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[[数学]]において、'''トンプソン群'''([[英語|英]]: ''Thompson groups'')あるいは'''トンプソンの群'''([[英語|英]]: ''Thomson's groups'')、'''バガボンド'''群([[英語|英]]: ''vagabond groups'')、'''カメレオン群'''([[英語|英]]: ''chameleon groups'')は一般に <math>F \subseteq T \subseteq V</math> と表される3つの[[群 (数学)|群]]であり、リチャード・トンプソンによる1965年のいくつかの未発表の手書きノートの中で、{{仮リンク|フォン・ノイマン予想|en|Von Neumann conjecture}}の反例になりうる群として導入された。 3つの群のうち ''F'' は最も広く研究されており'''、トンプソン群'''または'''トンプソンの群'''と呼ばれることもある。 トンプソン群、特に ''F'' は、群論における多くの一般的な予想の反例となるような珍しい性質を持っている。 3つのトンプソン群はすべて無限群だが、[[群の表示|有限表示]]をもつ。''T'' と ''V'' は、無限群であるが有限表示をもつ[[単純群]]である(まれな)例である。''F'' は単純群ではないが、その[[交換子部分群]]<math>[F, F]</math>は単純群であり、F の交換子部分群による商群はランク2の[[自由アーベル群]]である。 ''F'' は[[全順序群]]であり、指数関数的{{仮リンク|増大度|en|Growth rate (group theory)}}をもち、階数2の[[自由群]]と同型な[[部分群]]をもたない。 ''F は''[[従順群]]ではないと予想されており、したがって、有限表示をもつ群に対する最近反証された{{仮リンク|フォン・ノイマン予想|en|Von Neumann conjecture}}に対するさらなる反例となることが予想されている。''F'' は{{仮リンク|基本従順群|en|Elementary amenable group}}ではないことが知られている。 {{Harvtxt|Higman|1974}} は トンプソン群 ''V'' を特別な場合として含む、有限表示を持つ無限単純群からなる可算無限個の族を導入した。 == 表示 == ''F の''有限表示は次で与えられる。 : <math>\langle A,B \mid\ [AB^{-1},A^{-1}BA] = [AB^{-1},A^{-2}BA^{2}] = \mathrm{id} \rangle</math> ここで<math>[x, y]</math>は、通常の群論における[[交換子]] <math>xyx^{-1}y^{-1}</math>を表す。 ''F'' には2つの生成元と2つの関係からなる上のような有限表示があるが、次の無限表示によって非常に簡単かつ直感的に記述される。 : <math>\langle x_0, x_1, x_2, \dots\ \mid\ x_k^{-1} x_n x_k = x_{n+1}\ \mathrm{for}\ k<n \rangle.</math> 2つの表示は、<math>x_0=A, x_n=A^{1-n}BA^{n-1} \, (n>0)</math>で関連付けられる。 == その他の表現方法 == [[ファイル:AA_Tree_Skew2.svg|右|サムネイル|トンプソン群 ''F'' は、二分木に対するこのような操作によって生成される。ここで、'''L'''および'''T'''は頂点であるが、'''A'''、'''B'''および'''R'''は、より一般の二分木で置き換えることができる。]] トンプソン群 ''F'' は、順序付けられた根付き[[二分木]]に対する操作全体からなる群として、または向きを保ち、有限個の微分不可能な点が2進分数であり、区分的に線形で傾きがすべて2の累乗であるような[[単位区間]]上の[[位相同型|同相写像]]の部分群として、実現される。 ''F'' は、単位区間の2つの端点を同一視することにより、単位円に作用していると見做すことができる。''T'' はこのとき単位円上の自己同相写像からなる群で、F に同相写像 {{Math|''x'' ↦ ''x+''1/2 mod 1}}を追加することで得られる。この写像は、二分木における根の下の2つの木を入れ替える操作に対応する。''V'' は、''T'' に半開区間[0, 1/2)上の点を固定し、半開区間 [1/2, 3/4) と [3/4, 1) を自明な方法で交換する不連続な写像を追加することで得られる。この写像は二分木においては、根の子のうち右側のものの下にある2つの木を(存在する場合には)交換する操作に対応する。 ''さらに F'' は、1つの生成元からなる自由{{仮リンク|ヨンソン-タルスキ代数|en|Jónsson–Tarski algebra}}上の向きを保存する自己同型写像からなる群でもある。 == 従順性 == トンプソンによる群 ''F'' が[[従順群]]ではないという予想は、ゲイガンによってさらに広められた。以下の参考文献で引用されているカノン、フロイド、パリーによる文献も参照せよ。この予想は未だ未解決である。シャグリゼー <ref>{{Citation|last=Shavgulidze|first1=E.|title=The Thompson group F is amenable|mr=2541392|year=2009|journal=Infinite Dimensional Analysis, Quantum Probability and Related Topics|volume=12|number=2|pages=173–191|doi=10.1142/s0219025709003719}}</ref>は、2009年に ''F'' が従順群であることを証明したと主張した論文を出したが、MRレビューで説明されているように誤りが発見された。 ''F は''{{仮リンク|基本従順群|en|Elementary amenable}}ではないことが知られている。カノン、フロイド、パリーによるTheorem 4.10を参照せよ。''F'' が'''従順でない'''場合、有限表示をもつ群に対する最近反証された{{仮リンク|フォン・ノイマン予想|en|Von Neumann conjecture}}に対するさらなる反例となる。この予想は、有限表示をもつ群が従順群であることと、階数2の自由群と同型な部分群をもたないことが必要十分であるという予想である。 == 位相幾何学とのつながり == 1970年代、''F'' は位相幾何学の専門家によって少なくとも2回再発見された。かなり遅れて出版された、当時プレプリントとして流通していた論文<ref>{{Citation|last=Freyd|first1=Peter|last2=Heller|first2=Alex|title=Splitting homotopy idempotents|mr=1239554|journal=Journal of Pure and Applied Algebra|volume=89|number=1–2|year=1993|pages=93–106|doi=10.1016/0022-4049(93)90088-b}}</ref>では、フレイドとヘラーは ''F'' 上のシフト写像が{{仮リンク|アイレンベルク・マクレーン空間|en|Eilenberg–MacLane space}}''K(F,1)''上の分裂不可能なべき等写像のホモトピー類を誘導することを示した。これはある種の普遍性を有しており、このことについてはゲイガンの本で詳細に説明されている(以下の参考文献を参照せよ)。ダイダックとミンク <ref>{{Citation|last=Dydak|first1=Jerzy|last2=Minc|first2=Piotr|title=A simple proof that pointed FANR-spaces are regular fundamental retracts of ANR's|mr=0442918|journal=Bulletin de l'Académie Polonaise des Science, Série des Sciences Mathématiques, Astronomiques et Physiques|volume=25|year=1977|pages=55–62}}</ref>はShape理論の問題に関連して、独自にあまり知られていない ''F'' のモデルを作成した。 1979年に、ゲイガンは ''F'' に関する次の4つの予想をした。 # ''F'' は ''type '''FP'''<sub>∞</sub>'' である。 # 無限遠点での ''F'' のすべてのホモトピー群は自明である。 # ''F'' は非可換自由な部分群をもたない。 # ''F'' は従順群ではない。 1は、ブラウンとゲイガンによる各正の次元に2つのセルを持つ ''K(F, 1)'' が存在するという強力な主張により証明された<ref>{{Citation|last=Brown|first1=K.S.|last2=Geoghegan|first2=Ross|title=An infinite-dimensional torsion-free FP_infinity group|mr=0752825|volume=77|year=1984|pages=367–381|doi=10.1007/bf01388451|bibcode=1984InMat..77..367B}}</ref>。2もまた、コホモロジー H*(F, ZF) が自明であることが示されたという意味で、ブラウンとゲイガンによって証明された <ref>{{Citation|last=Brown|first1=K.S.|last2=Geoghegan|first2=Ross|title=Cohomology with free coefficients of the fundamental group of a graph of groups|mr=0787660|journal=Commentarii Mathematici Helvetici|volume=60|year=1985|pages=31–45|doi=10.1007/bf02567398}}</ref>。 ミハリクの定理<ref>{{Citation|last=Mihalik|first1=M.|title=Ends of groups with the integers as quotient|mr=0777262|journal=Journal of Pure and Applied Algebra|volume=35|year=1985|pages=305–320|doi=10.1016/0022-4049(85)90048-9}}</ref>は ''F'' が無限遠点で単連結であることを意味し、したがってこの結果は無限遠点でのすべてのホモロジーが消えることを意味するので、ホモトピー群に関する主張を得る。3はブリンとスクワイアーによって証明された<ref>{{Citation|last=Brin|first1=Matthew.|last2=Squier|first2=Craig|title=Groups of piecewise linear homeomorphisms of the real line|mr=0782231|journal=Inventiones Mathematicae|volume=79|number=3|year=1985|pages=485–498|doi=10.1007/bf01388519|bibcode=1985InMat..79..485B}}</ref>。4については未だ未解決であることを、既に上で述べた。 ''F'' が{{仮リンク|ファレル-ジョーンズ予想|en|Farrell–Jones conjecture}}を満たすかどうかは不明である。''F'' の{{仮リンク|ホワイトヘッド群|en|Whitehead torsion}}や F の射影類群({{仮リンク|ウォールの有限性障害|en|Wall's finiteness obstruction}}を参照)が自明であるかどうかも不明だが、''F'' が強い[[バスの予想]]を満たすことは簡単に示される。 ファーリー''は、F'' が局所有限 CAT(0)立方体複体(必然的に無限次元となる)にデック変換として作用することを示した<ref>{{Citation|last=Farley|first1=D.|title=Finiteness and CAT(0) properties of diagram groups|mr=1978047|journal=Topology|volume=42|number=5|year=2003|pages=1065–1082|doi=10.1016/s0040-9383(02)00029-0}}</ref>。結果として、''F'' は{{仮リンク|バウム・コンヌ予想|en|Baum–Connes conjecture}}を満たす。 == 関連項目 == * {{仮リンク|ヒグマン群|en|Higman group}} * {{仮リンク|非可換暗号|en|Non-commutative cryptography}} == 参考文献 == {{Reflist}} * {{Citation|last=Cannon|mr=1426438|number=3|volume=42|issn=0013-8584|series=IIe Série|journal=L'Enseignement Mathématique|year=1996|url=http://www.math.binghamton.edu/matt/thompson/cfp.pdf|first1=J. W.|title=Introductory notes on Richard Thompson's groups|first3=W. R.|last3=Parry|authorlink2=William Floyd (mathematician)|first2=W. J.|last2=Floyd|authorlink1=James W. Cannon|pages=215–256}} * {{Cite journal|last=Cannon|first=J.W.|last2=Floyd|first2=W.J.|date=September 2011|title=WHAT IS...Thompson's Group?|url=http://www.ams.org/notices/201108/rtx110801112p.pdf|journal=[[Notices of the American Mathematical Society]]|volume=58|issue=8|pages=1112–1113|accessdate=December 27, 2011|ISSN=0002-9920}} * {{Citation|first1=Ross|last=Geoghegan|title=Topological Methods in Group Theory|publisher=[[Springer Verlag]]|year=2008|isbn=978-0-387-74611-1|series=[[Graduate Texts in Mathematics]]|mr=2325352|volume=243|doi=10.1142/S0129167X07004072|arxiv=math/0601683}} * {{Citation|last=Higman|first1=Graham|author-link=Graham Higman|title=Finitely presented infinite simple groups|url=https://books.google.com/books?id=LPvuAAAAMAAJ|publisher=Department of Pure Mathematics, Department of Mathematics, I.A.S. Australian National University, Canberra|series=Notes on Pure Mathematics|isbn=978-0-7081-0300-5|mr=0376874|year=1974|volume=8}} {{DEFAULTSORT:とんふそんくん}} [[Category:無限群論]] [[Category:群論]] [[Category:幾何学的群論]]
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