カロテノイドのソースを表示

{{表記揺れ案内
|表記1=カロテノイド
|表記2=カロチノイド
}}
[[File:Carotinoide.jpg|thumb|350px|'''自然界にみられるカロテノイド''': カロテノイドは赤、橙、黄色などを示す天然色素であり、[[動物]]、[[植物]]や[[昆虫]]などに広く分布する。動物はカロテノイドを自ら[[生合成]]できないが、食物からの摂取や[[共生]]細菌による生合成などによって体内に蓄積する。]]

'''カロテノイド'''（カロチノイド、{{lang-en-short|carotenoid}}）は黄、橙、赤色などを示す天然[[色素]]の一群である。[[微生物]]、[[動物]]、[[植物]]などからこれまで750種類以上<ref>{{Cite book | author=Britton G; Liaaen-Jensen S; Pfander H | year=2004 | title=Carotenoids, Handbook | publisher=Birkhäuser Basel | isbn=978-3-7643-6180-8 | url=http://www.springer.com/us/book/9783764361808 | doi=10.1007/978-3-0348-7836-4 }}</ref><ref name="takaichi">{{Cite book | 和書 | editor=高市真一 編 | author1=三室 守 | author2=高市真一 | author3=富田純史 | title=カロテノイド―その多様性と生理活性― | publisher=裳華房 | year=2006 | isbn=978-4-7853-5840-2}}</ref>のカロテノイドが同定されている。たとえば[[トマト]]や[[ニンジン]]、[[フラミンゴ]]や[[ロブスター]]の示す色はカロテノイド色素による着色である。自然界におけるカロテノイドの生理作用は多岐にわたり、とくに[[光合成]]における補助集光作用、光保護作用や[[抗酸化物質|抗酸化作用]]等に重要な役割を果たす<ref name="takaichi" />。また、[[ヒト]]をはじめとする[[動物]]の[[必須栄養素]]である[[ビタミンA]]の前駆体となるほか、近年では[[がん]]や[[心臓病]]の予防効果も報告されている<ref name="takaichi" /><ref name="maoka">眞岡孝至『[http://www1.odn.ne.jp/seiken/r1-link21.pdf カロテノイドの多様な生理作用]』食品・臨床栄養、2、2007年。</ref>。

カロテノイドは一般に8個の[[イソプレン]]単位が結合して構成された[[化学式]] C<sub>40</sub>H<sub>56</sub> の基本骨格を持つ。[[テルペノイド]]の一種でもあり、[[テトラテルペン]]に分類される。ごくわずかの[[細菌]]からは、化学式C<sub>30</sub>H<sub>48</sub>を基本骨格とするものも発見されており<ref>{{Cite journal |first=L. |last=Tao |title=Novel carotenoid oxidase involved in biosynthesis of 4,4'-diapolycopene dialdehyde. |journal=Appl Environ Microbiol |volume=71 |issue= |year=2005 |month= |publisher= |pages=3294-3301}}</ref>、[[トリテルペン]]に分類される。カロテノイドのうち[[炭素]]と[[水素]]原子のみで構成されるものは[[カロテン]]類、これに加えて[[酸素]]原子を含むものは[[キサントフィル]]類に分類される。カロテンの名称はニンジン（carrot）から得られた不飽和炭化水素（ene）に、キサントフィルの名称は黄色い（xantho）葉（phyll）の色素にそれぞれ由来する<ref name="maoka" />。

カロテノイドの色素としての性質は、その分子骨格にそってのびる長い[[共役二重結合]]（[[ポリエン]]）によるものである。その共役系の長さによって、400から500 nm の間に極大をもつ異なる[[吸収スペクトル]]を示すことにより、黄色、橙色、赤色の異なる色を呈する。また、カロテノイドのもつ高い抗酸化作用もこの共役二重結合に由来する。

== 生合成経路 ==
高等[[植物]]の[[色素体]]および一部の[[細菌]]は、[[糖]]などの栄養から中心代謝経路を経て自らカロテノイドを生合成することができる。[[動物]]はカロテノイド生合成経路をもたないが、食物から摂取したカロテノイドを[[代謝]]し、[[ビタミンA]]などをつくる。本項目では色素体や細菌内でのカロテノイド生合成経路について述べる。

=== 基質であるゲラニルゲラニル二リン酸の生合成経路 ===
まず、[[メバロン酸経路]]または[[非メバロン酸経路]]によって[[イソペンテニル二リン酸]]（IPP）と[[ジメチルアリル二リン酸]]（DMAPP）が生合成される。どちらの経路によってIPPおよびDMAPPを生合成するかは、それぞれの生物に依存する（植物の[[色素体]]や、多くの[[グラム陰性菌]]は非メバロン酸経路をもつ一方で、[[赤色酵母]]や[[黄色ブドウ球菌]]などの微生物はメバロン酸経路をもつ）。その後、DMAPPにIPPが順次縮合されることにより、[[ゲラニル二リン酸]]（GPP）、[[ファルネシル二リン酸]]（FPP）を経て、カロテノイドの直接の基質である[[ゲラニルゲラニル二リン酸]]（GGPP）が生成される。

=== フィトエンからリコペンまでの生合成経路 ===
2分子のGGPPが[[縮合]]され、安定な[[反応中間体]]であるプレフィトエン二リン酸を経て、カロテノイドの基礎骨格となる炭素数40の[[フィトエン]]が生成される。フィトエンの中心には3つの[[共役]]した[[二重結合]]があるが、内側の[[単結合]]から順に不飽和化（[[脱水素化]]）されることにより共役系が2つずつ伸びてゆき、[[フィトフルエン]]、[[ζ-カロテン]]、[[ニューロスポレン]]、[[リコペン]]が生成される<ref>{{Cite journal |first=G. |last=Sandmann |title=Evolution of carotene desaturation: The complication of a simple pathway |journal=Arch Biochem Biophys |volume=483 |issue= |year=2009 |month= |publisher= |pages=169-174|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18948076}}</ref>。リコペンまでの生合成経路は多くの生物で共通であるが、この後の生合成経路はそれぞれの生物によって大きく異なる。

=== 各種の末端が修飾されたカロテノイドの生合成経路 ===
リコペンの末端の環化により各種環化カロテノイドができる。リコペンを基質として、リコペンβ環化酵素が1回作用すると[[γ-カロテン]]が、2回作用すると[[β-カロテン]]が生成される。リコペンε環化酵素が1回作用すると[[δ-カロテン]]、2回作用すると[[ε-カロテン]]が生成される。リコペンβ環化酵素とリコペンε環化酵素がそれぞれ1回ずつ作用すると[[α-カロテン]]が生成される。

β-カロテンを基質として[[ケト]]化・[[水酸化]]酵素が作用することにより、[[β-クリプトキサンチン]]、[[ゼアキサンチン]]、エキネノン、[[カンタキサンチン]]、3-ヒドロキシエキネノン、3'-ヒドロキシエキネノン、アドニザンチン、フェニコキサンチン、[[アスタキサンチン]]が生成される。

そのほか、配糖化酵素・[[エポキシ]]化酵素など多くの酵素と生合成経路が同定されている。また、酵素や生合成経路が同定されていないカロテノイドも多く存在する。

== 主な化合物 ==
=== カロテン類 ===
==== αカロテン ====
[[αカロテン]]（あるふぁ-、α-carotene）は化学式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub>、分子量 536.87 のカロテン。[[IUPAC命名法]]では '''β,ε-カロテン'''となる。[[CAS登録番号]]は 7488-99-5。融点 185.5 ℃（真空封管）の濃紫色プリズム晶。<math>\rm \left[\alpha \right]^{18}_{643}</math>=+385°、極大吸収 (CHCl<sub>3</sub>) 485, 454 nm。

生物内ではγカロテンによって作られ緑黄色野菜のみならず、多くの植物にみられる。水にはほとんど溶けない脂溶性の物質で、純物質は紫色をしている。体内で酸化され[[ビタミンA|レチノイド]]となるが、βカロテンに比べると効力が低いとされている。

[[ファイル:Alpha-carotene.svg|400px]]

==== βカロテン ====
[[βカロテン]]（べーた-、β-carotene）は、化学式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub> の[[植物]]のもつ黄色[[色素]]。[[IUPAC命名法]]では '''β,β-カロテン'''と呼ばれる。[[CAS登録番号]]は 7235-40-7。融点 183 ℃（真空封管）の濃紫色六方プリズム晶。極大吸収 (CHCl<sub>3</sub>) 497, 466nm。

かつてはドイツ語を由来とした'''β-カロチン'''という語でも言い表された。

[[ファイル:Beta-carotene-2D-skeletal.svg|400px]]

[[細胞膜]]の損傷を防ぐ働きをする。[[胃癌]]や[[肺癌]]に対する予防効果が注目されていたが、その効果を否定する臨床試験の結果がでた。

人体の[[脂肪]]組織に蓄えられ、[[肝臓]]や[[小腸]]の粘膜の中で、必要な時にβ-カロテンが2分子に分かれ[[ビタミンA]]になるため、'''プロビタミンA'''とも呼ばれる。

* β-カロテンを多く含む食べ物
**[[緑黄色野菜]] : [[カボチャ]]、[[ニンジン]]（西洋系）、[[アシタバ]]、[[コマツナ]]、[[シソ]]、[[ホウレンソウ]]、[[マンゴー]]

==== γカロテン ====
[[γカロテン]]（がんま-、γ-carotene）は化学式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub>、分子量 536.87 のカロテン。[[IUPAC命名法]]では '''β,ψ-カロテン'''となる。[[CAS登録番号]]は 472-93-5。結晶多形を持ち、天然型は融点 177.5 ℃のわずかに濃い赤色プリズム晶、極大吸収 (CHCl<sub>3</sub>) 508.5,  475, 446 nm。または融点 152&ndash;153 ℃の赤色板状晶、極大吸収（エーテル）494, 462 nm。

生物内では[[リコペン]]の異性化、[[βゼアカロテン]]の脱水素化によって作られる。水にはほとんど溶けない脂溶性の物質。[[αカロテン]]や[[βカロテン]]の前駆体として[[人参]]等に存在するが微量。[[ビタミンA]]効力は低い。

[[ファイル:Gamma-carotene.svg|400px]]

==== δカロテン ====
[[δ-カロテン|δカロテン]]（でるた-、δ-carotene）は化学式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub> のカロテン。[[IUPAC命名法]]では '''ε,ψ-カロテン'''となる。[[CAS登録番号]]は 472-92-4。融点 140.5 ℃の橙赤色針状晶。<math>\rm \left[\alpha \right]^{25}_{D}</math>=+352°。

[[人参]]などの緑黄色野菜に含まれている。[[ビタミンA]]効力はかなり低い。脂溶性なので、有機溶媒で抽出し[[クロマトグラフィー]]で単離する。

[[ファイル:Delta-carotene.svg|400px]]

==== リコペン ====
[[リコペン]]（Lycopene, lycopene、ドイツ語読みで[[リコピン]]）は化学式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub>、分子量 536.87 のカロテノイド。水にはほとんど溶けない脂溶性の赤色色素<ref>{{Cite journal | author=Kuti, Joseph O.; Konuru, Hima B. | title=Effects of genotype and cultivation environment on lycopene content in red-ripe tomatoes | journal=Journal of the Science of Food and Agriculture | volume=85 | year=2005 | pages=2021–2026 | doi=10.1002/jsfa.2205 | url=http://lib3.dss.go.th/fulltext/Journal/J.Sci.Food%20and%20Agri/2005v85/no.12/2005v85no12p2021-2026.pdf}}</ref>。多くの植物では'''βカロテン'''や'''αカロテン'''の前駆体としてわずかに存在するのみであるが、[[トマト]]や[[カキノキ|柿]]、[[金時ニンジン]]、[[グミ (植物)|グミ]]などに多量に存在する。抗酸化作用が大きいと考えられている。

[[ファイル:Lycopene.svg|400px]]

*ε-カロテン

[[ファイル:Epsilon-carotene.svg|400px]]

=== キサントフィル類 ===
{{Main|キサントフィル}}
==== ルテイン ====
[[ルテイン]] ([[:en:Lutein|lutein]]) は分子式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub>O<sub>2</sub>、ジヒドロキシ-αカロテンに相当する。また、狭義にはルテインを指して'''キサントフィル''' (xanthophyll) と称することもある。CAS登録番号 127-40-2。色は黄色で、高い抗酸化作用を持ち、[[緑黄色野菜]]、[[果物]]に多く含まれる。カナリアの羽毛の黄色色素でもある。極大吸収 (CO2) 445, 475, 508 nm。

[[人間]]の[[目]](黄斑部、[[水晶体]])、[[乳房]]、[[子宮]]頸部にも含まれる。
目の機能強化、[[白内障]]や[[加齢黄斑変性]]などの眼病予防に役立つとして、近年注目されている。

[[ファイル:Luteine - Lutein.svg|400px]]

* ルテインを多く含む食物
**[[緑黄色野菜]] : [[ホウレンソウ]] - [[ブロッコリー]] - [[キャベツ]]
**[[豆類]]
**[[花]] : [[マリーゴールド]]
**[[藻類]] : [[アオサ]]
**[[鶏卵|卵黄]]

==== ゼアキサンチン ====
[[ゼアキサンチン]] (zeaxanthin) は分子式 C<sub>40</sub>H<sub>56</sub>O<sub>2</sub>、ジヒドロキシ-βカロテンに相当する。CAS登録番号 144-86-3。融点 215 ℃の黄色長板状晶。吸収極大 (CS<sub>2</sub>) 517, 482, 450 nm。

トウモロコシの種子、卵黄に含まれる。

[[ファイル:Zeaxanthin2.svg|400px]]

==== カンタキサンチン ====
[[カンタキサンチン]] (canthaxanthin) は分子式 C<sub>40</sub>H<sub>52</sub>O<sub>2</sub>、beta,beta-carotene-4,4'-dioneに相当する。CAS登録番号 514-78-3。融点209℃。吸収極大470～476nm。1950年食用キノコ（Cantharellus cinnabarinus）中に含まれていることが見出され、フラミンゴ等の赤色羽毛中やサケ、マスの肉中、伊勢海老からも検出されている。色調は赤色で、高い抗酸化力があり抗腫瘍作用、免疫賦活作用等のデータが示されている。

[[ファイル:Canthaxanthin.svg|400px]]

==== フコキサンチン ====
[[フコキサンチン]]（Fucoxanthin）は分子式 C<sub>42</sub>H<sub>58</sub>O<sub>6</sub> で表される。[[褐藻]]やその他の[[不等毛藻]]に存在して[[茶色]]-[[オリーブ色]]を呈するとともに、葉緑体において光合成の補助色素として機能している。フコキサンチンは可視光線のうち青緑色から黄緑色（350-550nm）の波長域を吸収し、448nm 付近に吸収極大を持つ。

[[ファイル:Fucoxanthin.svg|400px]]

==== アスタキサンチン ====
[[アスタキサンチン]]（Astaxanthin, Astaxanthine）は[[分子式]] C<sub>40</sub>H<sub>52</sub>O<sub>4</sub> で表される。[[甲殻類]]の殻やそれらを餌とする[[マダイ]]の体表、また[[サケ]]科魚類の筋肉の赤色部分などに見られる。生体内では遊離型、モノエステル型、ジエステル型の3形態が可能であるが、多くは[[脂肪酸]][[エステル]]型であり、[[血漿]][[リポタンパク質]]と結合した形で存在する。甲殻類では[[タンパク質]]（オボルビン、クラスタシアニン）と結合し、カロテノプロテインとして存在している。タンパク質と結合したアスタキサンチンは黒っぽい青灰色を呈するが、加熱によりタンパク質分子が変性してアスタキサンチンが遊離すると、本来の赤色を呈する。甲殻類を茹でると赤くなるのはこの現象に由来する。

[[file:Astaxanthin.svg|アスタキサンチン 構造式|400px]]

==== アンテラキサンチン ====
[[ファイル:Antheraxanthin structure.svg|400px]]

==== ビオラキサンチン ====
[[ファイル:Violaxanthin.svg|400px]]

== 出典 ==
{{Reflist}}

== 関連項目 ==
*[[栄養学]] - [[栄養素]]
*[[赤潮]] - 赤潮が赤く見えるのは、異常発生したプランクトンの細胞に含まれるカロテノイドによる。

== 外部リンク ==
*{{PaulingInstitute|jp/mic/dietary-factors/phytochemicals/carotenoids}}
*[http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/food_inf/data/additive_back/iro_19.html β－カロテン]（横浜市衛生研究所 - 食品衛生情報）
*{{Hfnet|42|カロテン}}
*{{Hfnet|710|リコピン|nolink=yes}}
*{{Hfnet|41|ルテイン|nolink=yes}}
*[http://www.alpine-plants-jp.com/himitunohanazono/kiebine_himitu_1.htm キエビネの花の細胞中のカロチノイド]
*[http://www.carotenoid.jp/JSCR/index-j.htm 日本カロテノイド研究会]

{{テルペノイド}}{{カロテノイド}}{{抗酸化物質}}
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[[Category:カロテノイド|*]]
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