ヒルベルトの23の問題のソースを表示

'''ヒルベルトの23の問題'''（ヒルベルトの23のもんだい、{{Lang-en-short|Hilbert(’s) 23 problems}}）は、[[ドイツ]]人の数学者である[[ダフィット・ヒルベルト]]によりまとめられた、当時未解決だった23の[[数学]]問題である。'''ヒルベルト問題''' ({{Lang|en|Hilbert(’s) problems}}) とも呼ばれる。

== 概要 ==
[[1900年]][[8月8日]]に、[[パリ]]で開催されていた第2回[[国際数学者会議]] (ICM) のヒルベルトの公演で、23題の内10題（問題1, 2, 6, 7, 8, 13, 16, 19, 21, 22）が公表され、残りは後に出版されたヒルベルトの著作で発表された<ref>David Hilbert, {{cite web |title=Mathematical Problems |url=http://www.ams.org/journals/bull/1902-08-10/home.html |accessdate=2017-10-28}} ''[[Bulletin of the American Mathematical Society]]'', vol. 8, no. 10 (1902), pp. 437–479. Earlier publications (in the original German) appeared in ''Göttinger Nachrichten'', 1900, pp. 253–297, and ''Archiv der Mathematik und Physik'', 3rd series, vol. 1 (1901), pp. 44–63, 213–237.</ref>。

=== 第24問題 ===
{{main|{{仮リンク|ヒルベルトの第24問題|en|Hilbert's twenty-fourth problem}}}}
彼は元々24題の問題を用意していたが、その内の1題は割愛された。この24番目の問題（簡潔性と総合的な方法の評価基準に関する証明論）は[[2000年]]にドイツの歴史学者{{仮リンク|リュディガー・ティーレ (数学者)|label=リュディガー・ティーレ|de|Rüdiger Thiele (Mathematiker)}}によって発見されたヒルベルトの手記中に、その存在が初めて確認された<ref>{{Cite journal|last=Thiele|first=Rüdiger|year=2003|title=Hilbert's twenty-fourth problem|url=http://www.maa.org/news/Thiele.pdf|journal=American Mathematical Monthly|volume=110|issue=1|pages=pp. 1-24|publisher=the Mathematical Association of America}}参照。</ref>。
{| class="wikitable"
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!問題
!問題
!問題（原文）<ref>Hilbertのp.413.以降の各章のタイトルに問題名が載っているので、それを引用した。</ref>
!概要
!状況
!
!解決年
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|[[ヒルベルトの第1問題|第1]]
|[[連続体 (集合論)|連続体]]の[[濃度 (数学)|基数]]に関する[[ゲオルク・カントール|カントール]]の問題
|Cantor's problem of the cardinal number of the continuum
|[[連続体仮説]]のこと|| {{yes|中立的解決}}
|[[クルト・ゲーデル|ゲーデル]](1940)と[[ポール・コーエン (数学者)|コーエン]](1963)により連続体仮説と[[ZFC公理系]]との独立性が示された。つまりZFCからこの問題は証明も反証もできない。(詳細は[[連続体仮説]]を参照)
|1963
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|{{仮リンク|ヒルベルトの第2問題|en|Hilbert's second problem|label=第2}}
|算術の[[無矛盾|公理間の整合性]]
|The compatibility of the arithmetical axioms{{Refn|Hilbert p.414.「consistency of arithmetic」とも{{Cite web |url=https://encyclopediaofmath.org/wiki/Hilbert_2nd_problem|title=Hilbert 2nd problem|work=Encyclopedia of Mathematics|accessdate=2021-05-10}}。日本語訳はこちらに基づいて「無矛盾性」とした。|group=注}}
|算術の公理系の各公理の独立性、および公理系の無矛盾性を示すことができるか<ref>Hilbert p.414.</ref>。||{{partial|部分的解決}}
|無矛盾性に関して[[クルト・ゲーデル|ゲーデル]](1931)の[[ゲーデルの不完全性定理|第二不完全性定理]]と[[ゲルハルト・ゲンツェン|ゲンツェン]](1936)による[[エプシロン・ノート|ε<sub>0</sub>]]の[[整礎関係|整列可能性]]を仮定した算術の無矛盾性証明があるが、これらにより問題が解決されたとするかに関するコンセンサスはない。
|—
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|[[ヒルベルトの第3問題|第3]]
|等底・等高な２つの[[四面体]]の等積性
|The equality of the volumes of two tetrahedra of equal bases and equal altitudes
|同じ底面積・同じ高さを持つ２つの四面体の体積が等しいことを積分を使わずに、これらの四面体を切断することで合同な多面体の組ができるか否かのみで決定することが決定できるか。||{{yes|否定的解決}}
|[[マックス・デーン|デーン]]が{{仮リンク|デーン不変量|en|Dehn invariant}}を定義して解決。
|1900
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|{{仮リンク|ヒルベルトの第4問題|en|Hilbert's fourth problem|label=第4}}
|２点間の最小距離としての直線に関する問題
|Problem of the straight line as the shortest distance between two points
|
|解決か否かを
決めるには

問題が曖昧
|ヒルベルトは問題発表時、自身の研究により既に問題にあるような幾何学を得ており、その上での問題発表となった。この問題は1901年に{{仮リンク|ゲオルク・ハメル|en|Georg Hamel}}によって解かれたが多くの制約を余儀なくされた証明法だったので、1929年にヒルベルトの弟子{{仮リンク|パウル・フンク|en|Paul Funk}}がこれを改善したものを発表した。また1943年には{{仮リンク|ハーバート・ビュースマン|en|Herbert Busemann}}も改善に成功し、問題を[[測地線]]の幾何学に一般化した。しかしRowe & Grayはこの第4問題が解決されたかどうかはとても曖昧であると記している。
|—
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|{{仮リンク|ヒルベルトの第5問題|en|Hilbert's fifth problem|label=第5}}
|群演算に可微分性を仮定しない連続な変換群に関するリーの概念
|Lie's concept of a continuous group of transformations without the assumption of the differentiability of the functions defining the group
|[[位相群]]が[[リー群]]となるための条件||{{partial|部分的解決}}
|問題の意味の解釈によっては[[:en:Andrew M. Gleason|Andrew M. Gleason]]により解決。問題が{{仮リンク|ヒルベルト゠スミス予想|en|Hilbert-Smith conjecture}}の事だとすると未解決である。
|1953?
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|{{仮リンク|ヒルベルトの第6問題|en|Hilbert's sixth problem|label=第6}}
|[[物理学]]の諸公理の数学的扱い
|Mathematical treatment of the axioms of physics
| ||{{partial|部分的解決}}
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|{{仮リンク|ヒルベルトの第7問題|en|Hilbert's seventh problem|label=第7}}
|種々の数の[[無理数|無理性]]と[[超越数|超越性]]
|Irrationality and transcendence of certain numbers
|以下の２つの同値<ref>{{cite book|first=N. I.|last=Feldman|authorlink=Naum Il'ich Feldman|first2=Yu. V.|last2=Nesterenko|editor-last1=Parshin|editor-first1=A. N.|editor-last2=Shafarevich|editor-first2=I. R.|series=Number Theory IV|title=Transcendental Numbers|url=https://archive.org/details/numbertheorytran00pars|url-access=limited|date=1998|publisher=Springer-Verlag Berlin Heidelberg|isbn=978-3-540-61467-8|pages=[https://archive.org/details/numbertheorytran00pars/page/n145 146]–147}}</ref>な問題を問うたもの：

# [[二等辺三角形]]において、底辺の両端の2つの同じ大きさの角（[[底角]]）と残り1つの角（[[頂角]]）の比が[[代数的数]]で，[[有理数]]でないとき、[[底辺]]と[[斜辺]]の長さの比は[[超越数]]か？
# 代数的数<math>a \not\in \{0,1\}</math>と代数的無理数<math>b</math>に対し<math>a^b</math>は常に超越数か？
|{{yes|解決}}
|[[ゲルフォント＝シュナイダーの定理|ゲルフォント゠シュナイダーの定理]]により解決。この定理は[[アレクサンダー・ゲルフォント]] ([[:en:Alexander_Gelfond|en]])（[[1934年]]） と[[テオドール・シュナイダー]] ([[:en:Theodor_Schneider|en]])（[[1935年]]） によって、それぞれ独立に証明された。
|1934
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第8問題|en|Hilbert's eighth problem|label=第8}}
|[[素数]]に関する問題
|Problems of prime numbers
|[[リーマン予想]]||{{no|未解決}}
|
|—
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第9問題|en|Hilbert's ninth problem|label=第9}}
|任意の[[代数体|数体]]における最も一般的な相互法則の証明
|Proof of the most general law of reciprocity in any number field
|一般相互法則||{{yes|解決}}
|[[エミール・アルティン]]が[[代数体]]の[[アーベル拡大]]に対して[[アルティン相互法則]]を証明したことにより解かれた([[1927年]]) <ref name=":0">{{Cite web|url=https://encyclopediaofmath.org/wiki/Hilbert_problems|title=Hilbert problems|accessdate=2021/05/18|website=Encyclopedia of Mathematics}}</ref><ref>{{Cite web|url=https://encyclopediaofmath.org/wiki/Reciprocity_laws|title=Reciprocity laws|accessdate=2021/05/18|website=Encyclopedia of Mathematics}}</ref>。関数体に対してはShafarevichが同様の成果を示している<ref name=":0" />。
|1927
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第10問題|en|Hilbert's tenth problem|label=第10}}
|[[ディオファントス方程式]]の可解性の決定問題
|Determination of the solvability of a diophantine equation
| ||{{yes|否定的解決}}
|[[ユーリ・マチャセビッチ]]が否定的に解決した<ref name=":0" />。ディオファントス方程式に解があるか否かを有限時間で決定可能なアルゴリズムは存在しない。
マチャセビッチの定理を説明するため、以下のように定義する：整数の組の集合<math>\mathfrak{M}</math>が'''ディオファントス'''であるとは、ある整数係数多項式<math>P(a,x_1,\ldots,x_n)</math>が存在し、<math>\mathfrak{M}=\{a\in\mathbb{Z} \mid \exists (x_1,\ldots,x_n)\in\mathbb{Z}^n~:~P(a,x_1,\ldots,x_n)=0\}</math>となることを指す<ref name=":1">{{Cite web|url=http://www.scholarpedia.org/article/Matiyasevich_theorem|title=Matiyasevich theorem|accessdate=2021/05/18|website=Scholarpedia}}</ref>。マチャセビッチの定理は整数の組の集合<math>\mathfrak{M}</math>がディオファントスである必要十分条件は<math>\mathfrak{M}</math>が[[帰納的可算集合|帰納に列挙可能な整数の組の集合]]である、というものである<ref name=":1" />。これはすなわち、与えられた{{Mvar|P}}に対し、<math>P(a,x_1,\ldots,x_n)=0</math>が解を持つ{{Mvar|a}}（そのような{{Mvar|a}}は無限個あるかもしれない）を順に出力するアルゴリズムが必ず存在することを意味するので、解を持つ{{Mvar|a}}に対しては解を持つことを有限時間で決定可能であるが、逆に解を持たない{{Mvar|a}}に対しては解がないことを有限時間では決定できない場合もあることを意味する。よってディオファントス方程式に解があるか否かを有限時間で決定可能なアルゴリズムは存在しない。
|1970
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第11問題|en|Hilbert's eleventh problem|label=第11}}
|任意の[[代数的数]]を係数とする[[二次形式]]
|Quadratic forms with any algebraic numerical coefficients
|代数体上の二次形式の分類<ref name=":0" />||{{partial|部分的解決}}
|
|—
|-
|[[ヒルベルトの第12問題|第12]]
|アーベル体に対するクロネッカーの定理の代数的な有理数への拡張
|Extension of Kronecker's theorem on abelian fields to any algebraic realm of rationality
|[[類体]]の構成問題||{{no|未解決}}
|
|—
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第13問題|en|Hilbert's thirteenth problem|label=第13}}
|任意の7次方程式を2変数の関数だけで解くことの不可能性
|Impossibility of the solution of the general equation of the 7th degree by means of functions of only two arguments
| ||{{partial|部分的解決}}
|
|—
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第14問題|en|Hilbert's fourteenth problem|label=第14}}
|不変式系の有限性の証明
|Proof of the finiteness of certain complete systems of functions
| ||{{yes|否定的解決}}
|1958年、[[永田雅宜]]が反例を作り、否定的に解決した。
|1959
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第15問題|en|Hilbert's fifteenth problem|label=第15}}
|[[:en:Schubert calculus|シューベルトの数え上げ計算]]の厳密な基礎づけ
|Rigorous foundation of Schubert's enumerative calculus
| ||{{partial|部分的解決}}
|
|—
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第16問題|en|Hilbert's sixteenth problem|label=第16}}
|[[代数曲線]]および曲面の位相の問題
|Problem of the topology of algebraic curves and surfaces
| ||{{no|未解決}}
|
|—
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第17問題|en|Hilbert's seventeenth problem|label=第17}}
|定符号の式を[[完全平方式]]を使った分数式で表現すること
|Expression of definite forms by squares
| ||{{yes|解決}}
|
|1927
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第18問題|en|Hilbert's eighteenth problem|label=第18}}
|合同な多面体による空間の構築
|Building up of space from congruent polyhedra
|[[結晶群]]・敷きつめ・[[最密充填]]（[[球充填]]）・[[接吻数問題]]||{{yes|解決}}
|
|{{sort|1928|(a) 1928<br /><br />(b) 1998}}
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第19問題|en|Hilbert's nineteenth problem|label=第19}}
|正則な変分問題の解は常に解析的か
|Are the solutions of regular problems in the calculus of variations always necessarily analytic?
| ||{{yes|解決}}
|1904年に[[セルゲイ・ベルンシュテイン]]が解決した。
|1957
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第20問題|en|Hilbert's twentieth problem|label=第20}}
|一般境界値問題
|The general problem of boundary values
| ||{{yes|解決}}
|
|?
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第21問題|en|Hilbert's twenty-first problem|label=第21}}
|与えられた[[モノドロミー|モノドロミー群]]をもつ[[線型微分方程式]]の存在証明
|Proof of the existence of linear differential equations having a prescribed monodromic group
| ||{{yes|否定的解決}}
|リーマン・ヒルベルト問題とも呼ばれる。[[フレドホルム積分方程式]]に関するヒルベルトの研究を応用して、1908年に{{仮リンク|ヨシップ・プレメルヒ|en|Josip Plemelj}}が積分方程式の問題に再定式化して、肯定的に解決した。1913年に[[ジョージ・デビット・バーコフ]]がリーマン・ヒルベルト問題とは気づかずに別証明を与えた。だが、1989年に{{仮リンク|ドミトリー・アノゾフ|en|Dmitri Anosov}}と{{仮リンク|アンドレイ・ボリブルヒ|en|Andrei Bolibrukh}}が正則であるがフックス型でない微分方程式系があることを示して、プレメルヒとバーコフの証明の誤りを明らかにし、リーマン・ヒルベルト問題が否定的に解決されることを証明した。モノドロミー表現が既約である場合にだけ、リーマン･ヒルベルト問題は肯定的に解決される。
|1989
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第22問題|en|Hilbert's twenty-second problem|label=第22}}
|[[保型関数]]による[[解析関数]]の一意化
|Uniformization of analytic relations by means of automorphic functions
| ||{{partial|部分的解決}}
|[[パウル・ケーベ]]と[[アンリ・ポアンカレ]]がそれぞれ独立に肯定的に解決した。一意化定理は1880年代からポアンカレが研究し、その一部を証明していたが、ヒルベルトは23の問題の一つとして取り上げて、その厳密な証明を求めた。
|—
|-
|{{仮リンク|ヒルベルトの第23問題|en|Hilbert's twenty-third problem|label=第23}}
|[[変分法]]の研究の展開
|Further development of the methods of the calculus of variations
| ||{{no|未解決}}
|この分野での[[カール・ワイエルシュトラス]]、[[クネーザー]]、[[アンリ・ポアンカレ]]の貢献を評価して、変分法の重要性と研究課題を指摘することで、ヒルベルトはその後の関数解析や偏微分方程式論の発展を促した。変分法は数学と物理学が深く関連した研究分野である。ヒルベルトもクーラントとの共著『数理物理学の方法』で変分法を広範に論じた。
|—
|-
|({{仮リンク|ヒルベルトの第24問題|en|Hilbert's twenty-fourth problem|label=第24}})
|簡潔性と総合的な方法の評価基準に関する証明論
|
|
|解決か否かを
決めるには

問題が曖昧
|
|
|}

== ヒルベルトの問題の性質および影響 ==
{{複数の問題
| 出典の明記 = 2013年2月20日 (水) 23:43 (UTC)
| 観点 = 2013年4月18日 (木) 15:03 (UTC)
}}ヒルベルトは、当時彼の実力と名声の頂点にあり、その後には[[ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン|ゲッティンゲン大学]]で類を見ないような学派を率いることになるのだった。しかし、この問題をつぶさに見ていくならば、それほど単純でない。

当時の数学はまだ散漫なものであり、言葉を記号に、直感への訴えかけを公理に置き替える傾向はまだ抑制されていた。これらは次世代の数学者たちによって強く取り入れられることになる。

[[1900年]]のヒルベルトは（それぞれの分野に恒久的な変革をもたらす）[[公理的集合論]]、[[ルベーグ積分]]、[[位相空間]]あるいは[[チャーチの提唱]]を利用することはできなかった。関数解析は、ある意味[[ヒルベルト空間]]を見いだしたヒルベルト自身によって基礎づけられたといえるが、そのころはまだ[[変分法]]との明確な区別がされていなかった。変分数学に関連した問題が2つリストに挙げられている一方で、素朴な問いが立てられたであろう[[スペクトル理論]]に関する問題は一つもない（問題19は[[準楕円性]]に関連しているが）。

その意味では、リストは予言的ではなかった。ヒルベルトのリストは[[位相幾何学]]、[[群論]]および[[測度論]]が[[20世紀]]に急速に発展することを予測できていなかったし、数理論理学が成功していく方法論とは違った考え方にたっていた。したがって、リストの直接の価値は、部分的で個人的な論説としてのものでしかなく、いくつかの研究プログラムと未終結の調査を示しただけのものだともいえる。

実は、投げかけられた問の多くは[[21世紀]]の（あるいは[[1950年代]]の、でも）職業数学者の、よい問に対する解答は数学の学術的専門誌で公表された論文の形をとるだろうという考えを裏切ることになった。もしそうだったとしたら、リストの解説は問題が解決されていれば論文の掲載誌への参照を示し、さもなければ質問が未解決であるといえるほどに簡単になっただろう。

場合によっては、ヒルベルトが用いた言葉は、何が問題として定式されているのかについて、何かしら解釈の余地があると考えられる。繰り返しになるが、ヒルベルト自身による[[ユークリッド幾何学|ユークリッド幾何]]の定式化に端を発し、[[プリンキピア・マテマティカ]]をへて[[ブルバキ]]と「知のテロ」に至るまで純粋数学に植え付けられた公理的な基礎付けはまだなかった。
驚くべきことに、第1と第5の問題は記述が十分に明瞭でないために未解決の状態にあるとも言える。

第12問のような場合では、ヒルベルトが何を目指していたのかがわかりやすいように書かれているとも、単に中途半端な予想を示しただけだともとれる。Rowe & Grayによると、いくつかの問題は完全に定義されておらず、しかし十分な進歩がそれらの問題を"解決された"として考えられるようにはなっているという。

ともあれ重要な点は、当時の数学者のコミュニティ（数少ない研究リーダーはだいたい少数のヨーロッパ諸国に集中しており、また個人的な知り合い同士だったので、今と比べたら小さなものだった）によりヒルベルトのリストが速やかに受け入れられたことである。それら問題は綿密に研究され、1つでも解決できれば名声を得ることができた。

少なくとも、問題内容と同じくらいそのスタイルも影響力をもっていた。ヒルベルトは明晰さを要求し、[[アルゴリズム]]的な質問に対しては、実際のアルゴリズムではなく原理的な解決を、非専門家には分かりづらい直観によって導かれていた分野（[[シューベルト幾何学|シューベルト幾何]]および[[数え上げ幾何学|数え上げ幾何]]）についてはしっかりとした基礎付けを求めた。

こうした姿勢は多くの追随者によって引き継がれたが、同時に今なお疑義が呈されてもいる。30年後になっても、ヒルベルトは彼の立場をさらに先鋭化しただけだった。

=== ヒルベルトによる公示としての性格 ===
問題リストおよびその議論の方法が影響力を与えるつもりで作られたのは明らかである。

ヒルベルトは帝国建設、計画的な熱意、はっきりとした方向付けと、学派の基礎をはっきりとさせることについてのドイツ学会の期待を感じずにはいられなかった。今では誰も「ヒルベルト学派」という語をそのような意味で用いることはないし、ヒルベルトの問題も[[フェリックス・クライン]]の[[エルランゲン・プログラム]]のような受け取られかたをされることはなかった。クラインはヒルベルトの同僚だったが、ヒルベルトのリストと比べると全く規定的ではなかった。[[マイケル・アティヤ]]はエルランゲン・プログラムを時期尚早のものと評した。対照的に、ヒルベルトの問題は専門家の時宜のはかりかたというものを示している。

現在「ヒルベルト学派」がなにがしかを意味するとすれば、それは恐らく[[作用素 (関数解析学)|作用素]]の理論と、数理物理におけるヒルベルトと[[リヒャルト・クーラント|クーラン]]による一連の著作を正典とするような流儀のことになるだろう。上で述べたように、ヒルベルトはリストの中でスペクトル理論についての問題を直接には提起していない。そうすることはクライン流のやり方になっただろうとも言えるだろう。さらに、彼自身の代数学への主要な貢献であり、不変式論を研究していた頃からの関心の的であった[[環論|可換環論]]（そのころは[[イデアル]]理論とよばれていた）にそれほどの重要性を与えなかったし、少なくとも表面上は、[[レオポルト・クロネッカー]]に立ち向かっていた[[ゲオルク・カントール]]を助けるような教えを広めることもなかった（{{仮リンク|コンスタンス・リード|en|Constance Reid}}の伝記に伝えられるように、ヒルベルトはクロネッカーから多くを学んだが、彼の姿勢を嫌悪していた）。リストの先頭に集合論があげられていることからは多くを読み取ることができただろう。

古典的解析の一分野であり、純粋数学者なら誰でも知っているだろう[[複素関数論]]はかなり無視されている。リーマン予想以外に、[[ビーベルバッハ予想]]などのよい問が欠けている。ヒルベルトの戦略的な目標のうちには可換環論を複素関数論と同じ序列に上げることがあったが、これには50年かかることになった（そして、いまだに地位が入れ替わるまでには至っていない）。

ヒルベルトには幾人かの相談相手がいた。[[アドルフ・フルヴィッツ]]と[[ヘルマン・ミンコフスキー]]はどちらも親しい友達で、彼に匹敵する知性の持ち主だった。彼は数の幾何学（問題18）と二次形式（問題11）についてのミンコフスキーの研究に賛意を送っている。フルヴィッツは[[リーマン面]]の理論を大きく前進させた。ヒルベルトは、発展の途上にあった類体論に関する自身の研究において、代数的整数論の幾何学的指針として関数体との類比を援用したが、これは問題9に反映されており、ある程度は問題12、問題21および問題22にもそれがみられる。1900年におけるほかのライバルといえば[[アンリ・ポアンカレ]]ぐらいだったが、問題16の後半は力学系に関するポアンカレ流の問である。1902年には[[ポアンカレ予想]]についても語った。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 出典 ===
{{reflist|20em}}

=== 注釈 ===
{{reflist|group="注"}}

== 参考文献 ==
* [[ヒルベルト]]『数学の問題（増補版）』[[一松信]]訳・解説、[[共立出版]]〈現代数学の系譜4〉、1977年。ISBN 4-320-01157-0
* [[数学セミナー]]『特集・ヒルベルト23の問題』[[日本評論社]]、1994年2月号。
* [[杉浦光夫]]編『ヒルベルト23の問題』[[日本評論社]]、1997年。ISBN 4-535-78239-3
* ジェレミー・J．グレイ『ヒルベルトの挑戦――世紀を超えた23の問題』[[好田順治]]・[[小野木明恵]]訳、[[青土社]]、2003年。ISBN 4-7917-6079-4
* J・ファング『ヒルベルトの世界』[[高木亮一]]訳、[[東京図書]]、1977年。
*　D.フックス，S.タバチニコフ, 蟹江　幸博(訳) ：「ヒルベルトの忘れられた問題」、岩波書店、ISBN 978-4-00-006737-9（2013年3月28日）。

== 関連項目 ==
{{Commonscat|Hilbert's problems}}
{{Wikisource|Mathematical Problems}}
* [[ミレニアム懸賞問題]]

== 外部リンク ==
* [http://www.mathematik.uni-bielefeld.de/~kersten/hilbert/rede.html ヒルベルトの23の問題のドイツ語原文] {{De icon}}
* Eric W. Weisstein. "[http://mathworld.wolfram.com/HilbertsProblems.html Hilbert's Problems.]"  from [http://mathworld.wolfram.com/ MathWorld]--A Wolfram Web Resource. {{En icon}}
* [[:en:Hilbert's problems|Hilbert's problems]] (18 October 2005 18:26 UTC)In ''Wikipedia: The Free Encyclopedia''. {{En icon}}
*{{SpringerEOM|title=Hilbert problems|urlname=Hilbert_problems}}
*{{cite web|url=https://www.ams.org/journals/bull/2000-37-04/S0273-0979-00-00881-8/S0273-0979-00-00881-8.pdf|title=David Hilbert's "Mathematical Problems": A lecture delivered before the International Congress of Mathematicians at Paris in 1900.|accessdate=2021/05/10|year=Hilbert}}

{{Hilbert's problems}}
{{Math-stub}}
{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:ひるへるとの23のもんたい}}
[[Category:数学のオープンプロブレム]]
[[Category:数学史]]
[[Category:1900年の科学]]
[[Category:名数23|ひるへると]]
[[Category:ヒルベルトの23の問題|*]]
[[Category:ダフィット・ヒルベルト]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学のエポニム]]