ハロゲン化のソースを表示

{{Otheruses|化合物中に1個以上のハロゲン元素を付加する化学反応|飲料水に塩素や次亜塩素酸などを添加すること|塩素消毒|飲料水へのフッ素添加|水道水フッ化物添加}}
'''ハロゲン化'''（はろげんか、{{Lang-en-short|halogenation}}）は、[[化合物]]中に1個以上の[[ハロゲン]]を導入する化学反応である。ハロゲン化によって生成する[[ハロゲン化物]]は、たとえばポリマーや医薬品の製造などにおいて広く普及しているため、この種の変換は一般的で重要である<ref>{{cite book |doi=10.1002/9780470771723.ch3|chapter=Formation of Carbon-Halogen Bonds|title=Halides, Pseudo-Halides and Azides: Part 2 (1983)|year=1983|last1=Hudlicky|first1=Milos|last2=Hudlicky|first2=Tomas|pages=1021–1172|isbn=9780470771723|editor1=S. Patai|editor2=Z. Rappoport|series=PATAI's Chemistry of Functional Groups}}</ref>。本記事では主にハロゲン元素（F<sub>2</sub>, Cl<sub>2</sub>, Br<sub>2</sub>, I<sub>2</sub>）を用いたハロゲン化反応や、ハロゲン化物やハロゲン酸塩を使用したハロゲンの導入を説明する。また、さまざまな基質にハロゲンを導入するために、多くの特殊な試薬（例: [[塩化チオニル]]）も存在している。

== 有機化学 ==
有機化合物のハロゲン化には、{{Ill2|フリーラジカルハロゲン化|en|Free-radical halogenation}}、{{Ill2|ケトンハロゲン化|en|Ketone halogenation}}、{{Ill2|求電子的ハロゲン化|en|Electrophilic halogenation}}、{{Ill2|ハロゲン付加反応|en|Halogen addition reaction}}など、いくつかの経路が存在する。基質の性質が経路の決定を左右する。ハロゲン化のしやすさはハロゲンに影響される。[[フッ素]]と[[塩素]]はより[[求電子剤|求電子]]的で、より攻撃的なハロゲン化剤である。[[臭素]]はフッ素や塩素よりも弱いハロゲン化剤であり、[[ヨウ素]]はその中でも最も反応性が低い。脱ハロゲン化水素のしやすさは逆の傾向を示す。ヨウ素は有機化合物から最も容易に脱離するが、有機フッ素化合物は非常に安定している。

=== フリーラジカルハロゲン化 ===
[[飽和炭化水素]]（アルカン）のハロゲン化は置換反応である。この反応には通常、フリーラジカル経路が必要である。アルカンのハロゲン化における[[位置選択性]]は、C-H 結合の相対的な弱さによってほぼ決まる。この傾向は、第三級（tert-）および第二級（sec-）の位置での反応速度に反映される。 

フッ素元素（{{chem2|F2}}）を用いたフッ素化反応は、特に発熱性であるため、非常に特殊な条件と装置を必要とする。[[電解フッ素化|電解フッ素化法（電気化学的フッ素化法）]]は、[[フッ化水素]]から少量のフッ素元素をその場で（''in situ''）生成する方法である。この方法は、フッ素ガスの取り扱いに伴う危険性を回避することができる。多くの商業的に重要な有機化合物がこの技術を使用してフッ素化されている。{{chem2|F2}} やその電気化学的な生成物に加え、[[フッ化コバルト(III)]]もフッ素ラジカルの供給源として使用されている。

フリーラジカル塩素化は、いくつかの溶剤の工業生産に使用されている<ref name="Ullmann">{{Ullmann|doi=10.1002/14356007.a06_233.pub2}}</ref>。
:<chem>CH4 + Cl2 -> CH3Cl + HCl</chem>
天然に存在する有機臭素化合物は、通常、[[臭化物ペルオキシダーゼ|臭化物ペルオキシダーゼ（ブロモペルオキシダーゼ）]]という酵素を触媒とするフリーラジカル経路で生成される。この反応には、臭化物と酸化剤である酸素の共同が必要である。年間100万-200万トンの[[ブロモホルム]]と56,000トンの[[ブロモメタン]]が海洋から放出されていると推定される<ref>{{cite journal|doi=10.1039/a900201d|title=The diversity of naturally occurring organobromine compounds|year=1999|last1=Gribble|first1=Gordon W.|journal=Chemical Society Reviews|volume=28|issue=5|pages=335–346}}</ref>。

メチルケトンを分解する[[ヨードホルム反応]]は、フリーラジカルヨウ素化反応によって進行する。                        

==== アルケンやアルキンへのハロゲン付加 ====
不飽和化合物、特に[[アルケン]]や[[アルキン]]はハロゲンを[[求電子付加反応|付加]]する。
:<chem>RCH=CHR' + X2 -> RCHX-CHXR'</chem>
{{Ill2|オキシ塩素化|en|Oxychlorination}}では、次に示すジクロロエタンへの経路のように、塩化水素と酸素を組み合わせて塩素と同等の役割を果たす。

:<chem>2 HCl + CH2=CH2 + 1/2 O2 -> ClCH2CH2Cl + H2O</chem>
アルケンへのハロゲンの付加は、中間体の{{Ill2|ハロニウムイオン|en|Halonium ion|label=}}を経由して進行する。特殊な例では、このような中間体が単離されている<ref>{{cite journal | journal = [[:en:Chem. Commun.|Chem. Commun.]] | year = 1998 | pages = 927–928 | doi = 10.1039/a709063c | title = X-Ray structure of bridged 2,2′-bi(adamant-2-ylidene) chloronium cation and comparison of its reactivity with a singly bonded chloroarenium cation |author1=T. Mori |author2=R. Rathore | issue = 8 }}</ref>。
:[[File:Biadamantylidene-bromonium-ion-from-xtal-1994-2D-skeletal.png|170px|thumb|{{Ill2|ハロニウムイオン|en|Halonium ion|label=ブロモニウムイオン}}の構造]]
臭素化反応は{{Ill2|発熱過程|en|Exothermic process|label=発熱}}が少ないため、塩素化反応よりも[[化学選択性|選択的]]が高い。次の図は、アルケンの臭素化の実例として、[[トリクロロエチレン]]から麻酔薬[[ハロタン]]に至る経路を示すものである<ref>''Synthesis of Essential Drugs'', Ruben Vardanyan, Victor Hruby; Elsevier 2005 {{ISBN|0-444-52166-6}}</ref>。
:[[Image:Halothane synthesis.png|600px|Halothane synthesis]]

'''ヨウ素化'''は、アルケンにヨウ素を添加することで行われる。この反応は、ヨウ素 {{chem2|I2}} の色を呈しながら進行するので、[[脂肪]]の[[不飽和度]]を測定する[[ヨウ素価]]の分析方法の基礎となるものである。

=== 芳香族化合物のハロゲン化 ===
芳香族化合物は求電子ハロゲン化の対象となる<ref>Illustrative procedure for chlorination of an aromatic compound: {{OrgSynth|author=Edward R. Atkinson, Donald M. Murphy, and James E. Lufkin |year=1951|title=''dl''-4,4′,6,6′-Tetrachlorodiphenic Acid|collvol=4| collvolpages=872|prep=CV4P0872}}</ref>。
:<chem>RC6H5  +  X2 ->  HX  +  RC6H4X</chem>
このような反応は、一般に、塩素や臭素でよく起こる。[[臭化鉄(III)]]などの[[ルイス酸]]触媒を用いることが多い<ref>Organic chemistry by Jonathan Clayden, Nick Grieves, Stuart Warren, Oxford University Press</ref>。[[フッ素]]は非常に反応性が高いので、フッ素化芳香族化合物の調製には[[バルツ・シーマン反応]]のような他の方法を使用しなければならない。ヨウ素化は、[[ヨウ化水素]]を使用して、その場（''in situ''）で {{chem2|I2}} を生成する[[酸化剤]]の存在下で行うことができる。

=== その他のハロゲン化法 ===
[[ハンスディーカー反応]]は、カルボン酸をより鎖長が短いハロゲン化物に変換する。まずカルボン酸が銀塩に変換され、次にこれがハロゲンで酸化される。

:<chem>RCO2Ag + Br2 -> RBr + CO2 + AgBr</chem>

== 無機化学 ==
アルゴン、ネオン、ヘリウムを除き、すべての元素は[[フッ素]]との直接反応によってフッ化物を生成する。塩素は選択性がやや高いものの、それでもほとんどの金属やより重い非金属と反応する。通常の傾向として、臭素は反応性が低く、ヨウ素は最も反応性が低い。多くの可能性のある反応の中で、[[金]]の塩素化による[[塩化金(III)]]の生成は、その一例である。金属の塩素化は、酸化物とハロゲン化水素から塩化物を作る方が容易なので、通常、工業的にはあまり重要ではない。比較的大規模な無機化合物の塩素化は、[[三塩化リン]]と[[二塩化二硫黄]]の製造である<ref>{{Cite book|edition=2nd ed|title=Chemistry of the elements|url=https://www.worldcat.org/oclc/48138330|date=1997|location=Boston, Mass.|isbn=0-585-37339-6|oclc=48138330|others=A. Earnshaw|first=N. N.|last=Greenwood}}</ref>。

== 関連項目 ==
{{wikiquote}}
{{Div col|colwidth=30em}}
* {{Ill2|脱ハロゲン化|en|Dehalogenation}}
* [[ハロゲン化アルキル]]
* [[ハロゲン化アリール]]
* {{Ill2|フリーラジカルハロゲン化|en|Free-radical halogenation}}
* {{Ill2|α-ハロケトン|en|Alpha-Haloketone}}
* [[求電子置換反応|求電子置換反応 (親電子置換反応)]]
{{Div col end}}

== 脚注 ==
{{Reflist|2}}

{{Authority control}}
[[Category:ハロゲン化反応]]
[[Category:有機反応]]
[[Category:無機反応]]
{{DEFAULTSORT:はろげんか}}