フォルマントのソースを表示

[[ファイル:Spectrogram -iua-.png|thumb|[[スペクトログラム]]：アメリカ英語の[i, u, ɑ]のF1とF2]]
'''フォルマント'''（{{Lang-en-short|formant}}）は[[音声]]の[[周波数スペクトル]]上で周囲よりも強度が大きい周波数帯域である<ref name=":1">{{Ilq|Of a complex sound, a range of frequencies in which there is an absolute or relative maximum in the sound spectrum.}}以下より引用。Acoustical Society of America. [https://asastandards.org/Terms/formant/ formant].</ref>。'''''ホルマント'''とも。''

== 概要 ==
[[声]]は[[声#準定常性|準定常的]]であり、これを一定区間で区切り周波数領域へ変換する（=[[時間周波数解析]]する）と周波数帯ごとに強弱がみられる。すなわちスペクトル包絡が山谷をもっており、この山に当たる周波数帯をフォルマントという（⇒ [[#定義]]）。これらは周波数スペクトルの可視化や包絡の数値化によって計測でき（⇒ [[#計測]]）、音によっては複数のフォルマントが観察される（⇒ [[#分類]]）。

[[ヒト]]の[[声]]のフォルマントは主に[[声#人体|発音過程]]で生まれ、ピーク周波数や強度は[[調音]]や[[声道]]形状によって異なる（⇒ [[#発音との関係]]）。ヒトはフォルマントの違いを[[言語音]]識別に利用しており（⇒ [[#言語音識別との関係]]）、フォルマントを再現した[[音]]を作れば（原理上は）言語音が人工的に生成できる。フォルマントを模倣するフィルタを用いた[[音声合成]]は[[フォルマント音声合成]]と呼ばれる<ref>{{Ilq|A ''formant synthesizer'' is a source-filter model in which the source models the glottal pulse train and the filter models the formant resonances of the vocal tract.}}以下より引用。Smith. (2010). ''[https://ccrma.stanford.edu/~jos/pasp/Formant_Synthesis_Models.html Formant Synthesis Models]''. Physical Audio Signal Processing. ISBN 978-0-9745607-2-4</ref>。

== 定義 ==
'''フォルマント'''（{{Lang-en-short|formant}}）は[[音声]]の[[周波数スペクトル]]上で周囲よりも強度が大きい周波数帯域である<ref name=":1" />。

フォルマントは元来[[スペクトログラム]]上の黒い帯として（大雑把に）定義された。そのため、数学的・[[音声学]]的に厳密なフォルマントの定義は存在しない。

== 計測 ==
[[ファイル:Spectrogram_-minato-.png|右|サムネイル|女性が「みなと」と発声したときのスペクトログラム]]
以下のいずれかの方法によって計測・観察される。
* [[サウンドスペクトログラム]]の目視
* [[ケプストラム]]分析
* [[線形予測符号|線形予測符号 (LPC)]]

=== 定量化 ===
フォルマントを定量的に記述するパラメータが様々提案されている。一例として以下が挙げられる<ref name=":0">{{Ilq|the formant frequencies could continue to be written as F<sub>1</sub>, …, F<sub>m</sub>}}以下より引用。Ingo, et al. (2015). ''[[doi:10.1121/1.4919349|Toward a consensus on symbolic notation of harmonics, resonances, and formants in vocalization]]''.</ref>：

* ピーク周波数 <math>F_n</math>
* ピーク強度 <math>L_{F_n}</math>
* バンド幅 <math>B_{F_n}</math>
ピーク周波数は{{読み仮名|'''フォルマント周波数'''|フォルマントしゅうはすう|{{lang-en-short|formant frequency}}}}とも呼ばれる<ref>{{Ilq|フォルマント周波数とは声道スペクトルのピークである声道の共鳴周波数のこと}}{{Harv|廣谷|2014|p=538}}</ref>。

== 分類 ==
フォルマントは複数個存在する場合もあり、[[周波数]]の低い順に'''第一フォルマント'''、'''第二フォルマント'''、第三... と呼ばれる。

== 発音との関係 ==
{{See also|声#人体|調音}}
[[ヒト]]の[[声]]のフォルマントは[[声#人体|発音過程]]における[[調音]]で主に付与される。すなわち比較的平坦な周波数スペクトルをもつ声帯音源が、[[口腔]]や[[鼻腔]]等の声道における共鳴により特定周波数の強調を受けてフォルマントをもつ。

[[声道]]の形状はフォルマント周波数 <math>F_n</math> と密接に関係しており<ref>{{Ilq|フォルマント周波数は声道形状と密接な関係があります。}}{{Harv|廣谷|2014|p=538}}</ref>、声道の個体差や性差がフォルマントの違いを生む。

{{要出典範囲|親子や兄弟で声が似ているのは、[[骨格]]などの形態が近いことも理由の一と言われるが、骨格と大きく相関するフォルマントの高低は音声の個性にはあまり影響しない。音色に影響するのはむしろ声帯の微妙な鳴らし方の違い（[[声種]]）で、これは習慣的なものである|date=2023年4月}}。{{要出典範囲|似た声になるのは、聴き慣れた家族の声を無意識にまねることのほかに、使う発声が親から遺伝していることも理由である（使う発声とはあくまで「発声練習などを何もしていない状態」でのものであり、練習次第で遺伝した発声を変えていくこともできる）|date=2023年4月}}。

なお、[[気流 (音声学)|気流]]を阻害して音を出すタイプの調声（=[[阻害音]]）では明確なフォルマントが観察されない。

=== 口の開き ===
第一フォルマントのピーク周波数 <math>F_1</math> は口の開きの大きさ（≒ 舌の高さ）に比例する<ref>{{Ilq|第一フォルマントは母音の舌の高さを示し ... 「舌の高さ」という表現 ... 舌と上顎との距離についての表現 ... 狭と広（上下の垂直関係）}}pp.29-30 より引用。{{Cite journal2 |last=緒方 |first=哲也 |year=2021 |title=日本語を母語とする学習者に対する中国語母音「e」の指導法について |url=https://www.tiu.ac.jp/about/research_promotion/ronsou/pdf/6_humanities_2.pdf |journal=東京国際大学論叢　人文・社会学研究 |issue=6}}</ref><ref>{{Ilq|舌の高さと F1 ... の間に ... 相関があります。}}{{Harv|廣谷|2014|p=539}}</ref>。母音、子音両方に言えることであるが、狭めは <math>F_1</math> を低くする効果がある。

[[日本語]]発音において、[[狭母音]]である {{ipa|i}} と {{ipa|u}} が近い値の低い <math>F_1</math> を持ち、[[中央母音]]である {{ipa|e}} と {{ipa|o}} がおおよそ同じ中位の <math>F_1</math> を持ち、[[広母音]]である {{ipa|a}} が高い <math>F_1</math> をもつ事実はこの特性と合致している。

=== 舌の前後 ===
第二フォルマントのピーク周波数 <math>F_2</math> は舌の前後に影響される<ref>{{Ilq|舌の前後方向の位置と F2 の間に ... 相関があります。}}{{Harv|廣谷|2014|p=539}}</ref>。前母音のほうが後母音よりもF2が高い。これは、F2が舌の前の空間で共鳴を起こすためである。また後母音は、唇の丸めが加わることが多く、これによって共鳴空間がさらに長くなり、F2は下がる。

[[日本語]]発音において、[[前舌母音]]である {{ipa|i}} と {{ipa|e}} が近い値の高い <math>F_2</math> を持ち、[[中舌母音]]・[[後舌母音]]である {{ipa|a}}, {{ipa|u}}, {{ipa|o}} がそれより低い <math>F_2</math> をもつ事実はこの特性と合致している。

== 言語音識別との関係 ==
[[ヒト]]は様々な[[言語音]]を識別できる。フォルマントのこの識別に寄与する。

原則として、[[単音]]が同じであれば各フォルマント周波数は{{独自研究範囲|近い値になる|date=2025年2月}}。

=== 母音 ===
母音の識別にはフォルマント周波数が重要である<ref>{{Ilq|F1 と F2 は母音を特徴づける重要なパラメータです。}}{{Harv|廣谷|2014|p=538}}</ref>。音声からフォルマントを除去すると[[母音]]とは認識できず、逆にフォルマントを模したピークを追加すると母音混じりの音声が得られる。母音の弁別はF1（約500～1000Hz）とF2（約1500～3000Hz）によって大体行うことができる<ref group="注">第一、第二といった数字の当て方は研究者や時代によって異なる</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 参考文献 ==

* {{Cite journal2 |last=廣谷 |first=定男 |year=2014 |title=母音のフォルマント分析 : 過程と仮定を知る(やさしい解説) |url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/70/10/70_KJ00009557626/_article/-char/ja |journal=日本音響学会誌 |volume=70 |issue=10 |pages=538-544}}

== 関連項目 ==
* [[周波数スペクトル]]
* [[音]]
* [[音素]]
* [[音紋]]
* [[人工声帯]]
* [[音声合成]]
* [[音声認識]]
* [[音声分析]]
* [[線形予測符号]]

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[[Category:音声学]]