author=Chris G. Langton |title=Computation at the edge of chaos: Phase transitions and emergent computation |journal=Physica D: Nonlinear Phenomena |doi=10.1016/0167-2789(90)90064-V |year=1990 |volume=42 |issue= 1–3 |publisher=Elsevier |pages=12–37 |ref={{Sfnref|Langton|1990}} }} {{DEFAULTSORT:かおすのふち}} [[Category:セル・オートマトン]] [[Category:複雑系]] [[Category:カオス理論]]
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