ブラウン運動のソースを表示

{{Otheruses|物理現象|[[確率過程]]|ウィーナー過程}}
[[File:BrownianMotion.svg|thumb|right|240px|2次元でのブラウン運動の1000ステップ分の[[シミュレーション]]の例。運動の起点は (0, 0) である。各ステップの {{Mvar|x}} 成分と {{Mvar|y}} 成分は独立で、[[分散 (確率論)|分散]]は2で[[平均]]は0の[[正規分布]]に従う。数学的な[[モデル (自然科学)|モデル]]では、ステップは不連続ではないと仮定している。]]
[[File:Brownian motion large.gif|thumb|right|240px|ブラウン運動のシミュレーション。黒色の媒質粒子の衝突により、黄色の微粒子が不規則に運動している。]]
[[物理学]]における{{読み仮名|'''ブラウン運動'''|ブラウンうんどう|{{lang-en-short|Brownian motion}}}}は浮遊する微粒子が[[ランダム|不規則]]に運動する現象である。

== 概要 ==
[[物理学]]におけるブラウン運動は、[[液体]]や気体中に浮遊する微粒子（例：[[コロイド]]）が、不規則（[[ランダム]]）に運動する現象である。[[1827年]]{{refnest|group="注"|[[1828年]]という記述もある<ref name="koiwa">{{Cite book|和書|author=小岩昌宏|author2=中嶋英雄|authorlink=小岩昌宏|authorlink2=中嶋英雄|url=http://www.rokakuho.co.jp/data/books/5637.html|title=材料における拡散：格子上のランダム・ウォーク|series=材料学シリーズ|others=堂山昌男・小川恵一・北田正弘（監修）|publisher=内田老鶴圃|date=2009-12|id={{全国書誌番号|21783789}}|isbn=978-4-7536-5637-0|ncid=BB00508924|oclc=491332824|asin=4753656373|pages=17-21}}</ref>。}}、[[ロバート・ブラウン]]が、水の[[浸透圧]]で破裂した[[花粉]]から水中に流出し浮遊した微粒子を、顕微鏡下で観察中に発見し<ref name="arima">{{Cite web|和書|url=http://www.findai.com/yogo/0026.htm|author=有馬秀次|title=ウィーナー過程とブラウン運動|work=金融用語辞典|publisher=金融大学|accessdate=2015-12-27}}</ref>、論文「植物の花粉に含まれている微粒子について」で発表した<ref>{{Harvtxt|Brown|1828}}</ref>。

この現象は長い間原因が不明のままであったが、[[1905年]]、[[アルベルト・アインシュタイン|アインシュタイン]]により、熱運動する媒質の分子の不規則な衝突によって引き起こされているという論文が発表された{{R|einstein}}。この論文により当時不確かだった[[原子]]および[[分子]]の存在が、実験的に証明出来る可能性が示された。後にこれは実験的に検証され、原子や分子が確かに実在することが確認された<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/docs/BMNESM.pdf|format=PDF|author=田崎晴明|authorlink=田崎晴明|title=ブラウン運動と非平衡統計力学|publisher=[[学校法人学習院]]|accessdate=2015-12-27}}</ref>。同じころ、[[グラスゴー]]の物理学者{{仮リンク|ウィリアム・サザーランド (物理学者)|label=ウィリアム・サザーランド|en|William Sutherland (physicist)}}が1905年にアインシュタインと同じ式に到達し<ref>{{Harvtxt|Sutherland|1905}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://www.physik.uni-augsburg.de/theo1/hanggi/History/Robert_Brown_Vortrag.pdf|title=Stokes-Einstein-Sutherland equation|format=PDF|author=[[:de:Peter Hänggi|P. Hänggi]]|accessdate=2017-01-11}}</ref>、[[ポーランド]]の物理学者{{仮リンク|マリアン・スモルコフスキー|en|Marian Smoluchowski}}も[[1906年]]に彼自身によるブラウン運動の理論を発表した<ref>{{Harvtxt|von Smoluchowski|1906}}</ref>。

数学のモデルとしては、[[フランス人]]の[[ルイ・バシュリエ]]は、株価変動の確率モデルとして[[1900年]][[パリ大学]]に「投機の理論」と題する博士論文を提出した<ref>{{Harvtxt|Bachelier|1900}}</ref>。今に言う、[[ランダムウォーク]]のモデルで、ブラウン運動がそうである、という重要な論文であるが、当時のフランスの有力数学者たちに理解されず、出版は大幅に遅れた。

ブラウン運動という言葉はかなり広い意味で使用されることもあり、類似した現象として、[[電気回路]]における[[熱雑音]]<ref>{{Cite web|和書|url=http://tsukubabiryuushi.jpn.org/TPIEN2/teranishi_07_05.pdf|title=ブラウン運動|work=用語集|publisher=[[特定非営利活動法人|NPO法人]]筑波微粒子・界面・環境研究会|author=寺西|accessdate=2015-12-27}}</ref><ref>[https://granite.phys.s.u-tokyo.ac.jp/ando/Brown/brown_day1.ppt ブラウン運動 抵抗の熱雑音] {{RTFlink}}</ref>（[[ランジュバン方程式]]）や、希薄な気体中に置かれた、微小な鏡の不規則な振動（気体分子による）などもブラウン運動の範疇として説明される。

== アボガドロ定数との関係 ==
ブラウン運動について以下の式が成り立っている。
{{Indent|<math>\left\langle(x-x_0)^2\right\rangle=\frac{2 R T}{N_\mathrm A f}t</math>}}
ここで、上式左辺はブラウン運動する物体の平衡位置 {{Math|''x''{{sub|0}}}} からのずれの2乗の平均である（系は1次元とする）。{{Mvar|R}} は[[気体定数]]、{{Mvar|T}} は[[熱力学温度|絶対温度]]、{{Mvar|f}} は易動度<ref group="注">媒質の[[粘度|粘性]]に関係し、ブラウン運動する物体の速度を {{Mvar|v}} とすると、{{Mvar|fv}} はその速度に比例する抵抗力となる。</ref>、{{Mvar|t}} は十分経過した時間（極限としては {{Math|''t'' &rarr; &infin;}}）である。そして、{{Math|''N''{{sub|A}}}} が[[アボガドロ定数]]である。アボガドロ定数以外はブラウン運動とは関係なく求めることのできる量であり、フランスの物理化学者[[ジャン・ペラン]]が[[1908年]]、ブラウン運動の観測を元に {{Math|''N''{{sub|A}} {{=}} 7.05{{E|23}}}}（資料により値が異なる）という値を得ている<ref>[http://web.lemoyne.edu/~giunta/perrin.html Brownian Motion and Molecular Reality]</ref><ref>{{Kotobank|ペランの実験|2=[[ブリタニカ百科事典|ブリタニカ国際大百科事典]] 小項目事典}}</ref>。

なお、[[ボルツマン定数]] {{Math|1=''k''<sub>B</sub> = ''R'' / ''N''<sub>A</sub>}}を用いて表記すると、次の式となる。{{Indent|<math>\left\langle(x-x_0)^2\right\rangle=\frac{2 k_\mathrm B T}{f}t</math>}}

== 花粉にまつわる誤解 ==
{{独自研究|section=1|date=2023-02-03}}
{{Main|ブラウン運動にまつわる誤解}}
水中で浸透圧により破裂した[[花粉]]から流出した微粒子ではなく、花粉そのものがブラウン運動すると間違われることがある。一般書などに限らず、高名な学者や学術書や教科書にも見られた。最近でもマスコミの記事や、インターネット上の検索サイトで検索すると大学のウェブ上のアインシュタインの業績説明は誤ったままの説明になっていることが多い。

== アインシュタインの論文 ==
{{main|アインシュタインの関係式 (速度論)}}
1905年の[[アルベルト・アインシュタイン|アインシュタイン]]の論文<ref name="einstein">{{Harvtxt|Einstein|1905}}</ref>によって、ブラウン運動は原子の存在を明白に証拠付ける事実となった。その内容を要約すると以下のようになる{{R|koiwa}}。
# 微粒子が時刻 {{Mvar|t}} に位置 {{Mvar|x}} にいる[[確率密度]] {{Math|''&rho;''(''x'', ''t'')}} は次の[[拡散方程式]]を満たす
#:: <math>\frac{\partial\rho}{\partial t}=D\frac{\partial^2\rho}{\partial x^2}</math>
# 拡散係数 {{Mvar|D}} は、微粒子の半径 {{Mvar|a}} 、溶媒の粘性 {{Mvar|&mu;}} を用いて
#::<math>D=\frac{RT}{N_A}\frac{1}{6\pi\mu a}=\frac{k_\mathrm B T}{6\pi\mu a}</math>
#: と表される。ブラウン運動の原子論的描像は、この式の導出の際に用いられている。この導出には、[[ファントホッフの式]]、[[ストークスの式]]、[[フィックの法則]]、[[定常流]]であることが用いられている。
# 平均二乗変位は拡散係数を用いて表される。
#:: <math>\begin{align}\left\langle(x-x_0)^2\right\rangle&\equiv\int_{-\infty}^{\infty}(x-x_0)^2\rho(x,t)dx\\&=2Dt\end{align}</math>
# 以上から、平均変位 {{Mvar|&lambda;}}
#:: <math>\lambda=\left\langle(x-x_0)^2\right\rangle^{1/2}</math>
#: が求められ、実験観測により検証できる。

== モデル ==
{{See also|ウィーナー過程}}
ブラウン運動は[[確率過程]]として[[数理モデル]]化できる。具体的には[[ウィーナー過程]]がそのままブラウン運動のモデルとみなせる（そのため[[数学]]ではウィーナー過程を別名「ブラウン運動」とも呼ぶ<ref>{{Ilq|ブラウン運動 ... ウィーナー（Wiener）過程と呼ばれることもある．}}p.9 より引用。{{Citation|和書|title=知識の森|last=井原|first=俊輔|year=2009|url=https://www.ieice-hbkb.org/files/ad_base/view_pdf.html?p=/files/12/12gun_03hen_06.pdf|publisher=電子情報通信学会|chapter=6章 確率過程}}</ref>）。

==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Cite journal|last=Brown|first=Robert|authorlink=ロバート・ブラウン|date=1828|title=A brief account of microscopical observations made in the months of June, July and August, 1827, on the particles contained in the pollen of plants; and on the general existence of active molecules in organic and inorganic bodies.|journal={{enlink|Philosophical Magazine|Phil. Mag.|p=off|s=off}}|volume=4|pages=161–173|url=http://sciweb.nybg.org/science2/pdfs/dws/Brownian.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|issn=1478-6435|lccn=2003249007|oclc=476300855|ref=harv}}
* {{Cite journal|first=Louis|last=Bachelier|authorlink=ルイ・バシュリエ|url=https://wwwf.imperial.ac.uk/~ajacquie/IC_AMDP/IC_AMDP_Docs/Literature/Bachelier_Thesis.pdf|title=Théorie de la spéculation|format=PDF|publisher=[[フランス数学会|SMF]]|journal={{enlink|Annales Scientifiques de l'École Normale Supérieure|Annales scientifiques de l'É.N.S.|p=off|s=off}}|volume=17|date=1900|pages=21-86|issn=0012-9593|oclc=191711396|ref=harv}}
* {{cite journal|first=A.|last=Einstein|authorlink=アルベルト・アインシュタイン|title=Über die von der molekularkinetischen Theorie der Wärme geforderte Bewegung von in ruhenden Flüssigkeiten suspendierten Teilchen|url=http://www.physik.uni-augsburg.de/annalen/history/einstein-papers/1905_17_549-560.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|journal=[[アナーレン・デア・フィジーク|Annalen der Physik]]|publisher={{仮リンク|Wiley-VCH Verlag|de|Wiley-VCH Verlag|en|Wiley-VCH}}|volume=322|issue=8|pages=549–560|date=May 11, 1905|issn=0003-3804|lccn=50013519|oclc=5854993|doi=10.1002/andp.19053220806|bibcode=1905AnP...322..549E|ref=harv}}
* {{Cite journal|url=http://www.physik.uni-augsburg.de/theo1/hanggi/History/Phil_Mag.pdf|last=Sutherland|first=W.|date=June 1905|title=Dynamical theory of diffusion for non-electrolytes and the molecular mass of albumin|format=[[Portable Document Format|PDF]]|journal={{enlink|Philosophical Magazine|Phil. Mag.|p=off|s=off}}|series=series 6 |volume=9|issue=54|pages=781-785|issn=1478-6435|lccn=2003249007|oclc=476300855|ref=harv}}
* {{cite journal|last=von Smoluchowski|first=M.|url=http://www.physik.uni-augsburg.de/theo1/hanggi/History/Smoluchowski_AnnPhys_21.pdf|title=Zur kinetischen Theorie der Brownschen Molekularbewegung und der Suspensionen|format=[[Portable Document Format|PDF]]|journal=Annalen der Physik|volume=326|issue=14|pages=756–780|date=July 9, 1906|issn=0003-3804|lccn=50013519|oclc=5854993|doi=10.1002/andp.19063261405|bibcode=1906AnP...326..756V|ref=harv}}

== 関連項目 ==
{{commonscat|Brownian motion}}
* [[ロバート・ブラウン]]
* [[ランダムウォーク]]
* [[物性物理学]]
* [[ウィーナー過程]]
* [[非整数ブラウン運動]]
* [[幾何ブラウン運動]]
* [[アインシュタインの関係式 (速度論)]]
* [[拡散方程式]]
* [[ランジュバン方程式]]
* [[ブラウン・ラチェット]]
* [[ダイソンのブラウン運動]]

== 外部リンク ==
* {{Kotobank|2=日本大百科全書(ニッポニカ)}}

{{確率論}}{{Fractals}}{{Normdaten}}
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