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コアンダ効果
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{{連続体力学}} [[File:Effetto coanda.jpg|right|thumb|コアンダ効果(水流ジェットが容器の曲面に沿って流れる)]] '''コアンダ効果'''(コアンダこうか、{{lang-en-short|Coandă effect}})は、[[粘性]]を持つ[[流体]]の[[噴流]](ジェット)が近傍の壁面へ引き寄せられたり、凸形状の壁面上で壁との[[接触]]を保ち続けるように振る舞う性質である。噴流が粘性により周りの流体を引きこむことが原因<ref name="トリトン">Tritton, D.J.,『トリトン流体力学<上>』川村哲也訳 インデックス出版 2002年4月1日初版発行 ISBN 4901092251 (原書 ISBN 0198544936), 11.6節,11.7節,12.6節</ref>と説明される。 実践的事例としては、[[ルーマニア]]の発明家[[アンリ・コアンダ]](1886 - 1972)が[[ジェット機|ジェット・エンジン機]]の実験において指摘したものが最初とされる<ref>『大人も知らない?続ふしぎ現象事典』2023年、マイクロマガジン社、p.119</ref>。コアンダ効果の応用例のひとつに噴流を用いた[[境界層制御]]装置があり、[[翼]]の[[揚力]]を向上できる。 噴流以外にも、局所的高速領域が壁面に引き寄せられる性質についてもコアンダ効果と呼ぶことがある。これについては噴流と同一メカニズムか疑問視する意見がある<ref name ="トリトン"/>。例として、一般の翼に生じる揚力についてコアンダ効果を交えた説明がある<ref name="アンダーソン">David Anderson, Scott Eberhardt, "Understanding Flight, Second Edition",McGraw-Hill Professional; 2 edition (August 12, 2009), ISBN 0071626964 </ref><ref name="ブルーバックス">日本機械学会『流れの不思議』講談社ブルーバックス 2004年8月20日第一刷発行 ISBN 4062574527</ref>。 == 発見 == この現象についての最初の言及は[[トマス・ヤング]]によるもので、[[1800年]]に[[ロンドン]][[王立協会]]に向けた講義において示された。 <blockquote> [[ろうそく|ロウソク]]に[[:en:Blowpipe (tool)|吹管]]を使って[[空気]]を吹きかけると[[炎]]が流れに向かって引き寄せられるが、そのときの側圧は、 障害物の近くを流れる空気の噴流が物体にそって曲がるのを助ける圧力とおそらく同じである。<br /> 空気の噴流を[[水面]]に噴きかけてできるくぼみに着目しよう。噴流に凸状の[[物体]]を押し込むと、 水面のくぼみが動いて、噴流が物体の方へ曲がったことがわかる。 そして物体が自由に動ける状態では、物体が噴流に引き寄せられる。 <ref name ="ヤング"> {{Citation | last=Young | first=T. | title=Outlines of experiments and inquiries, respecting sound and light. | year=1800 }} (原文) "The lateral pressure which urges the flame of a candle towards the stream of air from a blowpipe is probably exactly similar to that pressure which eases the inflexion of a current of air near an obstacle. Mark the dimple which a slender stream of air makes on the surface of water. Bring a convex body into contact with the side of the stream and the place of the dimple will immediately show the current is deflected towards the body; and if the body be at liberty to move in every direction it will be urged towards the current." </ref> </blockquote> 百年以上過ぎて、アンリ・コアンダは自身が開発した[[モータージェット|サーモジェットエンジン]]を搭載した実験航空機[[コアンダ=1910]]の飛行試験の失敗において、燃焼ガスが胴体に沿って流れる現象に気がついた。この「噴流が凸形状の物体表面に沿って流れる現象」を著名な流体力学者である[[セオドア・フォン・カルマン]]と議論した。カルマンは後にこれをコアンダ効果と名付けた<ref name ="Eisner">{{Citation|last=Eisner|first=Thomas|title=For Love of Insects|url=https://books.google.co.jp/books?id=Ki9djoKOm-0C&pg=PA177&redir_esc=y&hl=ja|year=2005|publisher=Harvard University Press|isbn=0-674-01827-3|page=177}}</ref>。 コアンダは[[1934年]]に[[フランス]]でこの効果に関する[[特許]]を得ている。 == 原理 == [[File:Entrainment_2-d_jet.pdf|thumb|225 px|[[2次元]]噴流の[[流線]]。左から右へ流れる噴流が周りの流体を引き込む様子が見える。流線関数として <math>\Psi=x^{1/3}\tanh(y x^{-2/3})</math> を使った<ref name ="トリトン"/>。]] === 引き込みの効果 === コアンダ効果は噴流が粘性の効果により周りの流体を引き込むこと({{lang-en-short|[[:en:Entrainment (hydrodynamics)|entrainment]]}})によって起きるものと説明されている。 噴流はその流れに沿って運動量[[流束]]を一定に保つが、粘性散逸により[[エネルギー流束]]は流れに沿って減少する。よって、質量流束({{lang-en-short|[[:en:Mass flux|Mass flux]]}})は流れに沿って増加する<ref name="トリトン" />。 つまり、噴流と隣接している流体が[[抗力]]({{lang-en-short|Drag}})により増速する分だけ、さらに外側の流体や物体が噴流へ向かって移動する。 噴流の近くに壁面が平行に置かれるとき、噴流と壁との間の流体が引き込みの作用により流れ去り、不足する分を埋めるように噴流と壁が引き合う。これは剥離泡が消える原理でもある。気体中の液体噴流の場合にも、周りの引きずられた気体も含めると同様の機構が成立する。 噴流が[[乱流]]であるとき[[層流]]よりも強く働く<ref name="トリトン" />。 === 翼周り流れのコアンダ効果 === 「コアンダ効果によって翼の上背面に沿って流れる」というように翼周りの流れ場を決定する要因として挙げられている。しかし、噴流でない以上はコアンダ効果で説明すべきでないという指摘がある<ref name="newfluid">http://newfluidtechnology.com/THE_COANDA_EFFECT_AND_LIFT.pdf Report on the Coandă Effect and lift</ref>。 == 応用 == [[File:Yc14-1 072.jpg|thumb|right|200 px|ボーイング [[YC-14 (航空機)|YC-14]]]] [[Image:Notar helicopter.png|200 px|thumb|right|'''ノーターの動作'''<br />図では示されていないがテイル・ブーム中央部から右下方向へサーキュレーション・ジェットが噴出される。]] 翼の上に噴流を流して[[仰角|迎え角]]の大きな[[翼]]の上を気流が剥離(=[[失速]])することなく流れることで大きな[[揚力]]を得ることができる境界層制御はコアンダ効果の応用である。噴流が翼に当たるように翼の上に[[ジェットエンジン]]を取り付けた翼 ([[アッパーサーフェスブローイング]])や、翼表面に噴流を発生させる装置({{lang-en-short|[[:en:Circulation control wing|Circulation control wing]]}})などがある。(参照:[[高揚力装置]]) アッパーサーフェスブローイング(USB)方式とは、翼の上側に設けられたエンジンからの噴出流が[[高揚力装置#フラップ|フラップ]]に沿って地上へと曲げられ上昇力を得るものである。[[航空機の離着陸方法#STOL|短距離離着陸性能]]の向上に利用され、[[アメリカ合衆国]]の[[ボーイング]][[YC-14 (航空機)|YC-14]]、[[日本]]の実験機「[[飛鳥 (航空機)|飛鳥]]」などで実験された。 実験のみで終わった他国と異なり、万事にコストをあまり考慮しなかった[[社会主義]]体制下の[[ソビエト連邦|ソ連]]・[[ウクライナ]]では[[O・K・アントーノウ記念航空科学技術複合体|アントノフ設計局]]の[[An-72_(航空機)|An-72]]や[[An-74_(航空機)|An-74]]が[[実用]]化され、ロシアやウクライナの航空会社により多数運用されている。アントノフ設計局はUSB方式ではない[[An-148 (航空機)|An-148 ]]を新規開発し、複数の[[航空会社]]や[[軍]]に販売しているが、STOL能力が要求される路線で需要が高いためAn-74の生産を継続している。 [[MDヘリコプターズ]]によって開発された[[ヘリコプター]]である'''ノーター'''({{lang-en-short|[[:en:NOTAR|NOTAR]]}})<ref>{{lang-en-short|no tail rotor}}</ref><ref name ="NOTARjp">[http://www.aeropartners.co.jp/products_md_notar.html ノーターシステム解説(日本語)]</ref><ref name="kulikovair">http://www.kulikovair.com/Notar.htm</ref>は、ヘリコプター特有の回転運動(反[[トルク]])を打ち消すための[[ヘリコプター#テールローター|テールローター]]に相当するものとして、コアンダ効果を利用する装置を備えている。 [[自動車競技]]の[[フォーミュラ1|F1]]において、[[コアンダ・エキゾースト]]という[[排気]]を利用して低速域の[[トラクション]]を上げるシステムを、[[マクラーレン]]や[[フェラーリ]]、[[ザウバー]]に続いて[[メルセデスAMG F1|メルセデスAMG]]が採用した<ref name ="F1">"Mercedes F1 Testing Coanda-Style Exhaust in France" http://www.autoevolution.com/news/mercedes-f1-testing-coanda-style-exhaust-in-france-49319.html</ref>。なお、これは[[2014年のF1世界選手権#レギュレーションの変更|2014のレギュレーションの変更]](排気を利用した[[ダウンフォース]]発生デバイスの禁止) <ref name ="F1-2014"> {{cite web |url=http://www.formula1.com/inside_f1/rules_and_regulations/sporting_regulations/12877/ |title=Formula 1® - The Official F1® Website - Rules And Regulations - 2014 season changes |accessdate=2014-12-11 }} </ref> により、廃止された。 コアンダ効果以外の噴流の引き込み現象の例としては、[[ダイソン (企業)|ダイソン]]が扇風機の[[エアマルチプライアー]]で、噴流が周りの流体を引きこむ性質を利用していることや<ref name ="Dyson">"Air Multiplier™ technology - how it works" http://www.youtube.com/watch?v=gChp0Cy33eY</ref>、ゆっくりと吐くと暖かく感じる息が、口をすぼめて息を吹きかけると周りの冷たい空気を引きこむため冷たく感じること<ref name ="理科教育ML"> {{Cite web|和書 |url=http://tadahiko.c.ooco.jp/GIMON/QA/QA054.HTML |title=素朴な疑問 QA054 |accessdate=2023-10-18 }} </ref><ref name ="化学工学資料"> {{Cite web|和書 |url=https://chemeng.web.fc2.com/ice/pche07.html |title=日常の化学工学 ハーは暖かくフーは冷たいのはなぜ-流体の混合のはなし- |accessdate=2023-10-18 }} </ref>などがある。 == 脚注 == <references /> == 関連項目 == * [[コアンダ=1910]] * [[揚力]] * [[マグヌス効果]] * [[境界層]] * [[乱流翼#乱流制御翼]] * {{仮リンク|トレンチ効果|en|Trench effect}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:こあんたこうか}} [[Category:流体力学]] [[Category:物理学のエポニム]]
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