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[[ファイル:Cyanide-montage.png|thumb|120px|シアン化物イオンの(上から)構造式、空間充填モデル、電子ポテンシャル、HOMOの図]] '''シアン化物'''(シアンかぶつ、{{lang-en-short|cyanide}})とは、シアン化物イオン (CN<sup>-</sup>) を[[アニオン]]として持つ[[塩 (化学)|塩]]を指す呼称。'''シアン化合物'''(シアンかごうぶつ)、'''青酸化合物'''(せいさんかごうぶつ)、'''青酸塩'''(せいさんえん)、'''青化物'''(せいかぶつ)とも呼ばれる。代表例としては[[シアン化ナトリウム]] (NaCN)、[[シアン化カリウム]] (KCN) など。 広義には、配位子としてシアン (CN<sup>-</sup>) を持つ[[錯体]](例: [[フェリシアン化カリウム]]、K<sub>3</sub>[Fe(CN)<sub>6</sub>])、シアノ基が共有結合で結びついた[[無機化合物]](例: [[シアノ水素化ホウ素ナトリウム]]、NaBH<sub>3</sub>CN)もシアン化物に含まれる。 それぞれの化合物の化学的性質は、シアン化物イオンやシアノ基が他の部分とどのように結びついているかにより大きく異なる。 有機化合物のうち[[ニトリル]]類(例: [[アセトニトリル]]、別名: シアン化メチル、CH<sub>3</sub>CN)は「シアン化~」と呼ばれることがあるが、性質は大きく異なる。 シアン化合物は、一般に人体に有毒であり、ごく少量で死に至る。このことから、しばしば、[[シアン化物中毒|シアン化合物による中毒]]死を目的として、毒殺や自殺に利用されてきた経緯がある。 == 存在 == シアン化物はある種のバクテリア、菌類、藻類によってつくられ、食物や植物の中にはシアン化物を含むものがある。例えば[[リンゴ]]の[[種子|種]]や[[アーモンド]]に微量ではあるが含まれている<ref>Agency for Toxic Substances and Disease Registry, [http://www.atsdr.cdc.gov/tfacts8.html ToxFaqs for Cyanide], Jul 2006.(英語)</ref>。植物でシアノ基は、糖質分子に結合したシアン配糖体として存在し(例: [[アミグダリン]])、草食動物に対する防御としてはたらいている。熱帯で食用とされる[[キャッサバ]]の根はシアン配糖体を含んでいる<ref>Vetter, J. ''Toxicon.'' '''2000''', ''38'', 11-36. DOI: [https://doi.org/10.1016/S0041-0101(99)00128-2 10.1016/S0041-0101(99)00128-2]</ref><ref>Jones, D. A. ''Phytochemistry'' '''1998''', ''47'', 155-162. DOI: [https://doi.org/10.1016/S0031-9422(97)00425-1 10.1016/S0031-9422(97)00425-1]</ref>。 鉄[[ヒドロゲナーゼ]]やニッケル・鉄ヒドロゲナーゼは、活性部位の金属クラスター上にシアノ配位子を持つ。ニッケル・鉄ヒドロゲナーゼの生合成においては、[[カルバモイルリン酸]]から[[システイン]]のチオシアン酸エステルを介してシアン化物イオンがつくられる<ref>Reissmann, S.; Hochleitner, E.; Wang, H.; Paschos, A.; Lottspeich, F.; Glass, R. S. and Böck, A. ''Science'' '''2003''', ''299'', 1067-1070. DOI: [https://doi.org/10.1126/science.1080972 10.1126/science.1080972]</ref>。 [[シアン化水素]]は燃焼により生じる。[[内燃機関]]や[[喫煙]]における燃焼や、[[アクリル繊維]]など[[アクリロニトリル]]を原料とする高分子が燃えるとシアン化水素が発生する。 == 用途 == === 有機合成 === シアン化カリウム、シアン化ナトリウムは、シアン化物イオンの源として有機合成で用いられる。シアン化物イオンは[[求核剤]]としての性質を持ち、適当な炭素求電子剤に置換、あるいは付加して対応する[[ニトリル]]を与える。 ハロゲン化アルキルとの[[求核置換反応]] : <chem>R-X\ + KCN -> R-CN\ + KX (R = alkyl)</chem> ハロゲン化アリールを芳香族ニトリルとするためには、遷移金属化合物を利用する。[[シアン化銅]]を用いる古典的な手法は Rosenmund-von Braun 合成と呼ばれる。 : <chem>Ar-X\ + CuCN\ + \mathit{heat} -> Ar-CN\ + CuX</chem> [[ザンドマイヤー反応]]も、シアン化銅を求核剤とすることができる。 : <chem>Ar-N2^+\ + CuCN\ + KCN -> Ar-CN\ + N2</chem> [[カルボン酸ハロゲン化物]]とシアン化物が作用すると、シアン化アシルが得られる。 : <chem>RC(=O)-Cl\ + CuCN -> RC(=O)-CN\ + CuCl</chem> [[アルデヒド]]や[[ケトン]]にシアン化物イオンが付加すると[[シアノヒドリン]]を与える。さらに[[アンモニア]]を共存させておくと、[[イミン]]への付加により α-アミノニトリルが得られ、これは[[ストレッカー合成]]におけるアミノ酸へ向けた中間体となっている。これらの詳細は項目: [[シアノヒドリン]]、[[ストレッカー合成]] を参照のこと。 : <chem>RCHO\ +\ {}^-CN -> R(NC)CH2O^-</chem> : [[ファイル:Strecker Amino Acid Synthesis Scheme.png|class=skin-invert-image|300px|ストレッカー合成]] これらの反応は基質から炭素が1個増える増炭反応である。導入されるシアノ基はカルボン酸やアミン、アルデヒドなどへ容易に変換可能であることも特長となっている。[[シアン化水素]]や[[シアン化トリメチルシリル]]を用いることもある。 シアン化カリウムは[[ベンゾイン縮合]]において触媒として用いられる。 : <chem>2ArCHO\ + KCN</chem><math>(cat.)</math><chem> -> ArCH(OH)C(=O)Ar</chem> [[ガッターマン反応]]では、[[シアン化亜鉛]]と[[塩化水素]]により芳香環が[[求電子置換反応|求電子的]]にホルミル化される。 : <chem>ArH\ + Zn(CN)2\ + HCl -> Ar-CH=NH2^+ \cdot Cl^-\ </chem>(加水分解)<chem>-> Ar-CHO</chem> == 人体への影響 == {{詳細記事|シアン化物中毒}} 青酸[[中毒]]死は、工業用に使用されている関係上、[[男性]]に多く、[[自殺]]の手段として使用されることも多い。水に溶けやすく、[[メッキ]]工場の[[シアン]]を含む排水の放流によって、魚が死んで浮くこともある。人体に対しても猛毒で現れる中毒作用として、消化管粘膜の[[腐食]]、[[血液]]に対する作用、酵素活性の阻害、呼吸中枢を冒すなどがあげられる。症状としては、吸入、内服後、数秒~1分程度で、失神、痙攣、呼吸麻痺が生じ、死亡する。 個別の化合物についての例は次の各説明を参照のこと。 * [[シアン化水素#毒性|シアン化水素が持つ毒性]] * [[シアン化カリウム#毒性|シアン化カリウム(青酸カリ)が持つ毒性]] * [[シアン化ナトリウム#毒性|シアン化ナトリウムが持つ毒性]] * [[アクリロニトリル#性質|アクリロニトリルが持つ性質]] == シアン化合物の解毒剤 == 塩類の摂取による[[中毒]]は、[[シアン化水素]][[気体|ガス]]の吸入によるものに対し進行が遅く、救命できる可能性が高い。 まず医療機関に連絡する。シアンによる中毒であることを忘れずに伝える。救助者が患者の呼気を吸わないように対策を行ってから開始する。当然、マウストゥマウスの[[人工呼吸]]は厳禁。摂取量が少なく、患者に意識があるなら、吐かせて[[胃洗浄]]を繰り返す。 シアン化合物の[[解毒剤]]としては、[[亜硝酸]]化合物のうち[[亜硝酸アミル]]が気化しやすいことを利用して吸い込ませる方法が主にとられる。[[救急処置]]として亜硝酸アミルが選ばれるのは、医療資格を必要とする[[注射]]の必要がないからである。[[酸素吸入]]と[[亜硝酸アミル]]の吸入(15秒嗅がせ、15秒空気または酸素を吸入させる措置を、5回繰り返す)を行う(シアン化合物を扱う事業所では、小型酸素吸入器と亜硝酸アミルの試薬を用意しておくべきかもしれない)。解毒のメカニズムとしては、亜硝酸アミルが[[ヘモグロビン]]の[[ヘム]]鉄のFe<sup>2+</sup>を酸化させてFe<sup>3+</sup>の[[メトヘモグロビン]]となり、さらに[[シアン]]がメトヘモグロビンのFe<sup>3+</sup>と配位結合し[[シアンメトヘモグロビン]]となることによって、[[動物]][[ミトコンドリア]]の酸化型の[[シトクロムcオキシダーゼ|シトクロム酸化酵素複合体]](COX)のFe<sup>3+</sup>へのシアンの配位結合を防いで無毒化される。さらに、シアンメトヘモグロビンから徐々に解離するシアンと別に投与した[[チオ硫酸ナトリウム]]が結合して[[チオシアン酸]]になる<ref>[http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf/7bf3955830f37ccf49256502001b614f/dd539c05c5be67a3492567e700306ed7?OpenDocument シアンおよびシアン化物による中毒について―概要情報―(1998年 7月29日、日本中毒情報センター]</ref>。 他に[[医療]]の分野ではシアン化物([[シアン化カリウム|青酸カリ]]など)中毒の解毒剤としてシアンを一旦[[メトヘモグロビン]]に結合させ徐々に解毒するために、[[チオ硫酸ナトリウム]]水溶液の連続[[静脈]][[注射]]と[[亜硝酸]]化合物を併用する。この際、チオ硫酸ナトリウムはシアン化物を[[チオシアン酸|チオシアン化物]]へ変化させる。チオシアン酸も毒性を持つがシアンよりも弱い。亜硝酸塩は血液中のヘモグロビンと反応してメトヘモグロビンとなる。メトヘモグロビンは[[ヘム]]鉄や[[チトクローム]]の鉄よりもシアンと強く結合するのでシアンの中毒症状の発現を遅らせる働きがある。 == 鉱物の存在 == [[鉱物]]としてシアン化物が存在するのは非常に珍しい。[[ヨアネウム石]] ([[:en:Joanneumite|Joanneumite]]・Cu(C<sub>3</sub>N<sub>3</sub>O<sub>3</sub>H<sub>2</sub>)<sub>2</sub>(NH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>) が、知られている唯一のシアン化物の化学組成を持つ鉱物である<ref>[https://www.mindat.org/min-42755.html Joanneumite ''mindat.rog'']</ref>。 == 関連項目 == *[[関西青酸連続死事件]] *[[コンゾ]] *[[サンタマリアナイトクラブ火災]] *[[人民寺院]] *[[薄熙来事件]] *[[オウム真理教]] *[[豊洲市場]] **[[築地市場移転問題]] == 参考文献 == {{Reflist}} == 外部リンク == * [[製品評価技術基盤機構]] 化学物質総合情報提供システム(CHRIP) [http://www.safe.nite.go.jp/japan/sougou/view/ComprehensiveInfoDisplay_jp.faces シアン化水素]{{リンク切れ|date=2022年10月}} *{{Kotobank}} *{{Kotobank|シアン化合物}} *{{Kotobank|青酸化合物}} {{炭素の無機化合物}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:しあんかふつ}} [[Category:シアン化物|*]] [[Category:窒素の化合物]] [[Category:無機炭素化合物]] [[Category:アニオン]]
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