ファブリ・ペロー干渉計のソースを表示

{{翻訳直後|[[:en:Special:Permalink/754555423|en:Fabry–Pérot interferometer]]|date=2016年12月}}

[[ファイル:Fabry_Perot_Etalon_Rings_Fringes.png|thumb|200x200px|ファブリ・ペロー干渉計による干渉縞。[[微細構造 (原子物理学)|微細構造]]が見てとれる。[[光源]]は冷却{{仮リンク|重水素ランプ|en|Deuterium_arc_lamp}}。]]

[[光学]]において、'''ファブリ・ペロー干渉計'''（ファブリ・ペローかんしょうけい、{{Lang-en-short|Fabry–Pérot interferometer}}）もしくは'''ファブリ・ペローのエタロン''' ({{Lang-en-short|etalon}}) は、2つの部分[[反射]]面をもつ[[透明]]板や2つの[[平行]]な[[ビームスプリッター|半透鏡]]からなる機器である。その[[透過率 (光学)|透過]][[波長]][[スペクトル]]は[[共振]]波長に大きな透過率のピークを示す。[[シャルル・ファブリ]]と[[アルフレッド・ペロー]]に因み命名された<ref>ペローの名前は科学論文などではアクセント付きで {{Lang|fr|Pérot}} のように綴られることが多く、この干渉計を英語表記する場合も同様にアクセント付きで表記されることが多い。</ref><ref>{{cite journal
 |first       = Françoise
 |last        = Métivier
 |title       = Jean-Baptiste Alfred Perot
 |date        = September–October 2006
 |journal     = Photoniques
 |issue       = 25
 |language    = フランス語
 |url         = http://www.sabix.org/documents/perot.pdf
 |format      = pdf
 |accessdate  = 2007-10-02
 |archiveurl  = https://web.archive.org/web/20071110003132/http://www.sabix.org/documents/perot.pdf
 |archivedate = 2007年11月10日
 |deadurldate = 2017年9月
}} Page 2: "Pérot ou Perot?"</ref><ref>{{Cite journal|last=Fabry|first=C|last2=Perot|first2=A|date=1899|title=Theorie et applications d'une nouvelle methode de spectroscopie interferentielle|url=|journal=Ann. Chim. Phys|volume=16|issue=7|doi=|pmid=|access-date=}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Perot|first=A|last2=Fabry|first2=C|date=1899|title=On the Application of Interference Phenomena to the Solution of Various Problems of Spectroscopy and Metrology|url=http://adsabs.harvard.edu/full/1899ApJ.....9...87P|journal=Astrophysical Journal|volume=9|issue=|doi=|pmid=|access-date=}}</ref>。「エタロン」とは「測定器」や「標準」を意味する{{Lang-fr|''étalon''}}から来ている<ref>[[オックスフォード英語辞典]]</ref>。

エタロンは[[電気通信|通信]]技術や[[レーザー]]技術、[[分光法|分光]]技術などにおいて[[光]]の波長を制御・測定するために広く応用されている。近年、技術の進歩により非常に精密に調整されたファブリ・ペロー干渉計の作成が可能となっている。{{要出典範囲|正確には、反射面の間の距離を調整できる構造のものを[[干渉法|干渉計]]、調節できない構造のものをエタロンと呼ぶ|date=2022-06-24}}が、混同されることが多い。

== 基本的説明 ==
[[ファイル:Fabry_Perot_Interferometer_-_diagram.png|thumb|300x300px|わずかに楔形をした2つの部分反射板からなるファブリ・ペロー干渉計の模式図。楔角は大きく誇張されており、実際にはゴーストを避けるために数分の一[[度 (角度)|度]]程度に抑える必要がある。低フィネスの像と高フィネスの像はそれぞれ[[反射率]] 4%（裸ガラス）と 95% に対応する。]]

ファブリ・ペロー干渉計の心臓部は数[[マイクロメートル]]から数[[センチメートル]]離れて向いあう、部分的に光を反射する{{仮リンク|光学的平面|en|Optical_flat}}[[ガラス]]のペアである（または、エタロンの場合は2つの平行な反射面を持つ1枚の板である）。干渉計に使われる平面ガラスは裏面が作る[[干渉 (物理学)|干渉縞]]を抑えるために楔形をしていることが多い。また、裏面に[[反射防止膜|無反射コーティング]]を施すことも多い。

多くの干渉計では、散乱光源を[[コリメーター]][[レンズ]]の[[焦平面]]に置く。平面ガラスペアの後ろには、集束レンズを平面ガラスがなかったら光源の反転像が生じるように、つまり光源上のある点から発した全ての光がスクリーン上の一点に集まるように置く。右図には光源上のある点から発する光線を1つだけ赤線で示してある。光線は平面ガラスペアを通過する際に何度も反射されていくつもの光線に分かれ、これらの光線が集束レンズによりスクリーン上の点 {{Math|A&prime;}} に集められる。完全な干渉パターンが生じた際には複数の同心円が現れる。同心円の太さは平面の反射率によって決まる。反射率が高ければ[[Q値]]は高くなり、[[単色光]]の場合は細く明るい干渉環が暗い背景に現れる。Q値の高いファブリ・ペロー干渉計は、「フィネス」が高いと表現される。

== 応用 ==

[[ファイル:Dispositif_Fabry-Perot.jpg|thumb|市販のファブリ・ペロー干渉計]]

* 通信分野では[[光波長多重通信]]用の{{仮リンク|アド・ドロップマルチプレクサ|en|Add-drop_multiplexer}}として[[石英ガラス]]または[[ダイヤモンド]]製のエタロンが使われている。これらは {{Val|2|ul = mm}} 程度の[[玉虫色]]の[[正六面体|立方体]]で、小さな高精度ラックに収められている。材質は温度が変化しても反射面間の距離を一定に維持し、周波数を一定に保つように選ばれる。このため、[[熱伝導率]]が高くかつ[[熱膨張率]]は小さいダイヤモンドが好まれる。[[2005年]]には、エタロンとして機能する[[光ファイバー]]を用いる通信機器会社も出てきている。これにより、設置時や冷却に関する手間が大きく削減される。
* [[ダイクロイックミラー|ダイクロイックフィルタ]]は光学的平面上に真空蒸着を用いてエタロン層を積層して作られる。このような[[光学フィルター]]は吸収フィルターよりも反射帯域および通過帯域が正確であることが多い。カットすべき光を吸収フィルターと違って反射するため、適切に設計すれば温度が上りにくい。ダイクロイックフィルタは光源や[[カメラ]]、[[天体望遠鏡]]、レーザー系などの光学装置に広く用いられている。
* 光{{仮リンク|波長計|en|Wavemeter}}や一部の{{仮リンク|光スペクトルアナライザ|en|Optical_spectrum_analyzer}}は、光の波長を高い精度で決定するために様々な波長域用のファブリ・ペロー干渉計を用いている。
* [[光共振器|レーザー共振器]]はしばしばファブリ・ペロー共振器と呼ばれる。しかし多くの場合で片側の反射面の[[反射率]]はほぼ100%であり、ファブリ・ペロー干渉計よりは[[ジル・トルノアのエタロン|ジル・トルノア干渉計]]に近い。[[半導体レーザー|半導体ダイオードレーザー]]には、チップの端面をコーティングすることが難しいために真のファブリ・ペロー構成が用いられることもある。[[量子カスケードレーザー]]では活性領域のゲインが高いため、レーザー発振を維持するために端面をコーティングする必要がなく、ファブリ・ペロー共振器が用いられることが多い<ref name="Williams2007">{{cite journal|last1=Williams|first1=Benjamin S.|title=Terahertz quantum-cascade lasers|journal=Nature Photonics|volume=1|issue=9|year=2007|pages=517–525|issn=1749-4885|doi=10.1038/nphoton.2007.166}}</ref>。
* シングルモードレーザーを得るために、レーザー共振器の内部にエタロンを置くことも多い。エタロンが無い場合、一般的にはレーザーはファブリ・ペロー干渉計と似た複数の[[光共振器|キャビティ]]モードに対応する波長域にわたる光を発生させる。ここでレーザーキャビティに慎重に選んだフィネスとフリースペクトル領域のエタロンを挿入すると、一つを除いたキャビティモードを全て抑制することができ、マルチモードレーザーをシングルモードレーザーにすることができる。
* ファブリ・ペローのエタロンは、{{仮リンク|レーザー吸収分光法|en|Laser_absorption_spectrometry}}、特に{{仮リンク|キャビティリングダウン分光法|en|Cavity_ring-down_spectroscopy}} において、相互作用長を引き伸ばす用途に用いることもある。
* ファブリ・ペローのエタロンは通常の[[分光器]]では[[スペクトル線|輝線]]が互いに近すぎて観測できない[[ゼーマン効果]]をも観測できる分光器として用いられることがある。
* [[天文学]]において、エタロンは単一の輝線を選んで[[撮影|撮像]]するために用いられる。最もよく用いられる対象は[[太陽]]の[[Hα線]]である。太陽の[[カルシウム|Ca-K]]線もエタロンを用いて撮像することが多い。
* [[重力波 (相対論)|重力波]]検出器においては、[[光子]]を光速で片道[[ミリ秒]]かかるような長いファブリ・ペローキャビティに貯めることがある。これにより重力波が光と相互作用する時間を長くとることができ、低周波における[[感度 (計測機器)|感度]]が向上する。この原理を用いて、[[LIGO]]や[[Virgo|Virgo干渉計]]などの検出器では[[マイケルソン干渉計]]の両腕を数[[キロメートル]]にわたるファブリ・ペローキャビティにより構成している。「クリーナ」と呼ばれるより小さなキャビティもメインレーザーの{{仮リンク|空間フィルタリング|en|Spatial_filter}}および周波数安定化のために使われる。

== 理論 ==
===共振損失、出力結合光、共振周波数、スペクトル線形状===

ファブリ・ペロー共振器のスペクトル応答は入射光と共振器内で反射を繰り返す光との[[干渉 (物理学)|干渉]]に基いている。これら二つの光の[[位相]]が一致した場合、強めあう干渉が起こり、共振器内の光は増強される。位相が一致していない場合、共振器内に蓄えられるのは入射光の一部のみである。この結果、透過光は入射光に比べてスペクトルが変化している。

幾何学的な距離 {{Mvar|ℓ}} をおいて対向する二枚の鏡の間に、屈折率 {{mvar|n}} の均一な媒質が満たされているファブリ・ペロー共振器に光が直角に入射するものとする。共振器内の往復時間を {{math|''t''<sub>RT</sub>}}、真空中の光速を {{math|''c''<sub>0</sub>}}、媒質中の光速を {{math|1=''c'' = ''c''<sub>0</sub>/''n''}} とすると、自由スペクトル領域 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}} は以下のように求められる。
:<math> t_\text{RT} = \frac{1}{\Delta \nu_\text{FSR}} = \frac{2 \ell}{c}</math>
鏡 {{mvar|i}} における振幅反射率 {{math|''r''<sub>''i''</sub>}} および強度反射率 {{math|''R''<sub>''i''</sub>}} の間には以下の関係式が成り立つ。
:<math> r_i^2 = R_i </math>
その他の共振損失はないものとすると、共振器内における光子の減衰時定数 {{math|''&tau;''<sub>c</sub>}} は次のように与えられる<ref name="IsmailPollnau2016">{{cite journal |journal=Opt. Express |volume=24 |issue=15 |title=Fabry-P&#x00E9;rot resonator: spectral line shapes, generic and related Airy distributions, linewidths, finesses, and performance at low or frequency-dependent reflectivity |first1 = Nur |last1 = Ismail |first2 = Cristine Calil |last2 = Kores |first3 = Dimitri |last3 = Geskus |first4 = Markus |last4 = Pollnau |url=http://www.opticsexpress.org/abstract.cfm?URI=oe-24-15-16366 |year= 2016 |month = 7 |pages = 16366–16389 |doi=10.1364/OE.24.016366 | ref=harv}}</ref>。
:<math> \frac{1}{\tau_\mathrm c} = \frac{-\ln{(R_1 R_2)}}{t_{RT}} </math>

片道分の位相シフト量を {{Math|''&#981;''(''&nu;'')}} とすると、周波数 {{mvar|&nu;}} の光において往復時間 {{math|''t''<sub>RT</sub>}} 中に蓄積する位相シフト量について次が成り立つ<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> 2 \phi (\nu) = 2 \pi \nu t_{RT}. </math>
共鳴は一往復後の光が強め合う干渉を示す場合に起こる。共鳴モードの指数を正負の整数 {{Mvar|q}} とすると、対応する共鳴周波数 {{mvar|&nu;<sub>q</sub>}} および共鳴波数{{mvar|k<sub>q</sub>}} について次が成り立つ。
:<math> \nu_q = q \Delta \nu_\text{FSR} \Rightarrow k_q = \frac{2 \pi q \Delta \nu_\text{FSR}}{c}</math>
符号の反転したモード <math> \pm q </math> および <math> \pm k </math> は、周波数の絶対値 {{Math|{{Mabs|''&nu;''<sub>''q''</sub>}}}} は同じであるが、光の進行方向が逆であることを示す。

周波数 {{mvar|&nu;<sub>q</sub>}} の入射振幅を {{Math|''E''<sub>''q'', s</sub>}} とすると、減衰時定数 {{math|''&tau;''<sub>c</sub>}} での減衰は[[フェーザ表示]]を用いて次のように表わされる<ref name="IsmailPollnau2016"/>
:<math> E_q(t) = E_{q,\mathrm s} e^{i 2 \pi \nu_q t} e^{-\frac{t}{2 \tau_c}}</math>
この電場振幅を[[フーリエ変換]]すると、周波数領域における振幅が次のように得られる。
:<math> \tilde E_q (\nu) = \int_{-\infty}^{+\infty} E_q(t) e^{-i 2 \pi \nu t}\,dt = E_{q,s} \frac{1}{(2 \tau_c )^{-1} + i 2 \pi (\nu - \nu_q)}</math>
これを規格化して周波数積分が 1 となるように変換すると、次を得る。
:<math> \tilde \gamma_q (\nu) = \frac{1}{\tau_c} \left| {\frac{\tilde E_q (\nu)}{ E_{q,\mathrm s}}} \right|^2 = \frac{1}{\tau_c} \frac{1}{(2 \tau_c )^{-2} + 4 \pi^2 (\nu - \nu_q)^2}, </math>

[[コーシー分布|ローレンツィアン]]スペクトル形状の[[半値全幅]] (FWHM) {{mvar|&Delta;&nu;<sub>c</sub>}} を用いると、以下のように書き直せる。
:<math> \Delta \nu_c = \frac{1}{2 \pi \tau_c} \Rightarrow \tilde \gamma_q (\nu) = \frac{1}{\pi} \frac{\Delta \nu_c / 2}{(\Delta \nu_c / 2)^2 + (\nu - \nu_q)^2}</math>
ピーク高を 1 となるように規格化すると、次のローレンツィアン線を得る。
:<math> \gamma_{q,\mathrm L} (\nu) = \frac{\pi}{2} \Delta \nu_c \tilde \gamma_q (\nu) = \frac{(\Delta \nu_c / 2)^2}{(\Delta \nu_c / 2)^2 + 4 (\nu - \nu_q)^2}. </math>
全ての {{mvar|q}} について上記のフーリエ変換を行えば、共振器の完全なモードスペクトルが得られる。

線幅 {{mvar|&Delta;&nu;<sub>c</sub>}} と自由スペクトル領域 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}} は周波数に依存しないことから、波長空間では線幅が適切に定義できず、自由スペクトル領域は波長に依存してしまうことから、ファブリ・ペロー共振器の解析は周波数空間で行うのが自然である。

=== 一般エアリー分布: 内部共鳴増強因子 ===

[[File:Schematic of the Fabry-Perot interferometer.png|thumb|right|350px|alt=Caption|ファブリ・ペロー共振器内の電場振幅<ref name="IsmailPollnau2016"/>。電場反射率はそれぞれ {{Math|''r''<sub>1</sub>, ''r''<sub>1</sub>}} である。鏡 1 に電場 {{Math|''E''<sub>inc</sub>}} が入射した際の特徴的電場を表示してある。{{Math|''E''<sub>refl,1</sub>}} は鏡 1 で最初に反射される電場、{{Math|''E''<sub>laun</sub>}} は鏡 1 から内部に透過した電場、{{Math|''E''<sub>circ</sub>}} および {{Math|''E''<sub>b-circ</sub>}} は共振器中を循環する電場のそれぞれ前進成分と後進成分、{{Math|''E''<sub>RT</sub>}} は共振器内を一往復した後に再度共振器内に反射される電場、{{Math|''E''<sub>trans</sub>}} は鏡 2 を透過する電場、{{Math|''E''<sub>back</sub>}} は鏡 1 を透過する光、{{Math|''E''<sub>refl</sub>}} は後方に反射される総電場を表わす。干渉は鏡 1 の左では {{Math|''E''<sub>refl,1</sub>}} と {{Math|''E''<sub>back</sub>}} との間で、右側では {{Math|''E''<sub>laun</sub>}} と {{Math|''E''<sub>RT</sub>}} との間で起こり、その結果それぞれ {{Math|''E''<sub>refl</sub>}} および {{Math|''E''<sub>trans</sub>}} となる。]]
ファブリ・ペロー共振器の応答を導出するのに最も簡単な方法は循環場アプローチである<ref name="Siegman1986">{{Cite book|first=A. E. |last=Siegman|title=Lasers|publisher=University Science Books|location=Mill Valley, California|year=1986|chapter=ch. 11.3|pages=413&ndash;428}}</ref>。このアプローチでは定常状態を仮定し、様々な電場の間の関係式をたてる（右図参照）。

共振器中を循環する電場 {{Math|''E''<sub>circ</sub>}} と共振器内へ入射する電場 {{Math|''E''<sub>circ</sub>}} との間には次のような関係式が成り立つ。
:<math> E_\text{circ} = E_\text{laun} + E_\text{RT} = E_\text{laun} + r_1 r_2 e^{-i 2 \phi} E_\text{circ} \Rightarrow \frac{E_\text{circ}}{E_\text{laun}} = \frac{1}{1 - r_1 r_2 e^{-i 2 \phi}}</math>
共振器内の光による物理過程のみを考えると、入射光強度と循環光強度との比は一般エアリー分布として次のように導出される<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> A_\text{circ} = \frac{I_\text{circ}}{I_\text{laun}} = \frac{\left| E_\text{circ} \right|^2}{\left| E_\text{laun} \right|^2} = \frac{1}{\left| 1 - r_1 r_2 e^{-i 2 \phi} \right|^2} = \frac{1}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)}</math>
{{Math|''A''<sub>circ</sub>}} は入射光に対する共振器による周波数の関数としての内部共鳴増強因子を表わす（右図参照）。共鳴周波数 {{Mvar|&nu;<sub>q</sub>}} においては {{Math|1=sin(''&#981;'') = 0}} となり、内部共鳴増強因子は次のようになる。
:<math> A_\text{circ}(\nu_q) = \frac{1}{\left( 1 - \sqrt{R_1 R_2} \right)^2}</math>

=== その他のエアリー分布 ===
[[File:Resonant enhancement factor of a Fabry Perot interferometer.png|thumb|right|300px|alt=Caption|ファブリ・ペロー共振器による共鳴増強<ref name="IsmailPollnau2016"/>。上図: スペクトル依存内部共鳴増強因子。一般エアリー分布{{Math|''A''<sub>circ</sub>}} に等しい。共振器内へと透過した光はこの因子だけ共鳴により増強される。{{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub> = 0.9}} の場合の曲線では、ピーク値は {{Math|1=''A''<sub>circ</sub>(''&nu;''<sub>''q''</sub>) = 100}} であり、図の上限を突破している。下図: スペクトル依存外部共鳴増強因子。エアリー分布 {{Math|''A''&prime;<sub>circ</sub>}} に等しい。共振器に入射した光はこの因子だけ増強される。]]

内部共鳴増強因子、一般エアリー分布が導かれれば、その他のエアリー分布は単純にスケーリング因子により導かれる<ref name="IsmailPollnau2016"/>。共振器への透過光強度は鏡 1 への入射光強度の透過分であるから、次のように書ける。
:<math> I_\text{laun} = \left(1 - R_1 \right) I_\text{inc}</math>
そして、鏡 2 の透過光と反射光、および鏡 1 の透過光は共振器内部で循環する光の透過・反射成分であるから、それぞれ次のように書ける。
:<math> I_\text{trans} = \left(1 - R_2 \right) I_\text{circ},</math>
:<math> I_\text{b-circ} = R_2 I_\text{circ},</math>
:<math> I_\text{back} = \left(1 - R_1 \right) I_\text{b-circ}</math>
したがって、共振器内への透過光 {{Math|''I''<sub>laun</sub>}} に対するその他のエアリー分布 {{mvar|A}} および入射光 {{Math|''I''<sub>inc</sub>}} に対するエアリー分布 {{mvar|A&prime;}} は次のように書ける<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> A_\text{circ} = \frac{1}{R_2} A_\text{b-circ} = \frac{1}{R_1 R_2} A_\text{RT} = \frac{1}{1 - R_2} A_\text{trans} = \frac{1}{1 - R_1} A_\text{back} = \frac{1}{1 - R_1 R_2} A_\text{emit}, </math>
:<math> A_\text{circ}^{\prime} = \frac{1}{R_2} A_\text{b-circ}^{\prime} = \frac{1}{R_1 R_2} A_\text{RT}^{\prime} = \frac{1}{1 - R_2} A_\text{trans}^{\prime} = \frac{1}{1 - R_1} A_\text{back}^{\prime} = \frac{1}{1 - R_1 R_2} A_\text{emit}^{\prime}, </math>
:<math> A_\text{circ}^{\prime} = (1 - R_1) A_\text{circ}</math>
下付きの“emit”は共振器の両側から放射される総和強度を考慮したエアリー分布であることを表わす。

後方放射 {{Math|''I''<sub>back</sub>}} は、実際には最初の反射光と後方透過光とが干渉するため測定することができない。これらの干渉の結果、観測可能な光のエアリー分布は以下のように書ける<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> A_\text{refl}^{\prime} = \frac{I_\text{refl}}{I_\text{inc}} = \frac{\left| E_\text{refl} \right|^2}{\left| E_{inc} \right|^2} = \frac{\left( {\sqrt{R_1} - \sqrt{R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)}</math>
いかなる周波数に対しても、どんな干渉があったとしてもエネルギーが保存することはすぐに示すことができる。
:<math> A_\text{trans}^{\prime} + A_\text{refl}^{\prime} = \frac{I_\text{trans} + I_\text{refl}}{I_\text{inc}} = 1</math>
外部共鳴増強因子（右図参照）は以下のようになる<ref name="IsmailPollnau2016"/>
:<math> A_\text{circ}^{\prime} = \frac{I_\text{circ}}{I_{inc}} = (1 - R_1) A_\text{circ} = \frac{1 - R_1}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)}</math>
共鳴周波数 {{Mvar|&nu;<sub>q</sub>}} においては {{Math|1=sin(''&#981;'') = 0}} が成り立つので、以下のように書ける。
:<math> A_\text{circ}^{\prime}(\nu_q) = \frac{1 - R_1}{\left( 1 - \sqrt{R_1 R_2} \right)^2}</math>

[[File:Airy distribution of a Fabry-Perot interferometer.png|thumb|right|300px|alt=Caption|エアリー分布 {{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub>}} を満たす様々な反射率のファブリ・ペロー共振器の透過光に対応する {{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>}}（実線）と、同じ反射率 {{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub>}} で計算した単一ローレンツィアン線（破線）<ref name="IsmailPollnau2016"/>。半値線（黒線）との交点を見ると、反射率が減るに従ってエアリー分布の半値全幅 {{Math|''&nu;''<sub>Airy</sub>}} はローレンツィアン線の半値全幅 {{Math|''&nu;''<sub>c</sub>}} に比べて拡大する様子が見てとれる。{{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub> = 0.9, 0.6, 0.32, 0.172}} に対して、その比はそれぞれ {{Math|1=''&nu;''<sub>Airy</sub>/''&nu;''<sub>c</sub> = 1.001, 1.022, 1.132, 1.717}} となる。]]

通常、光はファブリ・ペロー共振器を透過する。したがって、よく適用されるエアリー分布は以下のものである<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> A_\text{trans}^{\prime} = \frac{I_\text{trans}}{I_\text{inc}} = (1 - R_1) (1 - R_2) A_\text{circ} = \frac{(1 - R_1) (1 - R_2)}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)}</math>
これは光源から鏡 1 に入射する光の強度 {{Math|''I''<sub>inc</sub>}} に対する鏡 2 の透過光の強度 {{Math|''I''<sub>trans</sub>}} の比を表わす（右図参照）。この関数の {{Math|''&nu;''<sub>''q''</sub>}} におけるピーク値は
:<math> A_\text{trans}^{\prime} (\nu_q) = \frac{(1 - R_1) (1 - R_2)}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2}</math>
であり、{{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub>}} のときピーク値は 1 となる。

{{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>}} を循環場アプローチ<ref name="Siegman1986"/>により導出する場合、鏡を透過する光が {{Math|''e''<sup>''i&pi;''/2</sup>}} だけ位相シフトを受けることを考慮して以下のように導出される。
:<math> E_\text{circ} = it_1E_\text{inc} + r_1 r_2 e^{-i 2 \phi}E_\text{circ} \Rightarrow \frac{E_\text{circ}}{E_\text{inc}} = \frac{it_1}{1 - r_1 r_2 e^{-i 2 \phi}}, </math>
:<math> E_\text{trans} = it_2E_\text{circ} e^{-i \phi} \Rightarrow \frac{E_\text{trans}}{E_\text{inc}} = \frac{- t_1 t_2 e^{-i \phi}}{1 - r_1 r_2 e^{-i 2 \phi}}</math>
:<math> A_\text{trans}^{\prime} = \frac{I_\text{trans}}{I_\text{inc}} = \frac{\left| E_\text{trans} \right|^2}{\left| E_\text{inc} \right|^2} = \frac{\left| - t_1 t_2 e^{-i \phi} \right|^2}{\left| 1 - r_1 r_2 e^{-i 2 \phi} \right|^2} = \frac{(1 - R_1) (1 - R_2)}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)}</math>
また、{{Math|''A''&prime;}} は往復減衰アプローチ<ref>{{Cite book|first=O. |last=Svelto |title=Principles of Lasers |edition=5th |publisher=Springer |location=New York |year=2010 |chapter=ch. 4.5.1 |pages=142&ndash;146}}</ref>を適用して、{{Math|''E''<sub>inc</sub>}} が共振器に入射したのち無限回往復するうち、毎往復ごとに透過する電場を蓄積して {{Math|''E''<sub>trans</sub>}} となると考えて導出することもできる。最初に透過してきた電場は段々と減衰し、共振器中の各回目の透過電場は次の[[漸化式]]で表わせる。
:<math> E_{\text{trans},1} = E_\text{inc}it_1it_2e^{-i \phi} = - E_\text{inc} t_1 t_2 e^{-i \phi}, </math>
:<math> E_{\text{trans},m+1} = E_{\text{trans},m}r_1r_2e^{-i 2 \phi}</math>
これを足し合わせるとこのようになる。
:<math> \sum_{m=0}^\infty x^m = \frac{1}{1 - x} \Rightarrow E_\text{trans} = \sum_{m=1}^\infty E_{\text{trans},m} = E_{inc} \frac{- t_1 t_2 e^{-i \phi}}{1 - r_1 r_2 e^{-i 2 \phi}} </math>
したがって {{Math|''E''<sub>trans</sub> / ''E''<sub>inc</sub>}} は先述のアプローチによるものと同一となり、{{Math|''A''&prime;}} も同一となる。

=== モードプロファイルの和としてのエアリー分布 ===
物理的には、エアリー分布は共振器の縦モードの和である<ref name="IsmailPollnau2016"/>。共振器内を循環する電場{{Math|''E''<sub>circ</sub>}} から始めて、この電場が共振器の鏡の間で時間に対して指数関数的に減衰するようすをフーリエ変換して正規化するとスペクトル線形 {{Math|{{Tilde|''&gamma;''}}<sub>''q''</sub>(''&nu;'')}} が得られる。これを往復時間 {{Math|''t''<sub>RT</sub>}} で割ると循環電場の総和の縦分布と単位時間あたりの出力光のモードが得られる。
:<math> \gamma_{q,\text{emit}}(\nu) = \frac{1}{t_\text{RT}} \tilde \gamma_q (\nu)</math>
これを全ての縦モードについて総和をとると、<ref name="IsmailPollnau2016"/>
:<math> \sum_{q=-\infty}^\infty \gamma_{q,\text{emit}}(\nu) = \frac{1 - R_1 R_2}{\left( {1 - \sqrt{R_1 R_2}} \right)^2 + 4 \sqrt{R_1 R_2} \sin^2(\phi)} = A_\text{emit}</math>
となり、エアリー分布 {{Math|''A''<sub>emit</sub>}} と一致する。

単純なスケーリング因子により、個々のエアリー分布と {{Math|''&gamma;''<sub>''q'', emit</sub>}} 他のモードプロファイルとの関係式が得られる<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> \gamma_{q,\text{circ}} = \frac{1}{R_2} \gamma_{q,\text{b-circ}} = \frac{1}{R_1 R_2} \gamma_{q,\text{RT}} = \frac{1}{1 - R_2} \gamma_{q,\text{trans}} = \frac{1}{1 - R_1} \gamma_{q,\text{back}} = \frac{1}{1 - R_1 R_2} \gamma_{q,\text{emit}}, </math>
:<math> \gamma_{q,\text{circ}}^{\prime} = \frac{1}{R_2} \gamma_{q,\text{b-circ}}^{\prime} = \frac{1}{R_1 R_2} \gamma_{q,\text{RT}}^{\prime} = \frac{1}{1 - R_2} \gamma_{q,\text{trans}}^{\prime} = \frac{1}{1 - R_1} \gamma_{q,\text{back}}^{\prime} = \frac{1}{1 - R_1 R_2} \gamma_{q,\text{emit}}^{\prime}, </math>
:<math> \gamma_{q,\text{circ}}^{\prime} = (1 - R_1) \gamma_{q,\text{circ}}</math>

=== ファブリ・ペロー共振器の特徴付け: ローレンツィアン線幅とフィネス {{Anchors|フィネス}} ===
スペクトル分解能に関するテイラーの基準では、個々のピークが半値において交われば分解能があるとする。光がファブリ・ペロー共振器内へ透過するとき、エアリー分布を計測するとファブリ・ペロー共振器の総損失をローレンツィアン線幅 {{math|&Delta;''&nu;''<sub>c</sub>}}（下図青線）と自由スペクトル領域との比を再計算することにより計算することができる。
[[File:Linewidth and finesse of a Fabry-Perot interferometer.png|thumb|center|780px|alt=Caption|ファブリ・ペロー共振器におけるローレンツィアン線幅とフィネス、およびエアリー線幅とフィネスの関係<ref name="IsmailPollnau2016"/>。左図: 相対ローレンツィアン線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>c</sub> / &Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}}（青線）および相対エアリー線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub> / &Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}}（緑線）とその近似式（赤線）。右図: ローレンツィアンフィネス {{Math|ℱ<sub>c</sub>}}（青線）および、エアリーフィネス {{Math|ℱ<sub>Airy</sub>}}（緑線）とその近似式（赤線）。どちらも横軸は反射率 {{Math|''R''<sub>1</sub>''R''<sub>2</sub>}}。エアリー線幅およびフィネスの厳密解（緑線）は {{Math|1=&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub> = &Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}}、すなわち {{Math|1=ℱ<sub>Airy</sub> = 1}} において定義されなくなるが、近似解（赤線）は崩壊しない。インセットは領域 {{Math|''R''<sub>1</sub>''R''<sub>2</sub> &lt; 0.1}} の拡大図。]]
[[File:Lorentzian finesse of a Fabry-Perot interferometer.png|thumb|right|350px|alt=Caption|ファブリ・ペロー共振器のローレンツィアンフィネス {{Math|ℱ<sub>c</sub>}} の物理的な意味<ref name="IsmailPollnau2016"/>。{{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub> ≈ 4.32%}} の場合、すなわち {{Math|1=&Delta;''&nu;''<sub>c</sub> = &Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}} および {{Math|1=ℱ<sub>Airy</sub> = 1}} が成り立ち、隣接するローレンツィアンピーク（破線、図の見易さのため5つのみ表示）同士が半値（黒線）において交わり、エアリー分布（紫実線）二つのピークの分解能に関するテイラーの基準が成り立つ際を表示してある。]]
ローレンツィアンピークがテイラーの基準に従えば分解能がある（右図参照）。したがって、ファブリ・ペロー共振器のローレンツィアンフィネスは次のように定義される<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> \mathcal{F}_c = \frac{\Delta \nu_\text{FSR}}{\Delta \nu_c} = \frac{2 \pi}{- \ln(R_1 R_2)}. </math>
これは上図の青線にあたる。ローレンツィアンフィネス {{Math|1=ℱ<sub>c</sub>}} は、エアリー分布を構成するローレンツィアンピークがどれほどの分解能を持つかという物理的に重要な意味を持つ。式
:<math> \Delta \nu_c = \Delta \nu_{FSR} \Rightarrow R_1 R_2 = e^{-2 \pi} \approx 0.001867</math>
が成り立つ点において {{Math|1=ℱ<sub>c</sub> = 1}} が成り立ち、単純エアリー分布のスペクトル分解能に関するテイラーの基準が限界に達する。二つの鏡の反射率が同一であれば、この点は {{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub> ≈ 4.32%}} の時に相当する。したがって、この点まではファブリ・ペロー共振器のエアリー分布を構成するローレンツィアンピークの幅を、測定されたエアリー分布から求めることができる。

=== ファブリ・ペロー共振器の掃引: エアリー線幅とエアリーフィネス ===
[[File:Airy finesse of a Fabry-Perot interferometer.png|thumb| right|350px|alt=Caption|エアリーフィネス {{Math|1=ℱ<sub>Airy</sub>}} の物理的意味<ref name="IsmailPollnau2016"/>。ファブリ・ペロー長（もしくは入射角）を掃引する際、個々の周波数の信号ごとにエアリー分布（各色付き線）が生じる。実験で観測されるのは個々のエアリー分布の総和（黒破線）である。{{Mvar|m}} を整数とするとき、もし一連の周波数 {{Math|1=''&nu;''<sub>''m''</sub> = ''&nu;''<sub>''q''</sub> + ''m''&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} の信号が入射するとき、隣接する周波数のエアリー分布同士は線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} だけ離れていれば分解能についてのテイラーの基準が成り立つ。分解可能な信号の最大数が {{Math|1=ℱ<sub>Airy</sub>}} である。この図に示す例では {{Math|1=ℱ<sub>Airy</sub> = 6}} という整数値になるよう反射率を {{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub> = 0.59928}} としてあるため、{{Math|1=''m'' = ℱ<sub>Airy</sub>}} に対応する周波数 {{Math|1=''&nu;''<sub>''q''</sub> + ℱ<sub>Airy</sub>&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} {{Math|1= =''&nu;''<sub>''q''</sub> + &Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}} の信号は {{Math|''&nu;''<sub>''q''</sub>}} の信号と一致する。この例では、最大数である6つの信号がテイラーの基準に鑑みて分解可能であることを示している。]]
[[File:Frequency dependent mirror reflectivity in a Fabry-Perot.png|thumb|right|350px|alt=Caption|周波数に依存する反射率（上図）を持つ鏡を用いたファブリ・ペロー共振器の例。下図にはモード指数 {{math|1=''q'' = 2000, 2001, 2002}} の歪んだモードプロファイル {{Math|''&gamma;''&prime;<sub>''q'', trans</sub>}} と、六百万個のモードプロファイルを足し合わせたもの（ピンク色、数ヶ所の周波数に限り点で示す）、およびエアリー分布 {{Math|''A''&prime;}} を示す<ref name="IsmailPollnau2016"/>。縦破線は反射率（黒）および個々のモード（色付き）の最大値の場所を示す。]]

ファブリ・ペロー共振器を掃引干渉計として用いる場合、つまり共振器の長さ（もしくは入射角）を掃引しつつ用いるとき、ある自由スペクトル領域内のいくつかのピークを光学上見わけることができる。複数の周波数に対応するそれぞれのエアリー分布 {{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>(''&nu;'')}} を分解する必要がある。したがって、この場合はエアリー分布が構成関数となり、観測されるのはいくつものエアリー分布の総和となる。この状況を適切に定量するために用いられるべきパラメータはエアリー線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} とエアリーフィネス {{Math|1=ℱ<sub>Airy</sub>}} である。エアリー分布 {{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>(''&nu;'')}} の半値全幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} は以下のように計算される<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> \Delta \nu_\text{Airy} = \Delta \nu_\text{FSR} \frac{2}{\pi} \left( \frac{1 - \sqrt{R_1 R_2}}{2 \sqrt[4]{R_1 R_2}} \right) </math>
エアリー線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} は、線幅とフィネスに関する上図においては緑線で表わされている。

{{Math|1=&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub> = &Delta;''&nu;''<sub>FSR</sub>}} のとき（エアリー分布 {{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>}} の図における赤実線）よりも反射率 {{Math|1=''R''<sub>1</sub>''R''<sub>2</sub>}} が低い場合、エアリー分布のピークに半値全幅を定義できなくなる。限界点は次が成り立つときである。
:<math> \Delta \nu_{Airy} = \Delta \nu_{FSR} \Rightarrow \frac{1 - \sqrt{R_1 R_2}}{2 \sqrt[4]{R_1 R_2}} = 1 \Rightarrow R_1 R_2 \approx 0.02944</math>
二つの鏡の反射率が等しい場合、これは {{Math|1=''R''<sub>1</sub> = ''R''<sub>2</sub> ≈ 17.2%}} のときに相当する（エアリー分布 {{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>}} の図における赤実線）。

ファブリ・ペロー共振器のエアリー分布のフィネスは線幅とフィネスに関する上図においては右のグラフに緑線で、青線のローレンツィアンフィネス {{Math|1=ℱ<sub>c</sub>}} と共に表わされている。これは次のように定義される<ref name="IsmailPollnau2016"/>。
:<math> \mathcal{F}_{Airy} = \frac{\Delta \nu_{FSR}}{\Delta \nu_{Airy}} = \frac{\pi}{2} \left[ \arcsin \left( \frac{1 - \sqrt{R_1 R_2}}{2 \sqrt[4]{R_1 R_2}} \right) \right]^{-1} </math>
ファブリ・ペロー共振器の長さ（もしくは入射角）を掃引する際、エアリーフィネスは自由スペクトル領域内に個々の周波数 {{Math|''&nu;''<sub>''m''</sub>}} に対応するエアリー分布が、隣同士の半値全幅が重ならず、分光学上曖昧さなく区別できるようにいくつ入れるかの最大数を表わす（エアリーフィネスの意味に関する右図を参照）。この定義は分光器の分解能に関するテイラーの基準と整合する。半値全幅は <math> \Delta \nu_{Airy} = \Delta \nu_{FSR} </math> において定義できなくなるので、エアリーフィネスは <math> \mathcal{F}_{Airy} = 1 </math> までしか定義できない（上図参照）。

{{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>}} からエアリー線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>Airy</sub>}} を導く際、{{Math|1=sin(''φ'') ≈ ''φ''}} とする不必要な近似がよく用いられる。先述の厳密解とは異なり、この近似式は以下のようになる。
:<math> \Delta \nu_{Airy} \approx \Delta \nu_{FSR} \frac{1}{\pi} \frac{1 - \sqrt {R_1 R_2}}{\sqrt[4]{R_1 R_2}} \Rightarrow \mathcal{F}_{Airy} = \frac{\Delta \nu_{FSR}}{\Delta \nu_{Airy}} \approx \pi \frac{\sqrt[4]{R_1 R_2}}{1 - \sqrt {R_1 R_2}}. </math>
上図では赤線で表わしたこの近似式は、低反射率領域において正しい曲線と解離し、 <math> \Delta \nu_{Airy} > \Delta \nu_{FSR} </math> においても破綻しない。この近似はエアリーフィネスを計算する場合にも用いられることが多い。

=== 周波数依存反射率 ===
より一般のファブリ・ペロー共振器の場合、鏡の反射率が全ての周波数で同じとは見做せないこともあるが、ここまでの方程式は減衰時定数 {{math|''&tau;''<sub>c</sub>(''&nu;'')}} と線幅 {{Math|&Delta;''&nu;''<sub>c</sub>(''&nu;'')}} が周波数の局所関数となる以外は成り立つ。この場合においてもエアリー分布は全てのモードプロファイルの総和となるが、各モードプロファイルは強く歪曲される<ref name="IsmailPollnau2016"/>。 エアリー分布 {{Math|''A''&prime;<sub>trans</sub>}} と幾つかの構成モードプロファイル {{Math|''&gamma;''&prime;<sub>''q'', trans</sub>}} <math> \gamma_{q,trans}^{\prime}(\nu) </math> の例を右図に示す。

=== 波長領域におけるファブリ・ペロー共振器の記述 ===
[[ファイル:Etalon-1.svg|frame|ファブリ・ペローのエタロン。エタロンに入射する光は多重内部反射を受け、反射および透過する。]]

エタロンの透過率の波長依存性は、2つの反射面の間で多重に反射された光同士の[[干渉 (物理学)|干渉]]により引き起こされる。これらの光の位相が合えば、透過光に強め合う干渉が起こりエタロンの高透過率ピークが生じる。透過光の[[位相]]が逆位相となれば、弱め合う干渉が起こり透過率の谷が生じる。多重反射光の位相が合うかどうかは光の（真空中での）波長 ({{Mvar|&lambda;}}) エタロンを通過する光の[[角度]] ({{Mvar|θ}}) エタロンの厚さ ({{Mvar|ℓ}}) そして反射面の間の材質の[[屈折率]] ({{Mvar|n}}) によって決まる。

隣りあう透過光（たとえば図のT2 - T1）の間の位相差 {{Mvar|&delta;}} は下式で与えられる<ref name="Lipson, Optical Physics"><cite class="citation book" id="Lipson.2C_Optical_Physics">Lipson, S.G.; Lipson, H.; Tannhauser, D.S. (1995). </cite></ref>。
: <math>\delta = \left( \frac{2 \pi}{\lambda} \right) 2 n \ell \cos\theta </math>
両方の反射面が同じ[[反射率]] {{Mvar|R}} をもつとすると、エタロンの{{仮リンク|透過係数|en|Transmission_coefficient}}は次のように表わされる。
: <math>T_\mathrm e = \frac{(1 - R)^2}{1 - 2R\cos\delta + R^2} = \frac{1}{1 + F\sin^2\left(\frac{\delta}{2}\right)}</math>
ここで、
: <math> F = \frac{4R}{{(1-R)^2}}</math>
は「フィネス係数」である。
[[ファイル:Etalon-2.png|frame|エタロンの透過係数の波長依存性。高フィネスエタロン（赤線）は低フィネスエタロン（青線）に比べて鋭いピークを示し、最低値も小さい。]]
透過率が最大 ({{Math|1 = ''T''{{Sub|e}} = 1}}) となるのは、各透過光の[[光学的距離|光路長]]差 ({{Math|''2nl''cos''&theta;''}}) が波長の整数倍となるときである。吸収は無いものとすると、エタロンの反射係数 {{Math|''R''{{Sub|e}}}} と透過係数は相補的、つまり {{Math|1 = ''T''{{Sub|e}} + ''R''{{Sub|e}} = 1}} となる。最大反射率は以下のように与えられる。
: <math>R_\max = 1 - \frac{1}{1 + F} = \frac{4R}{(1 + R)^2} </math>
また、反射率が最大となるのは光路長差が波長の[[半整数]]倍になったときである。

隣合う透過率ピーク間の波長差 {{math|Δ''λ''}} は{{仮リンク|自由スペクトル領域|en|Free spectral range}}（{{Lang-en-short|Free Spectral Range, FSR}}）と呼ばれ、以下のように与えられる。
: <math>\Delta\lambda = \frac{ \lambda_0^2}{2n_\mathrm g \ell \cos\theta + \lambda_0 } \approx \frac{ \lambda_0^2}{2n_\mathrm g \ell \cos\theta } </math>
ここで、 {{Math|''λ''{{sub|0}}}} は最近傍の透過率ピークの中心波長であり、 {{Math|''n''{{Sub|g}}}} は[[群速度|群屈折率]]である{{要出典|date=June 2015}}。FSRと半値全幅 {{Mvar|δλ}} との関係はフィネスによって以下のように与えられる。
: <math> \mathcal{F} = \frac{\Delta\lambda}{\delta\lambda} = \frac{\pi}{2 \arcsin\left(\frac{1}{\sqrt F}\right)}</math>
この式は {{Math|''R'' > 0.5}} のとき以下のように[[近似]]することが多い。
: <math> \mathcal{F} \approx \frac{\pi \sqrt{F}}{2} = \frac{\pi R^\frac{1}{2} }{1 - R} </math>
2つの反射面が同一でなかった場合、フィネスは以下のようになる。
: <math> \mathcal{F} \approx \frac{\pi (R_1R_2)^\frac{1}{4} }{1 - (R_1R_2)^\frac{1}{2}} </math>
フィネスが高いエタロンは透過率ピークが鋭く透過率の最低値も低い。入射角が斜めの場合、{{Mvar|R}} は[[フレネルの式]]で与えられ、一般には[[偏光#反射と偏光|s偏光]]と[[偏光#反射と偏光|p偏光]]で異ることからフィネスも入射光の偏光に依存する。

ファブリ・ペロー干渉計とファブリ・ペローのエタロンとの違いは反射面間の距離 {{Mvar|ℓ}} を調整することで透過ピーク周波数を変化させることができることである。透過率は角度依存するため、エタロンをビームに対して回転させることによっても周波数を変えることができる。

ファブリ・ペロー干渉計またはエタロンは[[モデム|光モデム]]、[[分光法|分光器]]、[[レーザー]]、[[天文学]]において応用されている。

似た機器に[[ジル・トルノアのエタロン]]がある。

=== 詳細な解析 ===
{{出典の明記|section=1|date=2011年10月}}
[[Image:Fabry Perot Diagram1.svg|320px|right]]

[[File:FabryPerotTransient 2 VP8.webm|thumb|right|350px|シリコン ({{Math|1=''n'' = 3.4}}) 製ファブリ・ペローエタロンに直角入射する光の過渡解析。上のアニメーションは透過光を最大とするようなエタロン厚に、下の透過光を最小とするようなエタロン厚に対応する。]]

[[File:Fabry Perot RGB falsecolor.webm|thumb|right|350px|空気中の高屈折率誘電体スラブの偽色過渡解析。厚さおよび周波数は赤（上）および青（下）では透過光が最大に、緑（中）では最小になるように選んである。]]

右図に2つの透過光線、{{Math|''T''{{Sub|0}}}} はそのままエタロンを透過する[[光線]]、{{Math|''T''{{Sub|1}}}} は2回反射したのち透過する光線を示す。 光の振幅は1回反射されるごとに {{Math|{{sqrt|''R''}}}} 倍、また1回透過するごとに {{Math|{{sqrt|''R''}}}} 倍に減る。吸収は無いものと仮定すると、[[エネルギー保存の法則|エネルギー保存則]]から ''T''&nbsp;+&nbsp;''R''&nbsp;=&nbsp;1 が要請される。以下では、 {{Mvar|n}} はエタロン内部の屈折率、 {{Math|''n''{{Sub|0}}}} はエタロン外部の屈折率とする。また、 {{Math|''n'' > ''n''{{Sub|0}}}} を満たすものとする。点 a における入射光の振幅を 1 とし、光の[[振幅]]を[[フェーザ表示]]を用いて表わすものとする。すると、点 b における透過光の振幅は以下のようになる。
: <math>t_0 = T\,e^{ik\ell/\cos\theta}</math>
ここで、エタロン内部における[[波数]] <math>k=2\pi n/\lambda</math> を用いた。{{Mvar| λ}}は[[真空]]中での光の波長である。同様に、点cでの透過光の振幅は以下のようになる。
: <math>t'_1 = TR\,e^{3ik\ell/\cos\theta}</math>
2つの光線の方向に[[垂直]]な線上における振幅を足し合わせれば、透過光の全体の振幅が得られる。よって、点bにおける振幅 {{Math|''t''{{Sub|0}}}} と、点cにおける振幅  {{Math|''t''&prime;{{Sub|1}}}} から位相が <math>k_0 \ell_0</math> （<math>k_0=2\pi n_0/\lambda</math> はエタロン外部における波数）だけ遅れた振幅を足し合わせることになる。つまり、次の振幅を {{Math|''t''{{Sub|0}}}} と足しあわせる。
: <math>t_1 = TR\,e^{3ik\ell/\cos\theta-ik_0 \ell_0}</math>
ここで {{Math|''ℓ''{{Sub|0}}}} は次のように得られる。
: <math>\ell_0=2\ell\tan\theta\sin\theta_0\,</math>
この2つの光線の間の位相差は
: <math>\delta={2k\ell\over\cos\theta} - k_0 \ell_0\,</math>
{{Math|''θ''}} と {{Math|''θ''{{Sub|0}}}} 間の関係は[[スネルの法則]]により
: <math>n\sin\theta=n_0\sin\theta_0\,</math>
よって、位相差は次のように書ける。
: <math>\delta=2k\ell\,\cos\theta\,</math>
ここまでにみてきた係数をくりかえし掛け合わせれば、{{Mvar|m}}次の透過光線の振幅は以下のように得られる。
: <math>t_m=TR^m e^{im\delta}\,</math>
よって、透過光全体の振幅はこれらを全て足し上げて得られ、以下のようになる。
: <math>t=\sum_{m=0}^\infty t_m=T\sum_{m=0}^\infty R^m\,e^{im\delta}</math>
[[幾何級数]]を解くと、さらに次のように書き下される。
: <math>t=\frac{T}{1-Re^{i\delta}}</math>.
透過光の強度は {{Mvar|t}} とその[[複素共役]]を掛け合せれば得られる。入射光の振幅を1としたので、透過係数は以下のように得られる。
: <math>T_e=tt^*=\frac{T^2}{1+R^2-2R\cos\delta}</math>
キャビティが非対称の場合、つまり2つの反射面の反射率が異なる場合は次のように一般化される。
: <math>T_e=\frac{T_1T_2}{1+R_1R_2-2\sqrt{R_1R_2}\cos\delta}</math>

=== 透過係数の別の表現 ===
<math>\gamma = \ln\left(\frac{1}{R}\right)</math> と定義すれば、上式は次のように書き換えられる。
: <math>T_e=\frac{T^2}{1-R^2}\left(\frac{\sinh\gamma}{\cosh\gamma-\cos\delta}\right)</math>
第二項は{{仮リンク|巻き込みコーシー分布|label=巻き込みローレンツ分布|en|Wrapped_Cauchy_distribution}}の定数倍であるから、透過係数は[[コーシー分布|ローレンツ関数]]により展開できる。
: <math>T_e=\frac{2\pi\,T^2}{1-R^2}\,\sum_{\ell=-\infty}^\infty L(\delta-2\pi\ell;\gamma)</math>
ここで、ローレンツ関数は以下のように定義される。
: <math>L(x;\gamma) = \frac{\gamma}{\pi(x^2+\gamma^2)}</math>.

== 脚注 ==
{{Reflist}}

== 参照文献 ==
* <cite class="citation book">Hernandez, G. (1986). ''Fabry–Pérot Interferometers''. Cambridge: Cambridge University Press. {{ISBN2| 0-521-32238-3}}.</cite>

== 関連項目 ==
* {{仮リンク|ルンマー・ゲーリケ干渉計|en|Lummer–Gehrcke_interferometer}}
* {{仮リンク|原子線フィルタ|en|Atomic_line_filter}}
* {{仮リンク|ARROW型光導波路|en|ARROW_waveguide}}
* {{仮リンク|分布ブラッグ反射鏡|en|Distributed_Bragg_reflector}}
* {{仮リンク|ファイバブラッググレーティング|en|Fiber_Bragg_grating}}
* {{仮リンク|マイクロキャビティ|en|Optical_microcavity}}
* [[薄膜干渉]]

== 外部リンク ==
* [http://www.infratec.de/fileadmin/media/Sensorik/pdf/Appl_Notes/Application_note_FP_detectors.pdf Compact FP interferometer for gas analysis]
* [http://www.precisionphotonics.com/technology/EtalonAdvanced.pdf Advanced Design of Etalons]- by Precision Photonics Corporation

{{DEFAULTSORT:ふあふりへろおかんしようけい}}
[[Category:干渉計]]
[[Category:物理学のエポニム]]