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{{混同|フックの法則}} {{出典の明記|date=2011年5月}} '''フィックの法則'''(フィックのほうそく、{{Lang-en-short|Fick's laws of diffusion}})とは、物質の[[拡散]]に関する基本[[法則]]である。[[気体]]、[[液体]]、[[固体]]([[金属]])どの拡散にも適用できる。フィックの法則には、第1法則と第2法則がある。 この法則は、[[1855年]]に[[アドルフ・オイゲン・フィック]]によって発表された。フィックは拡散現象を、[[熱伝導]]に関するフーリエ (1822) の理論と同じように考えることができるとしてこの法則を与えた<ref name="koiwanakajima">{{cite|和書 |author=[[小岩昌宏]] |author2=[[中嶋英雄]] |title=材料における拡散 |publisher=内田老鶴圃 |year=2009 |isbn=978-4-7536-5637-0 |page=1}}</ref>。 == フィックの第1法則 == 第1法則は、[[定常状態]]拡散、すなわち、拡散による[[濃度]]が[[時間]]に関して変わらない時に使われる、「拡散流束は濃度勾配に比例する」という法則である。工業的に定常状態拡散は[[水素]]ガスの純化に見られる。数式で表すと、 :<math>\boldsymbol{J} = -D\operatorname{grad}c</math> あるいは1次元なら、 :<math>J = -D\frac{\mathrm{d}c}{\mathrm{d}x}</math> となる。ここで、記号の意味は以下である: * ''J'' は'''拡散束'''または'''[[流束]]''' ({{lang|en|flux}})といい、単位時間当たりに単位面積を通過する、ある性質の量と定義される。質量が通過する場合には次元は[ML<sup>-2</sup>T<sup>-1</sup>]で与えられる。 * ''D'' は'''拡散係数''' ({{lang|en|diffusion coefficient}})といい、次元は[L<sup>2</sup>T<sup>-1</sup>] * ''c'' は[[濃度]]で、次元は[ML<sup>-3</sup>] * ''x'' は位置で、次元は[L] === 導出 === [[ファイル:Fick's first law.png|thumb|250px|<br />任意の位置''x'' における拡散流束''J'' は濃度勾配に比例する]] 1次元で説明する。区間<math> [x,x+a]</math> の間にある粒子数を<math> N(x)</math> とおく。粒子はそれぞれ独立に運動していて、時間<math> \tau </math> 後に左か右に確率<math> 1/2</math> で距離<math> a</math> 移動すると仮定する。区間<math> [x,x+a]</math> を右に通過する粒子数は :<math> -\frac{1}{2} ( N(x+a) - N(x) ) </math> となるから、流束<math> J</math> は微小な<math> a, \tau </math> に対して :<math> J= -\frac{1}{2\tau} ( N(x+a) - N(x) ) = -\frac{1}{2\tau} \frac{\mathrm{d}N}{\mathrm{d}x} a </math> となる。濃度<math> c = N/a </math> で書き換えると :<math>J = -D \frac{\mathrm{d}c}{\mathrm{d}x}</math> ここで、 :<math> D = \frac{a^2}{2\tau}</math> である。<math> D </math> を定数としていることは、平均自由時間<math> \tau </math> よりも長時間の時間スケールで運動を見ているということ(粗視化)を意味する。 == フィックの第2法則 == 第2法則は、[[非定常状態]]拡散、すなわち、拡散における濃度が時間に関して変わる時に使われる。実際の拡散の状態は、非定常状態がほとんどである。拡散係数''D'' が定数のとき、濃度''c'' の時間変化は次の[[拡散方程式]]で表される: :<math>\frac{\partial c}{\partial t} = -\operatorname{div}\boldsymbol{J} = D\nabla^2 c</math> これは広義の[[連続の式]]と等価である。あるいは1次元なら、 :<math>\frac{\partial c}{\partial t} = D\frac{\partial^2 c}{\partial x^2}</math> 記号は第1法則と同様である。 === 導出 === [[ファイル:Fick's second law.png|thumb|250px|'''フィックの第2法則導出模式図'''<br />位置と濃度の時間変化が、それぞれd''x'' とd''c'' である]] 第2法則は、第1法則から導く。第1法則で導いたのと同じように、単位面積の断面を持つパイプ状の物体を想定する。''x'' と''x'' + d''x'' にはさまれた体積d''x'' の部分の濃度を''c''とすると、その中の溶質の量は''c''d''x''と書ける。この時間的変化 ∂''c''/∂''t'' d''x''を考える。<!--任意の位置''x'' での濃度を''c'' 、''x'' + d''x'' での濃度を''c'' + d''c'' とする。また、d''x'' 部分の濃度の時間変化は、第1法則と同様に次のようにする。 :<math>\frac{\partial c}{\partial t} > 0 </math>--> この時、''x'' + d''x'' の境界を通して注目している領域に流れ込む溶質の量は''J''(''x'' + d''x'')、この領域から''x'' の境界を通して流れ出る溶質の量は''J''(''x'') である。これより、<!--d''x'' 部分の濃度の時間変化は負の方向に拡散するので、これを考慮して以下の式になる。--> :<math>\frac{\partial c}{\partial t} \mathrm{d}x = J(x) - J(x + \mathrm{d}x)</math> ・・・(1) ここで第1法則より :<math>J(x) = -D\left( \frac{\partial c(x,t)}{\partial x} \right),</math> :<math>J(x+\mathrm{d}x) = J(x)+\frac{\partial J(x)}{\partial x} \mathrm{d}x = -D\left( \frac{\partial c(x,t)}{\partial x} \right)_x - \frac{\partial}{\partial x}\left( D\frac{\partial c(x,t)}{\partial x} \right)_x \mathrm{d}x</math> であるから、これらを式(1)に代入してフィックの第2法則が導き出される。 * ''D'' が定数の場合は、 ::<math>\frac{\partial c}{\partial t} = D\frac{\partial^2 c}{\partial x^2}</math> : となり、比較的容易に解くことができる。初期条件および境界条件によって、いくつかの解がある。 * ''D'' が定数でない場合は、 ::<math>\frac{\partial c}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial x}\left( D\frac{\partial c}{\partial x} \right) = \frac{\partial D}{\partial x}\frac{\partial c}{\partial x} + D\frac{\partial^2 c}{\partial x^2}</math> : となる。''D'' の関数形にもよるが、解くのは困難になる。 == 一般の場合 == 上記では拡散係数''D'' は[[等方的]]な定数であるとしたが、より一般には、方向に依存し、濃度勾配と流束が平行であるとは限らない。この場合、''D'' は2階の[[テンソル量]]となる<ref name="koiwanakajima"/>。 == 拡散係数 == {| class="sortable wikitable" |+ 具体的な物質における拡散係数の例<ref>{{cite|和書 |author=谷口尚司 |author2=八木順一郎 |title=材料工学のための移動現象論 |publisher=東北大学出版会 |year=2001 |isbn=4-925085-44-1 |page=9}}</ref><ref name=hayashi>{{cite|和書 |author=林茂雄 |title=移動現象論入門 |publisher=東洋書店 |year=2007 |pages=262, 280 |isbn=978-4-88595-691-1}}</ref> ! 物質1 !! 物質2 !! 拡散係数(m<sup>2</sup>/s)!!備考 |- | O<sub>2</sub> || N<sub>2</sub> ||1.74{{e-|5}}||0{{℃}} |- | CO<sub>2</sub>||水 ||1.70{{e-|9}}||20{{℃}} |- | [[水銀]] || [[カドミウム|Cd]] ||1.53{{e-|9}}||20{{℃}} |- | [[エタノール]] || 水 ||1.13{{e-|9}}||27{{℃}}、1気圧、''x'' <sub>C<sub>2</sub>H<sub>6</sub>O</sub> = 0.05 |- | エタノール || 水 ||0.90{{e-|9}}|| 27{{℃}}、1気圧、''x'' <sub>C<sub>2</sub>H<sub>6</sub>O</sub> = 0.5 |- | エタノール || 水 ||2.20{{e-|9}}|| 27{{℃}}、1気圧、''x'' <sub>C<sub>2</sub>H<sub>6</sub>O</sub> = 0.95 |- | [[ショ糖]] ||水||5.22{{e-|10}}||27{{℃}}、1気圧 |- | 金属 || || 10<sup>-12</sup> || 融点直下、<ref name=komai>{{cite|editor=駒井謙治郎|title=機械材料学|publisher=日本材料学会|edition=9|year=1999|和書|page=51}}</ref> |} === アインシュタイン・ストークスの式 === ガス分子などの[[分子拡散]]の場合、拡散現象は[[ブラウン運動]]による説明ができ、拡散係数''D'' は次式で与えられる<ref>{{cite|和書 |editor=日本エアロゾル学会 |author=高橋幹二 |title=エアロゾル学の基礎 |publisher=森北出版 |year=2003 |isbn=4-627-67251-9 |page=46}}</ref>。この式をアインシュタイン・ストークスの式([[:en:Stokes-Einstein equation|Stokes-Einstein equation]])という<ref name=hayashi/>。 : <math>D = kTB = \frac{kT}{6\pi\eta a}</math> * ''k'' :[[ボルツマン定数]] * ''T'' :温度 * ''B'' :[[移動度]] * η:粘性率 * ''a'' :分子半径 === 金属 === 金属などでは、拡散係数''D'' の温度依存性は次のように表される<ref name=komai/>。 :<math>D=D_0\exp\left(-\frac{Q}{RT}\right)</math> ここで''D''<sub>0</sub> は振動数因子、''Q'' は拡散の[[活性化エネルギー]]と呼ばれる。''R'' は[[気体定数]]である。 == 無次元数 == [[流体力学]]でよく用いられる[[無次元量]]のなかで、物質の拡散に関係するものには以下がある: * [[シュミット数]] - [[動粘性係数]]と拡散係数''D'' の比 * [[ルイス数]] - [[熱拡散率]]と拡散係数''D'' の比 * [[ペクレ数]] - 本来は[[慣性]]と[[熱拡散率]]の比だが、アナロジーとして[[慣性]]と拡散係数''D'' の比をとることがある。 == 参考文献 == {{Reflist}} == 関連項目 == * [[物理法則一覧]] * [[俣野界面]] * [[カーケンドール効果]] * [[ダーケンの理論]] * [[移動現象論]] ** [[熱伝導]] - 熱の拡散現象であり、濃度を温度と読み替えればフィックの法則と同様の[[フーリエの法則]]が成り立つ。 ** [[電気伝導]] {{Chem-stub}} {{Physics-stub}} {{麻酔}} {{デフォルトソート:ふいつくのほうそく}} [[Category:自然科学の法則]] [[Category:物理化学]] [[Category:拡散]] [[de:Diffusion#Erstes Fick’sches Gesetz]] [[uk:Коефіцієнт дифузії]]
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