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ヒルベルトの第3問題
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'''ヒルベルトの第3問題'''(ヒルベルトのだい3もんだい、{{lang-en-short|Hilbert's third problem}})は1900年に提出された問題で、[[ヒルベルトの23の問題]]のうち最も早く解決されたものである。問題は次の問いと関係している:「同[[体積]]の[[多面体]]が2個与えられたとき、一方を有限個の多面体に切断して組み換えることで、他方を作ることは常に可能か?」 これに先立つ[[カール・フリードリヒ・ガウス]]の記述に基づき<ref>[[Carl Friedrich Gauss]]: ''Werke'', vol. 8, pp. 241 and 244</ref>、ヒルベルトはこの操作は常に可能とは限らないと予想した。これはその年の内に、教え子の[[マックス・デーン]]により実証された。デーンは反例を構成することで、この問いの答えは一般的には "no" であることを証明したのである。 2次元の[[多角形]]に対する同様の問いの答えは "yes" であることが長く知られていた([[ボヤイの定理]])。 ヒルベルトとデーンの知らぬことだったが、同問題は1882年の[[クラクフ]]芸術科学アカデミーの数学コンテストにおいて Władysław Kretkowski によって出題されており、Antoni Birkenmajer がデーンとは異なる解法を与えていた<ref name=":0">{{Cite journal|last=Ciesielska|first=Danuta|last2=Ciesielski|first2=Krzysztof|date=2018-05-29|title=Equidecomposability of Polyhedra: A Solution of Hilbert's Third Problem in Kraków before ICM 1900|journal=The Mathematical Intelligencer|volume=40|issue=2|pages=55–63|language=en|doi=10.1007/s00283-017-9748-4|issn=0343-6993}}</ref>。Birkenmajer はこの結果を公刊せず、彼の解法が含まれる元の手稿は後年になって再発見された<ref name=":0" />。 ==歴史および動機== [[角錐]]の体積を求める公式が :<math>\frac{\text{base area} \times \text{height}}{3}</math> であることは[[エウクレイデス|ユークリッド]]に知られていたが、そのいかなる証明にも、なんらかの極限操作・[[微分積分学|微積分]](とりわけ[[取り尽くし法]])、より現代的な形式では[[カヴァリエリの原理]]が含まれていた。平面幾何での類似の公式はより初等的な手段で行える。ガウスは、{{仮リンク|クリスチャン・ルートヴィヒ・ゲーリング|en|Christian Ludwig Gerling}}へ宛てた2通の書簡の中でこの欠陥を残念がっていた(ゲーリングは2個の互いに鏡像である四面体が有限個の分割により一方から他方へ組み換えられることを証明した数学者である)<ref name=":0" />。 ガウスの書簡がヒルベルトの動機付けになった。「体積の同一性を、初等的な切断と貼り付けだけで証明できるだろうか?」もしできないのであれば、ユークリッドの角錐の公式の証明も、やはり初等的にはできない。 ==デーンの解答== デーンの証明は、[[抽象代数学]]によって[[幾何学]]上の不可能性が示される一例である。他の例には[[立方体倍積問題]]や[[角の三等分問題]]がある。 2個の多面体があり、一方を有限個の多面体に切断して組み換えることで他方を作ることが可能なとき、これらは'''分割合同'''(scissors-congruent)であると言う。分割合同な2個の多面体の体積が等しいことは自明であり、ヒルベルトが問うたのはこの[[逆]]である。 任意の多面体 ''P'' に対し、デーンは現在{{仮リンク|デーン不変量|en|Dehn invariant}}と呼ばれているある量 D(''P'') を定義し、以下の性質を持つようにした: * ''P'' がある平面で2個の多面体 ''P''<sub>1</sub> と ''P''<sub>2</sub> に切断されたとすると、D(''P'') = D(''P''<sub>1</sub>) + D(''P''<sub>2</sub>) である。 これより、 * ''P'' が ''n'' 個の多面体 ''P''<sub>1</sub>,...,''P''<sub>''n''</sub> に切断されたとすると、D(''P'') = D(''P''<sub>1</sub>) + ... + D(''P''<sub>''n''</sub>) が成り立つ。特に、 * もし2個の多面体が分割合同であれば、それらのデーン不変量は一致する。 デーンは次に、[[正六面体]]のデーン不変量は常に0である一方、[[正四面体]]のデーン不変量は常に0以外の値となることを示し、先述の主張を立証した。 多面体の不変量は辺長と[[二面角]]に基づいて定義される。多面体が切断されるとき、いくつかの辺も2つに切断され(これらはデーン不変量に対し辺長に比例した寄与をしていなければいけない)、もし切断面がある辺を含むなら、対応する面の角は2つに分割される。切断によって通常は新しい辺や角が生まれるが、これらのデーン不変量への寄与はちょうど打ち消し合うよう定義をしなくてはならない。ある面が2つの面に分かれるとき、新たに生じる二面角の和は必ず [[円周率|{{pi}}]] に等しいことから、{{pi}} の整数倍の加減による寄与がトータルでゼロになるように不変量を定義することにする。 以上全ての要請は、D(''P'') を[[実数|実数体]] '''R''' と [[剰余加群]] '''R'''/('''Q'''{{pi}}) の[[テンソル積]]として定義することで実現できる。このテンソル空間では、第2成分が {{pi}} の有理数倍である元はゼロである。第3問題の解決のためだけならば[[有理整数環]] '''Z''' 上の[[加群のテンソル積|テンソル積]]を考えれば事足りるが、次節で述べる第3問題の逆の証明はより困難で[[ベクトル空間]]の性質を必要とするため、その場合は[[有理数|有理数体]] '''Q''' 上のテンソル積と考える必要がある。 ''ℓ''(''e'') を辺 ''e'' の長さ、θ(''e'') をこの辺を共有する二面のなす角(単位は[[ラジアン]])とする。このときデーン不変量を :<math>\operatorname{D}(P) = \sum_{e} \ell(e)\otimes (\theta(e)+\mathbb{Q}\pi)</math> と定義する。ここで和は多面体 ''P'' の全ての辺 ''e'' にわたってとるものとする。 ==より進んだ内容== 上記のデーンの定理に照らして考えると、次の疑問が浮かぶ:「多面体が分割合同であるのはどのようなときか?」 {{仮リンク|ジャン=ピエール・シドラー|en|Jean-Pierre Sydler}}は、2個の多面体が分割合同であるのは、それらの体積とデーン不変量がいずれも等しいとき、かつそのときに限ることを証明した(1965年)。{{仮リンク|ボルゲ・ジェッセン|en|Børge Jessen}}は後にシドラーの結果を4次元空間にまで拡張した。1990年 Dupont と Sah は、命題をある{{仮リンク|古典群|en|classical group}}の[[ホモロジー (数学)|ホモロジー]]に関するものだと解釈し直すことで、シドラーの結果のより簡単な証明を与えた。 1980年、Debrunner は[[3次元|3次元空間]]の周期的な[[空間充填]]ができる多面体のデーン不変量は必ず0であることを証明した。 ジェッセンはまた、彼の結果が[[球面幾何学]]や[[双曲幾何学]]においても正しいかどうかを問うた。これらの幾何学においてもデーンの手法は通用し、2個の「多面体」が分割合同であればデーン不変量が等しいことが分かっている。ところが、これらの空間での体積とデーン不変量がいずれも等しい2個の多面体が分割合同かどうかは未だに解決されていない<ref>{{citation |last = Dupont |first = Johan L. |doi = 10.1142/9789812810335 |isbn = 978-981-02-4507-8 |mr = 1832859 |page = 6 |publisher = World Scientific Publishing Co., Inc., River Edge, NJ |series = Nankai Tracts in Mathematics |title = Scissors congruences, group homology and characteristic classes |url = http://home.math.au.dk/dupont/scissors.ps |volume = 1 |year = 2001 |deadurl = yes |archiveurl = https://web.archive.org/web/20160429152252/http://home.math.au.dk/dupont/scissors.ps |archivedate = 2016-04-29 |df = }}.</ref>。 ==本来の問題== ヒルベルトが元々提出していた問題は次の通りであった:「底面積と高さの等しい二つの四面体 ''T''<sub>1</sub>,''T''<sub>2</sub> は常に分割合同か?」 もしこの問いの答えが "yes" だと仮定すれば、任意の四面体は底面が同一で高さが 1/3 の三角柱と分割合同になることが示せる。また一般に、同体積の任意の2柱体は常に分割合同であることもわかる(2次元の場合のボヤイの定理より)。ところがデーンの論証により、同体積の正四面体と正六面体は分割合同でない。よってヒルベルトの元々の問題も否定的に解決された。 ==関連項目== * {{仮リンク|ヒルの四面体|en|Hill tetrahedron}} * {{仮リンク|オノラト・ニコレッティ|en|Onorato Nicoletti}} ==脚注== {{reflist}} ==参考文献== *{{cite journal |first=Max |last=Dehn |title=Ueber den Rauminhalt |journal=[[Mathematische Annalen]] |volume=55 |year=1901 |issue=3 |pages=465–478 |doi=10.1007/BF01448001 }}(『体積について』) *{{cite journal |first=D. |last=Benko |title=A New Approach to Hilbert's Third Problem | journal=[[The American Mathematical Monthly]] |volume=114 |issue=8 |year=2007 |pages=665–676 |doi=10.1080/00029890.2007.11920458}} *{{cite journal |last=Sydler |first=J.-P. |title=Conditions nécessaires et suffisantes pour l'équivalence des polyèdres de l'espace euclidien à trois dimensions |journal=[[Commentarii Mathematici Helvetici|Comment. Math. Helv.]] |volume=40 |year=1965 |issue= |pages=43–80 |doi=10.5169/seals-30629 }}(『3次元ユークリッド空間において多面体が"同等"である(l'équivalence)ための必要十分条件』) *{{cite journal |first=Johan |last=Dupont |first2=Chih-Han |last2=Sah |title=Homology of Euclidean groups of motions made discrete and Euclidean scissors congruences |journal=[[Acta Mathematica|Acta Math.]] |volume=164 |year=1990 |issue=1–2 |pages=1–27 |doi=10.1007/BF02392750 }} *{{cite journal |first=Hans E. |last=Debrunner |title=Über Zerlegungsgleichheit von Pflasterpolyedern mit Würfeln |journal=[[Archiv der Mathematik|Arch. Math.]] |volume=35 |year=1980 |issue=6 |pages=583–587 |doi=10.1007/BF01235384 }}(『敷き詰め多面体と立方体の分解同値性について』) *{{cite journal |first=Rich |last=Schwartz |url=http://www.math.brown.edu/~res/Papers/dehn_sydler.pdf |title=The Dehn–Sydler Theorem Explained |year=2010 }} * {{citation|author=[[志賀浩二]]|author2=[[砂田利一]]|title=A Mathematical Gift, III: The Interplay Between Topology, Functions, Geometry, and Algebra|publisher=American Mathematical Society|year=2005}} ==外部リンク== *[http://everything2.com/e2node/Proof%2520for%2520Hilbert%2527s%2520third%2520problem Proof of Dehn's Theorem at Everything2] *{{MathWorld |id=DehnInvariant |title=Dehn Invariant}} *[http://everything2.com/e2node/Dehn%2520invariant Dehn Invariant at Everything2] *{{SpringerEOM| title=Dehn invariant | id=Dehn_invariant | oldid=13481 | first=M. | last=Hazewinkel }} {{Hilbert's problems}} {{Normdaten}} {{デフォルトソート:ひるへるとのたいさんもんたい}} [[Category:多面体]] [[Category:ヒルベルトの23の問題|003]] [[Category:数学に関する記事]]
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