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{{Expand English|Newton's laws of motion|date=2024年5月}} {{古典力学}}[[File:Newton-Principia-Mathematica 1-500x700.jpg|thumb|right|180px|『自然哲学の数学的諸原理』初版]] {{読み仮名|'''ニュートン力学'''|ニュートンりきがく|{{Lang-en|Newtonian mechanics}}}}は、[[アイザック・ニュートン]]が、運動の法則を基礎として構築した、[[力学]]の体系のことである<ref name="bj">[[#physdict|『改訂版 物理学辞典』培風館]]。</ref>。「ニュートン力学」という表現は、アインシュタインの[[相対性理論]]、あるいは[[量子力学]]などと対比して用いられる<ref name="bj" />。 == 概要 == 静止物体に働く'''[[力 (物理学)|力]]の釣り合い'''を扱う'''[[静力学]]'''は、[[古代ギリシア]]からの長い年月の積み重ねにより、すでにかなりの知識が蓄積されていた<ref name="bj" />。ニュートン力学の偉大さは、物体の[[運動 (物理学)|運動]]について調べる[[動力学]]を確立したところにある<ref name="bj" />。 ニュートン力学は[[古典物理学]]の不可欠の一角を成している。[[絶対時間と絶対空間]]を前提とした上で、3 つの運動の法則([[運動の第1法則]]、[[運動の第2法則|第2法則]]、[[運動の第3法則|第3法則]])と、[[万有引力]]の法則を代表とする二体間の[[遠隔作用]]として働く[[力 (物理学)|力]]を基礎とした体系である。広範の力学現象を演繹的かつ統一的に説明し得る体系となっている。 [[File:Principia1846-513.png|thumb|right|228px|Principia1846-513、 落体運動と周回運動の統一的な見方が示されている.]] ニュートン力学は、1687年のニュートン自身による、3巻から成る著作『[[自然哲学の数学的諸原理]]』(略称: プリンキピア、''{{lang|lat|Principia}}'')を通して公表された<ref name="bj" />。ニュートン力学の主要な点はすべてこの中に含まれていると言ってもよい<ref name="bj" />。 『プリンキピア』の表現形式は、[[ユークリッド原論]]に倣った作図を用いて[[幾何学]]的証明を積み上げる方式を採っている。この表現の中には、[[エルンスト・マッハ]]が指摘したように十分に論理的とは言えない点も含まれており、その後の時代の多くの人々によって整理しなおされ、別の説明方法も与えられている<ref name="bj" />。今日的な「ニュートン力学」の解説は『プリンキピア』とは様相が異なったものとなっており、[[大学]]などで「ニュートン力学」と呼ばれている体系は、これを出発点としつつも多くの人々によって改良された、相対論以前の古典力学の体系と見なすのが適切である。 『プリンキピア』の冒頭部分は'''[[質量]]'''、'''[[運動量]]'''、'''[[慣性]]'''、'''[[力 (物理学)|力]]'''などの定義にあてられているが<ref>[[#principia|Newton (1729)]] pp. 1–7, ''Definitions'' . </ref>、'''[[重さ]]'''という概念の他に'''質量'''という概念を導入したことが画期的だとされている<ref name="bj" />。 なお「ニュートンが万有引力の法則などを発見した」という言い方が一般にされることも多いが、これは誤りである。それまでに[[シモン・ステヴィン]]、[[エドム・マリオット]]、[[ガリレオ・ガリレイ]]、[[ヨハネス・ケプラー]]ら先人によって発展してきた物理学をニュートン力学として体系づけたことが最大の功績であり、古典物理学はニュートンによって一旦完了したといえるのである。 === 質点に関する運動の法則 === [[File:Newtons laws in latin.jpg|thumb|right|180px|プリンキピア内の第一法則と第二法則が書かれているページ(1687年版)]] ニュートン力学は、物体を「[[重心]]に全[[質量]]が集中し大きさをもたない[[質点]]」とみなし、その質点の運動に関する性質を法則化し、以下の運動の3法則を提唱した<ref>[[#matsuda|松田哲 (1993)]] pp. 17-24。</ref><ref group="注釈">[[#yamamoto|山本義隆 (1997)]] p.189 で述べられているように、このような現代的な表記と体系構築は主に[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]によって与えられた。</ref>。また、これらの法則は、質点とは見なせない物体([[剛体]]、[[弾性]]体、[[流体]]などの連続体)に対しても基礎となる考え方である<ref>[[#sunagawa|砂川重信 (1993)]] 8 章。</ref><ref>[[#hara|原康夫 (1988)]] 6-9 章。</ref>。 ; [[運動の第1法則|第1法則]]([[慣性]]の法則) : 質点は、[[力 (物理学)|力]]が作用しない限り、静止または等速直線運動する(これを満たすような座標系を用いて、運動法則を記述する)<ref>[[#principia|Newton (1729)]] p. 19, ''Axioms or Laws of Motion'' . "''Every body perseveres in its state of rest, or of uniform motion in a right line, unless it is compelled to change that state by forces impress'd thereon'' ".</ref><ref group="注釈">[[#sunagawa|砂川重信 (1993)]] p. 9 で述べられているように、この法則は[[慣性系]]の宣言を果たす意味をもつため、第 2 法則とは独立に設置される必要がある。</ref>。 ; [[運動の第2法則|第2法則]]([[ニュートンの運動方程式]]) : 質点の[[加速度]] <math>{\vec{a}}</math> は、そのとき質点に作用する[[力 (物理学)|力]] <math>{\vec{F}}</math> に比例し、質点の[[質量]] <math>{m}</math> に反比例する<ref>[[#principia|Newton (1729)]] p. 19, ''Axioms or Laws of Motion'' . "''The alteration of motion is ever proportional to the motive force impress'd; and is made in the direction of the right line in which that force is impress'd'' ".</ref><ref group="注釈">この定義は比例(反比例)関係しか示されないが、結果的に比例係数が 1 となる単位系が設定され方程式となる。[[#berkeley|『バークレー物理学コース 力学 上』]] pp. 71-72、[[#horiguchi|堀口剛 (2011)]]。</ref><ref group="注釈">[[#hyodo|兵頭俊夫 (2001)]] p. 15 で述べられているように、この原型がニュートンにより初めてもたらされた着想である。</ref>。 : <math>\vec{a} = \frac{\vec F}{m}\,.</math> ; [[運動の第3法則|第3法則]](作用・反作用の法則)<ref>[[#principia|Newton (1729)]] p. 20, ''Axioms or Laws of Motion'' . "''To every Action there is always opposed an equal Reaction: or the mutual actions of two bodies upon each other are always equal, and directed to contrary parts'' ".</ref><ref group="注釈">[[エルンスト・マッハ]]によれば、この第3法則は、[[質量]]の定義づけを補完する重要な役割をもつ([[#machja|エルンスト・マッハ (1969)]])。</ref><ref group="注釈">ポアンカレも質量の定義を補完する役割について述べている。([[#poincare|ポアンカレ(1902)]])p.129-130に「われわれは質量とは何かということを知らないからである。(中略)これを満足なものにするには、ニュートンの第三法則(作用と反作用は相等しい)をまた実験的法則としてではなく、定義と見なしてこれに訴えなければならない。」</ref> : 二つの質点 1, 2 の間に相互に力が働くとき、質点 2 から質点 1 に作用する力 <math>{\vec{F}_{21}}</math> と、質点 1 から質点 2 に作用する力 <math>\vec{F}_{12}</math> は、大きさが等しく、逆向きである。 : <math>\vec{F}_{21} = -\vec{F}_{12}\,.</math> 力学分野における数多くの法則や定理は、基本的には、上の三つの法則から導出されるものである。また、位置ベクトルの時間に対する 2 階の[[常微分方程式]]である[[ニュートンの運動方程式|運動方程式]]は、ある時刻の位置と[[運動量]](あるいは[[速度]])を与えれば、あらゆる時刻の運動状態が確定する方程式であり、その意味で、ニュートン力学は[[決定論]]的であるとされる。 == 継承と発展 == ニュートンの力学は、その後、[[ダニエル・ベルヌーイ]]、[[レオンハルト・オイラー]]、[[ピエール・ルイ・モーペルテュイ]]、[[ジャン・ル・ロン・ダランベール]]、[[ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ]]、[[ピエール=シモン・ラプラス]]、[[ガスパール=ギュスターヴ・コリオリ]]らによって、今日的な力学体系の形にまとめ直され、ラグランジュや[[ウィリアム・ローワン・ハミルトン]]による[[解析力学]]へと発展した。 [[電磁気学]]が19世紀に発展した結果、電磁気学とニュートン力学が互いに矛盾することが問題となった。電磁気学における基本方程式である[[マクスウェルの方程式]]は、ニュートン力学における[[ニュートンの運動方程式|運動方程式]]と異なり、[[ガリレイ変換]]に対する[[不変量 (物理学)|不変量]]を持たず、[[慣性系]]によらず電磁気学の法則が成り立つならばそれは[[相対性原理]]を修正することになる。逆に、ニュートン力学とガリレイの相対性原理が正しいならば、マクスウェル方程式は一般の慣性系では成り立たず、電磁気学を修正する必要がある。19世紀末から20世紀初頭にかけて、[[ハインリヒ・ヘルツ]]、[[ジョージ・フィッツジェラルド]]、[[ヘンドリック・ローレンツ]]、[[アルベルト・アインシュタイン]]らの仕事によって、マクスウェルの理論の正当性が検証され、ニュートン力学は修正されることになる。修正された新しい力学は[[特殊相対性理論]]と呼ばれ、ガリレイの相対性原理ではなくアインシュタインの相対性原理を基礎とし、[[ローレンツ変換]]に対して普遍な力学である。 その後に発展した[[一般相対性理論]]までの完成された力学は「[[古典力学]]」と呼ばれ、1920年代に成立した[[量子力学]]と区別される。量子力学では[[局所実在論]]が成立せず、その意味でニュートン力学などの古典論とは決定的に異なっている。 [[File:Newtons cradle animation book.gif|thumb|right|200px|[[ニュートンのゆりかご]]]] === 解析力学 === {{main|解析力学}} '''ニュートン力学'''は[[ラグランジュ力学|ラグランジュ形式]]や[[ハミルトン力学|ハミルトン形式]]で再定式化された。これらは、ニュートンの運動法則を座標系の取り方によらずに一般的に成立するように構成されたもので、ラグランジュ形式では、[[最小作用の原理]]([[変分原理]])からニュートンの運動方程式を再現する。ハミルトン形式では、[[正準変数]]と[[ポアソン括弧]]を用いることにより、ニュートンの運動方程式に対応する正準方程式を対称な形で表現することができる。 == 現代物理学での位置付け == 現代の物理学の視点では、ニュートン力学は、「巨視的なスケールで、かつ[[光速]]よりも十分遅い[[速さ]]の運動を扱う際の、無矛盾・完結的な近似理論」と理解される。 [[相対性理論]]は、物体の速さが光速よりも十分遅い・重力が十分に小さい(地球レベル)の条件下ではニュートン力学で十分[[近似]]されるし、[[量子力学]]の結果は、対象物体の[[質量]]を大きくした極限では、ニュートン力学の運動方程式の解と一致する。例えば、[[人工衛星]]や[[惑星]]探査までを含む宇宙航行の運動の予測を行う際には、ニュートン力学を用いて十分な精度で計算できる場合が多い。 == 出典 == {{脚注ヘルプ}} {{reflist}} == 注釈 == {{reflist|group="注釈"}} == 参考文献 == *{{Cite book|和書|editor1=西川哲治|editor2=中嶋貞雄|editor2-link=中嶋貞雄|title=物理学辞典|edition=改訂版縮刷版|publisher=[[培風館]]|page=2480|year=1992|month=11|isbn=4-563-02093-1|ref=physdict}} *{{Cite book|和書|editor=物理学辞典編集委員会|title=物理学辞典|edition=三訂版|publisher=培風館|page=2688|date=2005-09-30|isbn=4-563-02094-X}} *{{cite book|url=https://books.google.co.jp/books?id=Tm0FAAAAQAAJ|author=Isaac Newton|others=[[ジョン・マチン|John Machin]], Andrew Motte (translator) |title=The Mathematical Principles of Natural Philosophy|volume=1|language=English|year=1729|ref=principia}} *{{Cite book|和書|author=アイザック・ニュートン|authorlink=アイザック・ニュートン|translator=中野猿人|title=プリンシピア―自然哲学の数学的原理|publisher=[[講談社]]|year=1977|isbn=978-4061221390|ref=principiaja1}} *{{Cite book|和書|author=チャールズ・キッテル|authorlink=チャールズ・キッテル|translator=[[今井功 (物理学者)|今井功]]|title=力学 |series=バークレー物理学コース 1|volume=上|publisher=[[丸善雄松堂|丸善]]|year=1975|isbn=978-4621029749|ref=berkeley}} *{{Cite book|和書|author=チャールズ・キッテル|translator=[[今井功 (物理学者)|今井功]]|title=力学 |series=バークレー物理学コース 1|volume=下|publisher=丸善|year=1975|isbn=978-4621029664}} *{{Cite book|和書|author=チャールズ・キッテル|translator=[[今井功 (物理学者)|今井功]]|title=力学 |series=バークレー物理学コース 1|edition=復刻版|publisher=丸善|year=2011|isbn=978-4621083376}} *{{Cite book|和書|author=エルンスト・マッハ|authorlink=エルンスト・マッハ| |translator=[[伏見譲]]|title=マッハ力学 力学の批判的発展史|publisher=講談社|year=1969|isbn=978-4061236516|ref=machja}} *{{Cite book|和書|author=砂川重信|authorlink=砂川重信|title=力学の考え方|series=物理の考え方 I|publisher=[[岩波書店]]|year=1993|ref=sunagawa}} *{{Cite book|和書|author=山本義隆|authorlink=山本義隆|title=古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ|publisher=[[日本評論社]]|year=1997|ref=yamamoto}} *{{Cite book|和書|author=松田哲|authorlink=松田哲|title=力学|series=パリティ物理学コース|publisher=丸善|isbn=978-4621038499|year=1993|month=8|page=292|ref=matsuda}} *{{Cite book|和書|author=松田哲|title=力学|series=パリティ物理学コース|publisher=丸善|isbn=978-4621070451|year=2001|month=5|page=277}} *{{Cite book|和書|author=原康夫|authorlink=原康夫|title=物理学通論|volume=I|publisher=[[学術図書出版社]]|year=1988|isbn=9784873610238|ref=hara}} *{{Cite book|和書|author=堀口剛|title=力学の基礎|publisher=[[技術評論社]]|year=2011|isbn=978-4774147024|ref=horiguchi}} *{{Cite book|和書|author=兵頭俊夫|title=考える力学|publisher=学術図書出版社|date=2001-3-25|isbn=978-4873610993|ref=hyodo}} *{{Cite book|和書|author=ポアンカレ|title=科学と仮説|publisher=岩波書店|year=1938|isbn=4003390210|ref=poincare}} == 関連項目 == *[[ニュートンの運動方程式]] *[[万有引力]] *[[剛体の力学]] *[[振動]] *[[時間]] - [[空間]] - [[ガリレイ変換]] *[[修正ニュートン力学]] *[[弾道学]] *[[古典力学]] - [[解析力学]]([[ラグランジュ力学]]、[[ハミルトン力学]]) *[[現代物理学]] - [[量子力学]]、 [[特殊相対性理論]]、[[一般相対性理論]] {{Physics-footer}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:にゆうとんりきかく}} [[Category:力学]] [[Category:古典力学]] [[Category:アイザック・ニュートン|りきかく]] [[Category:物理学のエポニム]]
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