ヒドロキシルアミンのソースを表示

{{Chembox
| Watchedfields = changed
| verifiedrevid = 269100106
| ImageFileL1 = Hydroxylamine-2D.png
| ImageSizeL1 = 130px
| ImageNameL1 = ヒドロキシルアミンの構造式
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| ImageNameR1 = ヒドロキシルアミンの球棒モデル
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| ImageSize2 = 220px
| ImageName2 = ヒドロキシルアミンの構造式 (詳細)
| IUPACName = Hydroxylamine<br />ヒドロキシルアミン
| OtherNames = アザノール<br />オキサンモニウム
| Section1 = {{Chembox Identifiers
|   CASNo = 7803-49-8
|   CASNo_Ref = {{cascite}}
|   PubChem = 787
|   RTECS = NC2975000
  }}
| Section2 = {{Chembox Properties
|   Formula = NH<sub>2</sub>OH
|   MolarMass = 33.030 g/mol
|   Appearance = 白色の針状またはフレーク状固体
|   Density = 1.21 g/cm<sup>3</sup> (20 {{℃}})<ref>Pradyot Patnaik. ''Handbook of Inorganic Chemicals''. McGraw-Hill, 2002, {{ISBN2|0070494398}}</ref>
|   Solubility = 冷水に可溶<br />熱水では[[加水分解]]
|   SolubleOther = 液体[[アンモニア]]、[[アルコール]]に易溶
|   MeltingPtC = 33
|   BoilingPtC = 58
|   Boiling_notes = 分解
|   pKa = 5.94
  }}
| Section3 = {{Chembox Structure
|   Dipole = 0.67553 [[デバイ|D]]
  }}
| Section4 = {{Chembox Thermochemistry
|   DeltaHf = -39.9 kJ/mol
  }}
| Section7 = {{Chembox Hazards
|   ExternalMSDS = [https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=0661&p_version=2 ICSC 0661]
|   EUIndex = 612-122-00-7（水溶液、> 55 %）<br />612-122-01-4（水溶液、< 55 %）
|   EUClass = [[発癌性|Carc. Cat. 3]]<br />爆発性 ('''E''')<br />有毒 ('''T''')<br />有害 ('''Xn''')<br />刺激性 ('''Xi''')<br />環境への危険性 ('''N''')
|   RPhrases = {{R-phrases|2|21/22|37/38|40|41|43|48/22|50}}
|   SPhrases = {{S-phrases|2|26|36/37/39|61}}
|   NFPA-H = 2
|   NFPA-F = 0 
|   NFPA-R = 3
|   FlashPt = 129 {{℃}}, 402 K（爆発）
|   Autoignition = 265 {{℃}}, 538 K<!-- seems inconsistent with above flash point, but both come from the ICSC -->
|   LD50 =  408 mg/kg（経口、マウス）; 59–70 mg/kg（腹腔内投与、マウス、ラット）; 29 mg/kg（皮下注射、ラット）<ref>{{cite book |author=Martel, B.; Cassidy, K. |title=Chemical Risk Analysis: A Practical Handbook |publisher=Butterworth–Heinemann |year=2004 |pages=362 |isbn=1903996651}}</ref>
  }}
| Section8 = {{Chembox Related
|   OtherFunctn = {{plainlist|
*[[塩化ヒドロキシルアンモニウム]]
*[[硝酸ヒドロキシルアンモニウム]]
*[[硫酸ヒドロキシルアンモニウム]]
    }}
|    Function = ヒドロキシルアンモニウム塩
|   OtherCpds = {{plainlist|
*[[アンモニア]]
*[[ヒドラジン]]
    }}
  }}
}}
'''ヒドロキシルアミン'''（{{lang-en-short|hydroxylamine}}）は示性式が {{chem|NH|2|OH}} と表される[[無機化合物]]である。[[水]]と[[アンモニア]]が互いに一部分を共有したような構造を持っているので、それらの混成体と見ることもできる。純粋なヒドロキシルアミンは室温で不安定な結晶性の固体であり、吸湿性を持つ。[[潮解]]性がある。一般的に[[水溶液]]、または塩酸塩などの[[塩 (化学)|塩]]として取り扱われる。

ヒドロキシルアミンは生合成的[[硝化]]の中間体である。アンモニアの酸化はヒドロキシルアミン酸化還元酵素によって媒介される。

== 生産 ==
いくつかの合成法が知られている<ref>Earnshaw, A.; Greenwood, N. ''Chemistry of the Elements''; Butterworth-Heinemann: Oxford, 1997; 2nd ed., pp. 431&#x2013;432. ISBN 0750633654</ref>。

ラシヒ法 (Raschig Synthesis) では、まず[[亜硝酸アンモニウム]]水溶液を 0 {{℃}} において <chem>HSO4^- /SO2</chem> で還元し、ヒドロキシルアミド-''N'',''N''-ジスルフェートとする。これを[[加水分解]]して[[硫酸]]塩 <chem>(NH3OH)2SO4</chem> を得る。
*<chem>NH4NO2\ + 2 SO2\ + NH3\ + H2O -></chem>
::<chem>[NH4]2[N(OH)(OSO2)2]</chem>
*<chem>[NH4]^+\ 2[N(OH)(OSO2)2]^{2-}\ + H2O -></chem>
::<chem>[NH4][NH(OH)(OSO2)]\ + [NH4][HSO4]</chem><!-- 式に矛盾有り -->
*<chem>2[NH4]^+[NH(OH)(OSO2)]^-\ + 2H2O -></chem>
::<chem>[NH3(OH)]2[SO4]\ + [NH4]2[SO4]</chem>
固体のヒドロキシルアミンはこの硫酸塩を液体アンモニアで処理することによって得られる。[[硫酸アンモニウム]]は液体アンモニアに不溶なので濾別でき、アンモニアは減圧下に留去される。

他の合成法として、ヒドロキシルアンモニウム塩を経るものがある。[[亜硝酸]]または[[亜硝酸ナトリウム]]を亜硫酸イオンで還元する。生成したヒドロキシルアミド-''N''-スルフェートを加水分解し、ヒドロキシルアンモニウム塩としたのち、ナトリウムブトキシドで中和し遊離のヒドロキシルアミンを得る。
: <chem>HNO2\ + 2 HSO3^- ->\ [N(OH)(OSO2) 2]^{2-}\ + H2O ->\ [NH(OH)(OSO2)]^-\ + [HSO4]^-</chem>
: <chem>[NH(OH)(OSO2)]^-\ + H3O^+ ->\ [NH3(OH)]^+\ + [HSO4]^-</chem>（100 ℃、1時間）
: <chem>[NH3(OH)]Cl\ + NaOBu -> NH2OH\ + NaCl\ + BuOH</chem>

== 反応 ==
アルキル化剤のような求電子試薬と反応する。酸素と窒素はどちらも攻撃を受ける。
: <chem>R-X\ + NH2OH -> R-ONH2\ + HX</chem>
: <chem>R-X\ + NH2OH -> R-NHOH\ + HX</chem>

[[アルデヒド]]や[[ケトン]]との反応では[[オキシム]]が生成する。
: <chem>R2C=O\ + NH2OH \cdot HCl, NaOH -> R2C=NOH\ + NaCl\ + H2O</chem>
この反応はケトン、アルデヒドの精製に有用である。またオキシム類は[[ジメチルグリオキシム]]のような配位子としても使われる。

クロロ硫酸と反応してヒドロキシルアミン-''O''-スルホン酸を与える。これは[[カプロラクタム]]の合成に用いられる試薬である。
: <chem>HOSO2Cl\ + NH2OH -> NH2OSO2OH\ + HCl</chem>
ヒドロキシルアミン-''O''-スルホン酸は 0 ℃ 以下で保存する必要があり、ヨウ素滴定で確認できる。

== 利用 ==
ヒドロキシルアミンおよびその塩類は多くの[[有機化学]]、[[無機化学]]反応において[[還元剤]]として一般的に用いられる。[[脂肪酸]]の[[酸化防止剤]]としての作用もある。化学以外での利用法としては、[[獣皮]]の[[脱毛]]や写真の現像液などがある<ref>Patnaik, P. ''Handbook of Inorganic Chemicals''; McGraw Hill: Columbus, 2003; pp. 385&#x2013;386. ISBN 0070494398</ref>。[[半導体]]の洗浄剤として利用される。[[農薬]]の原料にもなる。

[[硝酸ヒドロキシルアンモニウム]]は[[ロケットの推進剤]]として、一液推進薬（水溶液）、[[固体燃料]]の両方が研究されている。

== 安全性 ==
ヒドロキシルアミンは爆発性の化合物であるが、その危険性の度合いについては完全にはわかっていない。火気や高温体に触れると、爆発的に燃焼する。[[紫外線]]を受けると爆発する。1999年以来、ヒドロキシルアミンを扱う工場での死者を伴う事故が何度か起こっている。2000年6月10日に[[群馬県]][[尾島町]]（当時）、鉄イオンフリーヒドロキシルアミン 50{{nbsp}}% 水溶液の製造工場で爆発<ref>{{cite web|和書|url=https://www.shippai.org/fkd/hf/HC0000050.pdf |title=ヒドロキシルアミン爆発火災 |work=失敗知識データベース‐失敗百選 |publisher=[[失敗学会]] |access-date=2024-06-30 }}</ref>があったほか、1999年2月19日アメリカペンシルバニア州にて日本と同様に 50{{nbsp}}% 水溶液の製造工場にて爆発事故を起こしている{{Sfn|磐田・古積|2003|pages=61–63}}。なおいずれの場合もヒドロキシルアミンが高濃度のときや鉄イオンの存在により激しく分解し危険だということは知られていた。

2000年6月10日、群馬県の工場で鉄イオンフリー（1{{nbsp}}[[ppb]]以下）の、ヒドロキシルアミン 50{{nbsp}}% 水溶液の精留工程にて大爆発したことを受け{{efn|窓ガラスの破損状況から、爆発の威力は296 - 593{{nbsp}}kgの[[トリニトロトルエン|TNT火薬]]に相当する爆轟があったと推察された{{Sfn|磐田・古積|2003|page=3}}。}}、消防研究所にて爆発の危険性について各種実験を行った{{Sfn|磐田・古積|2003}}。当初、ヒドロキシルアミンは[[国際連合危険物輸送勧告|危険物の輸送に関する国連勧告書]]では腐食性物質 (class 8) に分類されるも、火災・爆発の危険性については記述されていなかった{{Sfn|磐田・古積|2003|page=2}}が、日本の消防法令の改正を迫るものともなった。結果の要旨は次のとおりである。
# [[示差熱分析]] (DTA) により、ヒドロキシルアミンの分解はステンレス鋼の表面触媒作用により促進されることと、熱分解時に爆薬であるTNTと同程度の反応熱を発生する物質であることを確認した{{Sfn|磐田・古積|2003|page=52}}。そしてヒドロキシルアミン 80{{nbsp}}% 以上の水溶液は伝爆性を有し、80{{nbsp}}% 水溶液は雷管のみの衝撃でも容易に爆轟を起こすことが判明した{{Sfn|磐田・古積|2003|page=52}}。
# ヒドロキシルアミン水溶液へのイオンの混入による影響を調べたところ、鉄イオン (Fe<sup>2+</sup>・Fe<sup>3+</sup>）の寄与が大きく{{Sfn|磐田・古積|2003|pages=52–54}}、たった0.9{{nbsp}}ppmの微量鉄イオンでも激しく分解することが示唆され{{Sfn|磐田・古積|2003|page=54}}、ヒドロキシルアミン 85{{nbsp}}% 水溶液に0.2{{nbsp}}% (200{{nbsp}}ppm) のFe<sup>3+</sup>溶液を投入した場合においては点火後数秒で自然発火を起こすほどであった{{Sfn|磐田・古積|2003|page=53}}。なお、Fe<sup>2+</sup>・Fe<sup>3+</sup>イオンの反応性状は類似している可能性が示唆されている{{Sfn|磐田・古積|2003|page=53}}。このことは、示唆熱分析における金メッキ処理ステンレス鋼容器と、新品のステンレス鋼容器・使い古したステンレス容器との違いを説明できるほど極微量の鉄イオンでもヒドロキシルアミンの分解速度に影響があった。
# ヒドロキシルアミンの各種塩について爆発性は、硫酸塩は「なし」、塩酸塩は「'''あり'''」、リン酸塩は「'''あり'''」となった。また分解の激しさは硫酸塩は「'''激しい'''」、塩酸塩は「'''激しい'''」、リン酸塩は「激しくない」、であった{{Sfn|磐田・古積|2003|page=56}}。
# ヒドロキシルアミン 50{{nbsp}}% 水溶液は国連の定める試験法では自己促進分解を引き起こす環境温度の目安であるSADTは80{{℃}}であり「自己反応性物質」には該当しないものの、鉄イオンを5.2±0.2{{nbsp}}ppm含んだ試料、1.2±0.2{{nbsp}}ppm含んだヒドロキシルアミン 50{{nbsp}}% 水溶液は「'''自己反応性物質'''」だと判定された。

群馬県におけるヒドロキシルアミンの大爆発事故を受け、[[消防法]]が改正され、第5類[[危険物]]（自己反応性物質）の八に「ヒドロキシルアミン」、九に「ヒドロキシルアミン塩類」が追加された<ref>[https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/15120010704098.htm 平成13年7月4日法律第98号]</ref>。この改正は実験結果を待たず、爆発時の危険の大きさよりなされたものである。

またヒドロキシルアミンは呼吸器、皮膚、目、そして他の粘膜を刺激する<ref name="ICSC_0661">[https://chemicalsafety.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=0661&p_version=2ICSC 0661 - ヒドロキシルアミン]</ref>。皮膚から吸収される可能性があり<ref name="ICSC_0661" />、飲み込んだ場合も有害であり<ref name="ICSC_0661" />、変異誘発物質である可能性がある{{要出典|date=2024-06}}。蒸気が大量に体内に入るとメトヘモグロビンが生じるため、血液の酸素吸収力が低下することがある<ref name="ICSC_0661" />。<!-- [https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7803-49-8.html]も参照。 -->

== 法規制 ==
=== 日本 ===
[[消防法]]において、第5類[[危険物]]（自己反応性物質）に属する。

毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている<ref>毒物及び劇物取締法（昭和25年12月28日 法律303号） 第2条 別表第2第69号</ref>。

== 参考文献 ==
* {{cite report|和書|author1=磐田雄策 |author2=古積博 |url=https://nrifd.fdma.go.jp/publication/gijutsushiryo/gijutsushiryo_41_80/files/shiryo_no61.pdf |title=ヒドロキシルアミン及びその塩類の危険物性に関する研究報告書 |format=PDF |work=消防研究技術資料 |date=2003年11月 |publisher=[[消防研究センター|消防研究所]] |access-date=2024-06-30 |ref={{Sfnref|磐田・古積|2003}} }}

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

==外部リンク==
{{Commonscat|Hydroxylamine}}
* {{webarchive 
| url = https://archive.is/jfQPR
| title = ヒドロキシルアミン研究データ (data.cas‑msds.com)
| date = 2014年4月 }}
* {{cite web|和書|url=https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7803-49-8.html |title=ヒドロキシルアミン |date=2008-10-27 |df=ja |website=職場のあんぜんサイト |access-date=2024-06-30 }}

{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:ひとろきしるあみん}}
[[Category:無機窒素化合物]]
[[Category:ヒドロキシルアミン|*]]
[[Category:第5類危険物]]
[[Category:劇物]]