ピアポント素数のソースを表示

'''ピアポント素数'''（ピアポントそすう）または'''ピアポン素数'''<ref>{{Cite book ja-jp|author=デイヴィッド・A.コックス |translator = 梶原健 |year=2008–2010 |title=ガロワ理論 |volume=下 |publisher=日本評論社 |isbn=978-4-535-78455-0}}, 「第10章 作図」.</ref>（ピアポンそすう、{{lang-en-short|Pierpont prime}}）は次のような形で表される[[素数]]のことである:

: {{math|2<sup>''u''</sup> 3<sup>''v''</sup> + 1}}, ただし {{mvar|u}} と {{mvar|v}} は[[非負整数]]。

つまり ''p'' &minus; 1 が {{ill2|Smooth number|en|Smooth number|label=3-smooth}}<ref group="注釈">3以下の素因数しか持たないこと。</ref> であるような素数 ''p'' である。

==概要==
数学者の{{仮リンク|ジェームズ・ピアポント|en|James Pierpont (mathematician)}}にちなんで名付けられた。彼はこれを[[円錐曲線]]を用いて作図できる[[正多角形]]の研究に導入した。

''v'' {{=}} 0 のときのピアポント素数は {{math|2<sup>''u''</sup> + 1}} の形であり、これは[[フェルマー数|フェルマー素数]]となる（''u'' {{=}} 0 のときの値 2 を除く）。''v'' が[[符号 (数学)|正]]ならば ''u'' も正でなくてはならない（{{math|3<sup>''v''</sup> + 1}} は {{math|''v'' > 0}} のときは 2 以外の偶数であり素数ではないから）。したがって、2 でもフェルマー素数でもない全てのピアポント素数は、''k'' を正の整数として 6''k'' + 1 の形をとる。

ピアポント素数の最初の数項は

: [[2]], [[3]], [[5]], [[7]], [[13]], [[17]], [[19]], [[37]], [[73]], [[97]], [[109]], [[163]], [[193]], [[257]], [[400|433]], 487, 577, 769, 1153, 1297, 1459, 2593, 2917, 3457, 3889, 10369, 12289, 17497, 18433, 39367, 52489, 65537, 139969, 147457, 209953, 331777, 472393, 629857, 746497, 786433, 839809, 995329, ... （{{OEIS|A005109|id=A005109}}）

となる。

{{As of|2024}}知られている最も大きいピアポント素数は 2<sup>20498148</sup> × 3<sup>4</sup> + 1 （6,170,560 桁）であり、これが素数であることは[[2023年]][[6月]]に発見された<!-- <ref>{{Cite web|url=http://primes.utm.edu/primes/lists/short.txt|title=The largest known primes|accessdate=2 Jan 2021|last=Caldwell|first=Chris|website=The [[Prime Pages]]}}</ref> --><ref>{{cite web|url=https://primes.utm.edu/primes/page.php?id=136165|title=PrimePage Primes: 81 · 2^20498148 + 1|first=|last=|website=The [[Prime Pages]]|accessdate=2 Jan 2025}}</ref>。

== 分布 ==
{{Unsolved|数学|ピアポント素数は無限に存在するか？}}
[[ファイル:Pierpont_exponent_distribution.png|サムネイル|小さなピアポント素数の分布。軸は2の指数と3の指数。]]
経験的には、ピアポント素数は特に珍しかったりまばらに分布しているわけではないようである。10<sup>6</sup> 未満には42個あり、10<sup>9</sup> までに65個、10<sup>20</sup> までに157個、10<sup>100</sup> までに795個存在する。

ピアポント素数において代数的な因数分解からの制限はほとんどないため、指数が素数でなくてはならないという[[メルセンヌ素数]]の条件のような要求はない。したがって、<math>2^u3^v+1</math> の形をした ''n'' 桁の整数の中で素数であるものが占める割合は、全ての ''n'' 桁の整数の中で素数が占める割合と同様、1/''n'' に比例するはずだと期待される。この範囲にこの形の数は Θ(''n''<sup>2</sup>) 個あるため、Θ(''n'') 個のピアポント素数があるはずである。

アンドリュー・M・グリーソン(Andrew M. Gleason)はこの推論を明示的なものにし、無限に多くのピアポント素数が存在すると予想し、もっと具体的には {{math|10<sup>''n''</sup>}} までに約 {{Math|9''n''}} 個のピアポント素数が存在するはずだとした<ref>{{Citation|title=Angle trisection, the heptagon, and the triskaidecagon|year=1988|last=Gleason|first=Andrew M.|author-link=:en:Andrew M. Gleason||journal=[[American Mathematical Monthly]]|work=[[American Mathematical Monthly]]|volume=95|issue=3|pages=185–194|doi=10.2307/2323624|DOI=10.2307/2323624|mr=935432|MR=935432}}. Footnote 8, p.&nbsp;191.</ref>。グリーソンの予想によれば、''N'' 未満には Θ(log ''N'') 個のピアポント素数が存在することになる。これは同じ範囲においてメルセンヌ素数がわずか O(log&nbsp;log&nbsp;''N'') 個と予想されていることとは対照的である。

== 素数判定法 ==
<math>2^u>3^v</math> のとき、<math>M=2^u 3^v + 1</math> は[[プロス数]]であるから、これが素数であるかどうかは{{ill2|プロスの定理|en|Proth's theorem}}により判定できる。一方 <math>2^u<3^v</math> のとき、<math>M=2^u 3^v + 1</math> に対する素数判定は、<math>M-1</math> が小さな偶数と3の大きな累乗の積と解釈できることに着目して、Williams と Zarnke の判定法を使うのがよい<ref>{{Citation|title=On the primality of <math>2h\cdot 3^n+1</math>|year=2001|last=Kirfel|last1=Kirfel|last2=Rødseth|first1=Christoph|first=Christoph|first2=Øystein J.|journal=[[Discrete Mathematics (journal)|Discrete Mathematics]]|work=[[Discrete Mathematics (journal)|Discrete Mathematics]]|volume=241|issue=1-3|pages=395–406|doi=10.1016/S0012-365X(01)00125-X|DOI=10.1016/S0012-365X(01)00125-X|mr=1861431|MR=1861431}}. 特に Theorem 2.</ref>。

== フェルマー数の因数となるピアポント素数 ==
世界的に行われている[[フェルマー数]]の因数（[[約数]]）の探索作業の一環として、いくつかのピアポント素数が因数として発表されている。次の表<ref>Wilfrid Keller,  [http://www.prothsearch.com/fermat.html Fermat factoring status].</ref>は
: <math>2^{2^m} + 1</math> が素数 <math>k\cdot 2^n + 1</math> で割り切れる
ような ''m'', ''k'', ''n'' の値を示している。左の数はフェルマー数であり、右の数は ''k'' が3の[[累乗数|累乗]]のときにピアポント素数である。

{| class="wikitable" style="margin-bottom: 10px;"
!''m''   !!''k''!! ''n''  !! 年   !! 発見者
|-
|38      || 3  || 41      || 1903 || [[:en:James Cullen (mathematician)|Cullen]], [[アラン・カニンガム (数学者)|Cunningham]] & Western
|-
|63      || 9  || 67      || 1956 || [[:en:Raphael M. Robinson|Robinson]]
|-
|207     || 3  || 209     || 1956 || Robinson
|-
|452     || 27 || 455     || 1956 || Robinson
|-
|9428    || 9  || 9431    || 1983 || Keller
|-
|12185   || 81 || 12189   || 1993 || [[:en:Harvey Dubner|Dubner]]
|-
|28281   || 81 || 28285   || 1996 || Taura
|-
|157167  || 3  || 157169  || 1995 || Young
|-
|213319  || 3  || 213321  || 1996 || Young
|-
|303088  || 3  || 303093  || 1998 || Young
|-
|382447  || 3  || 382449  || 1999 || [[:en:John B. Cosgrave|Cosgrave]] & Gallot
|-
|461076  || 9  || 461081  || 2003 || Nohara, Jobling, [[:en:George Woltman|Woltman]] & Gallot
|-
|495728  || 243|| 495732  || 2007 || Keiser, Jobling, Penné & Fougeron
|-
|672005  || 27 || 672007  || 2005 || [[:en:Curtis Cooper (mathematician)|Cooper]], Jobling, Woltman & Gallot
|-
|2145351 || 3  || 2145353 || 2003 || Cosgrave, Jobling, Woltman & Gallot
|-
|2478782 || 3  || 2478785 || 2003 || Cosgrave, Jobling, Woltman & Gallot
|-
|2543548 || 9  || 2543551 || 2011 || Brown, Reynolds, Penné & Fougeron 
|}

== 正多角形の作図 ==
[[折紙の数学]]において、[[折り紙公理|藤田の公理]]は可能な7種類の折り方のうち6つを定義する。これらの折り方は任意の[[三次方程式]]を解く点の作図を可能とするために十分であることが示されている<ref>{{Citation|title=Solving cubics with creases: the work of Beloch and Lill|year=2011|last=Hull|first=Thomas C.|author-link=:en:Tom Hull|journal=[[American Mathematical Monthly]]|work=[[American Mathematical Monthly]]|volume=118|issue=4|pages=307–315|doi=10.4169/amer.math.monthly.118.04.307|DOI=10.4169/amer.math.monthly.118.04.307|mr=2800341|MR=2800341}}.</ref>。ここから、''N'' が3以上でかつ&nbsp;{{Math|''N'' {{=}} 2<sup>''m''</sup>3<sup>''n''</sup>''ρ''}}（''m'', ''n'' は0以上, {{mvar|ρ}}&nbsp;は相異なるピアポント素数の積<ref group="注釈" name="rho">0個の数の積すなわち ρ=1 でもよいとする。[[空積]]を参照せよ。</ref>）という形をしていることが、''N'' 辺の正多角形を折り出せるための必要十分条件であるということが導かれる。これは[[コンパス]]、[[定規]]、[[角の三等分問題|角の三等分]]器を用いて作図できる正多角形のクラスと同一である。なお、コンパスと定規のみで作図できる正多角形（通常の意味での[[作図可能な正多角形]]）は、その特別な場合で、{{Math|''n'' {{=}} 0}}&nbsp;でありかつ&nbsp;{{mvar|''ρ''}}&nbsp;が相異なる[[フェルマー素数]]の積になっているものである<ref group="注釈" name="rho"/>。

1895年、ジェームズ・ピアポントがこのクラスの正多角形を研究した。ピアポント素数の名はこの業績に由来する。ピアポントはそれまでに作図された点に由来する係数を持つ[[円錐曲線]]を描く能力を加えることで、コンパスと定規による作図を上記とは異なるやり方で一般化した。彼が示したように、これらの操作で作図することができる正 ''N'' 角形は ''N'' の[[オイラーのφ関数|トーシェント]]が 3-smooth であるようなものである。素数のトーシェントは自身から1を引いて得られるから、ピアポントの作図手法により作られる素数&nbsp;''N''&nbsp;はまさしくピアポント素数である。しかし、ピアポントは 3-smooth なトーシェントを持つ合成数の形については記述しなかった<ref>{{Citation|title=On an undemonstrated theorem of the Disquisitiones Arithmeticæ|year=1895|last=Pierpont|first=James|author-link=:en:James Pierpont (mathematician)|journal=[[Bulletin of the American Mathematical Society]]|work=[[Bulletin of the American Mathematical Society]]|volume=2|issue=3|pages=77–83|doi=10.1090/S0002-9904-1895-00317-1|DOI=10.1090/S0002-9904-1895-00317-1|mr=1557414|MR=1557414}}.</ref>。後にグリーソンが示したように、これらの数は先述した&nbsp;{{Math|2<sup>''m''</sup>3<sup>''n''</sup>''ρ''}}&nbsp;という形のものに他ならない。

ピアポントでない（フェルマーでもない）最小の素数は11であり、正[[十一角形]]はコンパス、定規、角の三等分器（もしくは折り紙、円錐曲線）で作図することができない最小の正多角形である。これ以外の&nbsp;{{Math|3 ≤ ''N'' ≤ 21}}&nbsp;である正 ''N'' 角形はどれもコンパス、定規、角の三等分器で作図することができる。

== 一般化 ==
{{出典の明記|date=2019年7月|section=1}}
'''第2種ピアポント素数'''（{{lang-en-short|Pierpont prime of the second kind}}）は 2<sup>''u''</sup>3<sup>''v''</sup> − 1 という形の素数である。これらは以下の値である。

: 2, 3, 5, 7, 11, 17, 23, 31, 47, 53, 71, 107, 127, 191, 383, 431, 647, 863, 971, 1151, 2591, 4373, 6143, 6911, 8191, 8747, 13121, 15551, 23327, 27647, 62207, 73727, 131071, 139967, 165887, 294911, 314927, 442367, 472391, 497663, 524287, 786431, 995327, ... （{{OEIS|A005105|id=A005105}}）

''k'' 個の固定された素数 {''p''<sub>1</sub>, ''p''<sub>2</sub>, ''p''<sub>3</sub>, ..., ''p''<sub>''k''</sub>}, ''p<sub>i</sub>'' < ''p<sub>j</sub>'' for ''i'' < ''j'' に対して、'''一般化ピアポント素数'''（{{lang-en-short|generalized Pierpont prime}}）とは <math>p_1^{n_1} \cdot p_2^{n_2} \cdot p_3^{n_3} \cdot \dotsb \cdot p_k^{n_k} + 1</math> の形で表される素数である。'''第2種一般化ピアポント素数'''（{{lang-en-short|generalized Pierpont prime of the second kind}}）とは <math>p_1^{n_1} \cdot p_2^{n_2} \cdot p_3^{n_3} \cdot \dotsb \cdot p_k^{n_k} - 1</math> の形で表される素数である。2より大きい素数は全て奇数であるため、どちらも ''p''<sub>1</sub> は2でなければならない。OEISにあるこのような素数列は以下の通り。

{|class="wikitable"
|{''p''<sub>1</sub>, ''p''<sub>2</sub>, ''p''<sub>3</sub>, ..., ''p''<sub>''k''</sub>}
|&#43;1
|−1
|-
|{2}
|{{oeis|id=A092506}}
|{{oeis|id=A000668}}
|-
|{2, 3}
|{{oeis|id=A005109}}
|{{oeis|id=A005105}}
|-
|{2, 5}
|{{oeis|id=A077497}}
|{{oeis|id=A077313}}
|-
|{2, 3, 5}
|{{oeis|id=A002200}}
|{{oeis|id=A293194}}
|-
|{2, 7}
|{{oeis|id=A077498}}
|{{oeis|id=A077314}}
|-
|{2, 3, 5, 7}
|{{oeis|id=A174144}}
|
|-
|{2, 11}
|{{oeis|id=A077499}}
|{{oeis|id=A077315}}
|-
|{2, 13}
|{{oeis|id=A173236}}
|{{oeis|id=A173062}}
|}

== 関連項目 ==
* [[安全素数]]（{{Math|''p'' &minus; 1}} ができるだけsmoothでない素数）

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 外部リンク ==
* {{MathWorld|title=Pierpont Prime|urlname=PierpontPrime}}

{{素数の分類}}
{{DEFAULTSORT:ひあほんとそすう}}
[[Category:素数]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:素数の類]]
[[Category:数学のエポニム]]