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フレドホルム理論
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[[数学]]において、'''フレドホルム理論'''(フレドホルムりろん、{{lang-en-short|Fredholm theory}})とは[[積分方程式]]の理論である。狭義にはフレドホルム理論は[[フレドホルム積分方程式]]の解の理論のことであり、広義には、フレドホルム理論の抽象的構造が[[フレドホルム作用素]]の[[スペクトル理論]]と[[ヒルベルト空間]]上の[[フレドホルム核]]の観点で与えられることをいう。理論の名前は[[エリック・イヴァル・フレドホルム]](Erik Ivar Fredholm)に因んでいる。 == 概要 == 次の節で[[作用素論]]や[[函数解析]]の広い文脈でのフレドホルム理論の占める位置について概説する。ここに示す概略は広くにわたるが、もちろん、詳細な部分の解説はこの概説での定式化は困難である。 == 同次方程式 == フレドホルム理論は、次の[[積分方程式]]の解を見つける理論である。 :<math>g(x)=\int_a^b K(x,y) f(y)\,dy </math> この方程式は自然に[[物理学]]や数学の多くの問題に[[微分方程式]]の逆として自然に現れる。すなわち、次の微分方程式を解くことと同じことである。 :<math>Lg(x)=f(x) </math> ここに函数 ''f'' は与えられた既知のものであり、''g'' は未知の函数である。ここに ''L'' は線型[[微分作用素]]である。例えば、''L'' を次の式のような[[楕円型作用素]]とする。 :<math> L=\frac{d^2}{dx^2} </math> この場合には、解くべき方程式は[[ポアソン方程式]]となる。この方程式を解く一般的な方法は、[[グリーン函数]]による解法である。つまり、直接、上の式を解こうとすることに替わり、次の方程式を解こうとするのである。 :<math>LK(x,y) = \delta(x-y) </math> ここに、<math>\delta(x)</math> は、[[ディラックのデルタ函数]]であり、微分方程式の求めるべき解は次式のように書くことができる。 :<math>g(x)=\int K(x,y) f(y)\,dy </math> この積分は[[フレドホルム積分方程式]]の形をしている。函数 <math>K(x,y)</math> は、グリーン函数、もしくは[[積分核]]として知られていて、[[核作用素]]と呼ばれることもある。 一般に、''x'' と ''y'' が任意の[[多様体]]上の点であるとする。最も簡単なケースは、[[実数直線]]、あるいは、''m''-次元[[ユークリッド空間]]の場合である。一般の理論でも、函数が何らかの与えられた[[函数空間]]に属することを要求する。しばしば、[[二乗可積分函数]]が研究され、また[[ソボレフ空間]]が現れる。 使われる実際の函数空間は、しばしば、微分作用素の[[固有値問題]]の解、つまり次式の解によって決まる。 :<math>L\psi_n(x)=\omega_n \psi_n(x) </math> ここに、<math>\omega_n</math> は固有値であり、<math>\psi_n(x)</math> は、固有ベクトルである。固有ベクトルの集合は[[バナッハ空間]]を張り、[[内積]]が存在するときには[[ヒルベルト空間]]となる。ここに、[[リースの表現定理]]が適用される。そのような空間の例として2階の[[常微分方程式]]の解である[[直交多項式]]がある。 上記のようにヒルベルト空間が与えられると、核は次の形で書かれることもある。 :<math>K(x,y)=\sum_n \frac{\psi_n^*(x) \psi_n(y)} {\omega_n} </math> ここに <math>\psi_n^*</math> は <math>\psi_n</math> の[[双対]]である。この形では対象 <math>K(x,y)</math> はしばしば[[フレドホルム作用素]]あるいは[[フレドホルム核]]と呼ばれる。これが前に述べて '''核''' と同じであるということは、ヒルベルト空間の基底の[[完全性]]から従う。つまり、 :<math>\delta(x-y)=\sum_n \psi_n^*(x) \psi_n(y) </math> を得る。<math>\omega_n</math> は一般的には増加するので、作用素 <math>K(x,y)</math> の固有値はゼロに向かって減少しているように見える。 == 非同次方程式 == 非同次フレドホルム積分方程式 :<math>f(x)=- \omega \phi(x) + \int K(x,y) \phi(y)\,dy</math> は次の形に形式的には書き出すことができるかもしれない。 :<math>f = (K-\omega) \phi</math> これは形式的な解 :<math>\phi=\frac{1}{K-\omega} f</math> である。この形の解は[[レゾルベント|レゾルベント形式化]]と呼ばれ、そこではレゾルベントは次の作用素として定義される。 :<math>R(\omega)= \frac{1}{K-\omega I}.</math> ''K''の固有函数と固有値の集まりがあたえられると、レゾルベントは次のような具体的な形をとるかもしれない。 :<math>R(\omega; x,y) = \sum_n \frac{\psi_n^*(y)\psi_n(x)}{\omega_n - \omega}</math> ここに解は :<math>\phi(x)=\int R(\omega; x,y) f(y)\,dy</math> である。この解が存在する必要十分条件が[[フレドホルムの定理]]の一つである。レゾルベントはみな共通に <math>\lambda=1/\omega</math> のべきに拡張され、この場合には{{仮リンク|リウヴィル・ノイマン級数|en|Liouville-Neumann series}}として知られていて、積分方程式は次のようになる。 :<math>g(x)= \phi(x) - \lambda \int K(x,y) \phi(y)\,dy</math> また、レゾルベントは次の交代的な形で書くことができる。 :<math>R(\lambda)= \frac{1}{I-\lambda K}.</math> == フレドホルム行列式 == [[フレドホルム行列式]]は、普通、次のように定義される。 :<math>\det(I-\lambda K) = \exp \left[-\sum_n \frac{\lambda^n}{n} \operatorname{Tr}\, K^n \right].</math> ここに :<math>\operatorname{Tr}\, K = \int K(x,x)\,dx</math> とし、また、 :<math>\operatorname{Tr}\, \lambda^2(K) = \iint K(x,y) K(y,x) \,dx\,dy</math> とし、そのように続ける。対応する[[ゼータ函数 (作用素)|ゼータ函数]]は、 :<math>\zeta(s) = \frac{1}{\det(I-s K)}</math> である。ゼータ函数は[[レゾルベント]]の行列式として考えることができる。 ゼータ函数は[[力学系]]の研究の中でも重要な役目を果たす。これは、[[リーマンゼータ函数]]を一般化したタイプであることに注意する。しかし、リーマンゼータ函数の場合は対応する核が知られていない。その場合の核の存在の予想が[[ヒルベルト・ポリア予想]]として知られている。 == 主な結果 == 理論の古典的な結果は、[[フレドホルムの定理]]であり、その中の一つが[[フレドホルムの交代定理]](Fredholm alternative)である。 一般理論からの重要な結果の一つが、函数空間が[[同程度連続]]であれば、核が[[コンパクト作用素]]であることである。 関連する優れた結果が[[アティヤ=シンガーの指数定理]]であり、この定理はコンパクト多様体上の楕円作用素のindex (dim ker – dim coker)は一定となるという定理である。 == 歴史 == フレドホルムの1903年の ''[[Acta Mathematica]]'' に提出した論文は、[[作用素論]]の確立にとって大きな記念碑的なものと考えられる。[[ダフィット・ヒルベルト]]はとりわけフレドホルムの積分方程式に動機づけられて積分方程式の研究に関連する[[ヒルベルト空間]]の構成を発展させた。 == 参考文献 == * E. I. Fredholm, "Sur une classe d'equations fonctionnelles", ''Acta Mathematica'', '''27''' (1903) pp. 365–390. * D. E. Edmunds and W.D. Evans (1987), ''Spectral theory and differential operators,'' Oxford University Press. ISBN 0-19-853542-2. * {{SpringerEOM|title=Fredholm kernel|author=B. V. Khvedelidze, G. L. Litvinov|urlname=Fredholm_kernel}} * Bruce K. Driver, "[http://math.ucsd.edu/~driver/231-02-03/Lecture_Notes/compact.pdf Compact and Fredholm Operators and the Spectral Theorem]", ''Analysis Tools with Applications'', Chapter 35, pp. 579–600. * Robert C. McOwen, "[http://projecteuclid.org/Dienst/UI/1.0/Summarize/euclid.pjm/1102780323 Fredholm theory of partial differential equations on complete Riemannian manifolds]", ''Pacific J. Math.'' '''87''', no. 1 (1980), 169–185. == 関連項目 == * [[グリーン函数]] * [[スペクトル論]] {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:ふれとほるむりろん}} [[Category:フレドホルム理論|*]] [[Category:解析学]] [[Category:関数解析学]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:数学のエポニム]]
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