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[[Image:KochFlake.svg|thumb|180px|[[コッホ曲線#コッホ雪片|コッホ雪片]]の最初の繰り返し4回]] '''フラクタル次元'''(フラクタルじげん、{{lang-en-short|'''fractal dimension'''}}、''D'')とは、[[フラクタル|フラクタル幾何学]]において、より細かなスケールへと拡大するにつれあるフラクタルがどれだけ完全に空間を満たしているように見えるかを示す統計的な量である。 フラクタル次元にはさまざまな定義がある。最も重要な理論的フラクタル次元は[[#レニー次元|レニー次元]]、[[ハウスドルフ次元]]、{{仮リンク|パッキング次元|en|packing dimension}}の3つである。実用上では{{仮リンク|ボックス次元|en|box-counting dimension}}と{{仮リンク|相関次元|en|correlation dimension}}の2つが実装が容易なこともあり広く使われている。古典的なフラクタルのいくつかではこれらの次元は全て一致するが、一般にはこれらは等価なものではない。 例えば、[[コッホ曲線#コッホ雪片|コッホ雪片]]の位相次元は1であるが、これは決して曲線ではない――コッホ雪片上の任意の2点の間の[[弧長]]は無限大である。コッホ雪片の小片は線のようではないが、かといって平面やその他の何かの一部のようでもない。1次元の物体であると考えるには大きすぎるが、2次元の物体であると考えるには薄すぎるとも言え、ではその次元はある意味1と2の間の数値として表されるのではないかという考察に導かれる。これがフラクタル次元の概念を想像してみる簡単な方法の1つである。 == 具体的な定義 == [[File:Fractaldimensionexample.PNG|thumb|right|300px|'''図1''' 単位図形による次元の定義<ref name=ed>[http://www.vanderbilt.edu/AnS/psychology/cogsci/chaos/workshop/Fractals.html Fractals & the Fractal Dimension<!-- Bot generated title -->]</ref>]] フラクタル構造を生成するアプローチは主に2つある。1つは単位となる図形から成長させる方法(図1)、もう1つは[[シェルピンスキーのギャスケット|シェルピンスキーの三角形]]のようにもととなる構造を続けて分割してゆく方法(図2)である<ref name=Vicsek>{{cite book |author=Vicsek, Tamás |title=Fluctuations and scaling in biology |publisher=Oxford University Press |location=Oxford [Oxfordshire] |year=2001 |isbn=0-19-850790-9 }}</ref>。ここでは第2のアプローチによってフラクタル次元を定義する。 ユークリッド次元 {{mvar|D}} に存在する線形サイズ1の図形があり、そのサイズを各空間方向に {{math|1/''l''}} に縮めると、もとの図形を埋めるには {{math|1=''N'' = ''l{{sup|D}}''}} 個の自己相似図形が必要となる(図1)。しかしながら、 :<math>D = \frac{\log N(l)}{\log l}</math> (ここで[[対数]]の基数は任意)によって定義される次元はまだその位相次元もしくはユークリッド次元と等しい<ref name=ed/>。上記の等式をフラクタル構造に適用することによって、 期待された通り非整数となるフラクタル構造の次元(これは事実上[[ハウスドルフ次元]]である)を得ることができる。 :<math>D = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{\log N(\epsilon)}{\log\frac{1}{\epsilon}}</math> ここで {{math|''N''(''ε'')}} はもとの構造全体を埋めるのに必要とされる線形サイズεの自己相似構造の数である。 例えば、[[シェルピンスキーのギャスケット|シェルピンスキーの三角形]](図2)は ½ に縮めると3つの自己相似構造が必要になるので、そのフラクタル次元はこのように求められる: :<math> D = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{\log N(\epsilon)}{\log\left(\frac{1}{\epsilon}\right)} = \lim_{k \rightarrow \infty} \frac{\log 3^k}{\log 2^k} = \frac{\log 3}{\log 2} \approx 1.585 </math> <br> [[File:sierpinski dimension.svg|thumb|center|500px|'''図2''' もとの構造を再帰的に分割することで得られる[[シェルピンスキーのギャスケット|シェルピンスキーの三角形]]]] 同様に、コッホ雪片のフラクタル次元は :<math> D = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{\log N(\epsilon)}{\log\left(\frac{1}{\epsilon}\right)} = \lim_{k \rightarrow \infty} \frac{\log 4^k}{\log 3^k} = \frac{\log 4}{\log 3} \approx 1.262 </math> となり、シェルピンスキーの三角形はコッホ雪片と比べ密であると言える。 これと密接に関連するのが{{仮リンク|ボックス次元|en|box-counting dimension}}であり、これは空間がサイズεの箱によるグリッドに分割されるとき、いくつのこのサイズの箱が[[アトラクター]]の一部を含むかを考えるものである。これもまた: :<math>D_0 = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{\log N(\epsilon)}{\log\frac{1}{\epsilon}}</math> その他の次元量としては'''情報次元'''があり、これは箱のサイズが小さくなってゆくときに、ある占められた箱を特定するために必要とされる平均[[情報量]]がどれだけ変化するかを考えるものである: :<math>D_1 = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{-\langle \log p_\epsilon \rangle}{\log\frac{1}{\epsilon}}</math> また、{{仮リンク|相関次元|en|correlation dimension}}は恐らく最も計算が簡単なものであり、 :<math>D_2 = \lim_{\epsilon \rightarrow 0, M \rightarrow \infty} \frac{\log (g_\epsilon / M^2)}{\log \epsilon}</math> ここで''M''はフラクタルもしくはアトラクターを表すのに用いられる点の数、''g''<sub>ε</sub>は互いに距離εよりも近い点のペアの数である。 == レニー次元 == ボックス次元、情報次元、相関次元の3者は、次式で定義されるオーダーαの一般化された次元すなわち[[レニー次元]](Rényi dimension)の連続したスペクトルの特別な場合と見なせる: :<math>D_\alpha = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \frac{\frac{1}{1-\alpha}\log(\sum_{i} p_i^\alpha)}{\log\frac{1}{\epsilon}}</math> ここで極限の分子はオーダーαの{{仮リンク|レニー・エントロピー|en|Rényi entropy}}である。α= 0 の時のレニー次元はアトラクターの支持体の全ての部分を均等に扱う。αの値が大きくなると、最も頻繁に見られるアトラクターの部分により重い計算上のウェイトが与えられる。 レニー次元が全て等しくはならないアトラクターは{{仮リンク|多重フラクタル|en|multifractal}}である、もしくは多重フラクタル構造を示すと呼ばれる。これはアトラクターの異なった部分で異なったスケールの挙動が見られるサインである。 == 現実世界のデータのフラクタル次元の概算 == 上述のようなフラクタル次元の尺度は、形式的に定義されたフラクタルから得られたものである。しかしながら、生命体や現実世界の現象もまたフラクタルの特性を示すのであるから<!--([[フラクタル#生物とフラクタル]]参照):ない -->、一連の[[標本 (統計学)|標本]]データのフラクタル次元を記述することは有用であることも多い。この場合のフラクタル次元は正確に求めることはできないが、概算は可能なはずである。例えば、自然界の海岸線は砂粒などの大きさという限界があるので厳密にはフラクタルではない<ref>高安(1985) p. 894</ref>が、[[リアス式海岸]]のような複雑な海岸線はフラクタル的な特性を示し、そのフラクタル次元は複雑さに応じて概ね 1 < ''D'' < 1.3 となる<ref>高安(1985) p.906</ref>。 [[Image:Intestine Wall.jpg|thumb|腸壁の顕微鏡写真]] フラクタル次元の概算は、物理学<ref>{{cite journal |author=B. Dubuc, J. F. Quiniou, C. Roques-Carmes, C. Tricot, and S. W. Zucker |title=Evaluating the fractal dimension of profiles |journal=Phys. Rev. A |volume=39 |pages=1500–12 |year=1989 |doi=10.1103/PhysRevA.39.1500 }}</ref>、画像解析<ref>{{cite journal |author=P. Soille and J.-F. Rivest |title=On the validity of fractal dimension measurements in image analysis |journal=Journal of Visual Communication and Image Representation |volume=7 |pages=217–229 |year=1996 |url=http://mdigest.jrc.ec.europa.eu/soille/soille-rivest96.pdf |doi=10.1006/jvci.1996.0020}}</ref><ref>{{cite journal |author=Tolle, C. R., McJunkin, T. R., and Gorisch, D. J. |title=Suboptimal Minimum Cluster Volume Cover-Based Method for Measuring Fractal Dimension |journal=IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell. |volume=25 |issue=1 |pages=32–41 |month=January |year=2003 |doi=10.1109/TPAMI.2003.1159944 }}</ref>、音響学<ref>{{cite journal |author=P. Maragos and A. Potamianos |title=Fractal dimensions of speech sounds: Computation and application to automatic speech recognition |journal=Journal of the Acoustical Society of America |volume=105 |issue= 3|pages=1925 |year=1999 |doi=10.1121/1.426738 |pmid=10089613 }}</ref>、[[リーマンゼータ関数]]の零点<ref name="Shanker">{{cite journal |author=O. Shanker |year=2006 |title=Random matrices, generalized zeta functions and self-similarity of zero distributions |journal=J. Phys. A: Math. Gen. |volume=39 |pages=13983–97 |doi=10.1088/0305-4470/39/45/008}}</ref>、(電子)化学プロセス<ref>{{cite journal |author=Ali Eftekhari |title=Fractal Dimension of Electrochemical Reactions |journal=Journal of the Electrochemical Society |volume=151 |issue=9 |pages=E291–6 |year=2004 |doi=10.1149/1.1773583 }}</ref>、医学<ref name="pit-pattern">{{Cite journal|和書|author=佐藤明人 |date=2005-08 |url=https://hdl.handle.net/10191/3183 |title=大腸上皮性腫瘍腺口形態(pit pattern)のフラクタル解析 : pit patternの定量評価と病理組織診断との対比 |journal=新潟医学会雑誌 |ISSN=00290440 |publisher=新潟医学会 |volume=119 |issue=8 |pages=464-473 |CRID=1050001339229699840 |hdl=10191/3183 |accessdate=2023-08-18}}</ref>など、さまざまな領域で用いられている。応用の一例として、人間の大腸粘膜表皮はフラクタル的な構造を示し、これは表面積を最大化するためと考えられるが、病変するとそのフラクタル次元に変化が現れる。良性腫瘍では1.38、癌では1.50前後となり有意差があるとする研究があり、サンプルのフラクタル次元概算による客観的な診断が目指されている<ref name="pit-pattern" />。 <!-- 健康な腸壁のフラクタル次元は? --> 実際の次元の概算は数字的もしくは実験上のノイズに非常に敏感であり、また特にデータの量の制限に影響されやすい。'''極めて'''多くのデータ点の数が得られるのでない限り避けようのない限界が存在するので、 フラクタル次元の概算に基づく主張、特に低次元での動的挙動の主張には注意が必要である。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} {{Reflist|2}} == 参考文献 == * Mandelbrot, Benoît B., ''The (Mis)Behavior of Markets, A Fractal View of Risk, Ruin and Reward'' (Basic Books, 2004) ** 日本語訳 [[ブノワ・マンデルブロ]]『禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン』 [[高安秀樹]]監訳 [[東洋経済新報社]] 2008年 ISBN 978-4-492-65417-0 * {{Cite journal|和書|author=高安秀樹 |date=1985-09 |url=https://hdl.handle.net/2433/91795 |title=フラクタルの物理 |journal=物性研究 |ISSN=0525-2997 |publisher=物性研究刊行会 |volume=44 |issue=6 |pages=885-981 |CRID=1050001202063418112 |hdl=2433/91795 |id={{NDLJP|10933147}} |accessdate=2023-08-18 |ref=harv}} == 関連項目 == * [[相似次元]] * [[フラクタル幾何]] * [[超撥水]] - [[レーザー・レーサー]]のような高性能ウェアの開発にはフラクタル次元による表面構造の評価が用いられる。 <!-- * [[Multifractal analysis]] * [[List of fractals by Hausdorff dimension]] * [[Lacunarity]] --> <!-- 商用ソフトウェア == 外部リンク == * [http://www.trusoft-international.com] TruSoft's Benoit - フラクタル次元とハースト指数を計算するフラクタル分析ソフトウェア製品 --> {{次元}} {{Fractals}} <!--{{数学}}--> {{DEFAULTSORT:ふらくたるしけん}} [[Category:フラクタル]] [[Category:力学系]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:次元]]
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