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'''ブラケット多項式'''(ブラケットたこうしき、{{lang-en-short|bracket polynomial}})とは、[[位相幾何学]]の一分野である[[結び目理論]]において、[[結び目理論#基本的な図形|結び目または絡み目]]の[[結び目理論#結び目の表示|射影図]]に対して定義される、負冪を許す1[[変数 (数学)|変数]][[多項式]]である。ブラケット多項式自体は絡み目[[不変量]]ではないが、その径間<ref name="keikan">多項式の最高次数と最低次数の差のことを多項式の'''径間'''({{en|span}})という。</ref>は絡み目不変量となり、またブラケット多項式を利用して不変量である[[ジョーンズ多項式]]を定義することもできる。ブラケット多項式は'''カウフマン括弧式'''といわれることもあるが、[[カウフマン多項式]]とは異なる。 ==定義== 絡み目の射影図 ''L'' に対するブラケット多項式を <''L''> で表すこととする。 ブラケット多項式は、以下の3つのルールにより帰納的に定義される(多項式の変数は ''A''とする)。 <div style="border:2px solid #55d;background-color:#fff;color:black;padding:0 0.5em 0.5em 0.5em"> [[Image:Circle - black simple.svg|thumb|140px|right|自明な結び目の自明な射影図。]] *'''ルール1''' :<math>\langle \bigcirc \rangle = 1 \, </math> :ここで○とは、自明な結び目の自明な射影図(右図のように交点が1つも無い射影図)のことを指す。 *'''ルール2''' :[[Image:kauffman_bracket2.png|275px]] :この式において、絡み目の射影図のうち円周外の部分は全て一致しており、円周内の部分のみが上図のように異なっているものとする。 *'''ルール3''' :<math>\langle L \cup \bigcirc \rangle = (-A^2 - A^{-2}) \langle L \rangle \, </math> :ここで左辺は射影図 ''L'' と自明な結び目の自明な射影図の分離和である。 </div> 以上の3つのルールによっていかなる絡み目の射影図でもブラケット多項式を計算することができる。 まず、ルール1とルール3を使えば、''k''成分の[[自明な絡み目]]の自明な射影図(交点が1つも無い射影図)のブラケット多項式は :<math>\langle \overbrace{\bigcirc \cup \bigcirc \cup \cdots \cup \bigcirc}^{k} \rangle = (-A^2 - A^{-2})^{k-1} \, </math> となることが成分数 ''k'' に関する[[数学的帰納法]]によって示せる。 続いて ''n'' 個の交点を持つ射影図のブラケット多項式は、ルール2を使えば ''n-1'' 個の交点の射影図のブラケット多項式から計算できる。これを何度も繰り返せば、交点が1つも無い射影図のブラケット多項式から目的の多項式が計算できることになるが、交点が1つも無い射影図(自明な絡み目の自明な射影図)のブラケット多項式は計算できることをすでに確認したから、任意の射影図のブラケット多項式が計算できることが分かる。 ルール2を適用して交点を1つ減らすたびに、計算しなければならない多項式の数は2倍になるので、''n'' 個の交点を持つ射影図のブラケット多項式を算出するためには、2<sup>''n''</sup> 個の自明な射影図に対して多項式を計算しなければならないことになる。 ==性質== [[Image:TrefoilKnot-02.png|thumb|right|[[三葉結び目]]のこの射影図のブラケット多項式は、< ''K'' >=<math>A^{7}-A^{3}-A^{-5}</math>である。]] 絡み目の射影図に対して定義されるブラケット多項式は、絡み目の不変量ではない。つまり同じ絡み目の異なる2つの射影図でもブラケット多項式が一致するとは限らない。ライデマイスターの定理によると、2つの絡み目が等しいことは、その射影図が[[ライデマイスター移動]]と呼ばれる3種類の射影図の局所変形と平面上での同位変形の有限回の繰り返しにより、互いに移りあうことと同値である。ブラケット多項式の場合、ライデマイスター移動IIとIIIを施しても多項式は変化しないが、ライデマイスター移動Iを施すと多項式全体に -A<sup>3</sup> がかかったり外れたりしてしまうため、不変量にならないのである。しかし、ブラケットの多項式の径間<ref name="keikan" />を考えると、これは絡み目の不変量になる。 また、ライデマイスター移動Iだけによってブラケット多項式がかわってしまうことに注目し、同様にライデマイスター移動Iによってのみ値が変化する[[ひねり数]]という概念を組み合わせて変化を打ち消すことによって絡み目の多項式不変量をつくることができる([[ジョーンズ多項式#ブラケット多項式による定義|ブラケット多項式による定義]]を参照)。 [[連結空間|連結]]な既約[[交代結び目|交代射影図]]<ref>既約射影図の定義は[[結び目理論#結び目の表示|結び目の表示]]を参照。</ref>のブラケット多項式の径間は、その射影図の[[交点数 (結び目理論)|交点数]]の4倍に等しいという性質がある。例えば右図の[[三葉結び目]]の射影図は連結な既約交代射影図となっているが、そのブラケット多項式は < ''K'' > = <math>A^{7}-A^{3}-A^{-5}</math> であり、その径間を計算すると 7 - (-5) = 12 となる。これは射影図の交点数3の4倍となっている。 ==脚注== {{reflist}} == 参考文献 == * [[C・C・アダムス]]著、[[金信泰造]]訳 『結び目の数学』 [[培風館]]、1998年、145-158頁。ISBN 978-4563002541。 * [[W. B. R. リコリッシュ]] 『結び目理論概説』 [[シュプリンガー・フェアラーク東京]]、2000年、33-36頁。ISBN 978-4431708599。 * V. V. Prasolov, A. B. Sossinsky, ''Knots, Links, Braids and 3-Manifolds'', Amer Mathematical Society, 1993 , p. 23-27. ISBN 978-0821808986. ==外部リンク== *{{MathWorld|urlname=BracketPolynomial|title=Bracket Polynomial}} {{DEFAULTSORT:ふらけつとたこうしき}} [[Category:結び目理論]] [[Category:数学に関する記事]]
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