フッ化硫黄のソースを表示

'''フッ化硫黄'''（フッかいおう、sulfur fluoride）は[[フッ素]]と[[硫黄]]とから構成される[[無機化合物]]で、[[異性体]]を含めて以下の6種類が知られている。十フッ化二硫黄のみが常温常圧で[[液体]]であり、他は[[気体]]の化合物である。

== 二フッ化二硫黄 ==
{{right|
[[ファイル:Disulfur-difluoride-3D-balls.png|thumb|F−S−S−F の分子模型]]
[[ファイル:Thiothionylfluoride-3D-balls.png|thumb|S&#0061;SF<sub>2</sub> の分子模型]]
}}
'''二フッ化二硫黄'''（にフッかにいおう、disulfur difluoride）には F−S−S−F と S=SF<sub>2</sub> の二種類の異性体が知られている。'''一フッ化硫黄'''（いちフッかいおう）と呼ぶことがある。

F−S−S−F の融点は−133{{℃}}、沸点は15{{℃}}である。線形構造の分子で S−S 間距離が189{{nbsp}}[[ピコメートル|pm]]、S−F 間が164{{nbsp}}pm、&ang;SSF = 108{{°}} の ''C''<sub>2</sub> 対称形である<ref name="AdvInorgChem">Cotton, F. A.; Wilkinson, G.; Murillo, C. A.; Bochmann, M. (1999). ''Advanced Inorganic Chemistry'' (6th ed), pp. 514–516. Wiley: New York. ISBN 0-471-19957-5</ref>。他のハロゲン類縁体と対照的に、こちらの異性体は不安定である。

F−S−S−F は真空中で[[フッ化銀]] AgF と過剰の硫黄を加熱して反応させると生成するが<ref name="世界大百科事典">漆山 秋雄、「フッ化硫黄」、『[[世界大百科事典]]』、CD-ROM版、平凡社、1998年。</ref>、速やかに S=SF<sub>2</sub> に異性化する<ref name="AdvInorgChem" />。

S=SF<sub>2</sub> は融点−165{{℃}}、沸点−10.6{{℃}}の三角錐形構造で、S−S 間距離が186{{nbsp}}pm、S−F 間が160{{nbsp}}pm、&ang;SSF = 108{{°}} の ''C''<sub>s</sub> 対称形である<ref name="AdvInorgChem" />。こちらの異性体は比較的安定で、250{{℃}}まで安定だが、それ以上の温度では[[不均化]]する<ref name="岩波理化学辞典">[[長倉三郎]]ら（編）、「フッ化硫黄」、『岩波理化学辞典』、第5版 CD-ROM版、岩波書店、1998年。</ref>。
:<chem> S=SF2 -> 3/16S8 + 1/2SF4</chem>
また、[[フッ化水素]] HF や[[三フッ化ホウ素]] BF<sub>3</sub> のような酸触媒で速やかに分解する<ref name="AdvInorgChem" />。 

どちらも[[水]]と反応し[[硫黄]]、[[フッ化水素]]と[[ポリチオン酸]]を発生する<ref name="岩波理化学辞典" />。

== 二フッ化硫黄 ==
'''二フッ化硫黄'''（にフッかいおう、sulfur difluoride）は化学式 SF<sub>2</sub> であるが、生成させるのが困難で気相中で観測されているのみである。S−F間距離が1.59{{nbsp}}pm、&ang;98{{°}} の ''C''<sub>2v</sub> 対称形である<ref name="AdvInorgChem" />。

== 四フッ化硫黄 ==
[[ファイル:Sulfur-tetrafluoride-3D-balls.png|thumb|SF<sub>4</sub> の分子模型]]
'''四フッ化硫黄'''（しフッかいおう、sulfur tetrafluoride）は化学式 SF<sub>4</sub> の無色気体の化合物である。融点は−121{{℃}}、沸点は−38.6{{℃}}であり、ひずんだ4角錐形構造で S−F 間距離は165{{nbsp}}pmと154{{nbsp}}pmの ''C''<sub>2v</sub> 対称形である<ref name="AdvInorgChem" />。

四フッ化硫黄は[[二塩化硫黄]] SCl<sub>2</sub> を[[フッ化水素|HF]]/[[ピリジン]] (70:30) と反応させるか<ref name="AdvInorgChem" />、[[アセトニトリル]]中で SCl<sub>2</sub> と[[フッ化ナトリウム]] NaF を反応させると得られる<ref name="世界大百科事典" />。

反応性に富み、フッ素化剤として用いられる。すなわち他の置換基の存在下でも C=O 基、P=O 基のフッ素化が可能であり<ref name="AdvInorgChem" />、C=O 基、P=O 基、COOH基、および PO(O)H 基をそれぞれ CF<sub>2</sub>、PF<sub>2</sub>、CF<sub>3</sub>、PF<sub>3</sub> に変換する<ref name="世界大百科事典" />。

そして水とは瞬間的に反応して分解し、[[二酸化硫黄]] SO<sub>2</sub> とフッ化水素 HF を与える<ref name="世界大百科事典" />。

== 六フッ化硫黄 ==
{{main|六フッ化硫黄}}
'''六フッ化硫黄'''（ろくフッかいおう、sulfur hexafluoride）は化学式 SF<sub>6</sub> の無色無臭の気体で、熱的・化学的に安定な化合物である。

== 十フッ化二硫黄 ==
[[ファイル:Disulfur-decafluoride-3D-balls.png|thumb|S<sub>2</sub>F<sub>10</sub> の分子模型]]
'''十フッ化二硫黄'''（じゅうフッかにいおう、disulfur decafluoride）は化学式 S<sub>2</sub>F<sub>10</sub> の無色揮発性の液体である。'''五フッ化硫黄'''（ごフッかいおう）とも呼ばれる。きわめて毒性が強い<ref name="岩波理化学辞典" />。

融点は-52.7{{℃}}、沸点は30{{℃}}であり、S原子を中心として8面体形が連結した構造で、S−S 間距離が221{{nbsp}}pm、S−F 間が156{{nbsp}}pmの ''D''<sub>4d</sub> 対称形である<ref name="AdvInorgChem" />。

次式に示す[[光反応|光化学反応]]によって得られる<ref name="世界大百科事典" />。
: <chem>2SF5Cl\ + H2\ \rightleftarrows\ S2F10\ + 2HCl</chem>

水またはアルカリ性では常温下では[[加水分解]]しない。[[アセトン]]溶液中で[[ヨウ化カリウム]] KI を[[ヨウ素]] I<sub>2</sub> に[[酸化]]する。また特色ある酸化的フッ素化剤として利用され、その反応は S−S 間のラジカル解裂を開始反応とすると考えられている<ref name="AdvInorgChem" />。
: <chem>S2F10 -> 2SF5^{\cdot}</chem>
: <chem>2SF5^{\cdot} -> SF4\ + F^{\cdot}</chem>

==出典==
<references />

==関連項目==
{{commonscat|Sulfur fluorides}}
*[[二塩化硫黄]]
*[[二塩化二硫黄]]

{{硫黄の化合物}}
{{DEFAULTSORT:ふつかいおう}}
[[Category:無機化合物]]
[[Category:硫黄の化合物]]
[[Category:フッ化物]]
[[Category:フッ素の化合物]]