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[[File:Wavepanel.png|thumb|right|220px|温度や圧力といったスカラー場を視覚化するために、明度・彩度や色相を使ってスカラー場の各点における強度を表すことが行われる。]] [[File:Gradient.jpg|thumb|right|220px|矢印の傾きの大きさ(スカラー)を色で表したもの。]] '''スカラー場'''(スカラーば、{{lang-en-short|''scalar field''}})とは、[[数学]]および[[物理学]]において、[[空間]]の各点に[[係数|数学的な数]]やなんらかの物理量の[[スカラー (物理学)|スカラー]]値を対応させた場である。スカラー場には「空間(あるいは[[時空]])の同一点におけるスカラー場の値が、観測者が同じ単位を用いる限りにおいて必ず一致する」という意味で座標に依存しない {{lang|en|(coordinate-independent)}} ことが要求される。物理学で用いられるスカラー場の例としては、空間全体にわたる[[温度]]分布や、液体の[[圧力]]分布、[[ヒッグス粒子|ヒッグス場]]のような[[スピン角運動量|スピン]]を持たない量子場などが挙げられる。これらの場は[[スカラー場の理論]]における主題である。 == 定義 == 数学的には、領域 ''U'' 上の'''スカラー場'''というのは、''U'' 上の[[実数値函数|実]]または[[複素数値函数|複素数値]]の函数や[[シュワルツ超函数|超函数]]のことであり<ref>{{citation|first=Tom|last=Apostol|authorlink=トム・アポストル|title=Calculus, Volume II|publisher=Wiley|year=1969|edition=2nd}}</ref><ref>{{SpringerEOM|title=Scalar|urlname=Scalar}}</ref>、その定義領域 ''U'' は[[ユークリッド空間]]や[[ミンコフスキー空間]]の部分集合とする(あるいはもっと一般の[[多様体]]の部分集合でもいい)。数学においてスカラー場を考えるときは、場に[[連続写像|連続性]]や適当な階数の[[滑らかな関数|連続的微分可能性]]を課して考えるのが普通である。スカラー場は 0-階の[[テンソル場]]であり<ref>{{SpringerEOM|title=Scalar field|urlname=Scalar_field}}</ref>、[[密度ベクトル束|密度束]]や[[微分形式]]、あるいはもっと一般のテンソル場と同様の概念として、単に函数として考えるというのとは異なることを表すのに「スカラー場」という呼称が使われる。 物理学的には、スカラー場はさらにそれがどのような[[物理単位]]についてのものであるかということによっても区別される。この文脈では、スカラー場は物理系がどのような座標系において記述されているかに依存してはならない(つまり、ふたりの観測者が同じ物理単位を用いる限り、物理空間の任意に与えられた点において、ふたりが観測するスカラー場の値は必ず一致していなければならない)。スカラー場は(領域の各点に[[幾何ベクトル|ベクトル]]が付随する)[[ベクトル場]]や[[テンソル場]]、[[スピノル場]]といったものと(あるいは少々微妙だが[[擬ベクトル|擬ベクトル場]]とも)対照を成すものである。 == 物理学における応用 == 物理学では、何らかの力による[[ポテンシャルエネルギー]]を表現するのによく使われる。力場はベクトル場であるが、なにかのスカラー場の[[勾配_(ベクトル解析)|勾配]]を取ったものとして表現できる。つまりベクトル場 '''F''' について、スカラー場 ψ との間に次のような関係があるとき、ψ を特に場 '''F''' の'''スカラーポテンシャル'''と言う。 : <math> \boldsymbol{F} = - \nabla \psi </math> ただし、ここで <math>\nabla</math>は[[ナブラ]]と呼ばれ、 : <math> \nabla = \boldsymbol{i}\frac{\partial}{\partial x} + \boldsymbol{j}\frac{\partial}{\partial y} + \boldsymbol{k}\frac{\partial}{\partial z}</math> として定義される。'''i''', '''j''', '''k'''はそれぞれx, y, z方向の単位ベクトルである。 * ポテンシャル場 [[重力]]や[[電磁力]]によって生じる力を表すスカラー場。 * [[気象学]]での気温、湿度や気圧の場。 === 量子力学と相対性理論における応用 === [[場の量子論]]におけるスカラー場は[[中間子]]や[[ヒッグス粒子]]といった[[スピン角運動量|スピン]]を持たない粒子を表している。スカラー場は、それが時空上の実関数として、あるいは複素関数として表されるかどうかにより実スカラー場または複素スカラー場と呼ばれる。複素スカラー場は電荷を持った粒子を表しており、これには[[標準模型]]の[[ヒッグス場]]や[[強い相互作用]]に介在する[[パイ中間子]]<ref>正確には、パイ中間子は[[擬スカラー]]粒子である。{{cite journal| author=Particle Data Group| authorlink=パーティクルデータグループ| year=2010| title=Particle Physics Booklet|page=23|url=http://ccwww.kek.jp/pdg/2011/html/computer_read.html|accessdate=2011/12/10}}</ref>などがこれに含まれる。 素粒子に関する標準模型の理論において、スカラー場は[[湯川相互作用]]と[[自発的対称性の破れ]]の組み合わせにより[[レプトン (素粒子)|レプトン]]に質量を付加するメカニズム(ヒッグス機構)<ref>P.W. Higgs; ''Phys. Rev. Lett. '''13'''(16): 508'', Oct. 1964.</ref>として働く。これは、未だ発見されていないスピン0のヒッグス粒子と呼ばれる粒子の存在を仮定したうえで導かれるものである。 スカラー場を用いて重力場を表す一連の理論は[[重力のスカラー理論]]と呼ばれる。一方、テンソル場とスカラー場の両方を用いて重力相互作用を記述する理論が[[スカラー・テンソル理論]]である。これには[[カルツァ=クライン理論]]を一般化したジョルダン理論<ref>P. Jordan ''Schwerkraft und Weltall'', Vieweg (Braunschweig) 1955.</ref>や、[[ブランス=ディッケ理論]]<ref>{{cite journal|last=Brans| first= C. H.| coauthors = Dicke, R. H.| year= 1961| title=Mach's Principle and a Relativistic Theory of Gravitation | journal=[[Physical Review]] | volume = 124 | issue = 3 | pages=925–935 |doi = 10.1103/PhysRev.124.925}}</ref>などが含まれる。スカラー・テンソル理論におけるスカラー場はたとえば標準模型のヒッグス場として現れるが<ref>{{cite journal|author=A. Zee| year= 1979| title=Broken-Symmetric Theory of Gravity | journal=[[Physical Review Letters]] | volume = 42 | issue = 7 | pages=417–421 |doi = 10.1103/PhysRevLett.42.417}}</ref><ref>{{cite journal|author=H. Dehnen, H. Frommert and F. Ghaboussi| year= 1992| title=Higgs field and a new scalar-tensor theory of gravity | journal=Int. J. of Theor. Phys. | volume = 31 | issue = 1 | pages=109-114 |doi = 10.1007/BF00674344}}</ref>、これは質量を獲得する粒子との間で重力的かつ短距離的([[湯川ポテンシャル]]的)に相互作用する<ref>{{cite journal|author=H. Dehnen and H. Frommmert| year= 1991| title=Higgs-field gravity within the standard model | journal=Int. J. of Theor. Phys. | volume = 30 | issue = 7 | pages=985-998 |doi = 10.1007/BF00673991}}</ref>。 [[超弦理論]]におけるスカラー場に、テンソルの量子アノマリーを保持しつつ、弦の共形対称性を破る機構である[[ディラトン]]場が挙げられる<ref>{{cite journal |first=C. H. |last=Brans |title=The Roots of scalar–tensor theory |journal=arXiv |arxiv=gr-qc/0506063 |year=2005 |bibcode=2005gr.qc.....6063B }}</ref>。 また、スカラー場は[[ビッグバン#地平線問題|地平線問題]]を解決し宇宙定数の非自明性の仮説的な説明を与えており、[[宇宙のインフレーション]]に寄与していると考えられている<ref>{{cite journal|author=Alan H. Guth| year= 1981| title=Inflationary universe: A possible solution to the horizon and flatness problems | journal=[[Physical Review D]] | volume = 23 | issue = 2 | pages=347–356 |doi = 10.1103/PhysRevD.23.347}}</ref>。この文脈での質量を持たない(遠隔相互作用を表す)スカラー場はインフラトンと呼ばれている。いっぽう、近接相互作用をあらわす質量を持ったスカラー場(例えばヒッグス場の類似)も提唱されている<ref>{{cite journal|author=J.L. Cervantes-Cota and H. Dehnen| year= 1995| title=Induced gravity inflation in the SU(5) GUT | journal=[[Physical Review D]] | volume = 51 | issue = 2 | pages=395–404 |doi = 10.1103/PhysRevD.51.395}}</ref>。 == 別な種類の「場」== * [[ベクトル場]]は空間の各点に[[幾何ベクトル|ベクトル]]を対応させる。ベクトル場の例としては、[[電磁場]]やニュートン的な重力場などが挙げられる。 *[[テンソル場]]では空間の各点に[[テンソル]]が結び付けられる。たとえば、[[一般相対論]]的な重力場はテンソル場(特に[[リーマン曲率テンソル]]場)になっている。[[カルツァ=クライン理論]]での時空は五次元に拡張され、そのリーマン曲率テンソルは([[電磁場]]に対する[[マクスウェル方程式]]と同様に)通常の四次元重力場の成分ともうひとつの余分な成分とに分けることができる。この余分に付け加えられたスカラー場は「[[ディラトン]]」として知られる。このようなディラトン・スカラーは[[弦理論]]における質量無しボソン場の中からも見つかる。 == 参考文献 == {{Reflist}} == 関連項目 == * [[スカラー場の理論]] * [[ベクトル値函数]] *[[スカラー波]] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:すからあは}} [[Category:場の量子論]] [[Category:ベクトル解析]] [[Category:数学に関する記事]]
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