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{{Otheruses|ストロンチウムの同位体|バンド|ストロンチウム90 (バンド)}} {{Infobox 同位体 | background = #7F7 | image = | isotope_name = ストロンチウム90 | isotope_filename = | alternate_names = | mass_number = 90 | symbol = Sr | num_neutrons = 52 | num_protons = 38 | abundance = 〜0 % | halflife = 28.79 y | decay_mode1 = β<sup>-</sup> | decay_energy1 = 0.545908(1406) | decay_product = <sup>90</sup>Y | decay_symbol = | decay_mass = | mass = 89.907733342(2752) <ref>{{cite web | title = Nuclide Information 38-Sr-90 | url = http://wwwndc.jaea.go.jp/cgi-bin/nuclinfo2010?38,90 | publisher = | accessdate = 2011-04-08}}</ref> | spin = 0<sup>+</sup> | excess_energy = -85945.838 | error1 = 2.564 | binding_energy = 8695.9 | error2 = 0.032 (1核子当り) }} '''ストロンチウム90'''は[[ストロンチウムの同位体]]の一種であり、その[[質量数]]が90のものを指す。天然[[ストロンチウム]]に存在する[[安定同位体]]({{sup|84}}Sr, {{sup|86}}Sr, {{sup|87}}Sr, <sup>88</sup>Sr)より[[中性子過剰核|中性子過剰]]であるためβ不安定核となり、[[放射性同位体]]である。 [[ウラン]]や[[プルトニウム]]の[[核分裂反応|核分裂]]生成物として数%程度生成し、[[放射性廃棄物|高レベル放射性廃棄物]]やいわゆる[[放射性降下物|死の灰]]中に多量に含まれる。 == 放射性崩壊 == ストロンチウム90は中性子過剰であるため[[ベータ崩壊|β崩壊]]により{{sup|90}}Y([[イットリウム]])を生成し、これはさらにβ崩壊して安定な{{sup|90}}Zr([[ジルコニウム]])となる。純粋な{{sup|90}}Srは初期には{{sup|90}}Yを殆ど含まないが次第に増加し1ヶ月程度で放射平衡に達し、約3900分の1の{{sup|90}}Yを定常的に含むようになる。 [[半減期]]は28.79年であり、1グラムのストロンチウム90の放射能強度は5.11×10<sup>12</sup>[[ベクレル]]となるが、続いて半減期の短い(64時間)娘核種の{{sup|90}}Yの崩壊を伴うため最終的にはこの2倍となる。{{sup|90}}Yのβ崩壊エネルギーは2279.783±1.619 keVと、{{sup|90}}Srの545.908±1.406 keVよりもかなり高く、より透過性の高い[[ベータ粒子|β線]]を放射し危険性も高い。その透過力は厚さ1cmの水で遮蔽出来ないほどであり、体内に取り込まれると充分に細胞を損傷し得る。 : <math>\mathrm{^{90}_{38}Sr\ \xrightarrow [28.79\ years] {\beta^-\ 0.5459\ MeV} \ ^{90}_{39}Y\ \xrightarrow [64.053\ hours] {\beta^-\ 2.280\ MeV} \ ^{90}_{40}Zr}</math> == 存在 == 自然界には殆ど存在しないが、稀に起きる天然ウランの[[自発核分裂]]により痕跡量が存在する<ref name="Sr90">[http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/8.html 放射能ミニ知識 ストロンチウム-90] 原子力資料情報室(CNIC)]</ref>。現在環境中で検出されるストロンチウム90は殆どが過去における[[核実験]]による放射性降下物の残留物である<ref>三宅泰雄, 猿橋勝子, 葛城幸雄 ほか、「[https://doi.org/10.2467/mripapers1950.12.2_180 東京におけるCs-137及びSr-90の蓄積量]」 『Papers in Meteorology and Geophysics.』 1961年 12巻 2号 p.180-181, {{doi|10.2467/mripapers1950.12.2_180}}</ref>。1950年代から1960年代にかけて盛んに核実験が行われたため、半減期の約2倍の期間が経過した2011年でも当時環境中に放出された{{sup|90}}Srの約1/4が残存していることになる。ストロンチウムの[[単体]]は極めて反応活性な[[金属]]で、水とさえ激しく反応して水素を発生するため環境中において単体としては存在し得ず、常に水中や化合物中のイオン(Sr<sup>2+</sup>)として存在する。 == 生成 == [[ウラン235]]が減速中性子により核分裂を起こすと質量数が90-100付近および130-145付近の分裂断片を生成する。これらの分裂断片はより質量数の大きな原子核由来のものであるから一般的に中性子過剰であり、β崩壊を繰り返して最終的に安定同位体に移行する<ref name=yagi>八木浩輔 『基礎物理学シリーズ4 原子核物理学』 朝倉書店、1989年</ref>。これらの分裂断片およびそのβ崩壊生成物として例えば{{sup|137}}Cs、{{sup|131}}I、および{{sup|90}}Srなどがある。 : <chem>{^{235}U} + {}^{1}n -> {}^{144}{Xe} + {}^{90}{Sr} + 2^{1}{n}</chem> {| class="wikitable" style="float:right; text-align: center" |+ 核分裂による<sup>90</sup>Srの生成率 / % ! 親核種 !! 熱中性子 !! 高速中性子 !! 14.1 MeV中性子 |- | <sup>232</sup>Th || 核分裂せず || 7.32 ± 0.36 || 6.2 ± 1.5 |- | <sup>233</sup>U || 6.648 ± 0.073 || 6.39 ± 0.33 || 5.07 ± 0.80 |- | <sup>235</sup>U || 5.73 ± 0.13 || 5.22 ± 0.18 || 4.41 ± 0.18 |- | <sup>238</sup>U || 核分裂せず || 3.11 ± 0.14 || 3.07 ± 0.16 |- | <sup>239</sup>Pu || 2.013 ± 0.054 || 2.031 ± 0.057 || ? |- | <sup>241</sup>Pu || 1.510 ± 0.074 || 1.502 ± 0.041 || ? |} <sup>235</sup>Uの核分裂により直接生成する{{sup|90}}Srの[[核分裂収率]]は0.074%に過ぎないが、他に質量数90の生成物としては{{sup|90}}Kr(半減期32.3秒)が核分裂収率4.4%と最も多く生成し、次いで{{sup|90}}Rb-m(0.71%、半減期4.3分)、{{sup|90}}Br(0.55%、半減期1.9秒)、{{sup|90}}Rb(0.21%、半減期2.6分)などがあり、これら質量数90の短寿命の核種がβ崩壊して、{{sup|90}}Srを生成する<ref>Fission Product Yields per 100 Fissions or 235U Thermal Neutron Induced Fission Decay, T.R. England and B.F. Rider, LA-UR-94-3106, ENDF-349</ref>。 :<math>\mathrm{^{235}_{}U} + \mathrm{^{1}_{}n} \rightarrow \mathrm{^{144}_{}Ba} + \mathrm{^{90}_{}Kr} + 2 \mathrm{^{1}_{}n}</math> : <math>\mathrm{^{90}_{36}Kr\ \xrightarrow [32.3\ seconds] {\beta^-\ 4.392\ MeV} \ ^{90}_{37}Rb\ \xrightarrow [2.6\ minutes] {\beta^-\ 6.580\ MeV} \ ^{90}_{38}Sr}</math> 核分裂により[[ストロンチウム89|{{sup|89}}Sr]]も同程度生成し、これはより強いβ崩壊エネルギー1496.866±2.145 keVを持ち放射能強度もはるかに高いが、半減期が50.53日と短くより短期間で消滅して安定な{{sup|89}}Yとなる<ref>{{cite web | title = Nuclide Information 38-Sr-89 | url = http://wwwndc.jaea.go.jp/cgi-bin/nuclinfo2010?38,89 | publisher = | accessdate = 2011-04-09}}</ref>。 1954年に[[ビキニ環礁]]で行われた[[キャッスル作戦|水爆実験]]では多量の放射能が放出され、130km以上離れた場所で操業していた[[第五福竜丸]]が死の灰を浴び、乗組員や水揚げされた[[マグロ]]から検出されたストロンチウム90が脚光を浴びた。 [[1956年]][[4月16日]]から17日にかけても、日本各地で高濃度のストロンチウム90を含む放射能雨が観測された<ref>{{Cite book |和書 |editor=日外アソシエーツ編集部 |title=日本災害史事典 1868-2009 |publisher=日外アソシエーツ |year=2010-09-27 |page=112 |isbn=9784816922749}}</ref>。 [[原子力発電所]]の事故ではストロンチウム90は、[[ヨウ素131]]や[[セシウム137]]と比較して[[化合物]]の揮発性が低いため比較的漏出しにくいが、1986年の[[チェルノブイリ原子力発電所事故]]においては放出が確認され周辺の土壌を汚染した。チェルノブイリ事故で放出された放射能はベクレル数で比較した量的にはストロンチウム90よりも[[キセノン133]]、ヨウ素131およびセシウム137の方が多かった<ref>{{PDFlink|[http://cnic.jp/files/che20_20060304imfr.pdf チェルノブイリ原発事故:何が起きたのか]}}</ref>。 ストロンチウムは[[カルシウム]]と化学的性質が類似するため、動物体内では摂取されると一部は排泄されるものの大部分が骨に取り込まれて体内で{{sup|90}}Srおよびその娘核種の{{sup|90}}Yが[[ベータ粒子|β線]]を放出し続ける<ref name="Sr90" />。崩壊時に[[ガンマ線|γ線]]は殆ど放出しないが、{{sup|90}}Yの崩壊においては極一部、<sup>90</sup>Zrの励起状態の核種である1.761 MeV順位(スピン0<sup>+</sup>, 0.01%)および2.186 MeV順位(スピン2<sup>+</sup>, 1.4×10<sup>-6</sup>%)への崩壊に進む<ref>山田勝美 『原子核はなぜ壊れるか』 丸善、1989年</ref>。また半減期が比較的長いため放射線を長期間に亘って出し続けることになる。特に内部被曝による[[骨腫瘍]]の危険性がある<ref>原澤進『ラジオアイソトープ 基礎原子力講座3』コロナ社、1979年</ref>。 == 分析 == 環境中のストロンチウム90を分析する場合、{{sup|90}}Sr及びその娘核たる{{sup|90}}Yは崩壊時にγ線を殆ど放出せず、固有ガンマ線の直接測定による分析が不可能である。そのため、試料からストロンチウムを化学的に分離してからβ線を測定するという手法を取らざるを得ない。 一般的な手法は、試料溶液から[[炭酸ストロンチウム]]の形で沈殿を生成させ[[塩酸]]で溶解後、[[イオン交換樹脂]]を詰めたカラムで妨害元素を分離し、鉄(III)塩 (Fe{{sup|3+}})と[[アンモニア水]]を加えて沈殿する[[水酸化鉄(III)]]と共に、共存している娘核種の{{sup|90}}Yを共沈させて除く(スカベンジング、掃除して除くという意味)。この濾液を2週間から4週間放置して{{sup|90}}Yを充分に生成させ、再び鉄(III)塩とアンモニア水を加えて水酸化鉄(III)と共に<sup>90</sup>Yを沈殿させて分離し(ミルキング、母牛{{sup|90}}Srから牛乳{{sup|90}}Yを搾り出すという意味)、この{{sup|90}}Yのβ線を測定して{{sup|90}}Srの量を算出する<ref>{{PDFlink|[http://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/lib/No2.pdf 文部科学省『放射性ストロンチウム分析法』放射能測定法シリーズ2、2003年]}}</ref><ref>日本分析化学会『分析化学便覧』丸善、1991年</ref>。共存していた<sup>90</sup>Yを一旦除去した後、再びこれを生成させて測定するのは正確を期するためである<ref>[http://www.jcac.or.jp/method_sea_6.html 財団法人 日本分析センター]</ref>。なお、分析用溶液の化学処理の際に作業者が[[被曝]]する問題を有している。 別な分析方法としては、2013年に[[福島大学]]や日本原子力研究開発機構らの研究グループが開発した方法で、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を利用し、{{sup|90}}Srに特化するものの1検体を20分程度で分析可能である。また、土壌濃度で約5 Bq/kg 程度が検出限界で、且つ自動処理で有るため作業者の被爆を抑制できる特徴がある<ref>{{PDFlink|[http://www.fukushima-u.ac.jp/press/H25/pdf/55_05.pdf 放射性物質ストロンチウム90の迅速分析法の開発]}} [[福島大学]] </ref>。 このほかに、液体シンチレーションカウンタを用いる方法で、4 - 5 日程度で分析可能な方法もある<ref>中野政尚, 檜山佳典, 渡辺均 ほか、[https://doi.org/10.3769/radioisotopes.59.319 液体シンチレーションカウンタを用いた排水中{{sup|89}}Sr及び{{sup|90}}Sr迅速分析法] 『RADIOISOTOPES』 2010年 59巻 5号 p.319-328, {{doi|10.3769/radioisotopes.59.319}}</ref>。 == 応用 == 他方でこの高いベータ線エネルギーや長い半減期を利用して、宇宙船、無人気象ステーションおよび航行用ブイの動作用エネルギー源の[[原子力電池]]として応用が進められている。 == 脚注・参考文献 == {{reflist}} == 外部リンク == * [https://doi.org/10.3769/radioisotopes.29.11_542 β線スペクトロメトリーによる{{sup|89}}Srおよび{{sup|90}}Srの定量] RADIOISOTOPES Vol.29 (1980) No.11 P542-545 * {{Kotobank}} {{DEFAULTSORT:すとろんちうむ90}} [[Category:ストロンチウムの同位体|90]] [[Category:核分裂生成物]]
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