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パリティ (物理学)
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{{フレーバー}} '''パリティ変換''' (parity transformation) は、[[物理学]]において、[[空間]][[座標]]のいくつかの成分の符号を反転させる操作である。'''パリティ反転''' (parity inversion) とも呼ぶ。ただし、一般的な3次元においては、もっぱら空間座標の符号を3つとも反転することを指す: :<math>P: \begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix}-x\\-y\\-z\end{pmatrix}.</math> この場合のパリティ変換 '''P''' を3×3行列であらわすと、値−1の[[行列式]]となる。必然的に行列式「1」となる[[回転]]へは還元できない。対応する数学的概念は[[点対称]]変換である。これらの条件は他の次元でも変わらない。よってパリティ変換は単なる「全ての条件の同時反転」ではない。 2次元平面においては180°の[[回転]]では'''ない'''。P行列の行列式は必ず−1であり、2次元場合は2成分の内 の''どちらか一方のみ''の符号を反転させる。 == 概要 == [[量子力学]]において[[粒子]]は'''パリティ'''という[[属性]]を持つ。量子力学においてはこの属性は[[不変量]]で[[空間対称性]]について保存していると定義する。ただし、[[弱い相互作用]]では保存されない場合がある。ナイーブには[[波動関数]]が[[偶関数]]か[[奇関数]]かの属性と考える事が出来る。 空間反転の操作自体をパリティ変換と呼ぶ。また、パリティはある現象の[[カイラリティ]]に対するテストとしても考えることができる。パリティ反転は、カイラルな現象をその鏡像へと変換するが、アカイラル(非[[カイラル]])な現象では恒等変換となる。 一般に、パリティ奇であるスカラーは[[擬スカラー]]、ベクトルは[[擬ベクトル]](もしくは軸性ベクトル){{疑問点|date=2021年4月|title=ベクトル・擬ベクトルについて、ここの「パリティ奇」と 後の節に書かれている 偶数/奇数 が合っていない。}}と呼ばれる。 この他、偶数と奇数の足し算のような性質を持つ[[対称性変換]]の[[固有値]]にパリティの名を冠する場合がある。[[荷電共役変換]] C での変換性を{{仮リンク|Cパリティ|en|C parity}}と呼ぶなど。 == 単純な対称性関係 == 古典的幾何学的対象は、[[回転]]に対する高階の[[スカラー]]、[[空間ベクトル|ベクトル]]および[[テンソル]]へと分類することができる。[[古典物理学]]では、物理的配置は各対称群の[[群の表現|表現]]の下で変換する必要がある。 [[量子力学]]は、[[ヒルベルト空間]]中の状態は回転[[群 (数学)|群]]の表現の下での変換を必要とせず{{仮リンク|射影表現|en|Projective representation}}だけを必要とすると予測している。''射影''という語は、各状態の[[位相]]を[[射影]]すると、ある量子状態の全体の位相は[[オブザーバブル]]でないことから、射影表現は通常の表現へ帰着するという事実を言及する。全ての表現は射影表現でもあるが、逆は真ではない、それゆえ量子状態の射影表現条件は古典状態の表現条件よりも弱い。 あらゆる群の射影表現は、群の[[中心拡大]]の通常の表現と同型である。例えば、3次元回転群の射影表現、つまり[[特殊直交群]] SO(3) は[[特殊ユニタリ群]] SU(2) の通常の表現である。表現ではない回転群の射影表現は[[スピノル]]と呼ばれ、量子状態はテンソルとしてだけではなくスピノルとして変換を行う。 これにパリティによる分類を加えると、これらは例えば次の概念に拡張できる、 *''スカラー'' (''P'' = 1) および ''[[擬スカラー]]'' (''P'' = −1) は回転不変である。 *''ベクトル'' (''P'' = −1) および ''軸性ベクトル''(''[[擬ベクトル]]''とも呼ばれる) (''P'' = 1) はともに回転の下でベクトルとして変換する。 ここで、以下のような'''鏡映'''を定義することができる :<math>V_x: \begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix}-x\\y\\z\end{pmatrix},</math> これはまた負の行列式を持ち、妥当なパリティ変換を形成する。次に、それらの回転を実行し(または連続的にx、y、およびz軸に対する[[鏡映]]を実行し)、先に定義した特定のパリティ変換を得ることができる。しかし、次元数が偶数の場合には行列式が正になるため、最初に定義されたパリティ変換は機能しない。次元数が奇数の場合、後者のパリティ変換の例(または座標の奇数の鏡映)だけが用いられる。 パリティは、'''P'''<sup>2</sup> = 1の関係によって、[[アーベル群]] '''Z'''<sub>2</sub>を形成する。全てのアーベル群は一次元の[[既約表現]]だけを持つ。'''Z'''<sub>2</sub>については、二つの既約表現が存在する。一つはパリティの下で奇数 ('''Pφ''' = '''φ''') 、もう一つは偶数 ('''Pφ''' = −'''φ''') である。これらは[[量子力学]]において有用である。しかしながら、以下に詳しく述べられているように、量子力学において、状態はパリティの実際の表現の下での変換を必要とせず、ただ射影表現の下での変換が必要となる。そして、原理的にはパリティ変換はあらゆる[[位相]]によって状態を回転する。 == 古典力学 == ニュートンの運動方程式 '''F''' = ''m'''''a''' (質量が不変の場合)は二つのベクトルが等しいことを関連付け、それゆえパリティの下で不変である。重力の法則もまたベクトルのみを含み、それゆえパリティの下で不変である。しかしながら、角運動量'''L''' は[[軸性ベクトル]]である。 :'''L''' = '''r''' × '''p''', :'''P'''('''L''') = (−'''r''') × (−'''p''') = '''L'''. 古典[[電気力学]]において、[[電荷密度]] ''ρ'' はスカラー、[[電場]] '''E''' および[[電流]] '''j''' はベクトルであるが、[[磁場]] '''H''' は軸性ベクトルである。しかしながら、軸性ベクトルの[[回転 (ベクトル解析)|回転]]はベクトルであるので、[[マクスウェル方程式]]はパリティの下で不変である。 == 古典力学変数に対する空間反転の効果 == === 偶数 === 古典的変数、主にスカラー量(空間反転によって不変)は以下のものを含む: :<math>\ t</math>, イベントが起こったときの[[時間]] :<math>\ m</math>, 粒子の[[質量]] :<math>\ E</math>, 粒子の[[エネルギー]] :<math>\ P</math>, [[仕事率]] ([[仕事 (物理学)|仕事]]がなされる速度) :<math>\ \rho</math>, [[電荷密度]] :<math>\ V</math>, [[電位]]([[電圧]]) :<math>\ \rho</math>, [[電磁場]]の[[エネルギー密度]] :<math>\mathbf L</math>, 粒子の[[角運動量]]([[軌道 (力学)|軌道]]と[[スピン (物理学)|スピン]]の両方)(軸性ベクトル) :<math>\mathbf B</math>, [[磁場]](軸性ベクトル) :<math>\mathbf H</math>, {{仮リンク|補助場|en|Auxiliary field}} :<math>\mathbf M</math>, [[磁化]] :<math>\ T_{ij}</math> [[マクスウェルの応力テンソル]] :弱い力に関係するものを除く全ての質量、[[チャージ (物理学)|チャージ]]、[[結合定数 (物理学)|結合定数]]、および他の[[物理定数]] === 奇数 === 古典的変数、主にベクトル(空間反転によって符号が逆転する)は以下のものを含む: :<math>\ h</math>, [[ヘリシティ]] :<math>\ \Phi</math>, [[磁束]] :<math>\mathbf x</math>, 三次元の粒子の[[位置]] :<math>\mathbf v</math>, 粒子の[[速度]] :<math>\mathbf a</math>, 粒子の[[加速度]] :<math>\mathbf p</math>, 粒子の[[直線運動量]] :<math>\mathbf F</math>, 粒子にかかる[[力 (物理学)|力]] :<math>\mathbf J</math>, [[電流密度]] :<math>\mathbf E</math>, [[電場]] :<math>\mathbf D</math>, [[電束密度]] :<math>\mathbf P</math>, [[分極電荷密度]] :<math>\mathbf A</math>, 電磁[[ベクトルポテンシャル]] :<math>\mathbf S</math>, [[ポインティングベクトル]] == 量子力学 == === 可能な固有値 === [[Image:parity 1drep.png|thumb|200px|right|パリティの二次元表現はお互いのパリティが入れ替わる一対の量子状態によって与えられる。しかしながら、この表現はいつもパリティがそれぞれ奇数か偶数である状態の線形結合へ還元することができる。パリティの全ての[[既約表現]]は一次元であると言える。]] [[量子力学]]において、時空変換は[[量子状態]]に作用する。パリティ変換 '''P''' は量子力学における[[ユニタリ作用素|ユニタリ演算子]]であり、状態 '''ψ''' に '''Pψ'''(r) = '''ψ'''(−r) のように作用する。全体の位相は[[オブザーバブル|アンオブザーバブル]]であるため、'''P'''<sup>2</sup>'''ψ'''(r) = e<sup>iφ</sup>'''ψ'''(r) である必要がある。 ある状態のパリティを二度反転する[[演算子 (物理学)|演算子]] '''P'''<sup>2</sup>は時空不変性を保ち、位相 e<sup>i''φ''</sup>によってその固有状態を回転する内部対称性である。もし '''P'''<sup>2</sup> が位相回転の連続 U(1) 対称群の要素 e<sup>i''Q''</sup> であるならば、 e<sup>−i''Q''/2</sup> はこの U(1) の一部分であり、そのため対称性でもある。特に、同様に対称性である'''P''' = '''P'''e<sup>−i''Q''/2</sup> と定義することができ、'''P'''をパリティ演算子と呼ぶことができる。'''P'''<sup>2</sup> = 1 で'''P'''は固有値±1を持つことに注意すること。しかしながら、そのような対称群が存在しないとき、全てのパリティ変換は±1以外の位相である固有値を持つ。 === パリティ対称性の帰結 === パリティが[[アーベル群]] '''Z'''<sub>2</sub>を生成するとき、パリティの下で偶数または奇数となるように量子状態の線形結合を取ることができる(図を参照)。このようにそのような状態のパリティは±1である。複数粒子状態のパリティは各状態のパリティの積である。言い換えると、パリティは乗法的な[[量子数]]である。 量子力学において、[[ハミルトニアン]]はパリティ変換の下で[[不変量 (物理学)|不変量]](対称性)である、もし'''P'''がハミルトニアンと[[可換]]であるなら。[[量子力学|非相対論的量子力学]]では、これは例えば'''V''' = '''V'''(r) のようなスカラーであるすべてのポテンシャルについて起こる。それゆえポテンシャルは球対称である。次の事実は容易に証明できる: * |A> および |B> が同じパリティを持つならば、<A| '''X''' |B> = 0 である。ここで、'''X''' は[[位置演算子]]である。 * 状態 |'''L'''について、z軸射影 ''L''<sub>z</sub>を伴う軌道角運動量 '''L''' の''L''<sub>z</sub>>、'''P'''|'''L'''、''L''<sub>z</sub>> = (−1)<sup>''L''</sup>|'''L'''、''L''<sub>z</sub>>。 * ['''H''', '''P'''] = 0 ならば、原子双極子遷移は反対のパリティの状態間でのみ起きる<ref> {{cite book |last1=Bransden |first1=B. H. |last2=Joachain |first2=C. J. |year=2003 |title=Physics of Atoms and Molecules |edition=2nd |page=204 |publisher=[[Prentice Hall]] |isbn=978-0582356924 }}</ref>。 * ['''H''', '''P'''] = 0 ならば、'''H''' の非縮退[[固有状態]]もまたパリティ演算子の[[固有状態]]である。例えば、'''H''' の非縮退[[固有関数]]は '''P''' または'''P'''の符号が逆のものかのどちらかである。 '''H''' の非縮退固有関数のいくつかはパリティ '''P'''の影響を受けず(不変で)、その他のものはハミルトニアン演算子とパリティ演算子が[[可換]]であるときただ符号を保存する: ::'''PΨ''' = ''c'''''Ψ''', ここで ''c'' は定数で、 '''P''' の[[固有値]]である。 ::'''P'''<sup>2</sup>'''Ψ''' = ''c'''''PΨ'''. == 場の量子論 == 場の量子論において以下の3つの条件が全て満たされている場合、全ての状態に対して[[:en:intrinsic parity|固有パリティ]]を定義することができ、このパリティはあらゆる反応において保存することとなる。 * [[真空状態]]がパリティの下で不変である。 ('''P'''|0> = |0>) * [[ハミルトニアン]]がパリティ不変である。 (['''H''', '''P'''] = 0) * [[:en:quantization condition|量子化条件]]はパリティの下で不変性を保つ。 [[量子電磁力学]]はパリティを保存する理論の代表的な例である。 このことを示すためには、その[[作用 (物理学)|作用]]はパリティ不変であり、量子化もパリティを破らないことを証明する必要がある。以下では簡単のため、[[正準量子化]]が用いられることを仮定する。このとき、その真空状態は量子化の構築によってパリティの下で不変である。作用の不変性は[[マクスウェル方程式]]の古典的不変性から得られる。正準量子化手続きの不変性は達成することができるが、消滅演算子の変換に依存することが分かる: :'''Pa'''('''p''', ±)'''P'''<sup>+</sup> = −'''a'''(−'''p''', ±) ここで '''p''' は[[光子]]の[[運動量]]を表し、± はその[[偏光]]状態を表す。これは、光子は奇の[[:en:intrinsic parity|固有パリティ]]を持つことを意味する。 同様に全ての[[ベクトル粒子]]は奇数の固有パリティを持ち、全ての[[:en:pseudovector meson|疑ベクトル中間子]]は偶の固有パリティを持つことを示すことができる。 == 標準模型におけるパリティ == === 大域的対称性の固定 === {{See also|[[:en:(−1)F|(−1)<sup>''F''</sup>]]}} [[標準模型]]では[[弱い相互作用]]によってパリティ対称性は破れているが、その影響を無視できる状況下ではパリティが保存されるとみなすことができる。 パリティ演算子Pに対し、パリティが保存される理論では、ハミルトニアンHが、 :<math>P H P^{-1} = H</math> を満たす。 また、[[標準模型]]においては、[[バリオン数]] ''B''、[[レプトン数]] ''L'' および [[電荷]] ''Q'' は保存されるが、 これを用いて、新しいパリティ演算子<math>P' = P~ {\rm exp} (i\alpha B + i\beta L + i\gamma Q)</math>を定義すると、 :<math>P' H P'^{-1} = H</math> が成立する。すなわち保存量であるパリティの定義は一意に決めることができない。 この自由度を用いることにより、''B''、''L'' および ''Q''のチャージを持ち方が線形独立な3つの粒子に対して、固有パリティが+1となるようなパリティを定義することが可能となる。 [[陽子]]、[[中性子]]および[[電子]]に+1のパリティを割り当てるものが、よく用いられるパリティの定義である。 一般には、全ての粒子に対して固有パリティを+1か-1に取ることはできない。 以下、[[スティーヴン・ワインバーグ]]の議論に従う。 <math>P</math>が保存量である場合<math>P^2</math>も保存量となる。もし、<math>P^2 = {\rm exp} (i\alpha B + i\beta L + i\gamma Q)</math>と書くことができた場合には、<math>P' = P~ {\rm exp} (-i\alpha B/2 - i\beta L/2 - i\gamma Q/2)</math>に対して、<math>P'^2=1</math>が成立するため、全ての粒子の固有パリティは+1か-1に取ることが可能である。 ただし、<math>P^2</math>が離散的な対称変換の元になっていた場合はこのような再定義ができるかどうかはただちに結論付けることはできない。 具体的には<math>P^2</math>が次のように書かれる可能性がある。 :<math>P^2 = (-1)^F</math> ここで、'''F'''は[[フェルミオン]] [[数演算子]]である。 このような場合に、レプトン数などの保存量を持たない[[フェルミオン]]が存在すると<math>P^2=-1</math>から、そのような粒子のパリティは+iか-iである、ということが導かれる。 ただし、今までに知られている粒子については全てフェルミオン数''F''はレプトン数とバリオン数の和''F''=''B''+''L''であることが知られているため、上記のような場合にも、 <math>P' = P~{\rm exp} (i\pi B/2 + i\pi L/2)</math>と定義しなおすことで全ての粒子の固有パリティは+1か-1に取ることが可能である。 === パイ中間子のパリティ === [[1954年]]、[[:en:William Chinowsky|William Chinowsky]]および[[ジャック・シュタインバーガー]]は、[[パイ中間子]]は負のパリティを持つことを実証した <ref> {{cite journal |last1=Chinowsky |first1=W. |last2=Steinberger |first2=J. |year=1954 |title=Absorption of Negative Pions in Deuterium: Parity of the Pion |journal=[[Physical Review]] |volume=95 |issue= 6|pages=1561–1564 |bibcode=1954PhRv...95.1561C |doi=10.1103/PhysRev.95.1561 }}</ref>。 彼らは、一つの[[重水素]][[原子核]] (''d'') および負の電荷の[[パイ中間子]] (π<sup>–</sup>) から構成されているゼロ[[軌道角運動量]] ''L'' = 0 状態にある"[[原子]]"が二つの[[中性子]] (''n'') に崩壊する現象を解析した。 中性子は[[フェルミオン]]であり、[[フェルミ統計]]に従う。このことは反応の最終状態は中性子の入れ替えに対して[[反対称]]であることを意味する。重水素はスピン1でパイ中間子はスピン0であること、終状態が中性子の入れ替えに対して反対称であることを用いて、彼らは二つの中性子系の軌道角運動量 ''L''は 1 でなければならないと結論付けた。その全パリティは、その粒子の固有パリティ(intrinsic parity) と[[球面調和関数]] (−1)<sup>L</sup> の外部パリティ (extrinsic parity) の積である。その軌道角運動量はこの過程で0から1に変化するため、もしその過程が全パリティを保存するなら、粒子の初期状態と最終状態固有パリティの積は逆符号でなくてはならない。 重水素原子核は陽子と中性子から構成されており、前述の陽子および中性子の固有パリティは+1とする定義を用いると、パイ中間子のパリティは二つの中性子のパリティの積を重水素中の陽子と中性子のパリティで割った値のマイナス、(−1)(1)<sup>2</sup>/(1)<sup>2</sup>、すなわち-1であることが導かれる。 このようにして、彼らはパイ中間子は[[:en:pseudo scalar particle|擬スカラー粒子]]であると結論付けた。 === パリティ対称性の破れ === {{main|パリティ対称性の破れ|CP対称性の破れ}} パリティは[[電磁相互作用]]、[[強い相互作用]]および[[重力相互作用]]において保存するが、[[弱い相互作用]]では破れることが判明した。標準模型は、弱い相互作用を[[カイラリティ|カイラル]][[ゲージ理論|ゲージ相互作用]]として表現することで'''パリティ対称性の破れ'''を組み込んでいる。粒子の[[ヘリシティ|左巻き成分]]と反粒子の[[ヘリシティ|右巻き成分]]だけが[[標準模型]]における弱い相互作用に関与している。このことは、パリティが通常の宇宙とは反対方向に破れるような[[ミラーマター|隠れたミラー領域]]が存在しない限り、パリティはわれわれの宇宙の対称性ではないことを示唆していた。 パリティは保存していないということは幾度となく異なる文脈において示唆されてきたが、これらの示唆を真剣に取り上げるだけの決定的な材料に欠けていた。しかし、理論物理学者の[[李政道]]および[[楊振寧]]によって注意深く調査され<ref> {{cite journal |last1=Lee |first1=T. D. |last2=Yang |first2=C. N. |year=1956 |title=Question of Parity Conservation in Weak Interactions |journal=[[Physical Review]] |volume=104 |issue=1 |pages=254–258 |bibcode = 1956PhRv..104..254L |doi=10.1103/PhysRev.104.254 }}</ref>、パリティ保存は[[強い相互作用]]または[[電磁相互作用]]による崩壊においては検証されてきた一方で、[[弱い相互作用]]においては検証されていないことが示された。彼らは幾つかの可能な直接的な検証方法を提唱した。彼らの提案はほとんど無視されたが、李は[[コロンビア大学]]の彼の同僚である[[呉健雄]]を実験を試してみるよう説得することができた。そこで、彼女は特別な[[低温物理学]]施設と専門家を必要としたため、実験は[[アメリカ国立標準技術研究所|国立標準局]]において行われた。 1957年、呉健雄、E. Ambler、R. W. Hayward、D. D. Hoppes、およびR. P. Hudsonは[[コバルト60]]の[[ベータ崩壊]]において明白なパリティ保存の破れを観測した<ref> {{cite journal |last1=Wu |first1=C. S. |last2=Ambler |first2=E |last3=Hayward |first3=R. W. |last4=Hoppes |first4=D. D. |last5=Hudson |first5=R. P. |year=1957 |title=Experimental Test of Parity Conservation in Beta Decay |journal=[[Physical Review]] |volume=105 |issue=4 |pages=1413–1415 |bibcode=1957PhRv..105.1413W |doi=10.1103/PhysRev.105.1413 }}</ref>。実験が終わりに近づくにつれ、二重チェックが進められ、吳は李と楊にその実験がうまくいっており、さらに精査中であることを知らせた。そして、彼女は彼らにこのことは公にしないように頼んだ。しかしながら、李はこの結果をコロンビア大学の彼の同僚に、1957年1月4日のコロンビア大学物理学科の"金曜ランチ"セミナーにおいて打ち明けた<ref>江才健 ''吳健雄: 物理科學的第一夫人'' p.216 時報文化出版企業股份有限公司 ISBN 957-13-2110-9</ref>。そのメンバーのうち三人、[[:en:Richard Garwin|R. L. Garwin]]、[[レオン・レーダーマン]]、およびR. Weinrichは既存の低温物理学実験を修正して、直ちにパリティ対称性の破れを検証した<ref> {{cite journal |last1=Garwin |first1=R. L. |last2=Lederman |first2=L. M. |last3=Weinrich |first3=M. |year=1957 |title=Observations of the Failure of Conservation of Parity and Charge Conjugation in Meson Decays: The Magnetic Moment of the Free Muon |journal=[[Physical Review]] |volume=105 |issue=4 |pages=1415–1417 |bibcode=1957PhRv..105.1415G |doi=10.1103/PhysRev.105.1415 }}</ref>。彼らは吳のグループが論文を投稿する準備が整うまで公表を遅らせ、こうして同じ物理の論文誌にこれら二つの論文が連続して掲載された。 その事実の後、1928年の実験は[[弱い相互作用|弱い崩壊]]におけるパリティ対称性の破れを事実上報告していたが、適切な概念は未だ開発されていなかったので、これらの結果は影響をもたらさなかったことが記されている<ref> {{cite journal |last1=Roy |first=A. |year=2005 |title=Discovery of parity violation |journal=[[Resonance (journal)|Resonance]] |volume=10 |issue=12 |pages=164–175 |doi=10.1007/BF02835140 }}</ref>。パリティ対称性の破れの発見は、直ちに[[K中間子]]物理学において未解決の[[:en:Kaon#Parity violation|τ–θ 問題]]を説明した。 2010年、[[RHIC]](相対論的重イオン衝突器)の物理学者グループは[[クォークグルーオンプラズマ]]においてパリティ対称性が破れたバブルが短寿命の間だけ作り出されたことを報告した。実験は、[[イェール大学]]のDonner教授を含む幾人かの物理学者によって率いられ、2000年から原子衝突実験を行っているSTAR実験の一部として行われた。パリティ自身の法則における変化を示した<ref> {{cite web |last=Muzzin |first=S. T. |date=19 March 2010 |title=For One Tiny Instant, Physicists May Have Broken a Law of Nature |url=http://www.physorg.com/news188211977.html |work=[[PhysOrg]] |accessdate=2011-08-05 }}</ref> === ハドロンの固有パリティ === 自然がパリティを保存する限り、全ての粒子について'''固有パリティ'''を割り当てることができる。[[ハドロン]]は[[弱い相互作用]]はしないが、結合に関わる[[強い相互作用]]の反応を吟味することによって、または[[ロー中間子]]が[[パイ中間子]]に崩壊するような[[弱い相互作用]]を含まない崩壊を通して、あらゆる[[ハドロン]]についてパリティを割り当てることができる。 == 関連項目 == {{Wikidata property}} * [[電弱理論]] * [[標準模型]] * [[ミラーマター]] * [[呉の実験]] * 『[[自然界における左と右]]』 == 脚注 == <references /> == 参考文献 == *{{cite book |last1=Sozzi |first=M. S. |year=2008 |title=Discrete symmetries and CP violation |publisher=[[オックスフォード大学出版局|Oxford University Press]] |isbn=978-0-19-929666-8 }} *{{cite book |last1=Bigi |first=I. I. |last2=Sanda |first2=A. I. |year=2000 |title=CP Violation |series=Cambridge Monographs on Particle Physics, Nuclear Physics and Cosmology |publisher=[[Cambridge University Press]] |isbn=0-521-44349-0 }} *{{cite book |last1=Weinberg |first1=S. |year=1995 |title=The Quantum Theory of Fields |publisher=[[Cambridge University Press]] |isbn=0-521-67053-5 }} <!-- Footer templates --> {{C、PおよびT対称性}} {{物理学の演算子}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:はりてい ふつりかく}} <!-- Categories --> [[Category:物理数学]] [[Category:量子力学]] [[Category:場の量子論]] [[Category:素粒子物理学]] [[Category:原子核物理学]] [[Category:保存則]] <!-- Interlanguage links -->
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