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テルミット法
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[[Image:Thermite219.JPG|thumb|right|250px|アルミニウムと[[酸化銅(II)]] によるテルミット反応]] '''テルミット法'''(テルミットほう、thermite process)とは、[[アルミニウム]]で金属[[酸化物]]を還元する[[冶金]]法の総称である。[[ギリシャ語]]の(therm - 熱)に由来する。別称として'''テルミット反応'''、'''アルミノテルミー法''' (aluminothermy process) がある。また、この方法は{{仮リンク|ハンス・ゴルトシュミット|de|Hans Goldschmidt (Chemiker)}}により発明されたため'''ゴルトシュミット反応'''<ref group="注">ドイツ名のためゴールドシュミット反応等読み方に違いが発生することがある</ref>とも呼ばれる。 == 解説 == 金属酸化物と金属アルミニウムとの粉末混合物に着火すると、アルミニウムは金属酸化物を[[還元]]しながら高温を発生する。この還元性と高熱により目的の金属融塊は下部に沈降し、純粋な金属が得られる。また、この方法は炭素燃料を使用しないため、生成金属に[[炭素]]が含まれないという特徴もある。また、金属だけでなくアルミニウムの粉末と氷の微粒子を混合してもテルミット反応が起きる。 アルミニウムと金属酸化物の金属の[[イオン化傾向]]の差が大きいほど、多量の熱を発生する。 たとえば、[[酸化鉄(III)]]とアルミニウムの反応では、 : 化学式は : <chem>Fe2O3\ + 2Al -> Al2O3\ + 2Fe</chem> : エネルギーは : <math>\Delta H^\circ = -851.5\ \rm{kJ/mol}</math> で発生する熱は851.5kJ/molである。 == 用途 == [[画像:Thermit welding.jpg|thumb|right|250px|ゴールドサミット溶接される[[軌条#ロングレール|ロングレール]]]] [[画像:Chrom 1.jpg|thumb|left|アルミノテルミット反応によって生成されたクロム片]] 現在では、[[クロム]]、[[コバルト]]、[[マンガン]]、[[バナジウム]]や特殊な[[合金鉄]]の冶金などに利用されている。 古くから[[鉄]]の溶接に使用され、'''{{仮リンク|テルミット溶接|en|Exothermic welding}}'''とも呼ばれた。その際に使用する[[酸化鉄]]とアルミニウムの混合物を、'''テルミット''' (thermit) と呼ぶことがある。複雑な設備を必要としない方法なので、[[鉄道]]の[[線路 (鉄道)|線路]]の敷設・改修・保守などで[[軌条|レール]]を溶接するときに多用される。[[JR]]などでは「'''ゴールドサミット溶接'''」と呼ばれている。 テルミット反応を利用した合金鉄として、[[フェロモリブデン]]がある。フェロモリブデンは、[[三酸化モリブデン]]と鉄の合金である。現在日本でフェロモリブデンを製造しているのは2社のみで、大半は[[中華人民共和国]]や[[チリ]]から輸入している。用途は[[ステンレス]]などの[[合金鋼|特殊鋼]]を作る原料である。 冶金以外の用途として、教育分野では高等学校化学Iの[[無機化学]]の分野で[[酸化還元反応]]の一例として[[教科書]]に記載されている場合があり、演示実験として酸化鉄III-アルミニウム粉末テルミット反応が使われる場合がある。 テルミット反応は高熱と光を発する特徴があるので、軍事目的においては[[焼夷弾]]に利用されている。テルミットに[[火工品]]を添加して焼夷目的に特化したものを、'''[[サーメート]]'''と呼ぶことがある。また、構成する物質の[[毒性]]が低く、従来の[[固体燃料ロケット]]よりも安定性や貯蔵性に優れるため、[[ロケット]]などの[[推進剤]]としても検討される。 == ナノテルミット == '''{{仮リンク|ナノテルミット|en|Nano-thermite}}'''は"スーパーテルミット"とも呼ばれ<ref name="LANL Matches"/>、点火後高温の発熱反応を特徴とする一部の準安定分子間複合材(MICs<ref group="注">MICs : '''m'''etastable '''i'''ntermolecular '''c'''omposite'''s'''</ref>)の通称である。ナノテルミットは酸化剤と還元剤が[[ナノメーター]]スケールで親密に混合されている。ナノテルミットの材料を含むMICsは軍用の推進剤や[[爆薬]]や火工品としての使用が検討されている。MICsと従来のテルミットと違いは、用いられる酸化鉄粉およびアルミニウム粉が従来は[[マイクロメーター]]サイズの粒子であるのに対しMICsは[[ナノ粒子]]であることである。これによって反応性が従来のテルミットよりも劇的に増加する。従来のテルミットの燃焼速度低下要因となっていた物質移送(撹拌)の機構はこのスケールでは重要ではなくなるので、反応の進行は更に早くなる。 === 用途 === 歴史的に火工品や爆薬の用途では従来のテルミットはエネルギー開放速度が遅いが故に限定的に留まっていた。しかしナノテルミットは原子レベルに近づく反応粒子によって創造されエネルギー開放速度は増加する<ref>{{cite web|url=http://www.informaworld.com/index/780214180.pdf |title=Effect of Al particle size on the thermal degradation of Al/teflon mixtures |publisher=Informaworld.com |date=2007-08-08|accessdate=2010-03-03}}</ref>。 MICsまたはスーパーテルミットは全体的に推進剤や爆薬や火工品として軍用として開発される。高い反応速度によりナノテルミット材料は[[アメリカ軍]]でより強力な新型爆弾として研究されている<ref>{{cite journal|last=Gartner|first=John|title=Military Reloads with Nanotech|date=Jan.21, 2005|accessdate=May 3, 2009|journal=MIT Technology Review|url=http://www.technologyreview.com/computing/14105/}}</ref>。ナノエネルギー物質は従来使用されて来たエネルギー物質よりも多くのエネルギーを貯蔵できるので放出するエネルギーを調節することで革新的な用途へ用いる事ができる。[[燃料気化爆弾]]はナノエネルギー物質の用途として検討されている。[[1990年代]]初頭より軍用のナノサイズの物質の研究が始まった<ref name=Murday/>。 === 種類 === 多くの熱力学的に安定な燃料と酸化剤の可能な組み合わせがある。いくつかを示す: * [[アルミニウム]]-[[酸化モリブデン(VI)]] * アルミニウム-[[酸化銅(II)]] * アルミニウム-[[酸化鉄(II,III)]] * [[アンチモン]]-[[過マンガン酸カリウム]] * アルミニウム-[[過マンガン酸カリウム]] * アルミニウム-[[酸化ビスマス(III)]] * アルミニウム-[[酸化タングステン(VI)]][[水和物]] * アルミニウム-[[フッ素樹脂]] (通常は {{仮リンク|マグネシウム/テフロン/バイトン|en|Magnesium/Teflon/Viton}}) * [[チタン]]-[[ホウ素]] (燃焼して{{仮リンク|二ホウ化チタン|en|Titanium diboride}}) 軍用の研究ではアルミニウム-酸化モリブデン、アルミニウム-[[テフロン]]やアルミニウム-酸化銅(II)が有力視される。<ref name=Murday>{{cite journal|last=Murday|first=James S.|journal=AMPTIAC Quarterly|title=The Coming Revolution: Science and Technology of Nanoscale Structures|volume=6|number=1|year=2002|url=http://www.p2pays.org/ref/34/33115.pdf|accessdate=July 8, 2009}}</ref>他に試験された組成としてはナノサイズの[[トリメチレントリニトロアミン]](RDX)と熱可塑性[[エラストマー]]と[[ポリテトラフルオロエチレン]](PTFE)や他のフッ素系樹脂を組成の{{仮リンク|結合剤|en|Binder (material)}}として使用した物がある。アルミニウムとの反応はマグネシウムテルミットにエネルギー反応を加えた物に似ている<ref>{{cite web|url=http://books.nap.edu/openbook.php?record_id=10594&page=22 |title=2002 Assessment of the Office of Naval Research's Air and Surface Weapons Technology Program, Naval Studies Board (NSB) |publisher=Books.nap.edu |date=2003-06-01 |accessdate=2010-03-03}}</ref> 。 一覧にある組成でアルミニウム-過マンガン酸カリウムは最大の猛度でアルミニウム-酸化モリブデン(VI)とアルミニウム-酸化銅(II)はけた違いに遅い規模である。同様にアルミニウム-酸化鉄(III)も遅い<ref>{{cite web|url=http://ci.confex.com/ci/2005/techprogram/P1663.HTM |title=Reaction Kinetics and Thermodynamics of Nanothermite Propellants |publisher=Ci.confex.com |date= |accessdate=2010-03-03}}</ref>。 ナノ粒子は溶液の噴霧乾燥や不溶性の場合は適切な[[前駆体]]を噴射して熱分解することで調製する。複合材料は[[ゾルゲル法]]或いは従来の混合と押し出しによって調製される。 似ているが本質的に異なるものとしてナノラミネーテッドパイロテクニック積層やエネルギー[[ナノ複合材]]がある。これらの組織は燃料と酸化剤を微粒子にして混ぜずに薄い層を積層している。一例として多層エネルギー構造体はエネルギー増強材料に被覆されるかも知れない。材料と層のサイズを選ぶことによって反応速度や反応開始温度や多層構造に交互に不活性層を間に入れることによってエネルギー伝播を制御できる<ref name="autogenerated2005">{{cite web|author=WIPO |url=http://www.wipo.int/pctdb/en/wo.jsp?IA=WO2005016850&DISPLAY=DESC |title=(WO/2005/016850) Nano-laminate-based Ignitors |publisher=Wipo.int |date=2009-03-02 |accessdate=2010-03-03}}</ref>。 === 製造 === 殆んどのナノテルミット材料において鍵となるナノスケールまたは超微粒 (UFG<ref group="注">UFG : '''u'''ltra '''f'''ine '''g'''rain</ref>) のアルミニウム粉の製造法は[[ロスアラモス研究所]]のWayne DanenとSteve Sonが開発したダイナミック気相濃縮法である。類似の方法が海軍水上戦センターのインディアンヘッド部門で使用されている。製造の重要な点は粒子のサイズを10ナノメートルでそろえて製造する能力である。[[2002年]]にはナノサイズのアルミ粒子の製造に相当な努力が必要で商業的に入手材料は限られていた<ref name=Murday/>[[ローレンス・リバモア国立研究所]]のRandall Simpson, Alexander Gash達が開発したゾルゲル法による方法は実際のナノスケールのエネルギー物質の混合物を作ることに使用できる。工程に応じて異なる密度のMICを製造できる。多孔質で均一な製品が{{仮リンク|超臨界抽出|en|Supercritical fluid extraction}}法によってできる<ref name=Murday/>。 === 点火 === ナノスケールの混合物は従来のテルミットよりも容易に着火する。[[ニクロム線]]が使用される。他に点火方法にレーザーパルスもある。ロスアラモス研究所ではスーパーテルミット電気点火器が低電流点火と摩擦抵抗、衝撃、熱、静電気放電に競合して開発されている<ref name="LANL Matches">{{cite web|publisher=Los Alamos National Laboratory|title=Lead-Free Super-Thermite Electric Matches|url=https://termitehub.com/pdf/thermite_matches.pdf|accessdate=December 2, 2009}}</ref>。MICは[[雷管]]や電気式点火器に含まれる[[鉛]]([[スチフニン酸鉛]]・[[アジ化鉛]])を置換することが検討されている。アルミニウム-酸化ビスマス(III)を基にした組成が使用される傾向にある。[[ペンスリット]](PETN)が選択肢として加えられるかもしれない<ref>{{cite web|url=http://www.nt.ntnu.no/users/skoge/prost/proceedings/aiche-2008/data/papers/P136134.pdf |title=Metastable Intermolecular Composites (MIC) for Small Caliber Cartridges and Cartridge Actuated Devices (PDF) |format=PDF |date= |accessdate=2010-03-03}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.jpyro.com/litseries/Kosankes/kosanke7.htm |title=Selected Pyrotechnic Publications of K.L. and B.J. Kosanke|publisher=Jpyro.com |date=2009-09-30 |accessdate=2010-03-03}}</ref> 。MICは改良することで爆発性も増加できる<ref>{{cite web|author=Los Alamos National Laboratory • Est 1943 |url=http://pearl1.lanl.gov/external/chemistry/capabilities.shtml |title= Chemistry Division Capabilities |publisher=Los Alamos National Lab |date= |accessdate=2010-03-03}}</ref>。アルミニウムは通常、[[エネルギー収率]]を増加させるために火薬に加えられる。アルミニウム粉末に少量のMICを添加する事で全体の燃焼率が増加し、燃焼率改良剤として機能する<ref>{{cite web|url=http://www.nt.ntnu.no/users/skoge/prost/proceedings/aiche-2008/data/papers/P129002.pdf |title=Aluminum Burn Rate Modifiers Based on Reactive Nanocomposite Powders (PDF) |format=PDF |date= |accessdate=2010-03-03}}</ref>。 反応後鉄の理論的温度は約3100度。 テルミット混合物の点火によるテルミット反応によって通常金属酸化物と金属が生成される。混合物の成分によって一般的に反応中の[[温度]]により生成物は[[固体]]、[[液体]]、[[気体]]になる。<ref>{{cite web|last1=Fischer|first=S.H.|last2=Grubelich|first2=M.C.|title=A Survey of Combustible Metals, Thermites, and Intermetallics for Pyrotechnic Applications|date=July 1–3,1996|url=http://www.osti.gov/bridge/servlets/purl/372665-kjTA0r/webviewable/372665.pdf|accessdate=July 17, 2009}}</ref> ロスアラモス研究所によって開発されたスーパーテルミット電気式点火器は他の[[焼夷弾]]や爆発物に点火する熱を出すために単純な[[火花]]、ホットスラッグ、液滴や炎を発する。<ref name="LANL Matches" /> === 危険性 === 従来のテルミット同様にスーパーテルミットの使用時に高温を発生し、一度始まった反応を途中で止める事は大変困難である。さらにナノテルミットの組成と形態は安全のために重要な要素である。一例として層の厚さを変える事によりエネルギーナノラミネートは反応を制御可能にする<ref name="autogenerated2005"/>。 テルミット反応は、危険な[[紫外線]]を放射するので火元を直接見るべきではなく、作業員は紫外線保護めがねを着用すべきである(裸眼では[[太陽光]]を直接見つめるのと同じである)。 == ALICE == {{main|ALICE (推進剤)}} 粉末状の[[アルミニウム]]と微細な氷の粒子を混合した[[ALICE (推進剤)|ALICE推進剤]]はテルミット反応により推進力を供給する。 == 備考 == [[第二次世界大戦]]中の[[1943年]]頃に、「日本的製鉄法」と呼ぶ騒動があった。ある発明家が[[江戸川]]上流で実演した「砂鉄とアルミニウムを混ぜて盛り上げ、その上に土をかぶせて孔をあけ、その孔からある薬液を注ぎ込んで火をつければ、それだけで立派に製錬ができる」という話に、ある[[大日本帝国海軍]]工廠の材料部長が騙され、[[内閣総理大臣]][[東條英機]]は帝国議会で演説し、政府の政策のひとつとなった。[[中谷宇吉郎]]ら学者たちの反対運動<ref group="注">この方法で「製鉄」を行うには、酸化鉄の十倍くらいのアルミを要するという。戦時下の日本では、航空機材料の[[ジュラルミン]]など[[アルミニウム合金]]の確保が大きな問題となっていた。</ref>により未然に防がれた<ref>{{Cite web|和書| date=1988 | url = https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/53221_49864.html | title=千里眼その他 | work= 中谷宇吉郎随筆集 |publisher = [[岩波書店]] | accessdate=2021-01-01 }}戦中の昭和18年に書かれた本文ではもちろん言及されていないが、昭和22(1947)年の附記にて解説。</ref>。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} === 注釈 === {{Reflist|group="注"}} === 出典 === {{Reflist}} == 関連項目 == {{commons|Category:Thermite}} * [[酸化第二鉄]] * [[アルミニウム粉末]] * [[ヒンデンブルク号爆発事故]] -[[1937年]]に起きた[[飛行船]]爆発炎上事故。原因の一説として、船殻塗料のテルミット反応が挙げられている。 *[[ロングレール]] - 輸送の簡素化のために、200メートルほどに分割して敷設現場に運ばれた[[レール]]を、テルミット反応を用いて現場[[溶接]]を行う。 {{DEFAULTSORT:てるみつとほう}} [[Category:無機反応]] [[Category:金属]] [[Category:溶接]] [[Category:アルミニウム]] [[Category:鉄道線路]]
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