ジョセフソン効果のソースを表示

[[File:Josephson junction 01.png|thumb|300px|このような二つの超伝導体の間に絶縁体などの障壁がある接合において、障壁層がきわめて薄いとき、超伝導体間に超伝導電流が流れる。この接合を'''ジョセフソン接合'''といい、流れる電流<math>I</math>を'''ジョセフソン電流'''という。]]
'''ジョセフソン効果'''（ジョセフソンこうか、{{Lang-en-short|Josephson effect}}）は、弱く結合した2つの[[超伝導]]体の間に、超伝導電子対の[[トンネル効果]]によって超伝導電流が流れる現象である。1962年に、当時[[ケンブリッジ大学]]の大学院生だった[[ブライアン・ジョセフソン]]によって理論的に導かれ<ref>{{Harvtxt|Josephson|1962}}</ref>、[[ベル研究所]]の[[フィリップ・アンダーソン|アンダーソン]]とローウェルによって実験的に検証された。1973年、ブライアン・ジョセフソンは[[江崎玲於奈]]らと共にジョゼフソン効果の研究により[[ノーベル物理学賞]]を受賞した。[[波動関数]]の位相というミクロな量をマクロに観測できるという点で、超伝導の特徴を最も端的に示す現象と言うことができる。[[超伝導量子干渉計]]（{{lang-en-short|SQUID}}）のようなジョセフソン効果による量子力学回路の重要な実用例もある。

弱結合の種類としては、トンネル接合、サブミクロンサイズのブリッジ、ポイントコンタクト等がある。また、トンネル障壁としては厚さ {{Val|2|ul=nm}} 程度の[[絶縁体]]、厚さ {{Val|10|u=nm}} 程度の常伝導金属あるいは[[半導体]]等が使われる。弱結合を介して流れる超伝導電流をジョセフソン電流、ジョセフソン効果を示すトンネル接合をジョセフソン接合と呼ぶ。電子デバイスとして扱われる場合は[[ジョセフソン素子]]と呼ばれる。

== 原理 ==
超伝導状態の物質はその内部で、すべての[[クーパー対]]が[[ボース＝アインシュタイン凝縮|ボースアインシュタイン凝縮]]により全体として1つの巨大な[[電子対]]としてふるまう。つまり、このとき超伝導を示す電子の物質波の[[位相]]は'''巨大量子化'''によって物質の隅々まで全く同じ状態になる。ミクロでしか作用しなかった量子効果が、超伝導によってマクロな巨大量子状態になって現れたことになる。

仮に2つの超伝導物質を、最初は離したままで常伝導から超伝導へと変えてやると、これらの内部にも完全に位相のそろった大きな電子対をそれぞれ抱えた大きな塊が2つ出来上がる。これら2つの塊は物質波の位相が不揃いであり、<u>近づければ</u>位相を揃えた1つの塊になろうと'''位相差分の電流'''が片方からもう一方へと流れる。このとき<u>電位差は存在しないのに、電流だけが流れる</u>。これが'''ジョセフソン電流'''である。

=== 基本式 ===
以下では、理想的なジョセフソン接合についてその原理を述べる。ジョセフソン効果は次の式によって記述される<ref>この式の簡単な導出がリチャード・P・ファインマン著『[[ファインマン物理学]]』第3巻に見られる</ref>。
# <math>\frac{}{}I(t)=I_c\sin\varphi(t)</math>
# <math>V(t)=\frac{\hbar}{2e}\frac{\partial\varphi}{\partial t}</math>
ここで {{Math|''V''(''t'')}} は接合両端の電圧、{{Math|''I''(''t'')}} はジョセフソン電流、{{math|''&phi;''(''t'')}} は2つの超伝導体の波動関数の位相差である。1番目の式は超伝導電流と位相差の関係を、2番目の式は電圧が位相差の時間変化率と結びついていることを表している。{{mvar|I{{Sub|c}}}} を臨界電流と呼び、次のアンベガオカ・バラトフ ({{lang|und-Latn|Ambegaokar-Baratoff}}) の関係式で与えられる<ref>{{Harvtxt|Ambegaokar|Baratoff|1963}}</ref>。
:<math>I_c=\frac{\pi\Delta(T)}{2eR}\tanh\frac{\Delta(T)}{2kT}</math>
ここで {{math|&Delta;(''T'')}} は超伝導体のエネルギーギャップ、{{Mvar|T}} は温度、{{Mvar|R}} は接合のトンネル抵抗、{{Mvar|k}} は[[ボルツマン定数]]である。ジョセフソン効果には、直流ジョセフソン効果（{{lang-en-short|direct current Josephson effect}}）と交流ジョセフソン効果（{{lang-en-short|alternative current Josephson effect}}）がある。

===直流ジョセフソン効果===
ジョセフソン接合と定電流源をつなぎ、{{Mvar|I{{Sub|c}}}} より小さい、時間的に一定の電流を流したとする。このとき位相差は1番目の式で決まる値に固定され、{{math|{{Sfrac|''&part;&phi;''|''&part;t''}} {{=}} 0}} である。よって電圧降下は発生しない。このように電圧降下を伴わずに接合に直流電流が流れる現象を'''直流ジョセフソン効果'''と呼ぶ。

=== 交流ジョセフソン効果 ===
ジョセフソン接合の両端に電圧をかけた場合を考える。このような状況は、例えばジョセフソン接合に並列に抵抗素子を接続した系に{{Mvar|I{{Sub|c}}}} 以上の電流を流すことによって実現できる。簡単のため電圧は時間的に一定とする。このとき第2の式より、位相差は一定の速度で変化を続ける。ところで第1の式より、超伝導電流は位相差の周期関数であることから、このとき交流の超伝導電流が発生する。その周波数は電圧1ミリボルトあたり {{Val|483.5979|ul=GHz}} である。この関係は材料等に依存せず、[[電気素量]]と[[プランク定数]]のみで定まるため、完璧な周波数電圧変換機（FVC）となる。このように接合に有限電圧がかかっているときに交流電流が流れる現象を'''交流ジョセフソン効果'''と呼ぶ。この効果はジョセフソン接合による[[マイクロ波]]の吸収および放出によって確認できる。交流ジョセフソン効果は、後に述べるように'''電圧標準'''として用いられる。

=== 磁場の効果 ===
ジョセフソン効果の特徴として、[[磁場]]に敏感なことが挙げられる。接合面に水平に磁場をかけたとき、ジョセフソン電流は次の形に書くことができる<ref>例えば、[[マイケル・ティンカム]]著「{{lang|en|Introduction to Superconductivity}}」（マグロウヒル出版、1975年）など</ref>。
:<math>I=I_c\sin\varphi(t,0)\frac{\sin\left(\pi\Phi/\Phi_0\right)}{\pi\Phi/\Phi_0}</math>
ここで {{math|''&phi;''(''t'',0)}} は接合の中心における位相差、{{Math|&Phi;}} は接合を横切る[[磁束]]、{{math|&Phi;{{Sub|0}}}} は'''[[磁束#磁束の量子化|磁束量子]]'''である。これから、最大ジョセフソン電流は次のように磁束によって変調されることがわかる。
:<math>I_\mathrm{max}=I_c\left|\frac{\sin\left(\pi\Phi/\Phi_0\right)}{\pi\Phi/\Phi_0}\right|</math>
上式は、光学とのアナロジーからしばしばフラウンホーファーパターンあるいは干渉パターンと呼ばれる。このようにジョセフソン電流は磁束量子（約 {{Val|2.07|e=-15|ul=Wb}}）オーダーの磁束に敏感に反応することから、超伝導量子干渉計のような磁束計としての応用が可能である。

== 電圧標準としての利用 ==
{{物理定数
|名称=ジョセフソン定数
|英語=Josephson constant
|画像=
|記号={{Math|''K''{{sub|J}}}}
|値={{val|483597.848416983|end=...|e=9|u=Hz/V}}
|不確かさ=
|語源=[[ブライアン・ジョセフソン]]
}}

交流ジョセフソン効果は、[[電圧]]の[[SI単位]]である[[ボルト (単位)|ボルト]]を[[現示]]するための電圧標準として用いられている<ref name="endo_1990">[[#endo_1990|遠藤(1990)]]</ref>。ジョセフソン素子にマイクロ波を照射すると、'''シャピロステップ'''と呼ばれるステップ状の[[電流]]-電圧特性が観測される。照射されるマイクロ波の周波数が {{mvar|f}} のとき、整数 {{mvar|n}} で表される量子化の次数に対応するステップの電圧は {{math|''V''{{Sub|''n''}} {{=}} ''nf''/''K''{{Sub|J}}}} で与えられる。係数 {{math|''K''{{Sub|J}}}} は'''ジョセフソン定数'''と呼ばれ、[[電気素量]] {{mvar|e}} と[[プランク定数]] {{mvar|h}} に {{math|1=''K''{{sub|J}} = 2''e''/''h''}} で理論的に関係付けられている。
2019年5月に発効した[[新しいSIの定義]]において、電気素量とプランク定数の値は不確かさのない定義値であり、これらと関係付けられるジョセフソン定数の値も不確かさのない定義値である。

その値（15桁）は ''K''<sub>J</sub> = 2''e''/''h'' =  {{val|483597.848416983|end=...|u=GHz/V}} である<ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/4_SI_%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%82%A2.pdf 改定国際単位系における電気標準] 金子普久（産総研　計量標準総合センター　物理計測標準研究部門　首席研究員）、p.35、「桁数はいくらでも取ることが可能だが、多くの研究開発、標準での利用において、実用上問題のない桁数として15桁を取ることを原則とする。」</ref>。なお、2018 {{en|[[科学技術データ委員会|CODATA]]}}推奨値<ref>[[#nist|CODATA Value]]</ref>は、{{val|483597.8484|end=...|u=GHz/V}} と10桁の数値としている。

なお、新しいSIが発効する以前は、電圧標準に用いる値として1990年の協定値 ''K''{{Sub|J-90}} = {{Val|483597.9|u=GHz/V}} が使用されていた<ref>[[#nist_kj90|CODATA Value]]</ref><ref name="endo_1990"/>。
{{See also|協定電気単位}}

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* {{cite journal|date=8 June 1962|title=Possible new effects in superconductive tunnelling|url=http://ac.els-cdn.com/0031916362913690/1-s2.0-0031916362913690-main.pdf?_tid=a10db9e4-bc45-11e6-a21c-00000aacb35e&acdnat=1481091972_26a52271faac3cd3e8ba7a12b0f805be|format=[[Portable Document Format|PDF]]|location=[[アムステルダム|Amsterdam]]|publisher=[[エルゼビア|Elsevier]]|journal=[[Physics Letters]]|volume=1|issue=7|pages=251-253|ref=harv|issn=0031-9163|oclc=17972709|first1=B.D.|last1=Josephson|doi=10.1016/0031-9163(62)91369-0}}
* {{cite journal|date=22 April 1963|title=Tunneling Between Superconductors|location={{enlink|Ridge, New York|Ridge, NY|p=off|s=off}}|publisher=[[アメリカ物理学会|American Physical Society]]|journal=[[フィジカル・レビュー|Phys. Rev. Lett.]]|volume=10|issue=11|pages=486-489|ref=harv|first1=Vinay|last1=Ambegaokar|first2=Alexis|last2=Baratoff|issn=0031-9007|lccn=59037543|oclc=1715834|doi=10.1103/PhysRevLett.10.486}}
* {{Cite journal|和書|author= 遠藤忠 |title= 新しい電気の量子標準 - ジョセフソン効果電圧標準と量子ホール効果抵抗標準 |year= 1990 |journal= 応用物理 |volume= 59 |issue= 6 |pages= 712-724 |url= https://doi.org/10.11470/oubutsu1932.59.712 |publisher=[[応用物理学会]] |doi= 10.11470/oubutsu1932.59.712 |naid=130003592553 |ref= endo_1990}}

==関連項目==
* [[超伝導]]
* [[ジョセフソン素子]]
* [[ジョセフソンコンピュータ]]
* [[超伝導量子干渉計]]
* [[ブライアン・ジョセフソン]]
* [[零点エネルギー]]

== 外部リンク ==
* {{Cite web|url=https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?kjos|title=CODATA Value: Josephson constant|accessdate=2019-06-16|publisher=[[アメリカ国立標準技術研究所|NIST]]|ref=nist}}
* {{Cite web|url=https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?kj90|title=CODATA Value: conventional value of Josephson constant|accessdate=2019-06-16|publisher=[[アメリカ国立標準技術研究所|NIST]]|ref=nist_kj90}}
* {{Kotobank|2=[[世界大百科事典]] 第2版}}
{{DEFAULTSORT:しよせふそんこうか}}
{{Physics-stub}}
{{Condensed matter physics topics}}
{{Normdaten}}
[[Category:超伝導]]
[[Category:エポニム]]
[[Category:物理定数|しよせふそんていすう]]