スピン構造のソースを表示

{{翻訳直後|date=2016年5月| [{{fullurl:en:Spin_structure|oldid=693176642}} en:Spin structure 22:16, 30 November 2015 の版]}}
{{正確性|date=2016年4月}}
[[微分幾何学]]において、[[向き付け可能]][[リーマン多様体]] {{math|(''M'',&nbsp;''g'')}} 上の'''スピン構造'''（スピンこうぞう、{{lang-en-short|''spin structure''}}）は、付随する{{仮リンク|スピノル束|en|spinor bundle}}の定義を可能にし、微分幾何学における[[スピノル]]の概念を生じる。

[[数理物理学]]、特に[[場の量子論]]へ広く応用され、電荷を持たない[[フェルミオン]]に関する任意の理論の定義にスピン構造は必須である。純粋数学的にも、[[微分幾何学]]や[[代数的位相幾何学]]、[[K-理論]]などに於いてスピン構造は興味の対象である。スピン構造は{{仮リンク|スピン幾何学|en|spin geometry}}に対する基礎付けを成す。

== 導入 ==
[[幾何学]]および[[場の理論]]において、与えられたリーマン多様体 {{math|(''M'', ''g'')}} が[[スピノル]]を持つことができるか否かは興味のある問題である。この問題を扱うための一つの方法が、{{mvar|M}} が'''スピン構造'''を持つと仮定することである{{sfn|Haefliger|1956}}{{sfn|Milnor|1963}}{{sfn|Lichnerowicz|1964}}{{sfn|Karoubi|1968}}。しかし常にそのように仮定してよいわけではなく、スピン構造の存在に対する位相的な障害の可能性がある。スピン構造が存在するための必要十分条件は、{{mvar|M}} の二次[[スティーフェル&ndash;ホイットニー類]] {{math|''w''{{ind|2}}(''M'') ∈ ''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} が消えていることである。さらに言えば、{{math|1=''w''{{ind|2}}(''M'') = 0}} ならば、{{mvar|M}} 上のスピン構造の同型類全体の成す集合の上には {{math|''H''{{msup|1}}(''M'', {{math|'''Z'''{{msub|2}}}})}} が自由かつ推移的に作用する。多様体 {{mvar|M}} は向き付けられていると仮定すれば、{{mvar|M}} の一次スティーフェル&ndash;ホイットニー類 {{math|''w''{{ind|1}}(''M'') ∈ ''H''{{msup|1}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} も消えている（多様体 {{mvar|M}} の各スティーフェル&ndash;ホイットニー類 {{math|''w{{ind|i}}''(''M'') ∈ ''H{{msup|i}}''(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} は、{{mvar|M}} の[[接束]] {{mvar|TM}} のスティーフェル&ndash;ホイットニー類として定義される）。

{{mvar|M}} 上のスピノルの束 {{math|''π{{msub|S}}'': ''S'' → ''M''}} は、「{{mvar|M}} のスピン標構 {{math|''π''{{msub|'''P'''}}: '''P''' → ''M''}} に対応する[[主束]]が付随する複素ベクトル束」であり、そしてまた、「その構造群が[[スピン群]] {{math|Spin(''n'')}} であるような、スピノルの空間 {{math|Δ{{msub|''n''}}}} を表現空間とするスピン表現」である。この束 {{mvar|S}} を与えられた {{mvar|M}} 上の'''スピン構造'''に対する'''{{仮リンク|スピノル束|en|spinor bundle}}'''と呼ぶ。

多様体上の'''スピン構造'''の精確な定義は、[[ファイバー束]]の概念を導入して初めて可能である。{{harvtxt|Haefliger|1956}} は、向き付け可能なリーマン多様体上のスピン構造の存在に対する位相的な障害を発見し、{{harvtxt|Karoubi|1968}} はこの結果を、向き付け不能な擬リーマン多様体にまで拡張した。

== リーマン多様体上のスピン構造 ==
=== 定義 ===
[[向き付け可能]]な[[リーマン多様体]] {{math|(''M'', ''g'')}} 上の'''スピン構造'''とは、向き付けられた直交標構束 {{math|''F''{{msub|SO}}(''M'')}} → {{mvar|M}} の、二重被覆 {{math|''ρ'': Spin(''n'') → SO(''n'')}} に関する{{仮リンク|同変|en|equivariant}}持ち上げを言う。すなわち、対 {{math|('''P''', ''F''{{msub|'''P'''}})}} が'''主束 {{math|''π'': ''F''{{msub|SO}}(''M'') → ''M''}} 上のスピン構造'''であるとは、{{ordered list
|1= {{math|''π''{{msub|'''P'''}}: '''P''' → ''M''}} は {{mvar|M}} 上の主 {{math|Spin(''n'')}}-束である。
|2= {{math|''F''{{msub|'''P'''}}: '''P''' → ''F''{{msub|SO}}(''M'')}} は同変二重[[被覆写像]]であって {{math|1=π ∘ ''F''{{msub|'''P'''}} = π{{msub|'''P'''}}}} かつ任意の {{math|'''p''' &isin; '''P''', ''q'' &isin; Spin(''n'')}} に対して {{math|1=''F''{{msub|'''P'''}}('''p'''''q'') = ''F''{{msub|'''P'''}}('''p''')''ρ''(''q'')}} を満たす。
}}

が満たされるときに言う。この主束 {{math|''π''{{msub|'''P'''}}: '''P''' → ''M''}} を、{{mvar|M}} 上の'''スピン標構'''束とも呼ぶ。

同じ一つの向き付けられた[[リーマン多様体]] {{math|(''M'', ''g'')}} 上の、二つのスピン構造 {{math|('''P'''{{ind|1}}, F{{msub|'''P'''{{ind|1}}}}), ('''P'''{{ind|2}}, F{{msub|'''P'''{{ind|2}}}})}} が'''同値'''であるとは、{{math|Spin(''n'')}}-同変写像 {{math|''f'': '''P'''{{ind|1}} → '''P'''{{ind|2}}}} が存在して、{{math|1=''F''{{msub|'''P'''{{ind|2}}}} ∘ ''f'' = ''F''{{msub|'''P'''{{ind|1}}}}}} かつ任意の {{math|'''p''' &isin; '''P'''{{ind|1}}, ''q'' ∈ Spin(''n'')}} に対して {{math|1=''f''('''p'''''q'') = ''f''('''p''')''q''}} とできるときに言う。 

もちろん、この場合の {{math|''F''{{msub|'''P'''{{ind|1}}}}, ''F''{{msub|'''P'''{{ind|2}}}}}} は、与えられたリーマン多様体 {{math|(''M'', ''g'')}} 上の向き付けられた正規直交標構 {{math|SO(''n'')}}-束 {{math|''F''{{msub|SO}}(''M'') → ''M''}} の二つの同値な二重被覆である。

この「主束 {{math|''F''{{msub|SO}}(''M'') → ''M''}} 上のスピン構造」としての {{math|(''M'', ''g'')}} 上のスピン構造の定義は、{{harvtxt|Haefliger|1956}} による。

=== 障害 ===
{{harvtxt|Haefliger|1956}} は、向き付けられたリーマン多様体 {{math|(''M'', ''g'')}} 上のスピン構造の存在に対する必要十分条件を発見した。スピン構造を持つことに対する障害となるのは、{{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} のある種の元 {{math|{{bracket|''k''}}}} である。スピン構造に対して、その類 {{math|{{bracket|''k''}}}} は {{mvar|M}} の二次の[[スティーフェル&ndash;ホイットニー類]] {{math|''w''{{ind|2}}(''M'') ∈ ''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} である。従って、スピン構造が存在するための必要十分条件は、{{mvar|M}} の二次スティーフェル&ndash;ホイットニー類 {{math|''w''{{ind|2}}(''M'') ∈ ''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} が消えていることである。

== ベクトル束のスピン構造 ==
{{mvar|M}} を[[パラコンパクト]][[位相多様体]]とし、{{mvar|M}} 上の[[向き付け]]られた {{mvar|n}}-次元ベクトル束 {{mvar|E}} は{{仮リンク|ファイバー計量|en|fibre metric}}を持つとする（これは、{{mvar|M}} の各点における {{mvar|E}} のファイバーが[[内積空間]]であることという意味である）。{{mvar|E}} の'''スピノル束'''は、{{mvar|M}} の各点に対して一貫した仕方でスピン表現を付随させるための処方箋になる。スピン構造を持つことが可能となることへの位相的障害が存在し、その結果として、与えられた束 {{mvar|E}} が如何なるスピノル束も持たないこともありうる。{{mvar|E}} がスピン構造を持つ場合、束 {{mvar|E}} は'''スピン'''である（スピン束）という。

このことは、[[主束]]を考えることによって厳密にすることができる。ベクトル束の{{仮リンク|正規直交標構|en|orthonormal frame}}全体の成す集合は{{仮リンク|標構束|en|frame bundle}} {{math|''P''{{msub|SO}}(''E'')}} を成す（これは[[特殊直交群]] {{math|SO(''n'')}} の作用の下での主束である）。{{math|''P''{{msub|SO}}(''E'')}} に対するスピン構造とは、{{math|''P''{{msub|SO}}(''E'')}} の（[[スピン群]] {{math|Spin(''n'')}} の作用の下の）主束 {{math|''P''{{msub|Spin}}(''E'')}} への'''持ち上げ'''である。これはつまり、束写像 {{math|''φ'': ''P''{{msub|Spin}}(''E'') → ''P''{{msub|SO}}(''E'')}} が存在して、任意の {{math|''p'' &isin; ''P''{{msub|Spin}}(''E''), ''g'' &isin; Spin(''n'')}} に対して {{math|1=''φ''(''pg'') = ''φ''(''p'')''ρ''(''g'')}} が成り立つということを意味する。ここに、 {{math|''ρ'': Spin(''n'') → SO(''n'')}} はスピン群を {{math|SO(''n'')}} の二重被覆として表わす群準同型である。

{{mvar|E}} が底多様体 {{mvar|M}} 上の[[接束]] {{mvar|TM}} である特別の場合には、スピン構造が存在するとき {{mvar|M}} をスピン多様体と呼ぶ。同じことだが、多様体 {{mvar|M}} が'''スピン'''であるとは、{{mvar|M}} の接ファイバーの[[正規直交基底]]のなす {{math|SO(''n'')}}-主束が、主スピン束の {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}-商であるときに言う。

多様体が[[CW複体|胞体分割]]や[[三角分割]]を持つとき、スピン構造は等価的に、1-骨格上の[[接束]]を 2-骨格上に拡張したものの自明化 (trivialization) のホモトピー類として考えることができる。次元が 3 より低い場合には、まず自明直線束とのホイットニー和をとる。

=== 障害 ===
ベクトル束 {{mvar|E}} 上のスピン構造が存在するための必要十分条件は、{{mvar|E}} の二次[[スティーフェル&ndash;ホイットニー類]] {{math|''w''{{ind|2}}}} が消えていることである。これは {{harvtxt|Borel|Hirzebruch|1958}}の結果である。ここで、{{math|''π{{msub|E}}'': ''E'' → ''M''}} が[[向き付け可能]][[ベクトル束]]と仮定したことに注意せよ。

=== 分類 ===
スピン構造が存在するとき、多様体上の互いに同値でないスピン構造の全体は、{{math|''H''{{msup|1}}(''M'', '''Z'''{{ind|2}})}}（これは、[[普遍係数定理]]により {{math|''H''{{ind|1}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} と同型）の元全体と（標準的でない）[[一対一対応]]を持つ。より精確に述べれば、スピン構造の同型類全体の成す空間は、{{math|''H''{{msup|1}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} 上の[[アフィン空間]]である。

直観的には、{{mvar|M}} 上の各非自明サイクルに対して、スピン構造は SO(N)-束の切断がループを囲むとき被覆面を切り替えるか否かの二者択一に対応する。{{math|''w''{{ind|2}}}} が消えているとき、これらの選択は二次元{{仮リンク|骨格 (位相幾何学)|label=骨格|en|n-skeleton}} (2-骨格) へ拡張でき、それゆえ（{{仮リンク|障害理論|en|obstruction theory}}により）自動的に {{mvar|M}} 全体の上まで拡張できる。[[素粒子物理学]]においてこのことは、各ループを周る[[フェルミオン]]に対する周期的または反周期的[[境界条件]]の選択に対応する。

=== 素粒子物理学への応用 ===
[[素粒子物理学]]における[[スピン統計定理]]は、電荷を帯びていない[[フェルミオン]]の[[波動函数]]が、{{仮リンク|付随するベクトル束|en|associated vector bundle}}の切断の {{math|SO(''n'')}}-束 {{mvar|E}} へのスピン持ち上げであることを含意する。従って、スピン構造の選択は波動函数を定義するために必要なデータの一部であり、[[分配函数 (場の量子論)|分配函数]]での選択を渡る和をとることにしばしば必要となる。多くの物理理論で {{mvar|E}} は[[接束]]であるが、[[弦理論]]における[[Dブレーン|D-ブレーン]]の世界体積上のフェルミオンに対しては{{仮リンク|法束|en|normal bundle}}をとる。

=== 例 ===
# [[種数]] {{mvar|g}} の[[リーマン面]]は、同値でないスピン構造を {{math|2{{exp|2g}}}} 個持つ。{{仮リンク|テータ特性類|en|theta characteristic}}の項を参照。
# {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{ind|2}})}} が消えるならば {{mvar|M}} はスピン多様体である。たとえば、{{mvar|S{{msup|n}}}} は任意の {{math|''n'' (&ne; 2)}} に対してスピン多様体である。（実は {{math|''S''{{msup|2}}}} もスピン多様体となるが、理由が異なる。後述）
# 複素[[射影平面]] {{math|'''CP'''{{msup|2}}}} はスピン多様体でない。
# より一般に、すべての偶数次元[[複素射影空間]] {{math|'''CP'''{{msup|2''n''}}}} はスピン多様体でない。
# すべての奇数次元[[複素射影空間]] {{math|'''CP'''{{msup|2''n''+1}}}} はスピン多様体である。
# 三次元以下のすべてのコンパクトな[[向き付け可能]]多様体はスピン多様体である。
# すべての[[カラビ・ヤウ多様体]]はスピン多様体である。

=== 性質 ===
* スピン多様体の[[種数 (乗法的数列)#Â 種数|Â 種数]]は整数であり、さらに次元が 4 mod 8 であれば偶数である。
*:一般に、Â 種数は有理数不変量で、任意の多様体に対し定義されるが、一般に整数ではない。
*:これはもともと[[フリードリッヒ・ヒルツェブルフ|ヒルツェブルフ]]と[[アルマン・ボレル|ボレル]]により証明されたもので、[[アティヤ&ndash;シンガーの指数定理]]によって証明することができ、Â 種数は{{仮リンク|ディラック作用素|en|Dirac operator}}（ディラック作用素は二階作用素の平方根であり、スピン構造が「平方根」であるおかげで存在する）の指数として実現することができる。これは指数定理に対して動機付ける例であった。

== スピン{{sup|''c''}}-構造==
スピン構造の類似物として、'''スピン{{sup|''c''}}&shy;構造'''は向き付けられた[[リーマン多様体]]上で定義される<ref>{{Cite book | last1=Lawson | first1=H. Blaine | last2=Michelsohn | first2=Marie-Louise|author2-link=Marie-Louise Michelsohn | title=Spin Geometry | publisher=[[Princeton University Press]] | isbn=978-0-691-08542-5 | year=1989 | postscript=<!--None-->}} page 391
</ref>が、用いる群がスピン{{sup|''c''}}群、すなわち[[完全系列]]
:<math>1 \to \mathbb{Z}_2 \to \operatorname{Spin}^{\mathbb{C}}(n) \to \operatorname{SO}(n)\times U(1) \to 1</math>
により定義される群 {{math|Spin{{msup|'''C'''}}(''n'')}} であるところが異なる。これを動機付けるために {{math|κ: Spin(''n'') → ''U''(''N'')}} を複素スピノル表現と仮定する。{{math|''U''(''N'')}} の中心は、包含 {{math|''i'': ''U''(1) → ''U''(''N'')}} からくる[[対角行列|対角元]]（つまり[[スカラー行列|恒等写像のスカラー倍]]）から成る。ゆえに、[[準同型]]
:<math>\kappa\times i\colon \operatorname{Spin}(n)\times U(1)\to U(N)</math>
が存在して、この準同型の核は必ず元 {{math|(-1, -1)}} を持ち、この元を法とする商をとると {{math|Spin{{msup|'''C'''}}(''n'')}} を得る。この群は、ねじれ積
: <math>\operatorname{Spin}^{\mathbb{C}}(n) = \operatorname{Spin}(n)\times_{\mathbb{Z}_2} U(1)</math>
である（{{math|1=''U''(1) = ''SO''(2) = '''S'''{{msup|1}}}} に注意せよ）。すなわち群 {{math|Spin{{msup|'''C'''}}(''n'')}} は {{math|SO(''n'')}} の {{math|'''S'''{{msup|1}}}} による[[群の拡大#中心拡大|中心拡大]]である。

別な方法として、{{math|Spin{{msup|'''C'''}}(''n'')}} は {{math|Spin(''n'') × Spin(''2'')}} の正規部分群 {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}（これは、束 {{math|Spin(''n'') → ''SO''(''n'')}} および {{math|Spin(2) → SO(2)}} のそれぞれに対する被覆変換の対で生成される）に関する商群である。これにより、スピン{{sup|c}}群は {{math|Spin(''n'')}} をファイバーに持つ円周上の束とも、円をファイバーに持つ {{math|''SO''(''n'')}} 上の束とも見ることができる<ref>{{cite journal|title=''Spin<sup>c</sup>-structures and homotopy equivalences''|author=R. Gompf|doi=10.2140/gt.1997.1.41|journal=[[Geometry & Topology]]|volume=1|year=1997|pages=41&ndash;50}}</ref><ref>{{Cite book | last1=Friedrich|first1=Thomas| title = Dirac Operators in Riemannian Geometry| publisher=[[American Mathematical Society]] | year=2000|isbn=978-0-8218-2055-1 | postscript=<!-- Bot inserted parameter. Either remove it; or change its value to "." for the cite to end in a ".", as necessary. -->{{inconsistent citations}}}}
page 26</ref>。

基本群 {{math|''π''{{ind|1}}(Spin{{msup|'''C'''}}(''n''))}} は {{math|'''Z'''}} に同型である。

多様体が[[CW複体|胞体分割]]や[[三角分割]]を持つならば、'''スピン{{sup|''c''}}-構造'''を等価的に、2-{{仮リンク|骨格 (位相幾何学)|label=骨格|en|n-skeleton}}上の[[複素多様体|複素構造]]を 3-骨格に拡張したもののホモトピー類と考えることができる。スピン構造のときと同様に、多様体が奇数次元ならば、自明直線束とのホイットニー和を取る。

さらに別の定義は、多様体 {{mvar|N}} 上の'''スピン{{sup|''c''}}-構造'''とは、{{mvar|N}} 上の複素直線束 {{math|L}} と {{math|''TN'' &oplus; ''L''}} 上のスピン構造の対であるとするものである。

=== 障害 ===
スピン{{sup|''c''}}&shy;構造が存在するのは、束 {{mvar|E}} が向き付け可能かつその束の二次[[スティーフェル&ndash;ホイットニー類]]が準同型 {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z''') → ''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''/2'''Z''')}} の像に属する（すなわち、三次の整係数スティーフェル&ndash;ホイットニー類が消えている）ときである。このとき、束 {{mvar|E}} は「スピン{{sup|''c''}}である」（スピン{{sup|''c''}}-束）という。直観的には、弧の持ち上げが、任意に得られたスピン{{sup|''c''}}束の {{math|''U''(1)}}-成分のデカルト平方の[[チャーン類]]を与える。ホップとヒルツェブルフの定理により、向き付け可能な四次元閉多様体は、常にスピン{{sup|''c''}}&shy;構造を持つ。

=== 分類 ===
多様体がスピン{{sup|''c''}}-構造を全く持つとき、スピン{{sup|''c''}}&shy;構造全体の成す集合は、アフィン空間を成す。さらに言えば、スピン{{sup|''c''}}&shy;構造の空間には、{{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z''')}} が自由かつ推移的に作用する。従って、スピン{{sup|''c''}}&shy;構造は（自然な方法ではないけれども）{{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z''')}} の元に対応する。

==== 幾何学的な説明 ====
これを以下のように幾何学的に解釈することができる（これは[[エドワード・ウィッテン]]によるものである）。スピン{{sup|''c''}}-構造は 0 でないとき、この平方根束は非整係数チャーン類を持つ（これは{{仮リンク|2-コサイクル条件|en|triple overlap condition}}が成り立たないことを意味する）。特に、三種類ある任意の二つの交叉上の遷移函数の積は（[[主束]]となるのに必要な条件であるところの）恒等的に {{math|1}} にならず、ところどころ {{math|&minus;1}} となる。

この条件の不成立は、遷移函数の三重積に関して同じ条件の不成立によって{{仮リンク|スピノル束|label=スピン束|en|spinor bundle}}となることが妨げられるのと、ちょうど同じ交叉において起きる。従って、完全 (full) スピン{{sup|''c''}}-束の遷移函数の三重積（これは、スピン束の三重積と {{mvar|''U''(1)}}-成分束の三重積との積である）は、{{math|1=1{{exp|2}} = 1}} か {{math|1=&minus;1{{exp|2}} = 1}}の何れかであり、それゆえこのスピン{{sup|''c''}}-束はコサイクル条件を満たして、正当な束となる。

==== 詳細 ====
上記の直観的な幾何学的説明は以下のように具体的にすることができる。[[完全系列|短完全列]] {{math|0 → '''Z''' → '''Z''' → '''Z'''{{msub|2}} → 0}} を考える。ここに、二つ目の矢印は各整数を {{math|2}}-倍する写像であり、三つ目の矢印は法 {{math|2}} に関する還元である。これによって誘導されるコホモロジーの[[完全系列|長完全列]]は
: <math>\dotsb \to H^2(M;\mathbf Z) \stackrel{2}{{}\to{}} H^2(M;\mathbf Z) \to H^2(M;\mathbf Z_2) \stackrel{\beta}{{}\to{}} H^3(M;\mathbf Z) \to \dotsb</math>
なる部分を含む。二つ目の矢印は {{math|2}}-倍写像の誘導する準同型であり、三つ目は法 {{math|2}} に関する制限から誘導される準同型で、四つ目は付随する{{仮リンク|ボックシュタイン準同型|en|Bockstein homomorphism}} {{mvar|β}} である。

スピン束の存在に対する障害は {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} のひとつの元 {{math|''w''{{ind|2}}}} である。これは、{{math|''SO''(''N'')}}-束のスピン束への局所持ち上げは常に可能だが、各遷移函数の {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}-持ち上げの選択（それは符号を選ぶことである）が必要があるという事実を反映するものである。三重交叉上でこれら三つの符号の積が {{math|&minus;1}} であるとき持ち上げは存在しない。これは {{math|''w''{{ind|2}}}} の{{仮リンク|チェックコホモロジー|en|Čech cohomology}}の様子を教えるものである。

この障害を打ち消すために、このスピン束と同じ障害 {{math|''w''{{ind|2}}}} を持つ {{math|''U''(1)}}-束とのテンソル積束をとる。これが「束」の[[用語の濫用|語の濫用]]であることに注意すべきである（スピン束も {{math|''U''(1)}}-束もコサイクル条件を満たさないので、どちらも実際には束でない）。

正当な {{math|''U''(1)}}-束は[[チャーン類]]により分類される（これは {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z''')}} の元である）。この類を上記の完全系列の一項目の元と同一視すると、次の矢印はこのチャーン類を二倍するから、正当な束は二項目の {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z''')}} の偶数である元と対応する。一方、奇数である元はコサイクル条件を満たさない束と対応する。よって、障害は二項目の {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z''')}} が矢印の像のに属することが満足されないこと（これは完全性により、次の矢印による {{math|''H''{{msup|2}}(''M'', '''Z'''{{msub|2}})}} の像により分類される）によって分類される。

スピン束に関する対応する障害を打ち消すには、この像が {{math|''w''{{ind|2}}}} である必要がある。特に、{{math|''w''{{ind|2}}}} が矢印の像に属さなければ、障害が {{math|''w''{{ind|2}}}} に等しい如何なる {{math|''U''(1)}}-束も存在せず、従って障害は打ち消されない。完全性により {{math|''w''{{ind|2}}}} が直前の矢印の像に属するのは、次の矢印（これがボックシュタイン準同型 {{mvar|β}} であることを思い出そう）の核に属するときに限る。すなわち、障害を打ち消すための条件は
:::<math>W_3=\beta w_2=0</math>
である。ここで、三次の整係数スティーフェル&ndash;ホイットニー類 {{math|''W''{{ind|3}}}} は、二次スティーフェル&ndash;ホイットニー類 {{math|''w''{{ind|2}}}} のボックシュタイン準同型像である（このことを W{{ind|3}} の定義として採用することもできる）という事実を用いた。

==== スティーフェル&ndash;ホイットニー類の整係数持ち上げ ====
この議論は、二次のスティーフェル&ndash;ホイットニー類は {{math|'''Z'''{{ind|2}}}}-係数コホモロジーの元ばかりでなく、ひとつ高次の整係数コホモロジーの元をも定義することを示している。実は、これは任意の偶数次スティーフェル&ndash;ホイットニー類に対して同じことが言える。そうして得られる奇数次の累に対して、慣習的に大文字の {{mvar|W}} が用いられ、それぞれの次数（これは常に奇数）をラベルとして、整係数スティーフェル&ndash;ホイットニー類と呼ぶ。

=== 素粒子物理学への応用 ===
[[場の量子論]]において、電荷を帯びたスピノルは付随するスピン{{sup|''c''}}-束の切断であり、また特に、電荷を帯びないスピノルはスピン{{sup|''c''}}-構造を持たない空間の中には存在することができない。ある種の[[超重力理論]]においてこのことの例外が生じる（そこでは追加の相互作用が、他の場が三次のスティーフェル&ndash;ホイットニー類を打ち消す可能性を暗に含む）。

=== 例 ===
# 四次元以下の任意の[[向き付け|向き付けられた]][[滑らかな多様体]]は、スピン{{sup|''c''}}-多様体である<ref>{{Cite book | last1=Gompf | first1=Robert E. | last2=Stipsicz | first2=Andras I. | title=4-Manifolds and Kirby Calculus | publisher=[[American Mathematical Society]] | isbn=0-8218-0994-6 | year=1999 | pages=55&ndash;58, 186&ndash;187}}</ref>。
# 任意の[[概複素多様体]]はスピン{{sup|''c''}}-多様体である。
# 任意のスピン多様体はスピン{{sup|''c''}}-多様体である。

==ベクトル構造==
スピン構造が[[ベクトル束]]の随伴スピン束への持ち上げであるのに対して、ベクトル構造とは他の束の随伴ベクトル束への持ち上げを言う。

=== 障害 ===
たとえば、{{math|SO(8)}}-束を考えると、群 {{math|SO(8)}} は三つの八次元表現を持っていて、そのうち二つはスピノル的であり、そのひとつはベクトル表現である。これら三つの表現は同型により互いに取り換えることができて、三対性 (triality) と呼ばれる。{{math|SO(8)}}-ベクトル束 {{mvar|E}} を与えたとき、付随するスピン束に関する障害は、二次スティーフェル&ndash;ホイットニー類 {{math|''w''{{ind|2}}(''E'')}}（これは {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}-係数二次コホモロジー群の元）である。三対性により、与えられた {{math|SO(8)}}-スピン束 {{mvar|F}} の随伴ベクトル束の存在に対する障害が、同じコホモロジー群の別の元（これをしばしば {{math|{{hat|''w''}}{{ind|2}}(''F'')}} と書く）であることがわかる。

=== 素粒子物理学への応用 ===
物理学においてベクトル構造が初めて考慮されたのは、論文 {{cite article| url=http://www.arxiv.org/abs/hep-th/9605184 |title= Anomalies, Dualities and Topology of ''D''=6, ''N''=1 Superstring Vacua | author1-link= :en:Micha Berkooz | first1= Micha | last1= Berkooz | author2-link= :en:Robert Leigh | first2= Robert | last2= Leigh | author3-link= :en:Joseph Polchinski | first3= Joseph | last3= Polchinski| author4-link= ジョン・シュワルツ | first4= John | last4= Schwarz | author5-link= :en:Nathan Seiberg | first5= Nathan | last5= Seiberg | author6-link= エドワード・ウィッテン | first6= Edward | last6= Witten}} である。彼らは、{{仮リンク|I型弦理論|en|Type I string theory|label= I-型の弦理論}}（その配置は、その上に {{math|Spin(32)/'''Z'''{{msub|2}}}}-主束を持つ10次元多様体からなる）を考えた。そのような束はベクトル構造を持ち、それゆえすべての三重交叉上の遷移函数の三重積が {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}-商の自明元であるとき {{math|SO(32)}}-束に持ち上がる。これが起こるのはちょうど {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}-係数特性 2-コサイクル {{math|{{hat|''w''}}{{msub|2}}}} が消えるときである。

続く年、{{cite article | url= http://www.arxiv.org/abs/hep-th/9703157 | title= The Mirror Transform of Type I Vacua in Six Dimensions | author1-link= :en:Ashoke Sen| first1= Ashoke | last1= Sen | author2-link= :en:Savdeep Sethi | first2= Savdeep | last2= Sethi}} は、I-型超弦理論は（流束の無い場合において）この特性類が自明である場合に限り無矛盾 (consistent) であることを実証した。より一般に、I-型弦理論において[[B-場]]は {{math|'''Z'''{{msub|2}}}}-係数二次のコホモロジーに属する類でもあり、彼らはこれが {{math|{{hat|''w''}}{{msub|2}}}} と等しくなければならないことを示している。

== 関連項目 ==
* {{仮リンク|正規直交標構束|en|Orthonormal frame bundle}}
* [[スピノル]]
* {{仮リンク|スピノル束|en|Spinor bundle}}

==参考文献==
<references/>
* {{cite journal|title=Sur l’extension du groupe structural d’un espace fibre|first= A. |last= Haefliger|journal=C. R. Acad. Sci. Paris|volume=243|year=1956|pages=558&ndash;560|ref=harv}}
* {{cite journal|title=Spin structures on manifolds|first=J.|last= Milnor|journal=L'Enseignement Math.|volume=9|year=1963|pages=198&ndash;203|ref=harv}}
* {{cite journal|title=Champs spinoriels et propagateurs en relativite generale|first=A.|last= Lichnerowicz|author-link=Andre Lichnerowicz|journal=Bull. Soc. Math. Fr.|volume=92|year=1964|pages=11&ndash;100|ref=harv}}
* {{cite journal|title=Algebres de Clifford et K-theorie|first=M. |last=Karoubi|journal=Ann. Sci. Ec. Norm. Sup.|volume=1|year=1968|pages=161&ndash;270|issue=2|ref=harv}}
* {{cite journal|author1-link=アルマン・ボレル |first1=A.|last1= Borel|author2-link=フリードリッヒ・ヒルツェブルフ|first=F. |last=Hirzebruch |title=Characteristic classes and homogeneous spaces I|journal=[[American Journal of Mathematics]]|volume=80|year=1958|pages=97&ndash;136|doi=10.2307/2372795|jstor=2372795|issue=2}}

== 関連文献 ==
* {{Cite book | last1=Lawson | first1=H. Blaine | last2=Michelsohn | first2=Marie-Louise | title=Spin Geometry | publisher=[[Princeton University Press]] | isbn=978-0-691-08542-5 | year=1989 | postscript=<!--None-->}}
* {{Cite book | last1=Friedrich|first1=Thomas| title = Dirac Operators in Riemannian Geometry| publisher=[[American Mathematical Society]] | year=2000|isbn=978-0-8218-2055-1 | postscript=<!-- Bot inserted parameter. Either remove it; or change its value to "." for the cite to end in a ".", as necessary. -->{{inconsistent citations}}}}
* {{Cite book | last1=Karoubi | first1=Max|title=K-Theory | publisher=Springer | isbn=978-3-540-79889-7 | year=2008 |pages=212&ndash;214| postscript=<!--None-->}}
* {{Cite book | last1=Greub | first1=Werner | last2=Petry | first2=Herbert-Rainer. |title=On the lifting of structure groups | publisher=in Lecture Notes in Mathematics, Springer-Verlag | isbn= |volume=676| year=1978 |pages=217&ndash;246| postscript=<!--None-->}}

==外部リンク==
*[http://earthlingsoft.net/ssp/studium/2001spring/Spin.pdf Something on Spin Structures] by Sven-S. Porst is a short introduction to [[orientability|orientation]] and spin structures for mathematics students.

{{DEFAULTSORT:すひんこうそう}}
[[Category:リーマン多様体]]
[[Category:多様体論]]
[[Category:代数的位相幾何学]]
[[Category:K-理論]]
[[Category:数理物理学]]
[[Category:数学に関する記事]]