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'''コーシーの積分定理'''(コーシーのせきぶんていり、{{lang-en-short|Cauchy's integral theorem}})は、'''コーシーの第1定理'''ともいわれる、[[オーギュスタン=ルイ・コーシー]]によって示された、[[数学]]、特に[[微分積分学]]において、[[複素平面]]上のある[[領域 (解析学)|領域]]において[[正則関数|正則]]な関数の[[複素積分]]についての定理である。 == 内容 == コーシーの積分定理は様々な形があるが代表的なのは次であろう。 ''D'' を[[領域 (解析学)|領域]]とし、''f''(''z'') は ''D'' 上で[[正則関数|正則]]である[[複素関数]]とする。Cが''D'' 内のある有界領域の境界であって、互いに交わらない有限個の区分的に滑らかなJordan閉曲線からなるとき : <math> \oint_C f(z) \, \mathrm{d}z\ = 0 </math><ref>{{cite|和書|author=小平邦彦|title=複素解析I|year=1977|page=87}}</ref>{{Efn2|このようなCで囲まれる有界領域が三角形分割可能であることが証明の要であるがこれの証明はアイディアは初等的ではあるものの厳密にやるとかなり面倒で、この本では20ページも費やしている。小平自身もここまで長くなるのは「予定外であった」としている。}} つまり、ある領域を囲む閉曲線で関数 ''f''(''z'') を積分するとき、その領域内で ''f''(''z'') が常に正則であれば、その積分の値は必ず 0 となることを主張している。 また、領域内に <math>\ \mathrm{d}F/\mathrm{d}z = f </math> となるような正則関数 <math>\ F </math> が存在する場合、始点と終点を定めれば積分路によらず : <math> \int_{a}^{b} f(z) \, \mathrm{d}z\ = F(b) - F(a)</math> となる。このとき閉曲線、つまり始点と終点が一致する場合に値が 0 になることは明らかである。すなわちコーシーの積分定理は、単連結な領域上の正則関数には、このような <math>\ F </math> が常に存在することを意味している。 == 証明 == この定理の証明は導関数が連続という仮定下では[[グリーンの定理]]と[[コーシー・リーマンの関係式]]を用いるとよい。 証明は複素積分の定義から導くことができる。 :<math>\begin{align} \oint_C f(z)\mathrm{d}z &= \oint_C [u(x,y)+iv(x,y)] (\mathrm{d}x+i\mathrm{d}y) \\ &= \oint_C (u\mathrm{d}x-v\mathrm{d}y) + i \oint_C (u\mathrm{d}y+v\mathrm{d}x) \\ &= -\iint_D \biggl (\frac{\partial v}{\partial x}+\frac{\partial u}{\partial y} \biggr ) \mathrm{d}x\mathrm{d}y + i \iint_D \biggl (\frac{\partial u}{\partial x}-\frac{\partial v}{\partial y} \biggr ) \mathrm{d}x\mathrm{d}y \end{align} </math> ここで、正則関数であればコーシー・リーマンの関係式が成立するので、実部と虚部の項が0になる。 コーシーの積分定理は、20 世紀に{{ill|エドゥアール・グールサ|en|Édouard Goursat}}によって導関数の連続性の仮定無しに証明された<ref>Édouard Goursat,[http://www.ams.org/journals/tran/1900-001-01/S0002-9947-1900-1500519-7/S0002-9947-1900-1500519-7.pdf "Sur la définition générale des fonctions analytiques, d'après Cauchy,"] Transactions of the American Mathematical Society, '''1''', No. 1, pp.14–16 {{doi|10.1090/S0002-9947-1900-1500519-7 }} </ref>。 == 一般化 == 積分路''C''を[[単体 (数学)|1サイクル]]、即ち有限個の閉曲線の形式和''C=C_1+...C_n''として次のように一般化することが出来る。 * 1サイクルに対するコーシーの定理 ''D'' を[[領域 (解析学)|領域]]とし、''f''(''z'') は ''D'' 上で[[正則関数|正則]]である[[複素関数]]とする。''D'' 内の区分的に滑らかな1サイクル''C'' が''D'' 内で 0にホモローグであるとき、 : <math> \oint_C f(z) \, \mathrm{d}z\ = 0 </math> ここで''D'' 内で0にホモローグ(homologous to 0)とは0にホモトピー同値な有限個の''D'' 内の閉曲線の形式和として書けることを言う<ref>{{cite|和書|author=小平邦彦|title=複素解析II|year=1977|page=206}}</ref>。 1サイクル''C'' が''D'' 内で 0にホモローグであるとはつまり「Cで囲まれる有界領域」がDに含まれるということである。ただし「Cで囲まれる有界領域」という概念は(視覚的には明らかに指定出来るものであるが)正確な数学的定式化には[[ジョルダンの曲線定理]](ただし区分的C^1なJordan曲線に対するもので十分であり、この場合に限った証明は随分簡単になる)を仮定するか[[回転数 (数学)#複素解析学]]という概念を用いるかしなければならない<ref>{{cite|和書|author=杉浦光夫|title=解析入門II|year=1985|page=291}}</ref>。 特に冒頭の条件である、Cが''D'' 内のある有界領域の境界であって互いに交わらない有限個の区分的に滑らかなJordan閉曲線からなるとき、''C'' は''D'' 内で 0 にホモローグである。 またCが単に区分的に滑らかな[[閉曲線]]であるとき、[[可縮空間|可縮]](0に[[ホモトピー|ホモトピー同値]])ならば''C'' は1チェインとして''D'' 内で 0にホモローグである(注:逆は不成立)から、系として次が得られる。 * 系:ホモトピー型のコーシーの定理 ''D'' を[[領域 (解析学)|領域]]とし、''f''(''z'') は ''D'' 上で[[正則関数|正則]]である[[複素関数]]とする。''D'' 内の区分的に滑らかな[[閉曲線]]''C''が''D'' 内で[[可縮空間|可縮]](0に[[ホモトピー|ホモトピー同値]])であるとき、 : <math> \oint_C f(z) \, \mathrm{d}z\ = 0 </math> 特に''D'' が[[単連結空間|単連結]]なら任意の区分的に滑らかな[[閉曲線]]''C''に対して上の仮定が満たされることは明らかである。 ==脚注== {{reflist}} {{Notelist2}} == 参考文献 == * [[高木貞治]] (2010)『定本 解析概論』岩波書店 ISBN 978-4-00-005209-2 == 関連項目 == * [[微分]] * [[積分]] * [[偏微分]] * [[複素平面]] * [[コーシーの積分公式]] * [[留数]] * [[コーシー・リーマンの方程式]] * [[モレラの定理]] - コーシーの積分定理の〈逆〉 {{DEFAULTSORT:こおしいのせきふんていり}} [[Category:複素解析の定理]] [[Category:オーギュスタン=ルイ・コーシー]] [[Category:数学のエポニム]] [[Category:数学に関する記事]]
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