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{{Chembox | Name = シアン化水素 | ImageFileL1 = Hydrogen-cyanide-2D.png | ImageSizeL1 = 100px | ImageNameL1 = Chemical structure of hydrogen cyanide manny | ImageFileR1 = Hydrogen-cyanide-3D-vdW.png | ImageSizeR1 = 120px | ImageNameR1 = Hydrogen cyanide | IUPACName = シアン化水素<br />メタンニトリル<br />水素化窒化炭素 | OtherNames = ヒドロシアン酸<br />シアン化水素青酸<br />ホルムニトリル<br />ギ酸ニトリル | Section1 = {{Chembox Identifiers | CASNo = 74-90-8 | RTECS = MW6825000 | SMILES = C#N }} | Section2 = {{Chembox Properties | Formula = HCN | MolarMass = 27.03 g/mol | Appearance = 無色または薄青色の気体<br />揮発性の液体 | Density = 0.687 g/cm<sup>3</sup>, 液体. | Solubility = Completely miscible. | MeltingPt = -13.4 ℃ (259.75 K) | BoilingPt = 26 ℃ (299.15 K) | pKa = 9.21 }} | Section3 = {{Chembox Structure | MolShape = 直線形 | Dipole = 2.98 D }} | Section4 = {{Chembox Thermochemistry | DeltaHf = 108.87 kJ mol<sup>−1</sup>(l)<br>135.1 kJ mol<sup>−1</sup>(g) | DeltaHc = | Entropy = 112.84 J mol<sup>−1</sup>K<sup>−1</sup>(l)<br>201.78 J mol<sup>−1</sup>K<sup>−1</sup>(g) | HeatCapacity = 70.63 J mol<sup>−1</sup>K<sup>−1</sup>(l)<br> 35.86 J mol<sup>−1</sup>K<sup>−1</sup>(g) }} | Section7 = {{Chembox Hazards | MainHazards = 毒性、引火性ともに高い | NFPA-H = 4 | NFPA-F = 4 | NFPA-R = 2 | NFPA-O = POI | FlashPt = −17.78 {{℃}} | RPhrases = {{R12}}, {{R26}}, {{R27}}, {{R28}}, {{R32}}. | SPhrases = {{S1}}, {{S2}}, {{S7}}, {{S9}}, {{S13}}, {{S16}},<br />{{S28}}, {{S29}}, {{S45}}. }} | Section8 = {{Chembox Related | OtherCpds = [[ジシアン]]<br />[[シアン化塩素]] }} }} '''シアン化水素'''(Hydrogen Cyanide)は、'''メタンニトリル'''、'''ホルモニトリル'''、 '''蟻酸ニトリル'''とも呼ばれる猛毒の物質である。その水溶液は弱酸性を示し、'''シアン化水素酸'''と呼ばれる。 [[相 (物質)|相]]で区別する場合、気体のシアン化水素は'''青酸ガス'''と呼び、液体は'''液化青酸'''と呼ぶ。 気体、液体、水溶液のいずれについても、慣習的に'''青酸'''(せいさん)と呼ばれる。この語は[[紺青]]に由来する。 なお、[[シアン酸]]は異なる物質である。 また、ドイツ語のシアン({{Lang-de|Cyan}}、{{Lang-en|Cyanogen}})は[[ジシアン]]に等しい。 また、[[日本]]においては[[毒物及び劇物取締法]]第二条によって指定されている[[毒物]]の一種である。 == 性質 == === 物理的性質 === シアン化水素は可燃性の気体であり、爆発範囲 (5.6〜40.0パーセント) を持ち、常圧における沸点が常温付近のため、 気温が低いと液状、高いと気体になる。ただし液体でも揮発性が非常に高く、一部が気体として揮発してくるため、 低温時でも中毒の原因となる。 なお、シアン化水素が水に溶けて、シアン化水素酸になった場合は、水分子との高い親和力により液化青酸よりも気化し難い。 シアン化水素の分子は[[極性]]を有するため、液化したシアン化水素は[[比誘電率]]が高く、18 ℃で118.8であり、 極性を有した物質に対して優れた[[溶媒]]として用いる事も可能である。しかし、シアン化水素の毒性のため、 溶媒としての取り扱いには細心の注意を要する。 === 化学的性質 === シアン化水素の[[炭素]]原子と[[窒素]]原子は、[[三重結合]]で結合している。 炭素よりも窒素の方が[[電気陰性度]]が高く、この結果、窒素の側に電子の存在確率が偏るために、分子は極性を持つ。 この部分は、官能基で言えば[[ニトリル]]と呼ばれる構造である。しかし、 シアン化水素の場合、[[極性溶媒]]の中ではシアン化水素酸としてプロトンを電離するなど、一般的なニトリルとは性質が異なる。 なお、シアン化水素酸の酸解離定数は、18 ℃において、''K''<sub>a</sub> = 1.3 × 10<sup>−9</sup>である <ref group="注釈"> この値は、[[炭酸]]よりも弱い酸である事を示す。 </ref> 。 シアン化水素酸がプロトンを電離した[[陰イオン]](CN<sup>−</sup>)を'''シアン化物イオン'''と呼び、 特に[[遷移金属]]のイオンに配位して、[[錯体]]を形成し易いため、[[錯体化学]]の分野では重要なイオンである <ref group="注釈"> なお、[[コンクリート]]や[[漆喰]]の部屋の燻蒸にシアン化水素を用いると、 水分の影響でシアン化水素酸が生じ、さらに、これが壁材に含まれていた鉄分と反応した結果、 壁が青くなる場合もある。つまり、鉄との錯化合物が生成された例である。 </ref> 。 そして、この遷移金属元素に配位し易いというシアン化物イオンの性質こそが、シアン化水素の毒性発現の原因でもある。 また、この遷移金属元素に配位し易い性質を利用して、 [[ヒドロキソコバラミン]]を静脈注射し、シアン化物イオンをヒドロキソコバラミンの遷移金属元素に配位させて、 シアン化物イオンの毒性解除を狙う治療が実施される場合がある。 ==== 燃焼 ==== シアン化水素を空気中で強熱すると、炎を上げて燃え、窒素と二酸化炭素と水になる。 炎色は桃色(『化学辞典普及版』森北出版)・青色(『化学辞典』東京化学同人)・紫色(『実験化学ガイドブック』丸善)と各種の表記が見られるものの、 概ね赤紫色と呼べる。なお、原子吸光分析で燃料ガスとして、シアン化水素ガスボンベを使用する事がある。 : <chem>4 HCN + 5 O2 -> 2 H2O + 2 N2 + 4 CO2</chem> : '''シアン化水素''' + 酸素 → 水 + 窒素 + 二酸化炭素 ==== 重合反応 ==== 純粋なシアン化水素は、室温程度であれば安定である。 しかし、純度の低いシアン化水素を長時間放置すると黄色や黒色に変化し、爆発性の重合体を生成する。 特に水分が1割程度混じっていると、50 ℃程度で重合し易くなる。 さらに、塩基性条件下では、室温でも重合する。 また、重合防止剤を添加していない場合は、184 ℃に達すると急激に重合する。 これは重合時に発熱し、重合反応が加速されるためである。これを防ぐには、銅粉や硫酸を添加しておく。 ただし、シアン化水素よりも、水の方が多い場合は、[[加水分解]]が発生する。 水の中でシアン化水素は、ホルムアミドを経て、[[蟻酸]]と[[アンモニア]]に分解される。 === ヒトが感ずる臭気 === シアン化水素は「無色で、'''アーモンド臭'''を持つ。<!--編集の前に、ノートも参照してください。-->」と説明する書物が多い。 ただ、ここで言う「アーモンド臭」とは、[[ベンズアルデヒド]]の臭気を指す <ref name="Niimura_smell_p77"> 新村 芳人 『興奮する匂い 食欲をそそる匂い ~ 遺伝子が解き明かす匂いの最前線』 p.77 技術評論社 2012年4月15日発行 ISBN 978-4-7741-5013-0 </ref> 。 これは収穫前の[[アーモンド]]の臭いであり、製菓に用いるアーモンドエッセンスの甘い香りとは異なる香りである。 シアン化水素の「アーモンド臭」とは、どちらかと言えば、[[杏仁豆腐]]の香りに近いとも言われる <ref name="Niimura_smell_p77"> 新村 芳人 『興奮する匂い 食欲をそそる匂い ~ 遺伝子が解き明かす匂いの最前線』 p.77 技術評論社 2012年4月15日発行 ISBN 978-4-7741-5013-0 </ref> 。 また[[嗅盲]]と言って、遺伝的にシアン化水素の臭いを感じないヒトが、1割程度はいると見積もられている <ref> 新村 芳人 『興奮する匂い 食欲をそそる匂い ~ 遺伝子が解き明かす匂いの最前線』 p.78 技術評論社 2012年4月15日発行 ISBN 978-4-7741-5013-0 </ref> 。 ただし、シアン化水素の「アーモンド臭」がベンズアルデヒドの臭気を指していながら、 ベンズアルデヒドの臭気は感知できるヒトでも、シアン化水素の臭気は感知できない場合がある <ref> 新村 芳人 『興奮する匂い 食欲をそそる匂い ~ 遺伝子が解き明かす匂いの最前線』 p.79 技術評論社 2012年4月15日発行 ISBN 978-4-7741-5013-0 </ref> 。 なお、シアン化水素の臭気が争点にされた事件の実例として、 日本計算器峰山製作所懲戒解雇事件(1971年3月)が挙げられる。 地裁判決文(京都裁判所)の中で「科学書中にはシアンガスの臭いは微臭であるとするものもある。もっとも、この点の科学的説明も純粋なものは特異臭を持つ、特有のにおいとする等、各著者によつて異なつていて明確でない上、実際上も、発生時における気圧、温度、純粋度等の諸条件によつてまた臭いの様態も異る」とされた<ref>[https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/938/019938_hanrei.pdf 裁判所 労働事件裁判例 日本計算器峰山製作所懲戒解雇](2017年9月20日時点の裁判所 - 裁判例情報)</ref>。 == 毒性 == {{詳細記事|シアン化物中毒}} {{For2|その他の毒物としての青酸|シアン化カリウム|青酸カリ}} ヒトに対する気体状のシアン化水素の毒性には異なったデータが存在し、 270 [[ppm]]で即死というデータから、5000 ppmの1分間の吸入で半数[[死亡]]というデータまである。 これは肝臓によるシアン化物イオンを[[チオシアン酸]]に変換する解毒能力と、 低酸素状態に対する細胞の抵抗力における個体差ゆえと考察される。 === 動物 === シアン化水素は[[殺虫剤]]の他にも、[[化学兵器]]として使用されたように <ref group="注釈"> シアン化水素を化学兵器としての毒性発現の分類で見た場合、 数百ppmの濃度では肺から吸収されて[[循環器]]に回り、 血液中の[[ヘモグロビン]]や細胞内の[[ミトコンドリア]]と結合して、機能を停止させる[[血液剤]]として働く。 一方で、数千ppm以上の濃度では肺に直接作用し、肺の機能を麻痺させて呼吸ができなくなる[[窒息剤]]として働く。 </ref> 、一般的な[[真核生物|真核生物の動物]]にとっては致死性の[[毒物]]である。 その毒性の発揮は、[[シトクロム]]を始めとする生体内の[[ヘム鉄]]の Fe<sup>3+</sup> に[[配位結合]]し、 細胞内で{{仮リンク|呼吸鎖|en|respiratory chain}}を阻害することによる。 中毒死したヒトは、シアノ基が配位した[[メトヘモグロビン]]のため、 全身が赤く染まって見える場合がある<ref group="注釈">ただし、青酸塩で中毒死した場合は、そうならない場合もある。</ref>。 なお、メトヘモグロビンは酸素を運搬できないので、ヘモグロビンを酸素運搬に利用している生物の生存を脅かす。 加えて、[[酸素]]をエネルギー産生のために利用する動物が、シアン化水素を摂取すると、 シアン化物イオンが、[[ミトコンドリア]]で[[電子伝達系]]を担うシトクロムなどでも Fe<sup>3+</sup> に配位結合し、 Fe<sup>3+</sup>のまま固定化する。 さらに、シアン化物イオンはミトコンドリアの電子伝達系の複合体IVとも呼ばれる[[シトクロムオキシダーゼ]]を阻害するため <ref> Robert K. Murray・Daryl K. Granner・Victor W. Rodwell(編集)、上代 淑人(監訳)『Illustrated ハーパー・生化学(原書27版)』 p.108 丸善 2007年1月30日発行 ISBN 978-4-621-07801-3 </ref> <ref group="注釈"> なお、シアン化物イオン以外では、[[硫化水素]]や[[一酸化炭素]]も、このミトコンドリアの電子伝達系の複合体IVを阻害する。 </ref> 、ミトコンドリアでの電子伝達系を完全に止め、細胞内呼吸を完全に止めてしまう <ref> Robert K. Murray・Daryl K. Granner・Victor W. Rodwell(編集)、上代 淑人(監訳)『Illustrated ハーパー・生化学(原書27版)』 p.121 丸善 2007年1月30日発行 ISBN 978-4-621-07801-3 </ref> 。 もしも摂取したシアン化水素の量が充分に多い場合、 ミトコンドリアでの[[アデノシン三リン酸|ATP]]の生産が完全に止まり、 ミトコンドリアで酸素を利用したATPの効率的な生産が前提の一般的な動物は、ATPが枯渇して[[死]]に至る。 === 植物 === 動物だけでなく、植物にとっても、シアン化水素が電離したシアン化物イオンは有毒である <ref name="S_M_plant_physiology_p75"> 幸田 泰則・桃木 芳枝(編著)『植物生理学 - 分子から個体へ』 p.75 三共出版 2003年10月25日発行 ISBN 4-7827-0469-0 </ref> 。 確かに、シアン耐性呼吸(cyanide-resistant respiration)と呼ばれるシアン化物に曝露されて、 ミトコンドリアのシトクロムオキシダーゼが阻害されても、植物では酸素の消費が続く場合がある。 これはオルターナティブ呼吸経路(alternative respiratory pathway)で、 例えば、オルターナティブオキシダーゼを始めとする複数の酵素が、酸素を消費し続けているためである。 この経路では、熱が発生するものの <ref> 幸田 泰則・桃木 芳枝(編著)『植物生理学 - 分子から個体へ』 p.76 三共出版 2003年10月25日発行 ISBN 4-7827-0469-0 </ref> 、ATPの産生は不能である<ref name="S_M_plant_physiology_p75" />。 したがって、結局、植物でもATPは枯渇し、生命活動不能に陥る。 === 青梅などの毒成分 === 未熟な[[ウメ]]に含まれる毒成分は、シアン化物である。 ウメや[[アンズ]]、[[ビワ]]など[[バラ科]]植物の果実には、 青酸配糖体である[[アミグダリン]]や[[プルナシン]]が含まれている。未熟な種子に含まれる[[エムルシン]]、 または動物の腸内細菌が持つ[[β-グルコシダーゼ]]といった酵素によって、 青酸配糖体が加水分解され、糖とアルデヒド、そしてシアン化水素を生成する。 なお、これは[[胃酸]]によるシアン化水素の遊離や、ヒトの[[消化酵素]]による反応ではない。 シアン化水素の毒性は非常に高いが、 アミグダリンなどの経口摂取によって、ヒトが中毒症状を呈するには、こうした果実や種子の大量摂取を必要とする。 例として、アンズの種子を20個から40個を摂取した結果による重症例が知られる。 また、アミグダリンは果肉と比べ、より種子に多く含まれているため、 種子を噛み砕かない限り中毒症状を引き起こす可能性は低い。幼児が青梅の果肉を囓った程度では心配ないとされる。 なお、[[杏仁豆腐]]に使用されるアンズの種子は、熟してエムルシン濃度が低下した物を粉に挽き、 水に晒してアミグダリンを除去するなどの工程を経ている。 また、大部分の市販品はアーモンド粉と寒天等、代替品を使用している。 === 使用例 === ==== 化学兵器・ガス室 ==== シアン化水素は、[[ナチス]]による[[ホロコースト]]の際に、[[ガス室]]で使用された。 この時には[[ツィクロンB]]と言う燻蒸式の殺虫剤が流用された。 シアン化水素は可燃性であり、ガス室の隣に燃焼炉が設置されていたため、 危険で使えないという懐疑論も出たものの、シアン化水素が爆発し得る濃度は5.6パーセント(56,000 [[ppm]])以上であり、 一方で、ヒトを中毒死させるためには270 ppm〜5000 ppm(0.5パーセント)で充分であるから、理論上可能である。 なお、[[アメリカ合衆国]]の一部の[[アメリカ合衆国の州|州]]では、[[ガス室]]を用いた[[死刑]]執行にシアン化水素を用いていたが、 処刑後の清掃などに多額の費用が必要であるといった理由で、 [[1999年]]以降行われていない<ref>[https://news.livedoor.com/article/detail/9499623/ アメリカの死刑囚が「最後の晩餐」に選んだものは]、[[ライブドアニュース]]、2014年11月23日。2015年10月24日閲覧。</ref>。 また、日本軍が対戦車兵器として液化青酸270 g入りのビン「一式手投丸缶」(ちゃ剤<ref>[https://wwwa.cao.go.jp/acw/heiki.html 遺棄化学兵器等(内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理担当室)]</ref>、[[ちび弾]]とも呼ばれた)を製造した<ref>[https://web.archive.org/web/20090703041442/http://earth.endless.ne.jp/users/mac0115/Type1HCNGrenade.html 陸奥屋](2009年7月3日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]])</ref>。戦車にぶつけて割ると、装甲の隙間から中に入り込み、乗員を中毒させるのが目的であった。日本で時々、遺棄されたこの兵器が地中から発見されてきた。 この毒性に着目した[[オウム真理教]]は、[[新宿駅青酸ガス事件]]として知られるテロ未遂事件を起こした。 しかしながら、シアン化水素は空気よりわずかに軽いため、 特に、野外で化学兵器として使用しても、早期に上空へと浮き上がり、散逸してしまう。 このため化学兵器としてのシアン化水素の用例は稀であり、むしろ、青酸化合物では、 毒性が類似しており空気より重い[[塩化シアン]]の方が使われる。 ==== 服毒自殺 ==== ナチスの幹部たちは敵に捕えられた際に、噛み砕いて自殺するための青酸アンプルを常備していた。 実際、[[ハインリヒ・ヒムラー]]や[[マルティン・ボルマン]]らがこのアンプルにより自殺した。 共産圏のスパイ達も同様に青酸アンプルを常備していた。 著名な例としては、[[大韓航空機爆破事件]]の実行犯であった金勝一が自殺に用いたことで知られる。 ==== 燻蒸剤 ==== ドイツで製造されていたツィクロンBは、本来は室内などをシアン化水素で燻蒸して、殺虫を行うためだった。 日本でも同時期にサイロームの名で同種の製品が存在し、ミカン農家などで使われた。 ただ、ヒトに対する毒性が強いため、農薬用途での使用はかつてより減った。 一方で、現在でも、輸入食品の燻蒸に使用されている。これにより、侵略的外来生物の侵入を防ぐなどの狙いがある。 === 火災時に発生し得る有害成分 === ある種の化合物が火災などで加熱されると、条件によっては、シアン化水素が発生する場合がある。 例えばカーテンなどに使用されている場合のある[[アクリル繊維|アクリル製品]]が、火災によって[[熱分解]]した際などである。 当然ながら、こうして発生したシアン化水素を吸入すれば、急性中毒を引き起こし得る。 なお、そのような条件では[[一酸化炭素]]も発生し得るため、 シアン化水素や一酸化炭素は、火災時において中毒が発生する原因として知られる。 しかも、どちらの中毒であっても重症例では致死的であり、さらに、どちらの中毒も可及的速やかな解毒が必要である。 このため、一酸化炭素だけかもしれない場合でも、シアン化水素による中毒も有り得る場合には、 シアン化合物の解毒剤を静脈注射した上で、[[高圧酸素療法]]を試みるといった治療が行われ得る。 参考までに、[[長崎屋火災]]などのように、落ち着いて避難していたヒトが、中毒によって突然倒れた事例もある。 == 検知法 == 空気中のシアン化水素の検出には、ピクリン酸ナトリウムや[[塩化水銀(II)]]などを詰めた[[ガス検知管]]が使われる。 == 解毒法 == {{main|シアン化物#シアン化合物の解毒剤}} シアン化水素を始めとするシアン化物の解毒方法は、幾つかの方法が知られている。 例えば、[[ヘモグロビン]]を[[メトヘモグロビン]]に故意に酸化させ、 シアン化物イオンをメトヘモグロビンの Fe<sup>3+</sup> に配位させて、 酸化型シトクロムの Fe<sup>3+</sup> へのシアンの配位を妨げる方法がある。 ただし、この方法は酸素運搬能力の無いメトヘモグロビンを増やすため、諸刃の剣とも言える。 また例えば、ヒドロキソコバラミンを注射して使用する方法もある。 シアン化物イオンはコバルトにも極めて配位し易いため、 ヒドロキソコバラミンのコバルトに配位している水酸化物イオンが、シアン化物イオンに取って代わられ、 [[シアノコバラミン]]に変換されるため、シアン化物イオンを封じ込める方法である。 ただし、大過剰のシアノコバラミンが体内に有る状態に陥るため、 腎機能が正常でないと大過剰のシアノコバラミンの排泄が滞り、問題を引き起こす可能性もある。 このように、それぞれの方法には、それぞれに利点と欠点が挙げられる。 いずれにしても、意識が戻る程度にまで解毒できれば、その後は急速に回復する。 == 製法 == 工業的にシアン化水素は、[[ソハイオ法]]によるアクリロニトリル製造の際の副産物として得られる。 また、[[アンドルソフ法]]と呼ばれる、メタン、アンモニア、空気の混合ガスを、 高温下で白金触媒に通す方法も知られる。 [[BMA法]](Degussa法)と呼ばれる方法もある。こちらは酸素を用いずメタンやアンモニアに含まれる水素を回収することが出来るが、その代わりに大きな熱エネルギーが必要なのであまり使われていない。 なお、燻蒸などの目的で、装置の無い場所でシアン化水素を発生させたい場合には、 シアン化ナトリウムのようなシアン化物イオンの塩に、強酸を加える方法が一般的である。つまり、揮発性の弱酸が、 強酸によって遊離してくる性質を利用した方法である。 == 廃棄処理 == 廃棄処理業者にシアン化合物である旨を伝えて委託し、シアン化物イオンの分解処理を依頼する方法が安全である。 通常は、塩基性条件下で、[[次亜塩素酸ナトリウム]]などの酸化剤を用いて、 シアン化物イオンを酸化する方法で分解する。 == その他 == なお昔の辞典では「シアン化水素酸」または「青酸」を、 シアン化水素の[[二量体]]の固形物質をさす語とも記載している例も見られる。 しかし、この物質は、三量体の[[1,3,5-トリアジン]]であったと判明している。 青酸という毒物は古代エジプト時代から認識されていた。 1782年に[[カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]がシアン化水素を発見した。 このためシアン化水素酸の別名をシェーレ酸と言う。 [[シュレーディンガーの猫]]の思考実験では、放射線が検出された場合に猫を殺す毒物としてシアン化水素が明示されている。 煙草の煙には、多種多様な有害物質が含有されており、その1つとして、 タバコ葉中に含まれる無機・有機シアン化合物を由来としたシアン化水素も含まれている<ref>[https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/seibun.html 厚生労働省 平成11-12年度たばこ煙の成分分析について(概要)](2017年9月20日時点の厚生労働省 - たばこと健康に関する情報ページ)</ref><ref>[https://www.env.go.jp/chemi/prtr/result/todokedegaiH27/syosai/10.pdf 環境省 PRTRインフォメーション広場 届出外排出量 10.たばこの煙に係る排出量](2017年9月20日時点の環境省 - PRTRインフォメーション広場)</ref>。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 注釈 === <references group="注釈"/> === 出典 === <references/> == 関連項目 == * 塩 — [[シアン化ナトリウム]]、[[シアン化カリウム]] * 錯体 — [[フェロシアン化カリウム]]、[[フェリシアン化カリウム]] * [[無機シアン]] * [[ジシアン]] * [[ニトリル]] — C≡N 基を持つ有機化合物の総称。 * [[ツィクロンB]] — シアン化水素の利用例。 == 外部リンク == * 安全衛生情報センター 危険有害便覧 [https://web.archive.org/web/20070928040533/http://www.jaish.gr.jp/anzen/msd/kiken/msd2-194-12-1.html]、モデルMSDS [https://archive.fo/H7jkY] * 日本中毒情報センター 一般向けの「中毒情報データベース」青梅の項に、シアン化物中毒についての情報 [http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf] * 救急・災害医療ホームページ 災害医学・抄読会 [https://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/circle/951105.html#1105 死者多数を出したビル火災] * 生命の起源と原始地球の温度 10. HCN重合 [https://web.archive.org/web/20160309135644/http://origin-life.gr.jp/3202/3202068/3202068.html] * 臭いについて [http://verdazyl.hp.infoseek.co.jp/modeK/ni0510.html]{{リンク切れ|date=2020-4-4}} - [https://archive.fo/eW4tr] {{リンク切れ|date=2020-4-4}} {{水素の化合物}} {{炭素の無機化合物}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:しあんかすいそ}} [[Category:無機化合物]] [[Category:化学兵器]] [[Category:ニトリル]] [[Category:水素の化合物]] [[Category:労働安全]] [[Category:労働災害]] [[Category:シアン化物]] [[Category:カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]
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