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[[数学]]の[[解析学]]の分野には、[[ソボレフ空間]]のノルムを含むノルムに関して、'''ソボレフ不等式'''(ソボレフふとうしき、{{Lang-en-short|Sobolev inequality}})の類が存在する。それらは、ある種のソボレフ空間の間の包含関係を与える'''ソボレフ埋蔵定理'''(Sobolev embedding theorem)や、わずかに強い条件の下でいくつかのソボレフ空間は別のものに[[コンパクトな埋め込み|コンパクトに埋め込まれる]]ことを示す[[レリッヒ=コンドラショフの定理]]を証明するために用いられる。[[セルゲイ・ソボレフ]]の名にちなむ。 == ソボレフ埋蔵定理 == {{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 上のすべての実数値函数で、{{mvar|k}} 階までの[[弱微分]]が [[Lp空間|{{math|''L<sup>p</sup>''}}]] に含まれるものからなるソボレフ空間を {{math|''W<sup> k,p</sup>''('''R'''<sup>''n''</sup>)}} と表す。ここで {{mvar|k}} は非負の整数で、{{math|1 ≤ ''p'' < ∞}} である。ソボレフ埋蔵定理の第一の部分では、{{math|''k'' > ''ℓ''}} と {{math|1 ≤ ''p'' < ''q'' < ∞}} が {{math|(''k'' − ''ℓ'')''p'' < ''n''}} および :<math>\frac{1}{q} = \frac{1}{p}-\frac{k-l}{n}</math> を満たす二つの実数であるなら、 :<math>W^{k,p}(\mathbf{R}^n)\subset W^{l,q}(\mathbf{R}^n)</math> であり、この[[連続的埋め込み|埋め込みは連続]]であることが示されている。{{math|''k'' {{=}} 1}} および {{math|''ℓ'' {{=}} 0}} であるような特別な場合では、次が成り立つ: <math>W^{1,p}(\mathbf{R}^n) \subset L^{p^*}(\mathbf{R}^n)</math> ここで {{math|''p''<sup>∗</sup>}} は、次で与えられる {{mvar|p}} の[[ソボレフ共役]]である: :<math>\frac{1}{p^*} := \frac{1}{p} - \frac{1}{n}.</math> このようなソボレフ埋蔵定理の特別な場合は、ガリャルド=ニーレンバーグ=ソボレフ不等式(Gagliardo–Nirenberg–Sobolev inequality)の直接的な帰結である。 ソボレフ埋蔵定理の第二の部分は、[[ヘルダー条件|ヘルダー空間]] {{math|''C<sup> r,α</sup>''('''R'''<sup>''n''</sup>)}} の埋め込みに対して適用される。すなわち、{{math|''α'' ∈ (0, 1)}} に対して {{math|(''k'' − ''r'' − ''α'')/''n'' {{=}} 1/''p''}} であるなら、次の埋め込みが成立する: <math>W^{k,p}(\mathbf{R}^n)\subset C^{r,\alpha}(\mathbf{R}^n).</math> ソボレフ埋蔵定理のこの部分は、モレーの不等式(Morrey's inequality)の直接的な帰結である。直感的に、十分高い階の弱微分の存在は古典的な微分のある種の連続性を意味することを、この包含関係は表している。 === 一般化 === ソボレフ埋蔵定理は、他の適切な領域 {{mvar|M}} 上のソボレフ空間 {{math|''W<sup> k,p</sup>''(''M'')}} に対しても成立する。特に、上述の第一、第二のいずれの部分も成立するための十分条件として、次が挙げられる({{harvnb|Aubin|1982|loc=Chapter 2}}; {{harvnb|Aubin|1976}}): * {{mvar|M}} は[[リプシッツ連続|リプシッツ境界]]を持つ(あるいは境界が錐条件を満たす;{{harvnb|Adams|1975|loc=Theorem 5.4}}){{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 内の[[有界集合|有界]][[開集合]]; * {{mvar|M}} は[[コンパクト空間|コンパクト]][[リーマン多様体]]; * {{mvar|M}} はリプシッツ境界を持つコンパクトリーマン多様体; * {{mvar|M}} は単射半径 {{math|''δ'' > 0}} と有界な[[断面曲率]]を持つ完備リーマン多様体。 === コンドラショフ埋蔵定理 === {{main|レリッヒ=コンドラショフの定理}} 境界が {{math|''C''<sup>1</sup>}} であるようなコンパクト多様体に関する'''コンドラショフ埋蔵定理'''(Kondrachov embedding theorem)では、{{math|''k'' > ''ℓ''}} と {{math|''k'' − ''n''/''p'' > ''ℓ'' − ''n''/''q''}} が成り立つなら、ソボレフの埋め込み :<math>W^{k,p}(M)\subset W^{l,q}(M)</math> は[[コンパクト作用素|完全連続]]であることが示されている。 == ガリャルド=ニーレンバーグ=ソボレフ不等式 == {{mvar|u}} は[[コンパクトな台]]を持つ {{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 上の連続的微分可能な実数値函数とする。このとき {{math|1 ≤ ''p'' < ''n''}} に対し、{{mvar|n}} と {{mvar|p}} にのみ依存するある定数 {{mvar|C}} が存在して次の不等式が成り立つ: : <math>\|u\|_{L^{p^*}(\mathbf{R}^n)}\leq C \|Du\|_{L^{p}(\mathbf{R}^n)}.</math> このガリャルド=ニーレンバーグ=ソボレフ不等式は、次のソボレフの埋め込みを直接的に意味する: :<math>W^{1,p}(\mathbf{R}^n) \sub L^{p^*}(\mathbf{R}^n).</math> すると適切に反復することにより、{{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 上の他の位数の埋め込みも得ることが出来る。 == ハーディ=リトルウッド=ソボレフの補題 == ソボレフ自身によるソボレフ埋蔵定理の本来の証明は、ハーディ=リトルウッド=ソボレフの{{仮リンク|分数冪積分|en|fractional integration}}定理として知られる以下の内容に従うものであった。同様の内容は {{harv|Aubin|1982|loc=Chapter 2}} においては'''ソボレフの補題'''としても知られている。証明は {{harv|Stein|loc=Chapter V, §1.3}} に見られる。 {{math|0 < ''α'' < ''n''}} と {{math|1 < ''p'' < ''q'' < ∞}} を定める。{{math|''I<sub>α</sub>'' {{=}} (−Δ)<sup>−''α''/2</sup>}} を {{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} 上の[[リースポテンシャル]]とする。このとき、 :<math>q := \frac{pn}{n-\alpha p}</math> に対して、{{mvar|p}} にのみ依存する定数 {{mvar|C}} が存在して、次が成り立つ: :<math>\left \|I_\alpha f \right \|_q \le C \|f\|_p.</math> {{math|''p'' {{=}} 1}} なら、次の弱い形式の評価が成立する: :<math>m \left \{x;\ \left |I_\alpha f(x) \right | > \lambda \right \} \le C \Big( \frac{\|f\|_1}{\lambda} \Big)^q</math> ここで {{math|1/''q'' {{=}} 1 − ''α''/''n''}} である。 ハーディ=リトルウッド=ソボレフの補題は、[[リース変換]]とリースポテンシャルの間の関係により、本質的にソボレフの埋め込みを意味するものである。 == モレーの不等式 == {{math|''n'' < ''p'' ≤ ∞}} とする。このとき、{{mvar|p}} と {{mvar|n}} にのみ依存するある定数 {{mvar|C}} が存在して、すべての {{math|''u'' ∈ ''C''<sup>1</sup>('''R'''<sup>''n''</sup>) ∩ ''L<sup>p</sup>''('''R'''<sup>''n''</sup>)}} に対して次の不等式が成り立つ。 :<math>\|u\|_{C^{0,\gamma}(\mathbf{R}^n)}\leq C \|u\|_{W^{1,p}(\mathbf{R}^n)}</math> ここで :<math>\gamma:=1-\frac{n}{p} </math> である。したがって {{math|''u'' ∈ ''W''<sup> 1,''p''</sup>('''R'''<sup>''n''</sup>)}} であるなら、測度 0 の集合上で再定義されることもあり得るが、{{mvar|u}} は指数 {{mvar|γ}} の[[ヘルダー条件|ヘルダー連続]]である。 同様の結果は、境界が {{math|''C''<sup>1</sup>}} であるような有界領域 {{mvar|U}} に対しても成り立つ。この場合、 :<math>\|u\|_{C^{0,\gamma}(U)}\leq C \|u\|_{W^{1,p}(U)}</math> となる。ここで定数 {{mvar|C}} は {{math|''n'', ''p''}} と {{mvar|U}} に依存する。この場合の不等式は、{{math|''W''<sup> 1,''p''</sup>(''U'')}} から {{math|''W''<sup> 1,''p''</sup>('''R'''<sup>''n''</sup>)}} へのノルム保存拡張を行うことで、上述の不等式より従う。 == 一般ソボレフ不等式 == {{mvar|U}} は {{math|'''R'''<sup>''n''</sup>}} の有界開部分集合で、その境界は {{math|''C''<sup>1</sup>}} であるとする({{mvar|U}} は非有界である場合もあるが、その場合の境界は存在するなら十分に良く振る舞うものである)。{{math|''u'' ∈ ''W<sup> k,p</sup>''(''U'')}} を仮定し、次の二つの場合を考える。 ==={{math|''k'' < ''n''/''p''}}=== この場合、{{math|''u'' ∈ ''L<sup>q</sup>''(''U'')}} である。但し :<math>\frac{1}{q}:=\frac{1}{p}-\frac{k}{n}</math> である。さらに次の評価が成り立つ。 :<math>\|u\|_{L^q(U)}\leq C \|u\|_{W^{k,p}(U)}</math> この定数 {{mvar|C}} は {{math|''k'', ''p'', ''n''}} と {{mvar|U}} にのみ依存する。 ==={{math|''k'' > ''n''/''p''}}=== この場合、{{mvar|u}} はヘルダー空間に属する。より正確に言うと、 :<math> u \in C^{k-[n/p]-1,\gamma}(U),</math> が成り立つ。ここで :<math>\gamma = \begin{cases} [n/p]+1-n/p & n/p \notin \mathbf{Z} \\ \text{any element in } (0, 1) & n/p \in \mathbf{Z} \end{cases}</math> である。さらに次の不等式が成り立つ。 :<math>\|u\|_{C^{k-[n/p]-1,\gamma}(U)}\leq C \|u\|_{W^{k,p}(U)}.</math> ここで定数 {{mvar|C}} は {{math|''k'', ''p'', ''n'', ''γ''}} と {{mvar|U}} にのみ依存する。 == <math>p=n, k=1</math> の場合 == <math>u\in W^{1,n}(\mathbf{R}^n)</math> なら、{{mvar|u}} は{{仮リンク|有界平均振動|en|bounded mean oscillation}}の函数であり、 :<math>\|u\|_{BMO} \leq C \|Du\|_{L^n(\mathbf{R}^n)},</math> が {{mvar|n}} にのみ依存するある定数 {{mvar|C}} に対して成立する。この評価は[[ポアンカレ不等式]]の系である。 == ナッシュ不等式 == {{harvs|first=John|last=Nash|authorlink=ジョン・ナッシュ|year=1958|txt}} によって導入されたナッシュ不等式によると、すべての {{math|''u'' ∈ ''L''<sup>1</sup>('''R'''<sup>''n''</sup>) ∩ ''W''<sup> 1,2</sup>('''R'''<sup>''n''</sup>)}} に対してある定数 {{math|''C'' > 0}} が存在し、次が成立する: :<math>\|u\|_{L^2(\mathbf{R}^n)}^{1+2/n} \leq C\|u\|_{L^1(\mathbf{R}^n)}^{2/n} \| Du\|_{L^2(\mathbf{R}^n)}.</math> この不等式は、[[フーリエ変換]]の基本的な性質より従う。実際、半径 {{mvar|ρ}} の球の補集合についての積分に対して、 {{NumBlk|:|<math>\int_{|x|\ge\rho} \left |\hat{u}(x) \right |^2\,dx \le \int_{|x|\ge\rho} \frac{|x|^2}{\rho^2} \left |\hat{u}(x) \right |^2\,dx\le \rho^{-2}\int_{\mathbf{R}^n}|D u|^2\,dx</math>|{{EquationRef|1}}}} が[[パーセバルの定理]]より従う。一方、 :<math>|\hat{u}| \le \|u\|_{L^1}</math> が得られるため、これを半径 {{mvar|ρ}} の球について積分すると {{NumBlk|:|<math>\int_{|x|\le\rho} |\hat{u}(x)|^2\,dx \le \rho^n\omega_n \|u\|_{L^1}^2</math>|{{EquationRef|2}}}} が得られる。ここで {{math|''ω<sub>n</sub>''}} は [[超球面| n 球]]の体積である。({{EquationNote|1}}) と ({{EquationNote|2}}) の和を最小化するように {{mvar|ρ}} を選び、再びパーセバルの定理を適用することで、 :<math>\|\hat{u}\|_{L^2} = \|u\|_{L^2}</math> が得られる。これによりナッシュ不等式が従う。 {{math|''n'' {{=}} 1}} であるような特別な場合、ナッシュ不等式は {{math|''L<sup>p</sup>''}} に対して拡張され、その場合はガリャルド=ニーレンバーグ=ソボレフ不等式の特別な場合と見なされる {{harv|Brezis|1999}}。実際、{{mvar|I}} が有界区間なら、すべての {{math|1 ≤ ''r'' < ∞}} と {{math|1 ≤ ''q'' ≤ ''p'' < ∞}} に対して、次の不等式が成り立つ。 :<math>\| u\|_{L^p(I)}\le C\| u\|^{1-a}_{L^q(I)} \|u\|^a_{W^{1,r}(I)}.</math> 但し :<math>a\left(\frac{1}{q}-\frac{1}{r}+1\right)=\frac{1}{q}-\frac{1}{p}</math> が成立するものとする。 == 参考文献 == *{{citation|mr=0450957|last= Adams|first= Robert A.|title=Sobolev spaces|series=Pure and Applied Mathematics, |volume= 65.|publisher= Academic Press |publication-place= New York-London|year= 1975|pages= xviii+268| isbn=978-0-12-044150-1 }}. *{{Citation|last1=Aubin| first1=Thierry | title=Espaces de Sobolev sur les variétés riemanniennes | mr=0488125 | year=1976 | journal=Bulletin des Sciences Mathématiques. 2e Série | issn=0007-4497 | volume=100 | issue=2 | pages=149–173}} *{{Citation|last1=Aubin| first1=Thierry | title=Nonlinear analysis on manifolds. Monge-Ampère equations | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften [Fundamental Principles of Mathematical Sciences] | isbn=978-0-387-90704-8 | mr=681859 | year=1982 | volume=252}}. *{{citation|first=Haïm|last=Brezis|authorlink=:en:Haïm Brezis|title=Analyse fonctionnelle : théorie et applications|publisher=[[:en:Masson (publisher)|Masson]]|location=Paris|year=1983|isbn=0-8218-0772-2}} *{{citation|first=Lawrence|last=Evans|authorlink=:en:Lawrence C. Evans| title=Partial Differential Equations | publisher=American Mathematical Society, Providence | year=1998 | isbn=0-8218-0772-2}} *{{citation|first=Maz'ja|last=Vladimir G.|authorlink= :en:Vladimir Maz'ja|title=Sobolev spaces|series=Springer Series in Soviet Mathematics|publisher=Springer-Verlag|publication-place=Berlin|year=1985}}, Translated from the Russian by T. O. Shaposhnikova. *{{citation|last=Nash|first=J.|authorlink=ジョン・ナッシュ|title=Continuity of solutions of parabolic and elliptic equations|journal=Amer. J. Math.|volume=80|year=1958|pages=931–954| doi=10.2307/2372841 |jstor=2372841| issue=4 |publisher=American Journal of Mathematics, Vol. 80, No. 4}}. *{{SpringerEOM|title=Imbedding theorems|last= Nikol'skii|first=S.M.|urlname=Imbedding_theorems}} *{{citation|first=Elias|last=Stein|authorlink=:en:Elias Stein|title=Singular integrals and differentiability properties of functions|publisher=[[Princeton University Press]]|location=Princeton, NJ|year=1970|isbn=0-691-08079-8}} {{DEFAULTSORT:そほれふふとうしき}} [[Category:不等式]] [[Category:ソボレフ空間]] [[Category:コンパクト空間]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:人名を冠した数式]]
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