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[[Image:NewvanHove.png|thumb|right|3次元固体での状態密度g(E) vs エネルギーのシミュレーション図。ファン・ホーベ特異点はdg(E)/dEが発散する点で起こる。]] '''ファン・ホーベ特異点'''とは[[結晶]]の[[状態密度]](DOS)でみられる[[特異点]](滑らかでない点)のこと。 ファン・ホーベ特異点が生じる[[波数ベクトル]]は、[[ブリルアンゾーン]]の[[臨界点]]と呼ばれる。 3次元結晶の場合、ファン・ホーベ特異点はキンクとなり、そこでは状態密度が[[微分可能]]でなくなる。 ファン・ホーベ特異点の最も一般的な応用は、[[光吸収スペクトル]]の解析である。 ファン・ホーベ特異点は、1953年にベルギーの物理学者[[レオン・ファン・ホーベ]]が[[フォノン]]の状態密度について最初に取り扱った。 <ref>L. Van Hove, [https://doi.org/10.1103/PhysRev.89.1189 "The Occurrence of Singularities in the Elastic Frequency Distribution of a Crystal,"] Phys. Rev. 89, 1189–1193 (1953).</ref> == 理論 == ''N''粒子サイトからなる1次元格子を考える。 各粒子サイト間の距離は''a''で、全長はL = ''Na''とする。 ここで、この1次元の箱の中に定在波があると仮定するのではなく、周期的境界条件を用いるのが便利である。 <ref>See equation 2.9 in http://www2.physics.ox.ac.uk/sites/default/files/BandMT_02.pdf From <math>\phi(x+L)=\phi(x)</math> we have <math>kL=2n\pi</math></ref> :<math>k=\frac{2\pi}{\lambda}=n\frac{2\pi}{L}</math> ここで<math>\lambda</math>は波長、''n''は整数である。 正の整数は前進する波、負の整数は後進する波を表す。 この格子中の波動の波長は最短で''2a''であり、このとき最大の波数<math>k_{max}=\pi/a</math>となり、|n|は最大値<math>n_{max}=L/2a</math>となる。 状態密度''g(k)dk''を、波数ベクトルが''k''から''k+dk''である定在波の数として定義する。 <ref>*M. A. Parker(1997-2004)[http://www.ece.rutgers.edu/~maparker/classes/582-Chapters/Ch07-Sol-State-Carriers/Ch07S16DensityStates.pdf "Introduction to Density of States" ''Marcel-Dekker Publishing''] p.7. {{webarchive |url=https://web.archive.org/web/20060908092239/http://www.ece.rutgers.edu/~maparker/classes/582-Chapters/Ch07-Sol-State-Carriers/Ch07S16DensityStates.pdf |date=September 8, 2006 }}</ref> :<math>g(k)dk = dn =\frac{L}{2\pi}\,dk</math> 3次元に拡張すると、[[箱の中の粒子|箱]]の中の状態密度は、 :<math>g(\vec{k})d^3k = d^3n =\frac{L^3}{(2\pi)^3}\,d^3k</math> ここで<math>d^3k</math>は''k''空間での体積要素である。 また電子では2つ[[スピン角運動量|スピン]]の方向を考慮して、因子2を掛ける必要がある。 [[連鎖律]]により、エネルギー空間でのDOSは次のように表せる。 :<math>dE = \frac{\partial E}{\partial k_x}dk_x + \frac{\partial E}{\partial k_y}dk_y + \frac{\partial E}{\partial k_z}dk_z = \vec{\nabla}E \cdot d\vec{k}</math> ここで<math>\vec{\nabla}</math>はk空間での勾配である。 ''k''空間での位置の組(粒子エネルギー''E''に対応)は''k''空間で面を作り、''E''の勾配はこの面の全ての点と直交するベクトルである。 <ref>*{{cite book | first = John | last = Ziman | authorlink = John Ziman | year = 1972 | title = Principles of the Theory of Solids | publisher = Cambridge University Press | id = ISBN B0000EG9UB }}</ref> このエネルギー''E''についての関数である状態密度は、 :<math>g(E)dE = \iint_{\partial E}g(\vec{k})\,d^3k = \frac{L^3}{(2\pi)^3}\iint_{\partial E}dk_x\,dk_y\,dk_z</math> ここで積分は定数''E''の面<math>\partial E</math>にわたり行う。 <math>k'_z\,</math>が面に直交し、''E''の勾配に平行となるような新しい座標系<math>k'_x,k'_y,k'_z\,</math>を選ぶことができる。 この座標系が元の座標系の回転であれば、k'空間の体積要素は、 :<math>dk'_x\,dk'_y\,dk'_z = dk_x\,dk_y\,dk_z</math> ''dE''は次のように書ける。 :<math>dE=|\vec{\nabla}E|\,dk'_z</math> ''g(E)''の式に代入すると、 :<math>g(E)=\frac{L^3}{(2\pi)^3}\iint\frac{dk'_x\,dk'_y}{|\vec{\nabla}E|}</math> ここで<math>dk'_x\,dk'_y</math>項は、定''E''面の面積要素である。 <math>g(E)</math>の式は、[[分散関係]]<math>E(\vec{k})</math>が極値となる<math>k</math>点でDOSの被積分関数が発散することを意味している。 ファン・ホーベ特異点はこれらの<math>k</math>点でのDOS関数で起こる性質である。 詳細な解析<ref>*{{cite book | last=Bassani | first=F. |author2=Pastori Parravicini, G. | title=Electronic States and Optical Transitions in Solids | publisher=Pergamon Press | year=1975 | isbn=0-08-016846-9}} This book contains an extensive discussion of the types of Van Hove singularities in different dimensions and illustrates the concepts with detailed theoretical-versus-experimental comparisons for [[germanium|Ge]] and [[graphite]].</ref>によると、3次元空間ではバンド構造が[[極大]]か、[[極小]]か、または[[鞍点]]かに依存して4種類のファン・ホーベ特異点がある。 3次元ではDOSの微分が発散してもDOS自身は発散しない。 関数g(E)は平方根特異性(図を参照)をもつ傾向にある。 [[自由電子]]の[[フェルミ面]]では、 :<math>E = \hbar^2 k^2/2m</math> :<math>|\vec{\nabla}E| = \hbar^2 k/m = \hbar \sqrt{ \frac{2E}{m}}</math>. 2次元でのDOSは鞍点で対数的に発散し、1次元でのDOSは<math>\vec{\nabla}E</math>がゼロとなるところで無限となる。 == 測定 == 固体の光吸収スペクトルは、[[バンド構造]]から[[フェルミの黄金律]]を用いて計算される。 そこで評価される[[行列要素]]は[[双極子演算子]]<math>\vec{A} \cdot \vec{p}</math>である。 ここで<math>\vec{A}</math>は[[ベクトルポテンシャル]]、<math>\vec{p}</math>は[[運動量演算子]]である。 フェルミの黄金律で現れる状態密度は'''結合状態密度'''(JDOS)で、与えられた光子エネルギーで分離される伝導帯と価電子帯での電子状態の数である。 光吸収は、双極子演算子の行列要素([[振動子強度]])とJDOSの積によるものである。 2次元と1次元でのDOSの発散は数学的に予想されており、容易に観測できる。 [[グラファイト]](擬2次元)や[[Bechgaard塩]](擬1次元)のような異方性固体では、ファン・ホーベ特異点によるスペクトルの異常がみられる。 ファン・ホーベ特異点は擬1次元系である単層カーボンナノチューブ(SWNT)の光強度で重要となる。 [[グラフェン]]のディラック点はファン・ホーベ特異点であり、グラフェンが電気的中性のときの電気抵抗のピークとして観測される。 ねじれたグラフェン層も、層間のカップリングによる状態密度のファン・ホーベ特異点を示す<ref>I. Brihuega et al., Physical Review Letters 109, 196802 (2012).</ref>。 == 参考文献== <references/> {{デフォルトソート:ふあんほへとくいてん}} [[Category:物性物理学]]
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