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'''ゲノムライブラリー'''({{Lang-en-short|genomic library}})は、単一の[[生物]]から得られた全ゲノム[[デオキシリボ核酸|DNA]]の集合体である。このDNAは、それぞれが異なるDNA[[インサート (分子生物学)|インサート]]を持った同一[[ベクター (遺伝子工学)|ベクター]]からなる母集団に保存されている。ゲノムライブラリーを構築するためには、生物のDNAを[[細胞]]から{{仮リンク|DNA抽出|en|DNA extraction|label=抽出}}し、[[制限酵素]]で消化してDNAを特定のサイズのフラグメント(断片)に切断する。その後、このフラグメントを[[DNAリガーゼ]]を用いてベクターに挿入する<ref name="isbn0-8053-9592-X">{{cite book |author1=Losick, Richard |author2=Watson, James D. |author3=Tania A. Baker |author4=Bell, Stephen |author5=Gann, Alexander |author6=Levine, Michael W. |title=Molecular biology of the gene |publisher=Pearson/Benjamin Cummings |location=San Francisco |year=2008 |isbn=978-0-8053-9592-1 }}</ref>。次に、ベクターDNAは宿主生物(一般的には[[大腸菌]]や[[酵母]]の集団)に取り込まれ、各細胞には1つのベクター分子のみ含まれる。宿主細胞を使用してベクターを運ぶことで、分析のために{{仮リンク|ライブラリー (生物学)|en|Library (biology)|label=ライブラリー}}から特定の{{仮リンク|分子クローニング|en|Molecular cloning|label=クローン}}を容易に増幅したり、検索することができる<ref name="isbn0-87969-577-3">{{cite book |author1=Russell, David W. |author2=Sambrook, Joseph |title=Molecular cloning: a laboratory manual |publisher=Cold Spring Harbor Laboratory |location=Cold Spring Harbor, N.Y |year=2001 |isbn=978-0-87969-577-4 }}</ref>。 さまざまなインサート容量を持った数種類のベクターが使用できる。一般的に、より大きな[[ゲノム]]を持つ生物から作成されたライブラリーは、より大きなインサート容量を特徴とするベクターを必要とするため、ライブラリーを作成するために必要なベクター分子の選択肢は少なくなる。研究者は、完全なゲノムカバレッジに必要な所望のクローン数を見つけ、理想的なインサートサイズも考慮してベクターを選択することができる<ref name="isbn0-07-284846-4">{{cite book |author=Hartwell, Leland |title=Genetics: from genes to genomes |publisher=McGraw-Hill Higher Education |location=Boston |year=2008 |isbn=978-0-07-284846-5 |url=https://archive.org/details/genetics00lela_0 }}</ref>。 ゲノムライブラリーは、一般的に[[シークエンシング]]・アプリケーションに使用され、[[ヒトゲノム]]やいくつかの[[モデル生物]]を含む、いくつかの生物の全ゲノム・シークエンシング(ゲノム配列決定)の実現において重要な役割を果たしてきた<ref name="isbn0-87893-232-1">{{cite book |author1=Muse, Spencer V. |author2=Gibson, Greg |title=A primer of genome science |publisher=Sinauer Associates |location=Sunderland, Mass |year=2004 |isbn=978-0-87893-232-0 |url=https://archive.org/details/primerofgenomesc00greg_0 }}</ref><ref name="pmid23107919">{{cite journal |authors=Henry RJ, Edwards M, Waters DL, etal |title=Application of large-scale sequencing to marker discovery in plants |journal=J. Biosci. |volume=37 |issue=5 |pages=829–41 |date=November 2012 |pmid=23107919 |doi= 10.1007/s12038-012-9253-z}}</ref>。 ゲノムそのものを直接取り扱うことは非効率かつ困難なため、このようなライブラリー化が行われる。 == 歴史 == これまでにない完全に配列決定された最初のDNAベースの[[ゲノム]]は、1977年、2度のノーベル賞受賞者である[[フレデリック・サンガー]]によって達成された。サンガーと彼の科学者チームは、[[DNAシークエンシング]](DNA配列決定)で使用するため[[バクテリオファージ]] {{仮リンク|Phi X 174|en|Phi X 174|label=}}のライブラリーを作成した<ref name="pmid870828">{{cite journal |authors=Sanger F, Air GM, Barrell BG, etal |title=Nucleotide sequence of bacteriophage phi X174 DNA |journal=Nature |volume=265 |issue=5596 |pages=687–95 |date=February 1977 |pmid=870828 |doi= 10.1038/265687a0|bibcode=1977Natur.265..687S }}</ref>。この成功の重要性は、[[遺伝子治療]]を研究するためにゲノム配列決定に対する需要の高まりへの貢献である。チームは現在、ゲノム中の[[多型]]をカタログ化して、[[パーキンソン病]]、[[アルツハイマー病]]、[[多発性硬化症]]、[[関節リウマチ]]、[[1型糖尿病]]などの疾患の原因となる候補遺伝子を調査することができるようになった<ref name="pmid21533026">{{cite journal |authors=Menon R, Farina C |title=Shared molecular and functional frameworks among five complex human disorders: a comparative study on interactomes linked to susceptibility genes |journal=PLOS ONE |volume=6 |issue=4 |pages=e18660 |year=2011 |pmid=21533026 |pmc=3080867 |doi=10.1371/journal.pone.0018660 |bibcode=2011PLoSO...618660M }}</ref>。これらは、ゲノムライブラリーの作成と配列決定が可能になったことから、[[ゲノムワイド関連研究]]の進歩によるものである。以前は、リンケージや候補遺伝子の研究が、いくつかの唯一のアプローチであった<ref name="pmid21353194">{{cite journal |authors=Cichon S, Mühleisen TW, Degenhardt FA, etal |title=Genome-wide association study identifies genetic variation in neurocan as a susceptibility factor for bipolar disorder |journal=Am. J. Hum. Genet. |volume=88 |issue=3 |pages=372–81 |date=March 2011 |pmid=21353194 |pmc=3059436 |doi=10.1016/j.ajhg.2011.01.017 }}</ref>。 == ゲノムライブラリーの構築 == ゲノムライブラリーの構築には、多数の[[組換えDNA]]分子を作成する必要がある。生物のゲノム[[デオキシリボ核酸|DNA]]を抽出し、[[制限酵素]]で消化する。非常に小さなゲノム(〜10 kb)を持つ生物の場合、消化されたフラグメントは、[[ゲル電気泳動]]で分離でき、分離されたフラグメントを切り出し、別々にベクターにクローニングできる。しかし、大きなゲノムを制限酵素で消化すると、個々に切除するにはあまりにも多くのフラグメントが生じる。フラグメントの集合全体をベクターと一緒にクローニングしなければならず、その後クローンを分離する必要性が生じる。いずれの場合も、フラグメントは、同じ制限酵素で消化されたベクターに連結される。その後、挿入されたゲノムDNAフラグメントを持つベクターを宿主生物に導入することができる<ref name="isbn0-8053-9592-X"/>。 次は、大きなゲノムからゲノムライブラリーを作成するための手順である。 # DNAを{{仮リンク|DNA抽出|en|DNA extraction|label=抽出}}し、精製する。 # 制限酵素でDNAを消化する。これにより、大きさが似ており、それぞれが1つ以上の遺伝子を含むフラグメントが作成される。 # このDNAフラグメントを、同じ制限酵素で切断したベクターに挿入する。酵素DNAリガーゼを使用して、DNAフラグメントをベクターに封入する。これにより、組換え分子の大きなプール(貯蔵所)ができる。 # これらの組換え分子は、[[形質転換]]によって宿主細菌に取り込まれ、DNAライブラリーを作成する<ref name="pmid11561720">{{cite journal |authors=Yoo EY, Kim S, Kim JY, Kim BD |title=Construction and characterization of a bacterial artificial chromosome library from chili pepper |journal=Mol. Cells |volume=12 |issue=1 |pages=117–20 |date=August 2001 |pmid=11561720 }}</ref><ref name="pmid18428289">{{cite journal |authors=Osoegawa K, de Jong PJ, Frengen E, Ioannou PA |title=Construction of bacterial artificial chromosome (BAC/PAC) libraries |journal=Curr Protoc Hum Genet |volume=Chapter 5 |pages=5.15.1–5.15.33 |date=May 2001 |pmid=18428289 |doi=10.1002/0471142905.hg0515s21 }}</ref>。 以下に、上記の手順の概略を示す。 [[File:Genomic Library Construction.png|thumb|500px|ゲノムライブラリーの構築]] === ライブラリーの力価の決定 === {{仮リンク|ラムダファージ|en|Lambda phage|label=}}などのウイルスベクターを用いてゲノムライブラリーを構築した後、ライブラリーの[[力価]]を決定することができる。力価を計算することで、研究者はライブラリー内で正常に作成された感染性ウイルス粒子の数を概算できる。これを行うには、ライブラリーの希釈液を使用して、既知の濃度の大腸菌の[[細胞培養|培養物]]を[[形質転換]]する。次に、培養物を[[寒天培地|寒天プレート]]上に散布し、一晩培養する。[[ウイルスプラーク]]の数をカウントして、ライブラリー内の感染性ウイルス粒子の総数を計算することができる。ほとんどのウイルスベクターは、インサートを含むクローンをインサートを持たないクローンと区別できる[[マーカー遺伝子|マーカー]]も備えている。これにより、研究者は、ライブラリーのフラグメントを実際に担持している感染性ウイルス粒子の割合を決定することもできる<ref name="isbn0-7637-3329-6">{{cite book |author1=John R. McCarrey |author2=Williams, Steven J. |author3=Barton E. Slatko |title=Laboratory investigations in molecular biology |publisher=Jones and Bartlett Publishers |location=Boston |year=2006 |isbn=978-0-7637-3329-2 }}</ref>。 同様の方法を使用して、[[プラスミド]]や{{仮リンク|細菌人工染色体|en|Bacterial artificial chromosome|label=}}(BAC)などの非ウイルス性ベクターで作成されたゲノムライブラリーの力価測定できる。ライブラリーの試験[[ライゲーション]](連結)は、大腸菌の形質転換で使用することができる。次に、形質転換体を寒天プレート上に散布し、一晩培養する。形質転換の力価は、プレート上に存在するコロニーの数を数えることによって決定される。これらのベクターは一般的に、インサートを含むクローンと含まないクローンを区別できるようにする[[選択マーカー]]を持っている。このテストを行うことで、研究者は連結の効率を判断し、必要に応じて調整を行って、ライブラリーに必要な数のクローンを確実に取得することができる<ref name="BAC Manual">{{cite journal|last=Peterson|first=Daniel|author2=Jeffrey Tomkins |author3=David Frisch |title=Construction of Plant Bacterial Artificial Chromosome (BAC) Libraries: An Illustrated Guide|journal=Journal of Agricultural Genomics|year=2000|volume=5|url=http://wheat.pw.usda.gov/jag/papers00/paper300/indexpage300.html}}</ref>。 === ライブラリーのスクリーニング === [[File:Blot Hybridization.gif|thumb|left|500px|{{仮リンク|コロニーハイブリダイゼーション|en|Colony hybridization|label=コロニー・ブロット・ハイブリダイゼーション}} ]] ライブラリーから関心のある領域を含むクローンを単離するためには、最初にライブラリーを[[マーカー遺伝子|スクリーニング]]する必要がある。スクリーニングの一つの方法は、[[ハイブリダイゼーション]]である。ライブラリーの各形質転換された宿主細胞は、1個のDNAインサートを持った1個のベクターのみが含まれることになる。ライブラリー全体を、[[培地]]上のフィルター上にプレーティング(塗布)することができる。フィルターと[[群体|コロニー]]はハイブリダイゼーション用に準備され、次いで{{仮リンク|ハイブリダイゼーションプローブ|en|Hybridization probe|label=プローブ}}で標識される<ref name="pmid8661051">{{cite journal |authors=Kim UJ, Birren BW, Slepak T, etal |title=Construction and characterization of a human bacterial artificial chromosome library |journal=Genomics |volume=34 |issue=2 |pages=213–8 |date=June 1996 |pmid=8661051 |doi=10.1006/geno.1996.0268 }}</ref>。下図のようにプローブとのハイブリダイゼーションにより、[[オートラジオグラフィー]]などの検出法によって、目的とする標的DNAインサートを同定することができる。 スクリーニングの別の方法は、[[ポリメラーゼ連鎖反応]](PCR)を用いるものである。ライブラリーの中にはクローンのプールとして保存されているものもあり、PCRによるスクリーニングは、特定のクローンを含むプールを特定するための効率的な方法である<ref name="isbn0-87969-577-3" />。 == ベクターの種類 == [[ゲノム]]サイズは生物によって異なり、それに応じて{{仮リンク|クローニングベクター|en|Cloning vector|label=}}を選択する必要がある。大きなゲノムの場合は、比較的少数の[[クローン]]でゲノム全体をカバーできるように、高容量のベクターを選択する必要がある。しかし、より高容量のベクターに含まれる[[インサート (分子生物学)|インサート]]の特徴付けは、しばしばより困難になる<ref name="isbn0-07-284846-4"/>。 次の表は、ゲノムライブラリーに一般的に使用される数種類のベクターと、各ベクターが一般的に保持するインサートサイズを示す。 {| class="wikitable" border="1" |- ! [[ベクター (遺伝子工学)|ベクター]]種類 ! [[インサート (分子生物学)|インサート]]サイズ (1,000[[塩基対]]単位) |- | [[プラスミド]] | 10まで |- | {{仮リンク|ラムダファージ|en|Lambda phage|label=ラムダファージ (λ)}} | 25まで |- | [[コスミド]] | 45まで |- | {{仮リンク|P1ファージ|en|P1 phage|label=バクテリオファージ (P1)}} | 70~100 |- |{{仮リンク|P1ファージ由来人工染色体|en|P1-derived artificial chromosome|label=}}(PAC) | 130~150 |- |{{仮リンク|細菌人工染色体|en|Bacterial artificial chromosome|label=}}(BAC) | 120~300 |- | {{仮リンク|酵母人工染色体|en|Yeast artificial chromosome|label=}}(YAC) | 250~2000 |} === プラスミド === [[プラスミド]]は、{{仮リンク|分子クローニング|en|Molecular cloning|label=}}で一般的に使用される二本鎖環状[[デオキシリボ核酸|DNA]]分子である。プラスミドの長さは一般的に2~4 k[[塩基対]](kb)で、最大15 kbまでのインサートを運ぶことができる。プラスミドには[[複製起点]]が含まれており、宿主の[[染色体]]とは無関係に細菌内で複製することができる。プラスミドは一般に、プラスミドを含む細菌細胞の選択を可能にする[[抗生物質耐性]]の遺伝子を持っている。多くのプラスミドは、研究者がインサートを含むクローンと含まないクローンを区別することを可能にする[[レポーター遺伝子]]も持っている<ref name="isbn0-07-284846-4"/>。 === ファージラムダ(λ) === {{仮リンク|ラムダファージ|en|Lambda phage|label=ファージλ}}は、[[大腸菌]]に感染する二本鎖[[DNAウイルス]]である。λ染色体の長さは48.5 kbで、最大25 kbのインサートを運ぶことができる。これらのインサートは、λ染色体の必須ではないウイルス配列を置き換えるが、[[ウイルス]]粒子の形成や[[感染]]に必要な遺伝子がそのまま残る。インサートDNAは、ウイルスDNAとともに[[DNA複製|複製]]される。このようにして、それらは一緒にウイルス粒子にパッケージングされる。これらの粒子は、感染と増殖において非常に効率的であり、組換えλ染色体の産生量の増加をもたらす<ref name="isbn0-07-284846-4" />。ただし、インサートサイズが小さいため、λファージで作成されたライブラリーでは、完全なゲノムカバレッジのために多くのクローンが必要となる場合がある<ref name="Cloning Genomic DNA">{{cite web|title=Cloning Genomic DNA |url=http://www.ucl.ac.uk/~ucbhjow/b200/Cloning_genomic_DNA.doc |publisher=University College London |access-date=13 March 2013 }}{{dead link|date=January 2017 |bot=InternetArchiveBot |fix-attempted=yes }}</ref>。 === コスミド === [[コスミド]]ベクターは、cos配列と呼ばれるバクテリオファージλ DNAの小さな領域を含むプラスミドである。この配列により、コスミドをバクテリオファージλ粒子にパッケージ化することができる。線形化されたコスミドを含むこれらの粒子は、[[形質導入]]によって宿主細胞に導入される。宿主内に入ると、コスミドは、宿主の[[DNAリガーゼ]]の助けを借りて環状化し、プラスミドとして機能する。コスミドは最大40 kbのサイズのインサートを運ぶことができる<ref name="isbn0-87969-577-3" />。 === バクテリオファージP1ベクター === {{仮リンク|P1ファージ|en|P1 phage|label=バクテリオファージ (P1)}}ベクターは、70~100 kbのサイズのインサートを保持することができる。それらは、バクテリオファージP1粒子にパッケージングされた線状DNA分子として始まる。これらの粒子は、{{仮リンク|Cre組換え酵素|en|Cre recombinase|label=}}を発現する大腸菌株に注入される。線形P1ベクターは、ベクター内の2つのloxP部位間の[[Cre-loxP部位特異的組換え|組換え]]によって環状化される。P1ベクターには一般に、抗生物質耐性遺伝子と、インサートを含むクローンと含まないクローンとを区別するためのポジティブ選択マーカーが含まれる。P1ベクターには、P1プラスミド[[レプリコン]]も含まれているため、細胞内にベクターのコピーが1つのみ存在することを確実にする。しかし、誘導性[[プロモーター]]によって制御される、第二のP1レプリコン(P1溶解性レプリコンと呼ばれる)が存在する。このプロモーターにより、{{仮リンク|DNA抽出|en|DNA extraction|label=}}の前に、細胞ごとにベクターの複数のコピーを増幅することができる<ref name="isbn0-87969-577-3" />。 [[File:BAC vector.jpg|thumb|right|400px|{{仮リンク|P1ファージ由来人工染色体|en|P1-derived artificial chromosome|label=P1人工染色体}}ベクター]] ===P1人工染色体=== {{仮リンク|P1ファージ由来人工染色体|en|P1-derived artificial chromosome|label=P1人工染色体}}(PAC)は、P1ベクターと細菌人工染色体(BAC)の両方の特徴を持っている。P1ベクターと同様に、上記のようにプラスミドと溶解レプリコンが含まれている。P1ベクターとは異なり、形質導入のためにバクテリオファージ粒子にパッケージ化する必要はない。代わりに、BACと同様に、[[エレクトロポレーション]]を介して環状DNA分子として大腸菌に導入される<ref name="isbn0-87969-577-3"/>。また、BACに似ているが、これらは単一複製起点のため、準備が比較的困難である<ref name="Cloning Genomic DNA"/>。 === 細菌人工染色体 === {{仮リンク|細菌人工染色体|en|Bacterial artificial chromosome|label=}}(BAC)は、通常約7 kbの長さの環状DNA分子であり、最大300 kbのサイズのインサートを保持することができる。BACベクターには大腸菌{{仮リンク|F因子 (細菌)|en|Fertility factor (bacteria)|label=F因子}}に由来するレプリコンが含まれているため、細胞ごとに1コピーが維持される<ref name="isbn0-87893-232-1" />。インサートがBACに連結されると、BACはエレクトロポレーションによって大腸菌の組換え欠損株に[[相同組換え|導入]]される。ほとんどのBACベクターには、抗生物質耐性遺伝子とポジティブ選択マーカーが含まれている<ref name="isbn0-87969-577-3" />。右の図は、制限酵素で切断されたBACベクターと、それに続くリガーゼによって再アニーリングされた外来DNAの挿入を示している。全体として、これは非常に安定したベクターであるが、PACのように複製起点が単一であるため、調整が難しい場合がある<ref name="Cloning Genomic DNA" />。 === 酵母人工染色体 === {{仮リンク|酵母人工染色体|en|Yeast artificial chromosome|label=}}(YAC)は、[[テロメア]]、[[セントロメア]]、[[複製起点]]など、本物の[[酵母]]染色体に必要な機能を含む線状DNA分子である。DNAの大きなインサートをYACの中央に連結して、インサートの両側にYACの「腕」を配置できる。組換えYACは形質転換によって酵母に導入され、YAC中に存在する[[選択マーカー]]によって、成功した形質転換体の同定が可能になる。YACは2000 kbまでのインサートを保持できるが、ほとんどのYACライブラリーは250〜400 kbのサイズのインサートを保持している。理論的には、YACが保持できるインサートのサイズに上限はない。サイズの上限を決定するのは、インサートに使用するDNAの調製における品質である<ref name="isbn0-87969-577-3" />。YACを使用する上で最も難しいのは、YACが{{仮リンク|染色体再配列|en|Chromosomal rearrangement|label=再配列}}されやすいという事実である<ref name="Cloning Genomic DNA" />。 == ベクターの選び方 == ベクター選択では、作成されたライブラリーがゲノム全体を代表するものであることを確認する必要がある。制限酵素に由来するゲノムの任意のインサートは、他のインサートと比較して、ライブラリーに含まれる確率が等しくなければならない。さらに、組換え分子は、ライブラリーのサイズを便利に取り扱えように、十分な大きさのインサートを含むべきである<ref name="Cloning Genomic DNA"/>。これは特に、ライブラリーに必要なクローンの数によって決定される。すべての遺伝子のサンプリングを得るために必要なクローンの数は、生物のゲノムのサイズと平均インサートサイズによって決定される。これは、次の式で表される(Carbon and Clarke式とも呼ばれる)<ref>{{cite web |url=http://users.wmin.ac.uk/~redwayk/lectures/gene_libraries.htm |title=Archived copy |access-date=2013-06-05 |url-status=dead |archive-url=https://web.archive.org/web/20130331122119/http://users.wmin.ac.uk/~redwayk/lectures/gene_libraries.htm |archive-date=2013-03-31 }}</ref>。 <math>N=\frac{ln (1-P)}{ln (1-f)}</math> ここに、 <math>N</math> は組換え体の必要数<ref>{{cite web|last=Blaber|first=Michael|title=Genomic Libraries|url=http://www.mikeblaber.org/oldwine/bch5425/lect28/lect28.htm|access-date=1 April 2013}}</ref>、 <math>P</math> は、作成されたライブラリーの中で、ゲノム中の任意のフラグメントが少なくとも一度は発生する確率、 <math>f</math> は、単一の組替え体中のゲノムの割合を表す。 <math>f</math> は、さらに次のように表すことができる。 <math>f=\frac{i}{g}</math> ここに、 <math>i</math> は挿入サイズ、 <math>g</math> はゲノムサイズである。 したがって、(ベクターの選択によって)インサートサイズを大きくすると、ゲノムを表すために必要なクローン数が少なくなる。インサートサイズとゲノムの大きさの比率は、単一クローン内のそれぞれのゲノムの比率を表す<ref name="Cloning Genomic DNA" />。以下に、すべての部分を考慮した式を示す。 <math>N=\frac{ln (1-P)}{ln (1-\frac{i}{g})}</math> === ベクター選択の例 === 上記の式を用いて、2万塩基対のインサートサイズを有するベクター(例:ファージラムダベクター)を用いて、ゲノム中の全ての配列が表現される99%信頼水準を決定することができる。この例では、生物のゲノムサイズは30億塩基対である。 <math>N=\frac{ln (1-0.99)}{ln [1-\frac{2.0\times10^4 basepairs}{3.0\times10^9 basepairs}]}</math> <math>N=\frac{-4.61}{-6.7\times10^{-6}}</math> <math>N=688,060</math> clones したがって、この30億塩基対のゲノムからの所定のDNA配列が、2万塩基対のインサートサイズのベクターを用いて、99%の確率でライブラリーに存在することを保証するためには、約688,060個のクローンが必要である。 == 応用 == ライブラリーを作成した後、生物のゲノムを[[DNAシークエンシング|配列決定]]し、遺伝子が生物にどのような影響を与えるかを解明したり、ゲノムレベルで類似の生物を比較したりすることができる。前述の[[ゲノムワイド関連研究]]により、多くの機能的形質に由来する候補遺伝子を同定することができる。ゲノムライブラリーを介して遺伝子を単離し、ヒト細胞株や動物モデルを用いてさらなる研究を行うことができる<ref name="pmid22285925">{{cite journal |authors=Fuesler J, Nagahama Y, Szulewski J, Mundorff J, Bireley S, Coren JS |title=An arrayed human genomic library constructed in the PAC shuttle vector pJCPAC-Mam2 for genome-wide association studies and gene therapy |journal=Gene |volume=496 |issue=2 |pages=103–9 |date=April 2012 |pmid=22285925 |pmc=3488463 |doi=10.1016/j.gene.2012.01.011 }}</ref>。さらに、安定性の問題がなく、正確なゲノム表現が可能な高忠実度クローンを作成することは、[[ショットガン・シークエンシング法]]や機能解析における完全遺伝子の研究のための中間体として十分に貢献できると考えられる<ref name="pmid18428289"/>。 === 階層的シークエンシング法 === [[File:Whole genome shotgun sequencing versus Hierarchical shotgun sequencing.png|thumb|350px|全ゲノム・ショットガン・シークエンス法と階層的ショットガン・シークエンス法の比較。(上)全ゲノム・ショットガン・シークエンシングでは、ゲノム全体をランダムに小さなフラグメント(シークエンシングに適した大きさ)にせん断した後、再構築する。(下)階層的ショットガン・シークエンシングでは、まずゲノムを大きなセグメントに分割する。これらのセグメントの順番を推測した後、さらにせん断して配列決定に適した大きさのフラグメントにする。]] ゲノムライブラリーの主要な用途の一つは、階層的[[ショットガン・シークエンシング法|ショットガン・シークエンシング]]である。これはトップダウン、マップベース、またはクローン・バイ・クローン・シークエンシングとも呼ばれている。この手法は、ハイスループット技術が利用可能になる前の1980年代に、全ゲノムの配列決定のために開発された。ゲノムライブラリーからの個々のクローンは、通常500 bpから1000 bpの小さなフラグメントにせん断することができ、シークエンシング処理がより管理しやすくなる<ref name="isbn0-87893-232-1" />。ゲノムライブラリーからのクローンが配列決定されると、その配列を使用して、配列決定されたクローンと重畳するインサートをもつ他のクローンのためにライブラリーをスクリーニングすることができる。重なり合ったクローンの配列決定をして、[[コンティグ]](配列断片群)を形成することができる。{{仮リンク|染色体ウォーキング|en|Chromosome walking|label=}}と呼ばれるこの技術を利用して、染色体全体を配列決定することができる<ref name="isbn0-87969-577-3" />。 全ゲノム・[[ショットガン・シークエンシング法|ショットガン・シークエンシング]]は、高容量ベクターのライブラリーを必要としない、もう一つのゲノムシークエンシング方法である。この方法では、コンピュータアルゴリズムを使用して、ゲノム全体をカバーするように短鎖シークエンスリードを組み立てる。このような理由から、ゲノムライブラリーは、全ゲノム・ショットガン・シークエンシングと組み合わせて使用されることがよくある。高分解能マップは、ゲノムライブラリー内の複数のクローンからのインサートの両端を配列決定することにより作成することができる。このマップは、既知の距離を隔てた配列を提供し、ショットガン・シークエンシングで取得したシークエンスリードの組み立てに役立つ<ref name="isbn0-87893-232-1" />。2003年に完全であると宣言されたヒトゲノム配列は、BACライブラリーとショットガン・シークエンシングの両方を用いて組み立てられた<ref name="pmid21698376">{{cite journal |authors=Pareek CS, Smoczynski R, Tretyn A |title=Sequencing technologies and genome sequencing |journal=J. Appl. Genet. |volume=52 |issue=4 |pages=413–35 |date=November 2011 |pmid=21698376 |pmc=3189340 |doi=10.1007/s13353-011-0057-x }}</ref><ref name="pmid12702850">{{cite journal |author=Pennisi E |title=Human genome. Reaching their goal early, sequencing labs celebrate |journal=Science |volume=300 |issue=5618 |pages=409 |date=April 2003 |pmid=12702850 |doi=10.1126/science.300.5618.409 }}</ref>。 === ゲノム全域にわたる関連研究 === [[ゲノムワイド関連研究]]は、人類内の特定の遺伝子標的や多型を見つけるための一般的な応用である。実際、国際HapMap計画は、このデータをカタログ化して利用するために、数カ国の科学者と機関のパートナーシップによって作成された<ref name="urlHapMap Homepage">{{cite web|url=http://hapmap.ncbi.nlm.nih.gov/|title=HapMap Homepage|accessdate=2021-02-13|publisher=}}</ref>。このプロジェクトの目的は、異なる個人の遺伝子配列を比較して、染色体領域内の類似点と相違点を明らかにすることである<ref name="urlHapMap Homepage"/>。参加国すべての科学者が、アフリカ系、アジア系、ヨーロッパ系の祖先を持つ集団のデータを用いて、これらの属性をカタログ化している。このようなゲノムワイドな評価は、さらなる診断や薬物治療につながる可能性があり、将来のチームが遺伝的特徴を考慮した治療法の調整に注力するのにも役立つだろう。これらの概念は、すでに[[遺伝子工学]]の分野で活用されている<ref name="urlHapMap Homepage"/>。たとえば、ある研究チームは実際にPACシャトルベクターを構築し、ヒトゲノムの2倍のカバレッジを持つライブラリーを作成した<ref name="pmid22285925"/>。これは、病気の原因となる遺伝子やその集合を特定するための驚異的なリソースとして役立つ可能性がある。さらに、これらの研究は、バキュロウイルスの研究で見られるように、転写制御を調査するための強力な方法として役立つ可能性がある<ref name="pmid19791511">{{cite journal |authors=Chen Y, Lin X, Yi Y, Lu Y, Zhang Z |title=Construction and application of a baculovirus genomic library |journal=Z. Naturforsch. C |volume=64 |issue=7–8 |pages=574–80 |year=2009 |pmid=19791511 |doi= 10.1515/znc-2009-7-817|doi-access=free }}</ref>。全体的に、ゲノムライブラリー構築とDNA配列決定の進歩により、さまざまな分子標的の効率的な発見が可能になった<ref name="pmid23107919"/>。これらの効率的な方法によって特徴を同化することで、新薬候補の採用を早めることができる。 ==脚注== {{Reflist}} == 推薦文献 == {{cite book|last=Klug, Cummings, Spencer, Palladino|title=Essentials of Genetics|year=2010|publisher=Pearson|isbn=978-0-321-61869-6|pages=355–264}} ==外部リンク== * [http://www.biost.com/page/Arrayed.aspx Genomic BAC library construction] {{デフォルトソート:けのむらいふらり}} [[Category:生物学の研究技術]] [[Category:バイオテクノロジー]] [[nl:Genenbank]]
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