クロラミンのソースを表示

{{Chembox
| ImageFile = Chloramine-2D.png
| ImageSize = 130px
| ImageFile1 = Chloramine-3D-vdW.png
| ImageSize1 = 100px
| IUPACName = monochloroamine
| OtherNames = モノクロロアミン
| Section1 = {{Chembox Identifiers
|   CASNo = 10599-90-3
|   PubChem = 25423
| KEGG = D04872
|   SMILES = 	NCl
  }}
| Section2 = {{Chembox Properties
|   Formula = ClH<sub>2</sub>N
|   MolarMass = 51.473 
|   Appearance = 無色透明の液体
|   Density = 
|   MeltingPt = −66&nbsp;°C
|   BoilingPt = 
|   Solubility = 
  }}
| Section3 = {{Chembox Hazards
|   MainHazards = 
|   RPhrases = 
|   SPhrases = 
|   FlashPt = 
|   Autoignition = 
  }}
}}

'''クロラミン''' (chloramine) または'''クロロアミン''' (chloroamine) は[[窒素]]上に[[塩素]]原子をもつ[[窒素]]化合物である<ref name="SDS-Fisher">{{cite web|url=https://www.fishersci.com/shop/msdsproxy?storeId=10652&productName=O1779250|title=Chloramine T Trihydrate SDS|website=Fisher|accessdate=2021-03-26}}{{リンク切れ|date=2025-01}}</ref>。<br />[[アンモニア]]がもつ3個の[[水素]]原子を塩素原子で置き換えた化合物には、次の3種がある。
# モノクロラミン（クロロアザン、NH<sub>2</sub>Cl）
# ジクロラミン（ジクロロアザン、NHCl<sub>2</sub>）
# トリクロラミン（[[塩化窒素]]、NCl<sub>3</sub>）
単にクロラミンといった場合、通常は'''モノクロラミン'''のことを指す。ジクロラミンは不安定な化合物であり、単離することができない<ref>{{cite web|url=https://cameochemicals.noaa.gov/chemical/19968|title=CHLORAMINE|website=CAMEO Chemicals|publisher=NOAA|accessdate=2021-03-26}}</ref>。かつては、トリクロラミンがカルキ臭の主要因であるといわれていた<ref name="川口2015" />。

化合物群の呼称のクロラミン、モノクロラミンなどは慣用名の無機化合物に対する呼称であり、「～アミン」とつづられるが、狭義には有機化合物の[[アミン]]類を含まない。

==生成==
'''モノクロラミン'''はアルカリ条件下で、[[次亜塩素酸ナトリウム]]とアンモニアの反応によって得られる<ref>{{Cite book |url=https://books.google.com/books?id=35xwBwjhe2MC&pg=PA172 |title=Amines: Synthesis, Properties and Applications |accessdate=2021-03-26 |publisher=Cambridge University Press |author=Stephen A. Lawrence |year=2004 |page=172 |isbn=0 521 78284 8}}</ref>。
: <chem>NH3 + NaClO -> NH2Cl + NaOH</chem>

==物理的性質==
*[[常温]]で無色の[[液体]]

==化学的性質・用途==
低濃度のモノクロラミンは塩素の代用として[[水道水]]の[[消毒]]に用いられる。塩素よりも安定で消費者のもとに届くまで消散することがないなどの利点から、モノクロラミンの使用は増加しつつある。比較的無害な炭化水素である[[メタン]]などの[[有機化合物]]の存在下でも[[クロロホルム]]や[[四塩化炭素]]などのハロメタン類を生成させず、塩素のように不快な悪臭を生じさせないので水道水の味が良くなるとされる。

[[観賞魚]]などを飼育する場合、モノクロラミンは[[魚]]に有毒なので水道水から取り除かねばならない。塩素は数日間放置することによって[[揮発]]するが、モノクロラミンは[[相転移#物理学的性質|揮発性]]が少なく、より安定なので、[[観賞魚店]]などで手に入る[[チオ硫酸ナトリウム]]などの[[薬剤]]で除去しなければならない。<br />ただし、モノクロラミンの含まれていない水道水を利用しても、水道水中の塩素（[[次亜塩素酸]] HClO）と[[魚]]の[[糞尿]]に含まれるアンモニアとの反応によって生成することもある。
: <chem>NH3 + HClO -> NH2Cl + H_2O</chem>

塩素と同様、モノクロラミンで消毒された水道水を[[人工透析|人工透析器]]に用いる場合には、半透膜を通して血液と接触するので、これを除去する必要がある。しかし、クロラミンは消化器を通過する際に無毒化されるので、口から飲むぶんには人工透析を受けている患者に対しても無害である。

自家製の[[ビール]]を作る人々は、[[醸造]]液からモノクロラミンを除くのに[[ピロ亜硫酸ナトリウム]]を用いる。塩素とは異なり、煮沸によって除去できないからである。

== 分解 ==
クロラミンの共有N-Cl結合は、[[次亜塩素酸]]の混合によって容易に[[加水分解]]される<ref>{{Ullmann |first1=Yasukazu|last1=Ura |first2=Gozyo|last2=Sakata |title=Chloroamines |year=2007 |page=5}}</ref>。
: RR′NCl + H<sub>2</sub>O {{eqm}} RR′NH + HOCl

定量的加水分解定数（''K'' 値）は、クロラミンの殺菌力を表すために使用され、水中での次亜塩素酸の生成に依存する。''K'' 値は次式で表され、一般的に10<sup>&minus;4</sup>から10<sup>&minus;10</sup>の範囲になる（モノクロラミンの場合は2.8×10<sup>&minus;10</sup>）。
: <math>K = \frac{ c_{\text{RR}'\text{NH}} \cdot c_\text{HOCl} }{ c_{\text{RR}'\text{NCl}} }</math>　　　

== 反応 ==
クロラミンは水中では比較的中性を呈するが、[[酸化剤]]の働きをする（酸性溶液：E°= +1.48 V、塩基性溶液ではE°= +0.81 V）。
: <chem>NH2Cl + 2H+ + 2e- -> NH4+ + Cl-</chem>

クロラミンの反応には、塩素の求核および求電子置換、水素の求電子置換および酸化的付加が含まれる。クロラミンは、[[次亜塩素酸]]と同様に求核試薬（Nu<sup>−</sup>）との反応でプラスに帯電した塩素を供与することができる。
: <chem>Nu- + NH3Cl+ -> NuCl + NH3</chem>

塩素化反応の例には、分解の流れで説明したように、酸性媒体中でのジクロラミンと[[三塩化窒素]]への変換が含まれる。クロラミンは、求核試薬を[[アミノ化]]することもある（求電子性アミノ化）。
: <chem>Nu- + NH2Cl -> NuNH2 + Cl-</chem>

アンモニアをクロラミンで[[アミノ化]]して[[ヒドラジン]]を形成するのは、この反応の例である。
: <chem>NH2Cl + NH3 + NaOH -> N2H4 + NaCl + H2O</chem>

クロラミンは、中性媒体またはアルカリ性媒体中では[[求電子付加反応|求電子的]]に[[アミン|アミン化]]して分解を開始する。
: <chem>2NH2Cl -> N2H3Cl + HCl</chem>

分解中に形成された[[クロロヒドラジン]]はとても不安定であり、自然分解する。
: <chem>3NH2Cl -> N2 + NH4Cl + 2HCl</chem>

モノクロラミンは次亜塩素酸と同じ方法で[[スルフヒドリル基|スルフヒドリル]]と[[ジスルフィド]]を[[酸化]]するが<ref name="ref46">{{cite journal |last1=Jacangelo|first1=J. G. |last2=Olivieri|first2=V. P. |last3=Kawata|first3=K. |date=1987 |title=Oxidation of sulfhydryl groups by monochloramine |journal=Water Res. |volume=21 |issue=11 |pages=1339–1344 |doi=10.1016/0043-1354(87)90007-8}}</ref>、次亜塩素酸の[[殺菌]]効果のわずか0.4 &ndash; 1.0%ほどである<ref name="ref64">{{cite journal |last=Morris|first=J. C. |date=1966 |title=Future of chlorination |journal=J. Am. Water Works Assoc. |volume=58 |issue=11 |pages=1475–1482 |doi=10.1002/j.1551-8833.1966.tb01719.x}}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author=大谷修 |title=危険な次亜塩素酸ナトリウムと適切な消毒 |journal=敬心・研究ジャーナル |issn=2432-6240 |publisher=学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター |year=2019 |volume=3 |issue=1 |pages=1-7 |naid=130007679788 |doi=10.24759/vetrdi.3.1_1 |url=https://doi.org/10.24759/vetrdi.3.1_1}}</ref>。

== プールの臭気と人体への影響 ==
[[ファイル:Tatsumi-swim.JPG|thumb|128px|日本の一般的なプール]]
[[プール]]の塩素臭は消毒用の[[次亜塩素酸ナトリウム]]ではなくクロラミンに起因する。また、入泳者の目・鼻・喉の痛み・肌への刺激の原因である<ref>{{Cite journal|和書 |author=中村怜奈, 小橋川直哉, 小坂浩司, 久本祐資, 越後信哉, 浅見真理, 秋葉道宏 |title=塩素処理によるトリクロラミン生成能と一般水質項目との関係 |journal=土木学会論文集G（環境） |publisher=土木学会 |year=2012 |volume=68 |issue=7 |pages=III_641-III_650 |naid=130004962452 |doi=10.2208/jscejer.68.III_641 |url=https://doi.org/10.2208/jscejer.68.III_641}}</ref>。クロラミンは投下された次亜塩素酸ナトリウムと、入泳者の汗や尿に含まれる[[アンモニア]]が反応して生じる。消毒用の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は水道水と同じなので人体への影響が皆無に等しい<ref>{{Cite web |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110403074224/http://www.health.nsw.gov.au/factsheets/environmental/control_chloramines.html |url=http://www.health.nsw.gov.au/factsheets/environmental/control_chloramines.html |title=Controlling Chloramines in Indoor Swimming Pools |accessdate=2021-03-25 |date=2010-02-11 |archivedate=2011-04-03 |url-status=dead |url-status-date=2021-03-25 |website=NSW Health |publisher=New South Wales Goverment}}</ref>。誰かがこっそりと水中で排尿しないかぎり、塩素臭と刺激は発生しない。
<br />この一件は2018年6月29日放送の[[日本放送協会|NHK]]系列の番組「[[チコちゃんに叱られる!|チコちゃんに叱られる！]]」の『なんでプールに入ると赤目になるの？』→『プールの中で誰かがおしっこをしている疑惑』で取り上げられ、当時[[日本大学理工学部・大学院理工学研究科|日本大学理工学部]]薬学教授だった[[立川眞理子]]によって解説がなされた<ref name=":0">{{Cite web |url=https://moto.ecodesign-labo.jp/interview-mariko-tachikawa-2/#%e3%82%af%e3%83%ad%e3%83%a9%e3%83%9f%e3%83%b3%e3%82%92%e4%bd%9c%e3%82%8b%e3%81%a0%e3%81%91%e3%81%98%e3%82%83%e3%81%aa%e3%81%8f%e3%81%a6%e3%80%8c%e3%83%90%e3%82%a4%e3%82%aa%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%ab%e3%83%a0%e3%82%82%e8%87%aa%e5%88%86%e3%81%a7%e4%bd%9c%e3%82%8b%e3%80%8d |title=クロラミンを作るだけじゃなくて「バイオフィルムも自分で作る」 |accessdate=2021-03-25 |work=【インタビュー】立川眞理子 先生（元 日本大学教授）〈後編〉 |website=エコデザインの素 |publisher=エコデザイン |author=長倉正弥 |date=2020-02-04}}</ref>。同番組では冷たい水に入ると毛細血管が狭まり放尿をしてしまうメカニズムと心理学面からの解説もなされ、成人の約19%がプールで排尿したという海外の匿名アンケート結果<ref>{{Cite journal |author=Chris Wiant |year=2012 |title=New Public Survey Reveals Swimmer Hygiene Attitudes and Practices |journal=International Journal of Aquatic Research and Education |volume=6 |number=3 |url=https://doi.org/10.25035/ijare.06.03.04 |accessdate=2025-01-16}}</ref>も紹介された<ref name=":0" />。

2012年夏のアメリカのラジオ番組「On Air With Ryan Seacrest」に寄せられた「みんながプールの中でおしっこをしているのか」に対して、出演者の[[ライアン・ロクテ]]選手は「もちろんだ、なんかしたくなるんだよね。」と答えた<ref>{{Cite web |url=https://www.nbcwashington.com/news/national-international/lochte-admits-naughty-swimming-pool-habit/1925024/ |title=Lochte Admits Naughty Swimming Pool Habit|accessdate=2021-03-26 |author=Emily Feldman |date=2012-08-03 |website=Inova |publisher=Official Blood Collection Agency of the Washington Nationals}}</ref>。彼は試合中ではないが、ウォーミングアップ中にしたことがあると強調した。水の怪物こと[[マイケル・フェルプス]]選手も2012年の[[ウォール・ストリート・ジャーナル]]の取材に対し「プロの水泳選手たちは用を足したくなった際、わざわざプールから出てトイレに行ったりはしない。皆プールではおしっこをすると思うよ。水泳選手の間では普通のことだ。2時間も水の中にいて、おしっこをするために外に出たりはしない。したくなったときにするんだ。塩素で消毒されるから大丈夫だ」と発言<ref>{{Cite web |url=https://www.afpbb.com/articles/-/2893985|title=米水泳フェルプス選手、「金色の癖」を語る |accessdate=2021-03-26 |website=AFPBB News |publisher=[[フランス通信社|クリエイティヴ・リンク]] |date=2012-08-07}}</ref>、アメリカ国内外で物議を醸した<ref>{{Cite news |url=https://www.daily.co.jp/olympic/2012/08/09/0005279508.shtml |title=フェルプス衝撃告白「プールで放尿する」 |accessdate=2021-03-26 |newspaper=[[デイリースポーツ]] |publisher=[[神戸新聞社]] |date=2012-08-09}}</ref>。

博報堂が運営するニュースサイト[[博報堂DYホールディングス|しらべぇ]]が1500人を対象に行った「プールでおしっこをしたことがあるか(2015年)」では、約41.9％が「したことがある」と回答している<ref>{{Cite web|url=https://sirabee.com/2015/07/07/39494/ |title=一度は経験あり！？プールでおしっこをしたことがある人を調査！赤目との関係も！ |accessdate=2021-03-25 |website=[[Sirabee]] |date=2015-07-07 |author=Sirabee編集部}}</ref><ref name=":1">{{Cite web |url=https://sirabee.com/2018/07/13/20161709075/|title=20代女子の半数が「プールでおしっこ」経験あり！ : 作家・岩井志麻子は「海でしかしない」 |accessdate=2021-03-25 |website=Sirabee  |date=2018-07-13 |author=サバマサシ}}</ref>。2018年7月12日放送の[[東京メトロポリタンテレビジョン|東京MX]]系列の情報番組「[[5時に夢中!|5時に夢中！]]」では作家の[[岩井志麻子]]と[[新潮社]]出版部部長の[[中瀬ゆかり]]が熱弁をふるった。岩井は「行儀悪い、さすがにプールはない」と否定したが「やっちゃうのは海か川。循環しているところなら、いずれ蒸発したり無くなる」と発言。中瀬は「温泉や銭湯は絶対ない。プールは幼いころあったかも」と幼少期を振り返ったが「[[ビタミン]]多めのモノを口にしていると（尿が）黄色くなってバレるのでリスキー」と発言した<ref name=":1" />。[[スクーバダイビング|ダイビング]]コミュニティサイトOcean+αが273人を対象に行った調査では7割以上のダイバーが放尿したことがあると回答した<ref>{{Cite web |url=https://oceana.ne.jp/enquete/27352 |title=ダイバーの過半数近くがアクティブに水中おしっこをする事実 |accessdate=2021-03-26 |website=Ocean+α |publisher=oceana |date=2012-08-12 |author=寺山英樹}}</ref>。

カナダの[[アルバータ大学]]で博士課程を学ぶ[[リンジー・ブラックストック]]の研究グループによると、オリンピックサイズの1/3の大きさのプールには75[[リットル]]の尿が入っているとの結果が出た<ref>{{Cite web |url=https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/75-1.php |title=おしっこプールは実在する : 75リットルの尿を検出 |accessdate=2021-03-25 |date=2017-03-09 |author=松丸さとみ |website=Newsweek |publisher=CCC Media House}}</ref>。確かに尿自体は消毒されるが、発生したクロラミンによるプロの水泳選手やプールの職員の職業性喘息などの健康被害が指摘された。ブラックストックは「プールでのおしっこは、受動喫煙のようなもの。失礼だし、危険をはらんでいる」とし、「この問題は簡単に解決できます。みんながプールの中でおしっこしなければいい、それだけですから。」と語っている<ref>{{Cite web |url=https://www.npr.org/sections/health-shots/2017/03/01/517785902/just-how-much-pee-is-in-that-pool |title=Just How Much Pee Is In That Pool? |accessdate=2021-03-25 |date=2017-03-01 |author=Erika Engelhaupt |website=npr |publisher=[[NPR (米国公共ラジオ放送)|NPR]]}}</ref>。
== その他 ==
かつては、カルキ臭の主要因はトリクロラミンであるという推定があった。しかし、カルキ臭におけるトリクロラミンの寄与度は2割程度であることが明らかになっている<ref name="川口2015">{{Cite journal|和書 |author=川口佳彦 |title=水道水中の極低濃度遊離塩素測定法とカルキ臭に由来する臭気強度推定法の開発 |issue=京都大学 博士論文(工学)、甲第19373号 |year=2015 |naid=500000961347 |url=https://hdl.handle.net/2433/202807 |doi=10.14989/doctor.k19373}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.pref.chiba.lg.jp/suidou/keikaku/suishin-konwakai/documents/suidoukeikakusuishin-konwakaidocuments19-shiryou.pdf |title=第19回 おいしい水作り推進懇話会 |accessdate=2021-10-02 |date=2015-03-11 |publisher=千葉県水道局 |website=千葉県}}</ref>。

== 脚注 ==
{{Reflist}}

==関連項目==
* [[塩化窒素]]
* [[クロラミンT]]
* [[残留塩素]]

{{デフォルトソート:くろらみん}}
[[Category:無機窒素化合物]]
[[Category:塩素の化合物]]