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[[量子力学]]や[[量子光学]]において'''コヒーレント状態'''(コヒーレントじょうたい)とは、古典的な[[コヒーレント光]]に最も近い[[量子状態]]のこと。 == 光子数と位相の不確定性 == [[光]]というひとつの電磁現象に対して、「波動として表現される古典的[[電磁場]]」と「粒子として表現される[[量子力学]]的な[[光子場]]」とでは記述法が全く異なっている。 波動的性質を表す量として[[位相]]<math>\phi</math>を、粒子的性質を表す量として粒子数<math>n</math>を考えると、両者のゆらぎの間には次のような[[不確定性関係]]がある。 :<math>\Delta n \cdot \Delta \phi \gtrsim 1</math> 光子数と位相の不確定性より、古典的波動<math>\Delta \phi \approx 0</math>に近い状態は光子数のゆらぎ<math>\Delta n</math>が非常に大きい。よってnで指定される量子状態を数多く[[重ねあわせ]]ることで古典的波動に近い状態が得られることが予想される。 [[ロイ・グラウバー]]は古典的電磁場<math>\mathbf{E}\cos \omega t</math>や<math>\mathbf{H}\sin \omega t</math>に最も近い量子力学的状態(コヒーレント状態)の[[確率分布]]を、[[電場]]<math>\mathbf{E}</math>と[[磁場]]<math>\mathbf{H}</math>の間に存在する[[不確定性関係]] :<math>| \Delta \mathbf{E}||\Delta \mathbf{H}|\gtrsim c \hbar \omega / 2\pi V</math> (Vは電磁場の平均値を求める際の体積)において等号が成立する条件から求めた。 == コヒーレント状態 == === 定義 === コヒーレント状態は、真空状態<math>|0\rangle</math>に[[変位演算子]]と呼ばれる[[ユニタリー演算子]]<math>D(\alpha)=\exp(\alpha\hat{a}^\dagger -\alpha^*\hat{a})</math>を作用して作られた状態<math>|\alpha\rangle</math>である。 :<math>|\alpha\rangle=D(\alpha)|0\rangle=\exp(\alpha\hat{a}^\dagger -\alpha^*\hat{a})|0\rangle</math> === 光子数と位相 === コヒーレント状態は、光子の[[消滅演算子]]の[[固有状態]]となっている。つまりコヒーレント状態から光子を1個消滅させても、量子状態が変化しない。 :<math>\hat{a}|\alpha\rangle=\alpha|\alpha\rangle</math> コヒーレント状態の光子数を測定したとき、測定値が<math>n</math>個となる確率は<math>P_n=|\langle n|\alpha\rangle|^2</math>で与えられる。<math>|n\rangle</math>は光子数状態、光子数確定状態、[[フォック状態]]などと呼ばれる。これを計算すると、[[ポアソン分布]]になっていることがわかる。 :<math>P_n=|\langle n|\alpha\rangle|^2=\frac{(|\alpha|^2)^n}{n!}\exp[-|\alpha|^2]</math> :<math>|n\rangle=\frac{1}{\sqrt{n!}}(\hat{a}^\dagger)^n|0\rangle</math> ポアソン分布は、個々の事象が互いに無相関に起こるときに現れる分布である。ポアソン分布の性質より、光子数の測定値の[[平均値]]と[[分散 (確率論)|分散]]は一致する。 :<math>\langle n\rangle(=\langle\alpha|\hat{n}|\alpha\rangle)=\langle(\Delta n)^2\rangle=|\alpha|^2</math> コヒーレント状態の光子数分布は、熱平衡における光子数分布と著しく異なっている。しきい値より十分高い励起を与えられたレーザーの出力光の光子数分布は、コヒーレント状態に近くなっている。 コヒーレント状態の振幅を<math>\alpha=|\alpha|e^{i\phi}</math>のように振幅と位相に分けて書くと、異なる光子数<math>n</math>の状態<math>|n\rangle</math>にポアソン分布に対応する振幅<math>\sqrt{P(n)}</math>と光子1個あたり<math>e^{i\phi}</math>という共通の位相をつけて重ね合わせた状態がコヒーレント状態であることがわかる。 :<math>|\alpha\rangle=\sum_n \sqrt{P(n)}(e^{i\phi})^n|n\rangle=\exp\bigg[-\frac{1}{2}|\alpha|^2\bigg]\sum_n \frac{\alpha^n}{\sqrt{n!}}|n\rangle</math> つまりコヒーレント状態は、位相がそろっている反面、光子数分布はランダムである。また[[真空状態]]<math>|0\rangle</math>は光子数確定状態であり、かつコヒーレント状態でもあることがわかる。 === 不確定性 === コヒーレント状態において[[正準座標]] :<math>\hat{Q}=\sqrt{\frac{\hbar}{2\omega\epsilon_0}}(\hat{a}+\hat{a}^{\dagger})</math> :<math>\hat{P}=i\sqrt{\frac{\hbar\omega\epsilon_0}{2}}(\hat{a}^{\dagger}-\hat{a})</math> を測定したとき、その標準偏差<math>\Delta Q</math>、<math>\Delta P</math>は以下の関係を満たしている。 :<math>\Delta Q \Delta P=\frac{\hbar}{2}</math> よってコヒーレント状態は[[最小不確定状態]]である。[[相空間]]では、コヒーレント状態は局在している。 一方で光子数と位相の不確定性については、コヒーレント状態は<math>|\alpha|</math>が小さいときは最小不確定状態にはなっていない。しかし<math>|\alpha|</math>が大きいとき、つまり光子数が多い場合は光子数と位相の最小不確定状態に近づき、古典的な光に対応するようになる。 === 過剰完全性 === 消滅演算子はエルミート演算子ではない。その固有状態であるコヒーレント状態は、異なる<math>\alpha</math>の状態間では直交しない(ただし<math>\alpha</math>と<math>\beta</math>の差が大きいときに近似的に直交する)。 :<math>\langle\beta|\alpha\rangle=\exp\bigg[-\frac{1}{2}(|\alpha|^2+|\beta|^2)+\beta^*\alpha\bigg]</math> しかし以下のような[[完全系]]をなす。 :<math>\frac{1}{\pi}\int|\alpha\rangle\langle\alpha|d^2\alpha=1</math> このような性質を[[過剰完全性]]という。 == 関連項目 == * [[スクイーズド状態]] == 参考文献 == * 『物理学辞典』 [[培風館]]、1984年 * 松岡 正浩「量子光学」、[[裳華房]]、ISBN 978-4785320935 (2000年9月1日) * 花村 榮一「量子光学」、[[岩波書店]]、ISBN 978-4000104388 (1992年5月8日) * 上田 正仁「現代量子物理学」、[[培風館]]、ISBN 978-4563022655 (2004年11月30日) {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:こひいれんとしようたい}} [[Category:量子力学]] [[Category:光学]]
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