シュワルツ超函数のソースを表示
←
シュワルツ超函数
ナビゲーションに移動
検索に移動
あなたには「このページの編集」を行う権限がありません。理由は以下の通りです:
この操作は、次のグループに属する利用者のみが実行できます:
登録利用者
。
このページのソースの閲覧やコピーができます。
{{no footnotes|date=2019年4月}} [[解析学]]における'''シュワルツ超函数'''(シュワルツちょうかんすう、{{lang-en-short|''distribution''}}; 分布)あるいは'''超函数'''({{lang-en-short|''generalized function''}}; 広義の函数)は、[[函数]]の一般化となる数学的対象である。シュワルツ超函数の概念は、古典的な意味での[[導函数]]を持たない函数に対しても[[微分]]を可能とする。特に、任意の[[局所可積分函数]]は超函数の意味で微分可能である。シュワルツ超函数は[[偏微分方程式]]の弱解(広義の解)の定式化に広く用いられる。古典的な意味での解(真の解)が存在しないか構成が非常に困難であるような場合でも、その微分方程式の超函数解はしばしばより容易に求まる。シュワルツ超函数の概念は、多くの問題が自然に解や初期条件が[[ディラック・デルタ]]のような超函数となるような偏微分方程式として定式化される[[物理学]]や[[工学]]においても重要である。 広義の函数としての超函数 {{lang|en|(generalized function)}} は1935年[[セルゲイ・ソボレフ]]によって導入されたが、その後1940年代になって一貫した超函数論を展開する[[ローラン・シュヴァルツ]]によって再導入される。 超函数(distribution)の拡張の一つとして、'''[[佐藤の超函数|佐藤超函数]]'''があるとみなすことができる。 == 基本的な考え方 == 基本的な考え方は、函数を適当な「テスト函数」(扱いやすく[[well-behaved|よい振舞い]]をする函数)の空間上の抽象[[線型汎函数]]と同一視することである。超函数に対する作用・演算は、それをテスト函数へ移行することによって理解することができる。 例えば、''f'': '''R''' → '''R''' を[[局所可積分函数]]、φ: '''R''' → '''R''' をコンパクトな台を持つ(すなわちある有界集合の外側で恒等的に 0 となる)[[滑らかな函数]](つまり無限回微分可能な函数)とする。函数 φ が「テスト函数」である。このとき、 : <math>\left\langle f, \varphi \right\rangle = \int_\mathbb{R} f \varphi \,dx </math> は φ に関して[[線型作用素|線型]]かつ[[連続函数|連続]]に変化する[[実数]]である。それゆえに、函数 ''f'' を「テスト函数」全体の成すベクトル空間上の連続線型[[汎函数]]と看做すことができる。 同様に ''P'' が実数全体で定義される[[確率分布]]で φ がテスト函数であるとき、 : <math>\left\langle P, \varphi \right\rangle = \int_{\mathbb{R}} \varphi\, dP </math> は φ に連続かつ線型に依存する実数であるから、確率分布もまたテスト函数の空間上の連続線型汎函数と看做すことができる。そしてこの「テスト函数の空間上の連続線型汎函数」という概念がシュワルツ超函数の定義として用いられる。 このような超函数に実数を掛けたり、超函数同士を加えたりすることができるから、シュワルツ超函数の全体は実[[ベクトル空間]]を形成する。超函数同士の乗法は一般には定義することができないが、超函数に無限回微分可能函数を掛けることはできる。 超函数の微分を定義するため、まずは可微分かつ可積分な函数 ''f'': '''R''' → '''R''' の場合を考えよう。φ をテスト函数として :<math>\int_{\mathbb{R}}{}{f'\varphi \,dx} = - \int_{\mathbb{R}}{}{f\varphi' \,dx}</math> が[[部分積分]]によって得られる(φ が有界集合の外側で 0 になるから、境界値は考慮する必要がないことに注意)。この式は ''S'' がシュワルツ超函数のとき、その微分 ''S''′ を : <math>\langle S', \varphi \rangle = - \langle S, \varphi' \rangle</math> で定義すべきであることを示唆している。じつはこれは正式な定義である。これにより微分の古典的な定義は拡張され、任意のシュワルツ超函数は無限回微分可能となり、微分の通常の性質も保たれる。 '''例:''' [[ディラックデルタ]](あるいはディラックのデルタ函数)は : <math>\left\langle \delta, \varphi \right\rangle = \varphi(0)</math> で定義される超函数である。これはまた、[[ヘヴィサイドの階段函数]]の超函数の意味での微分である。実際、任意のテスト函数 φ に対して : <math>\begin{align} \langle H', \varphi \rangle & = - \langle H, \varphi' \rangle = - \int_{-\infty}^{\infty} H(x) \varphi'(x)\, dx \\ & = - \int_{0}^{\infty} \varphi'(x) dx = \varphi(0) - \lim_{x\to\infty}\varphi(x) = \varphi(0) \\ & = \langle \delta, \varphi \rangle,\end{align}</math> すなわち、 δ = ''H''′ が成り立つ。ここで lim<sub>''x''→∞</sub> φ(''x'') = 0 なのは台がコンパクトだからである。同様に、ディラックデルタの超函数の意味での微分は :<math>\langle\delta',\varphi\rangle= -\varphi'(0)</math> なる超函数である。後者の超函数は函数でも確率分布でも無い超函数の最初の例である。 == テスト函数と超函数 == 引き続いて、'''R'''<sup>''n''</sup> の[[開集合]] ''U'' 上で定義される実数値超函数の厳密な定義を与える。少し変えれば複素数値超函数も定義することができるし、'''R'''<sup>''n''</sup> を任意の([[パラコンパクト]])[[可微分多様体]]に取り替えることもできる。 初めに定義すべきは ''U'' 上のテスト函数全体の成すベクトル空間 ''D''(''U'') である。それが定義できたら、そこに ''D''(''U'') の元の[[列の極限]]を定義することによって位相を定める必要がある。そうすればシュワルツ超函数全体の成すベクトル空間が、''D''(''U'') 上の[[連続線型汎函数]]全体の成すベクトル空間として得られる。 === テスト函数の空間 === ''U'' 上の'''テスト函数'''の空間 ''D''(''U'') は以下のように定められる。函数 φ: ''U'' → '''R''' が[[コンパクト台]]をもつとは、''U'' のコンパクト部分集合 ''K'' が存在して、''K'' に属さない全ての ''U'' の元 ''x'' に対して φ(''x'') = 0 が成立するようにできることをいう。''D''(''U'') の元は([[隆起函数]]としても知られる)コンパクト台を持つ無限回微分可能函数 φ: ''U'' → '''R''' である。''D''(''U'') は実ベクトル空間を成す。''D''(''U'') の[[位相空間|位相]]は ''D''(''U'') の元の列の極限を定めることによって与えられる。''D''(''U'') 内の列 (φ<sub>''k''</sub>) が φ ∈ ''D''(''U'') に収斂するとは次の二つの条件 * コンパクト集合 ''K'' ⊂ ''U'' で全ての φ<sub>''k''</sub> の台を含む、すなわち<div style="margin:2ex auto 1ex 3em;"><math> \bigcup_k \operatorname{supp}(\varphi_k)\subset K </math></div>を満たすものが存在する。 * 任意の[[多重指数]] α に対して偏導函数の列 (''D''<sup>α</sup>φ<sub>''k''</sub>) は ''D''<sup>α</sup>φ に[[一様収斂]]する。 が満たされることをいう {{harv|Gelfand|Shilov|1966-1968|loc=v. 1, §1.2}}。これにより、''D''(''U'') は[[完備]][[局所凸]][[位相線型空間]]となり、[[ハイネ・ボレルの被覆定理|ハイネ・ボレル性]]が満たされる {{harv|Rudin|1991|loc=§6.4-5}}。''U''<sub>''i''</sub> がコンパクトな閉包 ''K''<sub>''i''</sub> = <span style="text-decoration:overline;">''U''</span><sub>''i''</sub> を持つ ''U'' の可算個の開集合からなる族で ''U'' を尽くすものとすると :<math>D(U) = \bigcup_i D_{K_i} </math> である。ここで ''D''<sub>''K''<sub>''i''</sub></sub> は ''K''<sub>''i''</sub> を台とする滑らかな函数全体の成す集合である。''D''(''U'') の位相は、距離空間の族 ''D''<sub>''K''<sub>''i''</sub></sub> の[[終位相]]であり、それゆえ ''D''(''U'') は[[LF空間]]を成す。''D''(''U'') は[[範疇 (数学)|第一類]]の部分集合の合併であるから、[[範疇 (数学)|ベールの範疇定理]]により、''D''(''U'') の位相は[[距離化可能]]ではない {{harv|Rudin|1991|loc=§6.9}}。 === シュワルツ超函数 === ''U'' 上の'''超函数'''とは '''R''' に値を持つ[[線型汎函数]] ''S'': ''D''(''U'') → '''R''' で、''D'' 内の任意の収斂列 (φ<sub>''n''</sub>) に対して :<math>\lim_{n\to\infty}S(\varphi_n)= S\!\left(\lim_{n\to\infty}\varphi_n\right)</math> を満たすものである。''U'' 上の超函数全体の成す空間は ''D''′(''U'') で表される。同じことだが、ベクトル空間 ''D''′(''U'') は位相線型空間 ''D''(''U'') の[[連続的双対空間]]である。 ''D''′(''U'') の超函数 ''S'' と ''D''(''U'') のテスト函数 φ の双対的な内積は[[山括弧]]を用いて :<math>D'(U) \times D(U) \ni (S, \varphi) \mapsto \langle S, \varphi \rangle \in \mathbb{R}</math> のように書かれる。[[弱*位相|弱-* 位相]]を考えることにより、''D''′(''U'') は[[局所凸]]位相線型空間となる。特に ''D''′(''U'') における列 (''S''<sub>''k''</sub>) が超函数 ''S'' に収斂することは任意のテスト函数 φ に対して :<math>\langle S_k, \varphi\rangle \to \langle S, \varphi\rangle</math> が満たされることと同値である。これはまた、''D''(''U'') の任意の有界部分集合上で ''S'' に[[一様収斂]]することとも同値である(''D''(''U'') の部分集合 ''E'' が有界であるとは、''U'' のコンパクト部分集合 ''K'' と正の数 ''d''<sub>''n''</sub> が存在して、''E'' の任意の元 φ が ''K'' に含まれる台を持ち 任意の ''n''-階導函数が ''d''<sub>''n''</sub> で抑えられることをいう)。 === 超函数としての函数 === 函数 ''f'': ''U'' → '''R''' が'''局所可積分'''であるとは、''U'' の任意のコンパクト部分集合上で[[ルベーグ可積分]]であることをいう。これは函数の非常に大きなクラスであって、連続函数や[[Lp空間| ''L''<sup>''p''</sup>-函数]]などは全て含まれる。先ほどのやり方で定義された ''D''(''U'') の位相に関して、任意の局所可積分函数 ''f'' を ''D''(''U'') 上の連続線型汎函数(すなわち ''D''′(''U'') の元)''T''<sub>''f''</sub> に対応させることができる。''T''<sub>''f''</sub> の値は、任意のテスト函数に対してルベーグ積分 :<math>\langle T_f,\varphi \rangle = \int_U f\varphi\,dx</math> によって与えられる。[[記号の濫用]]ではあるが紛れの虞はないであろうから、通例の如く ''T''<sub>''f''</sub> と ''f'' を同一視して、''f'' と φ との内積をしばしば :<math>\langle f, \varphi\rangle = \langle T_f,\varphi\rangle</math> と記す。''f'', ''g'' がともに局所可積分な函数であるとき、対応する超函数 ''T''<sub>''f''</sub>, ''T''<sub>''g''</sub> が ''D''′(''U'') の同じ元を定めるのは ''f'' と ''g'' が[[殆ど至る所|ほとんど至る所]]一致するときであり、かつそのときに限る(たとえば {{harvtxt|Hörmander|1983|loc=Theorem 1.2.5}} を参照)。同様の方法で、''U'' 上の任意の[[確率測度]] μ はテスト函数 φ における値が ∫ φ''d''μ で与えられる ''D''′(''U'') の元を定める。先ほどと同じように、慣習的に記号を濫用して、確率測度 μ とテスト函数 φ との内積を ⟨μ φ⟩ と記す。反対に、本質的には[[リースの表現定理]]により、非負函数上非負な任意の超函数は(正値の)確率測度からこのようにして得られる。 テスト函数はそれ自身局所可積分であり、それゆえに超函数を定める。それらは、''D''′(''U'') の任意の超函数 ''S'' に対して ''D''(''U'') の元の列 (φ<sub>''n''</sub>) で ''D''′(''U'') の位相に関して :<math>\langle\varphi_n,\psi\rangle\to \langle S,\psi\rangle</math> が任意の ψ ∈ ''D''(''U'') について成り立つようなものが存在するという意味で、''D''′(''U'') の中で[[稠密集合|稠密]]である。このことは、弱位相に関する初等的な事実により ''D''′(''U'') に弱-* 位相を考えたものの双対が ''D''(''U'') であるから、[[ハーン・バナッハの定理]]より直ちに従う {{harv|Rudin|1991|loc=Theorem 3.10}}。畳み込みを用いた議論によりもっと直接的に証明することもできる。 == 超函数に対する演算 == コンパクト台を持つ滑らかな函数のうえに定義される作用や演算の多くが、シュワルツ超函数に対しても定義される。一般に、 :<math>T\colon D(U) \to D(U) </math> がベクトル空間の間の線型写像で、弱-∗ 位相に関して連続ならば、極限を取ることによりこれを :<math> T\colon D'(U) \to D'(U)</math> なる写像まで延長することができる(このことは[[一様連続性]]を持つことを仮定すればもっと一般の非線型写像についても正しい)。 しかし実用上は転置写像(あるいは[[随伴作用素]])として超函数に対する演算を定義するほうが手っ取り早い ({{harvnb|Strichartz|1994|loc=§2.3}}; {{harvnb|Trèves|1967}})。連続線型作用素 ''T'': ''D''(''U'') → ''D''(''U'') に対してその随伴 ''T''<sup>∗</sup>: ''D''(''U'') → ''D''(''U'') とは、任意の φ, ψ ∈ ''D''(''U'') に対して :<math>\langle T\varphi,\psi\rangle = \langle\varphi, T^*\psi\rangle</math> を満たす作用素のことである。このような作用素 ''T''<sup>∗</sup> が存在して連続ならば、もとの作用素 ''T'' は :<math>Tf(\psi) = f(T^*\psi)</math> とおくことにより超函数に対する作用素に延長される。 === 超函数の微分 === 線型作用素 ''T'': ''D''(''U'') → ''D''(''U'') が偏微分 :<math>T\varphi = \frac{\partial\varphi}{\partial x_k}</math> で与えられているとき、部分積分により、φ, ψ ∈ ''D''(''U'') に対し、 :<math>\langle T\varphi,\psi \rangle = \left\langle \frac{\partial\varphi}{\partial x_k},\, \psi \right\rangle = -\left\langle \varphi,\, \frac{\partial\psi}{\partial x_k} \right\rangle</math> が成り立つことがわかるから、''T''<sup>∗</sup> = −''T'' を得る。これは ''D''(''U'') から ''D''(''U'') への連続線型変換である。故に、超函数 ''S'' ∈ ''D''′(''U'') に対して、''S'' の座標系 ''x''<sub>''k''</sub> に関する偏導函数は、任意のテスト函数 φ に対して :<math>\left\langle \frac{\partial S}{\partial x_{k}},\, \varphi \right\rangle = - \left\langle S,\, \frac{\partial \varphi}{\partial x_{k}} \right\rangle</math> なる式で与えられる。これにより、任意のシュワルツ超函数は無限回微分可能となり、また ''x''<sub>''k''</sub> 方向への微分は ''D''′(''U'') 上の線型作用素となる。一般に、 α = (α<sub>1</sub>, ..., α<sub>''n''</sub>) を任意の[[多重指数]]とし、対応する混合偏微分作用素を ∂<sup>α</sup> で表せば、超函数 ''S'' ∈ ''D''′(''U'') の混合偏導函数 ∂<sup>α</sup>''S'' は :<math>\langle \partial^{\alpha} S, \varphi \rangle = (-1)^{| \alpha |} \langle S,\, \partial^{\alpha} \varphi \rangle \mbox{ for all } \varphi \in D(U)</math> で定義される。超函数の微分が ''D''′(''U'') の連続線型作用素となることは、他の多くの微分概念にはない重要かつ著しい性質である。 === 滑らかな函数を掛ける === ''m'': ''U'' → '''R''' を無限回微分可能な函数、''S'' を ''U'' 上のシュワルツ超函数とすると、それらの積 ''mS'' は任意のテスト函数 φ に対し (''mS'')(φ) = ''S''(''m''φ) と置くことにより定まる。また同時に φ ∈ ''D''(''U'') に対して :<math>T_m\colon \varphi\mapsto m\varphi</math> で定まる変換の随伴作用素を考えると、任意のテスト函数 ψ に対し :<math>\langle T_m\varphi,\psi\rangle = \int_U m(x)\varphi(x)\psi(x)\,dx = \langle\varphi, T_m\psi\rangle</math> が成り立つから、''T''<sub>''m''</sub><sup>∗</sup> = ''T''<sub>''m''</sub> がわかる。上のことから、超函数 ''S'' に対して滑らかな函数 ''m'' の作用を :<math>mS(\psi) = \langle mS, \psi\rangle = \langle S, m\varphi\rangle = S(m\varphi)</math> で定義する。滑らかな函数による作用の下で、''D''′(''U'') は[[環上の加群|環 ''C''<sup>∞</sup> 上の加群]]となる。この滑らかな函数による作用に関しても、微分積分学で馴染みのある積の微分法則がやはり有効である。しかし、この積に独特な等式もいくつか生じる。例えば ⟨δ, φ⟩ = φ(0) で定まる '''R''' 上のディラックデルタ超函数 δ の導函数は ⟨δ′, φ = −⟨δ, φ′⟩ = −φ′(0) で与えられるが、これと滑らかな函数 ''m'' との積 ''m''δ′ は :<math>m\delta' = m(0)\delta' - m'\delta</math> なる超函数である。この乗法の定義を用いて、滑らかな函数を係数に持つ線型[[微分作用素]]の超函数への作用を定義することもできる。線型微分作用素 ''P'' は超函数 ''S'' ∈ ''D''′(''U'') を :<math>PS = \sum_{|\alpha|\le k} p_\alpha \partial^\alpha S</math> の形の和で与えられる新たな超函数に移す。ここで係数 ''p''<sub>α</sub> は ''U'' 上の滑らかな函数である。微分作用素 ''P'' が与えられたとき、任意の超函数 ''S'' に対してこのような展開をすることができる最小の整数 ''k'' を ''P'' の'''階数''' {{lang|en|(order)}} という。''P'' の随伴作用素は :<math>\left\langle \varphi,\, \sum_\alpha p_\alpha S\right\rangle = \left\langle \sum_\alpha (-1)^{|\alpha|} \partial^\alpha(p_\alpha\varphi),\, S \right\rangle</math> で与えられる。空間 ''D''′(''U'') は線型微分作用素環の作用に関して[[D-加群| ''D''-加群]]となる。 === 滑らかな函数との合成 === ''S'' を '''R''' の開集合 ''U'' 上のシュワルツ超函数とする。''V'' が '''R''' の開集合で ''F'': ''V'' → ''U'' とするとき、''F'' が[[沈め込み]] {{lang|en|(submersion)}} ならば :<math>S\circ F \in D'(V)</math> を定義することができる。これは超函数 ''S'' と ''F'' との(写像としての)'''合成'''であり、これはまた ''S'' の ''F'' に沿った[[引き戻し (微分幾何学)|引き戻し]]とも呼ばれ、しばしば :<math>F^\sharp\colon S\mapsto F^\sharp S = S\circ F</math> のように書かれる。引き戻しを ''F''<sup>∗</sup> と書くことも多いが、この記法は上で用いたような線型写像の随伴を表す '∗' の使い方と混同する虞がある。 ''F'' が沈め込みであるという条件は、任意の ''x'' ∈ ''V'' に対して ''F'' の[[ヤコビ微分]] ''dF''(''x'') が[[全射]]な線型写像となることと同値である。''F''<sup>#</sup> を超函数に延長できるための必要(だが十分でない)条件は ''F'' が[[開写像]]となることである {{harv|Hörmander|1983|loc=Theorem 6.1.1}}。沈め込みがこの条件を満たすことは[[逆函数定理]]により保証される。 ''F'' が沈め込みのとき、随伴写像を求めることで ''F''<sup>#</sup> は超函数として定まる。''F''<sup>#</sup> が ''D''(''U'') 上の連続線型作用素であるから、この延長の一意性は保障されているが、しかし存在性については[[変数変換]]の公式、逆函数定理、[[1の分割]]などを用いた議論が必要である {{harv|Hörmander|1983|loc=Theorem 6.1.2}}。 ''F'' が '''R'''<sup>''n''</sup> の開集合 ''V'' から '''R'''<sup>''n''</sup> の開集合 ''U'' の上への[[可微分同相写像]]であるような特別の場合には、変数変換は次の積分 :<math>\int_V\varphi\circ F(x) \psi(x)\,dx = \int_U\varphi(x)\psi(F^{-1}(x))|\det dF^{-1}(x)|\,dx</math> で与えられる。従ってこの特別の場合に ''F''<sup>#</sup> は随伴公式 :<math>\langle F^\sharp S,\varphi \rangle = \langle S,|\det d(F^{-1})| \varphi\circ F^{-1}\rangle</math> によって定まる。 == 超函数の局所化 == ''D''′(''U'') に属する超函数の、''U'' 上の特定の点における値というものを定義することはできない。しかし函数に対する場合のように ''U'' 上の超函数を制限して ''U'' の開部分集合上の超函数を得ることができる。さらに言えば、''U'' 全体の上の超函数は交わりの上ではいくつかの貼り合せ条件を満足する ''U'' の開被覆(に属する開集合)上の超函数の集まりから組み立てられるという意味で、超函数は「局所的に定まる」。このような構造は[[層 (数学)|層]]として知られる。 === 制限 === ''U'', ''V'' を '''R'''<sup>''n''</sup> の開集合で ''V'' ⊂ ''U'' を満たすものとする。''E''<sub>''VU''</sub>: ''D''(''V'') → ''D''(''U'') を、''V'' にコンパクトな台を持つ滑らかな函数が与えられたとき、「0 で延長」してより大きな ''U'' にコンパクト台を持つ滑らかな函数と看做す操作とするとき、超函数の制限写像 ρ<sub>''VU''</sub> が ''E''<sub>''VU''</sub> の随伴作用素として定義される。つまり、任意の超函数 ''S'' ∈ ''D''′(''U'') に対してその制限 ρ<sub>''VU''</sub> ''S'' は、任意のテスト函数 φ ∈ ''D''(''V'') に対して :<math>\langle \rho_{VU}S,\varphi\rangle = \langle S, E_{VU}\varphi\rangle</math> を満たす、空間 ''D''′(''V'') に属する超函数として定義される。 ''U'' = ''V'' でない限り ''V'' の制限は[[単射]]でも[[全射]]でもない。全射にならないのは、超函数は ''V'' の境界で発散 {{lang|en|(blow up)}} していてもよいからである。簡単なところでは ''U'' = '''R''', ''V'' = (0,2) のとき、超函数 :<math>S(x) = \sum_{n=1}^\infty n\,\delta\!\left(x-\frac{1}{n}\right)</math> は ''D''′(''V'') に属すが、''D''′(''U'') の元に延長することはできない。 === 超函数の台 === ''U'' 上の超函数 ''S'' ∈ ''D''′(''U'') に対し、''S'' が ''U'' の開集合 ''V'' 上で'''消えている''' {{lang|en|(vanish)}} とは、''S'' が制限写像 ρ<sub>''VU''</sub> の[[核 (代数学)|核]]に属することをいう。陽に書けば、''S'' が ''V'' 上で消えているのは :<math>\langle S,\varphi\rangle = 0</math> が ''V'' 内に台を持つ任意のテスト函数 φ ∈ ''C''<sup>∞</sup>(''U'') について成り立つときである。''V'' を ''S'' が消えているような最大の開集合、すなわち ''S'' が消えているような開集合すべての合併とすると、超函数 ''S'' の'''台''' supp ''S'' とは ''U'' における ''V'' の補集合のことである。それゆえ :<math>\operatorname{supp}\,S = U - \bigcup\left\{V \mid \rho_{VU}S = 0\right\}</math> が成り立つ。超函数 ''S'' が'''コンパクト台'''を持つとは、その台がコンパクト集合であることをいう。陽に書けば、''S'' がコンパクト台を持つとは ''U'' のコンパクト部分集合 ''K'' が存在して、''K'' のまったく外側に台を持つ任意のテスト函数 φ について ''S''(φ) = 0 が成り立つようにすることができることをいう。コンパクト台付き超函数は空間 ''C''<sup>∞</sup>(''U'') 上の連続線型汎函数を定める。ここで ''C''<sup>∞</sup>(''U'') の位相は、テスト函数の列 (φ<sub>''k''</sub>) が 0 に収斂することを、φ<sub>''k''</sub> の全ての導函数が 0 に ''U'' の任意のコンパクト部分集合上で一様収斂することと定めることによって定義されるものである。また逆に、この空間上の任意の連続線型汎函数はコンパクト台付き超函数を定める。 == 緩増加超函数とフーリエ変換 == {{Anchors|緩増加超函数}}緩増加超函数 テスト函数の空間をより大きく取り直すことにより、''D''′('''R'''<sup>''n''</sup>) の部分空間を成す'''緩増加超函数''' {{lang|en|(tempered distribution)}} が定義される。この超函数は[[フーリエ変換]]の一般論の研究に有用である(任意の緩増加超函数はフーリエ変換を持つが、一般のシュワルツ超函数ではそうはいかない)。 ここで考えるテスト函数の空間は[[シュワルツ空間]]とも呼ばれる ''S''('''R'''<sup>''n''</sup>) で、すべての偏微分に沿った無限遠で[[急減少函数|急減少]] {{lang|en|(rapidly decreasing)}} な無限回微分可能函数全体からなる空間である。つまり、φ: '''R'''<sup>''n''</sup> → '''R''' がシュワルツ空間に属するのは、φ の任意の導函数に |''x''| の任意の冪を乗じたものが |''x''| → ∞ の極限でいずれも 0 に収斂するときである。このような函数の全体は、適当な[[半ノルム]]の族を与えることにより、完備な[[位相線型空間]]を成す。もう少し詳しく述べれば、半ノルムの族を大きさ ''n'' の[[多重指数]] α, β に対して :<math> p_{\alpha, \beta}(\varphi) = \sup_{x \in\mathbb{R}^n} | x^\alpha D^\beta \varphi(x)| </math> で与えれば、φ がシュワルツ函数となるのは、全ての半ノルムに対して :<math> p_{\alpha, \beta} (\varphi) < \infty</math> が満たされるときである。半ノルムの族 ''p''<sub>α,β</sub> はシュワルツ空間に[[局所凸位相]]を定める。シュワルツ函数が滑らかであるから、実際にはこれらの半ノルムはシュワルツ空間上の[[ノルム]]になっている。シュワルツ空間は[[距離化可能]]であり、[[完備距離空間|完備]]である。 '''緩増加超函数'''の空間はシュワルツ空間の[[連続的双対空間]]として定められる。言い換えれば、超函数 ''F'' が緩増加超函数であるとは、任意の[[多重指数]] α, β に対して : <math> \lim_{m\to\infty}\sup_{x \in \mathbb{R}^n} | x^\alpha D^\beta \varphi_m(x)| = 0 </math> が成り立つならば : <math> \lim_{m\to\infty} F(\varphi_m)=0 </math> であることをいう。緩増加超函数の導函数は再び緩増加超函数となる。緩増加超函数は、有界あるいは緩増加 {{lang|en|(slow-growing)}} な局所可積分函数を一般化するもので、コンパクト台付き超函数や[[自乗可積分函数]]はすべて緩増加超函数のクラスに含まれる。増大度が高々多項式程度な(すなわち適当な ''r'' をとれば ''f''(''x'') = O(|''x''|<sup>''r''</sup>) となるような)任意の[[局所可積分函数]] ''f'' も全て緩増加超函数であり、これには ''p'' ≥ 1 に対する [[Lp空間|''L''<sup>p</sup>('''R'''<sup>n</sup>)]] に属する函数の全てが含まれる。 緩増加超函数はその「緩増加」性によっても特徴付けることができる。これは、テスト函数のたとえば :<math>\propto |x|^n \cdot \exp (- x^2)</math> のような「急減少」的な振舞いの双対的な特徴である。 フーリエ変換の研究には複素数値のテスト函数と複素線型な超函数を考えたほうが都合がよい。古典的な[[連続フーリエ変換]] ''F'' はシュワルツ函数の空間上の[[自己準同型]]を与える。また、緩増加超函数 ''S'' の'''フーリエ変換'''を任意のテスト函数 ψ に対して (''FS'')(φ) = ''S''(''F''φ) とおくことにより定義することができて、''FS'' はふたたび緩増加超函数となる。このフーリエ変換は緩増加超函数全体の成す空間からそれ自身への連続、線型、かつ全単射な作用素である。この操作は :<math>F\dfrac{dS}{dx}=ixFS</math> の意味で微分と両立する。また、''S'' を緩増加超函数、ψ を'''R'''<sup>''n''</sup> 上の(任意の導函数が高々多項式程度の増大度であるという意味で)緩増加な無限回微分可能函数とすると、''S''ψ はふたたび緩増加超函数で、そのフーリエ変換 :<math>F(S\psi)=FS*F\psi</math> は ''FS'' と ''F''ψ との畳み込みとなるという意味で畳み込みとも両立する == 畳み込み == 適当な状況の下では、函数と超函数、あるいはさらに超函数同士の[[畳み込み]]を定義することができる。 === テスト函数と超函数との畳み込み === ''f'' ∈ ''D''('''R'''<sup>''n''</sup>) はコンパクトな台を持つ滑らかなテスト函数とすると、''f'' との畳み込みは作用素 :<math>C_f\colon D(\mathbb{R}^n)\to D(\mathbb{R}^n);\ g \mapsto C_fg := f*g</math> を定める。これは線型(かつ ''D''('''R'''<sup>''n''</sup>) の[[LF空間]]としての位相に関して連続)である。 このとき、''ƒ'' と超函数 ''S'' ∈ ''D''′('''R'''<sup>''n''</sup>) との畳み込みは、''D''('''R'''<sup>''n''</sup>) と ''D''′('''R'''<sup>''n''</sup>) との双対性によって、''C''<sub>''f''</sub> の随伴をとることによって定義することができる {{harv|Trèves|1967|loc=Chapter 27}}。''f'', ''g'', φ ∈ ''D''('''R'''<sup>''n''</sup>) に対し、[[フビニの定理]]から :<math>\langle C_fg, \varphi\rangle = \int_{\mathbb{R}^n}\varphi(x)\int_{\mathbb{R}^n}f(x-y)g(y)\,dydx = \langle g, C_{\tilde{f}}\varphi\rangle</math> が得られる。ここで ''f''<sup>∼</sup>(''x'') = ''f''(−''x'') である。連続性によりこれを延長して、''f'' と超函数 ''S'' との畳み込みは、任意のテスト函数 φ ∈ ''D''('''R'''<sup>''n''</sup>) に対し :<math>\langle f*S, \varphi\rangle = \langle S, \tilde{f}*\varphi\rangle</math> を満たす超函数として定まる。 函数 ''f'' と超函数 ''S'' との畳み込みを定義する別な方法として、 :<math>\tau_x \varphi(y) = \varphi(y-x)</math> で定義されるテスト函数上の平行移動作用素 τ<sub>''x''</sub> を使って、随伴によって超函数まで延長するという判り易いものもある {{harv|Rudin|1991|loc=§6.29}}。この場合の、コンパクト台を持つ函数 ''f'' と超函数 ''S'' との畳み込みは、各点 ''x'' ∈ '''R'''<sup>''n''</sup> における値が :<math>(f*S)(x) = \langle S, \tau_x\tilde{f}\rangle</math> で与えられる函数である。このコンパクト台付き函数と超函数との畳み込みが滑らかな函数であることを示すことができる。超函数 ''S'' も同様にコンパクト台を持つならば、''f'' ∗ ''S'' もコンパクトな台を持ち、[[ティッチマーシュの畳み込み定理]] {{harv|Hörmander|1983|loc=Theorem 4.3.3}} から :<math>\operatorname{ch}(f*S) = \operatorname{ch}f + \operatorname{ch}S</math> が従う。ここで ch は[[凸包]]を表す。 === コンパクト台付き超函数との畳み込み === '''R'''<sup>''n''</sup> 上の二つの超函数 ''S'' と ''T'' との畳み込みも、いずれか一方がコンパクト台を持てば定義することができる。ざっと述べるに、畳み込み ''S'' ∗ ''T'' を定義するため、ここでは ''T'' がコンパクト台を持つものとして、結合律 :<math>S*(T*\varphi) = (S*T)*\varphi</math> が任意のテスト函数 φ に対しても引き続き成り立つように、畳み込み '∗' の定義を超函数上の線型演算まで拡張することを考える。{{harvtxt|Hörmander|1983|loc=§IV.2}} はこのような拡張の一意性を証明している。 超函数同士の畳み込みのより明示的な特徴付けを与えることもできる {{harv|Trèves|1967|loc=Chapter 27}}。''T'' はコンパクト台を持つものとして、任意のテスト函数 φ ∈ ''D''('''R'''<sup>''n''</sup>) に対し、函数 :<math>\psi(x) = \langle T, \tau_{-x}\varphi\rangle</math> を考える。既に見たようにこれは ''x'' を変数とする滑らかな函数で、さらにコンパクト台を持つ。このとき ''S'' と ''T'' との畳み込みは :<math>\langle S * T,\varphi\rangle = \langle S, \psi\rangle</math> で定義される。これは函数同士の古典的な[[畳み込み]]の概念を一般化するもので、微分とは :<math>\partial^\alpha(S*T)=(\partial^\alpha S)*T=S*(\partial^\alpha T)</math> なる意味で両立する。この畳み込みの定義は ''S'', ''T'' に対する制約条件をもう少し緩めてもなお有効である。たとえば {{harvtxt|Gel'fand|Shilov|1966–1968|loc=v. 1, pp. 103–104}} and {{harvtxt|Benedetto|1997|loc=Definition 2.5.8}} を参照。 == 連続函数の微分としての超函数 == シュワルツ超函数の厳密な定義は ''D''(''U'') の(緩増加超函数の場合は ''S''('''R'''<sup>''d''</sup>) の)代数的双対と呼ばれる非常に大きなベクトル空間の部分空間としてその全体を明示するものである。このような定義からは、このなかにどれほど奇妙な超函数が潜んでいるかといったようなことは、あまりはっきりとは窺い知れない。これに答えるには、連続函数の空間のようなより小さな空間から超函数を作り上げてみるというのが有益である。雑な言い方をすれば、任意の超函数は局所的に連続函数の(高階)導函数になっている。正確な内容は後で述べるとして、このことはコンパクト台付き超函数に対しても、緩増加超函数に対しても、もっと一般の超函数に対しても正しい。一般論として、超函数全体の成す空間のなかで、全ての連続函数を含み微分に関して閉じているような真の部分集合は存在しない。このことが示すのは、超函数の中に取り立てて奇妙な対象は含まれておらず、ただ必要に応じた複雑さを持っているだけであるということである。 === 緩増加超函数の場合 === 緩増加超函数 ''f'' ∈ ''S''′('''R'''<sup>''n''</sup>) に対し、定数 ''C'' > 0 と正の整数 ''M'', ''N'' が存在して、任意のシュワルツ函数 φ ∈ ''S''('''R'''<sup>''n''</sup>) に対して :<math>\langle f, \varphi\rangle \le C\sum_{|\alpha|\le N, \atop |\beta|\le M}\sup_{x\in\mathbb{R}^n}|x^\alpha D^\beta \varphi(x)|=C\sum_{|\alpha|\le N, \atop |\beta|\le M}p_{\alpha,\beta}(\varphi)</math> となるようにできる。この評価に加え函数解析学の手法をいくつか用いることにより、緩増加連続函数 ''F'' と多重指数 α で ''f'' = ''D''<sup>α</sup> ''F'' となるようなものの存在を示すことができる。 === コンパクト台付き超函数の場合 === ''U'' は開集合で ''K'' は ''U'' のコンパクト部分集合とする。''f'' が ''K'' を台に持つ超函数とするとき、''U'' 内に(''K'' 自身よりも大きな集合の可能性もある)コンパクト台をもつ連続函数 ''F'' で適当な多重指数 α に対して ''f'' = ''D''<sup>α</sup> ''F'' を満たすようなものが存在する。これは局所化を考えることにより、すぐ上で緩増加超函数に対して述べた結果から従う。 === 離散的な台を持つ超函数の場合 === 超函数 ''f'' がただ一点 {''P''} を台に持つならば、実は ''f'' は点 ''P'' におけるディラックデルタ δ の超函数の意味の導函数の有限線型結合になっている。つまり、正の整数 ''m'' と |α| ≤ ''m'' なる多重指数 α に対する複素定数 ''a''<sup>α</sup> の集まりが存在して、 :<math> f = \sum_{|\alpha|\le m}a_{\alpha}D^\alpha(\tau_P\delta)</math> と書ける。ここで τ<sub>''P''</sub> は平行移動作用素である。 === 一般の超函数の場合 === 一般の場合にも、先に挙げた場合に成り立っていたようなことが以下に述べるような意味で局所的にはそのまま成り立っている {{harv|Rudin|1991}}。''S'' が ''U'' 上の超函数であるとき、任意の多重指数 α に対して連続函数 ''g''<sup>α</sup> で : <math>S = \sum_{\alpha} D^{\alpha} g_{\alpha}</math> かつ ''U'' の任意のコンパクト部分集合 ''K'' に対して、''K'' と交わるような台を持つ ''g''<sup>α</sup> は有限個となるようなものを求めることができる。そして、これは見かけ上無限和であるが、''U'' にコンパクト台を持つ滑らかな函数 ''f'' が与えられたとき ''f'' に対する ''S'' の値を評価するために必要な ''g''<sup>α</sup> は(台が交わる)有限個だけなので、実質的には有限和であり超函数として矛盾なく定まる。超函数が有限階数ならば、''g''<sup>α</sup> として有限個の例外を除いて全て 0 であるようなものを取ることができる。 == テスト函数として正則函数を用いること == シュワルツ超函数論の成功に刺激を受けて[[佐藤の超函数|佐藤超函数]] {{lang|en|(hyperfunction)}} の概念が生み出された。テスト函数には[[正則函数]]の空間が用いられる。この精錬された理論は特に、[[層の理論]]や[[多変数複素函数論|多変数複素解析]]を駆使する[[佐藤幹夫 (数学者)|佐藤幹夫]]の[[代数解析学]]によって発展した。これにより、例えば[[経路積分|ファインマンの経路積分]]のような形式的な方法の範疇にあったものが、厳密な数学として扱えるようになった。 == 乗法の問題 == 1950年代に[[ローラン・シュヴァルツ]]が生み出したところのシュワルツ超函数論は(あるいは佐藤超函数論も)純粋に線型な理論であって、一般に二つの超函数同士の積については、整合のとれた定義を与えることはできない。たとえば、p.v. 1/''x'' は[[コーシーの主値]]によって与えられる超函数で、任意の φ ∈ ''S''('''R''') に対して :<math>\left(p.v.\frac{1}{x}\right)[\phi] = \lim_{\epsilon\to 0^+} \int_{|x|\ge\epsilon} \frac{\phi(x)}{x}\, dx</math> を満たすものとし、δ をディラックのデルタ超函数とすると : <math>\left(\delta \times x \right) \times p.v. \frac{1}{x} = 0</math> だが : <math>\delta \times \left( x \times p.v. \frac{1}{x} \right) = \delta</math> となるので、(いつでもきちんと定義できる)滑らかな函数による超函数への積を拡張する方法では、超函数の空間における[[結合律|結合的]]な積を得ることはできない。 したがって、超函数論の中からは(積を含むような)非線型な問題は出てこないし、もちろん非線型な問題を超函数論の中だけで解決することもできない。しかし[[場の量子論]]の文脈では解を得ることができる。二以上の次元の時空では、この問題は[[紫外発散|発散]]の[[正則化 (物理学)|正則化]]に関係する。ここに[[ヘンリ・エプスタイン]]と[[ウラジミール・グラセル]]が[[因果的摂動論]]を数学的に厳密に(しかし相当技巧的に)発展させた。他の状況における問題は解決されていない。他にも例えば[[流体力学]]における[[ナヴィエ・ストークス方程式]]のような興味深い理論の多くが非線型である。 このような観点から、満足なものとはいえないながらも[[広義函数]]からなる[[多元環]]の理論がいくつか作られていて、中でも現在よく用いられているものとして[[コロンボ代数|コロンボの(単純化)代数]]を挙げる事ができるだろう。 乗法の問題の単純解は[[量子力学]]の[[経路積分]]による定式化によって記述される。なぜならそれは、(経路積分と共有されるべきはずの性質であるところの)座標変換不変な[[量子力学]]の[[エルヴィン・シュレーディンガー|シュレーディンガー]]理論と同値であることが要請されるからである。これが超函数の全ての積を回復することが {{harvtxt|Kleinert|Chervyakov|2001}} に示されており、この結果は[[次元正則化]]から導かれるところのものと同値である {{harv|Kleinert|Chervyakov|2000}}。 == 関連項目 == * [[超関数]] * [[カレント (数学)|カレント]] * {{ill|コロンボ代数|en|Colombeau algebra}} * [[広義の函数]] * [[斉次分布]] * {{ill|Malgrange–Ehrenpreis theorem|en|Malgrange–Ehrenpreis theorem}} * [[擬微分作用素]] * [[リースの表現定理]] * {{ill|ヴァーグ位相|en|Vague topology}} * [[弱解]] == 参考文献 == * {{citation|first=J.J.|last=Benedetto|title=Harmonic Analysis and Applications|publisher=CRC Press|year=1997}}. * {{citation|first1=I.M.|last1=Gel'fand|first2=G.E.|last2=Shilov|title=Generalized functions|volume=1–5|publisher=Academic Press|year=1966–1968}}. * {{citation|id={{MR|0717035}}|first=L.|last= Hörmander|authorlink=Lars Hörmander|title=The analysis of linear partial differential operators I|series= Grundl. Math. Wissenschaft. |volume= 256 |publisher= Springer |year=1983|isbn=3-540-12104-8 }}. * {{citation | title = Rules for integrals over products of distributions from coordinate independence of path integrals | first1 = H.|last1=Kleinert|authlorlink1=Hagen Kleinert | first2 = A.|last2=Chervyakov| journal = Europ. Phys. J. | volume = C 19 | issue = | pages = 743--747 | year = 2001 | doi = 10.1007/s100520100600 | url = http://www.physik.fu-berlin.de/~kleinert/kleiner_re303/wardepl.pdf}}. * {{citation | title = Coordinate Independence of Quantum-Mechanical Path Integrals | first1 = H.|last1=Kleinert|authlorlink1=Hagen Kleinert | first2 = A.|last2=Chervyakov | journal = Phys. Lett. | volume = A 269 | issue = | pages = 63 | year = 2000 | doi = 10.1016/S0375-9601(00)00475-8 | url = http://www.physik.fu-berlin.de/~kleinert/305/klch2.pdf}}. * {{citation|first=W.|last=Rudin|authorlink=Walter Rudin|title=Functional Analysis|edition=2nd|publisher=McGraw-Hill|year=1991|isbn=0-07-054236-8}}. * {{citation|first=L.|last=Schwartz|year=1954|authorlink=Laurent Schwartz|title=Sur l'impossibilité de la multiplications des distributions|journal=C.R.Acad. Sci. Paris|volume=239|pages=847–848}}. * {{citation|first=L.|last=Schwartz|authorlink=Laurent Schwartz|title=Théorie des distributions|volume=1–2|publisher=Hermann|year=1950–1951}}. * {{citation|first1=Elias|last1=Stein|authorlink1=Elias Stein|first2=Guido|last2=Weiss|title=Introduction to Fourier Analysis on Euclidean Spaces|publisher=Princeton University Press|year=1971|isbn=0-691-08078-X}}. * {{citation|first=R.|last=Strichartz|year=1994|title=A Guide to Distribution Theory and Fourier Transforms|publisher=CRC Press|isbn=0849382734}}. * {{citation|first=François|last=Trèves|title=Topological Vector Spaces, Distributions and Kernels|publisher=Academic Press|year=1967|pages=126 ff}}. == 関連文献 == * M. J. Lighthill (1959). ''Introduction to Fourier Analysis and Generalised Functions''. Cambridge University Press. ISBN 0-521-09128-4 (requires very little knowledge of analysis; defines distributions as limits of sequences of functions under integrals) * [[Hagen Kleinert|H. Kleinert]], ''Path Integrals in Quantum Mechanics, Statistics, Polymer Physics, and Financial Markets'', 4th edition, [http://www.worldscibooks.com/physics/6223.html World Scientific (Singapore, 2006)](also available online [http://www.physik.fu-berlin.de/~kleinert/b5 here]). See Chapter 11 for defining products of distributions from the physical requirement of coordinate invariance. * {{SpringerEOM|title=Generalized function|last=Vladimirov|first=V.S.|author-link= Vasilii Sergeevich Vladimirov|urlname=Generalized_function}}. * {{SpringerEOM|title=Generalized functions, space of|last=Vladimirov|first=V.S.|author-link= Vasilii Sergeevich Vladimirov|urlname=Generalized_functions,_space_of}}. * {{SpringerEOM|title=Generalized function, derivative of a|last=Vladimirov|first=V.S.|author-link= Vasilii Sergeevich Vladimirov|urlname=Generalized_function,_derivative_of_a}}. * {{SpringerEOM|title=Generalized functions, product of|last=Vladimirov|first=V.S.|author-link= Vasilii Sergeevich Vladimirov|urlname=Generalized_functions,_product_of}}. * {{SpringerEOM|title=Generalized function algebras|last=Oberguggenberger|first=Michael|urlname=Generalized_function_algebras}}. {{DEFAULTSORT:しゆわるつちようかんすう}} [[Category:超関数]] [[Category:関数解析学]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
このページで使用されているテンプレート:
テンプレート:Anchors
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Citation
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Harv
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Harvnb
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Harvtxt
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Ill
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Lang
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:Lang-en-short
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:No footnotes
(
ソースを閲覧
)
テンプレート:SpringerEOM
(
ソースを閲覧
)
シュワルツ超函数
に戻る。
ナビゲーション メニュー
個人用ツール
ログイン
名前空間
ページ
議論
日本語
表示
閲覧
ソースを閲覧
履歴表示
その他
検索
案内
メインページ
最近の更新
おまかせ表示
MediaWiki についてのヘルプ
特別ページ
ツール
リンク元
関連ページの更新状況
ページ情報