プランクの法則のソースを表示

[[Image:Wiens law.svg|thumb|right|300px|'''黒体放射スペクトル''']]
'''プランクの法則'''（プランクのほうそく、{{lang-en-short|Planck's law}}）は、[[黒体放射]]の[[スペクトル]]に関する法則であり、[[量子力学]]の基本法則のひとつ<ref>{{Cite web|和書|title=プランクの輻射法則とは|url=https://kotobank.jp/word/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%81%AE%E8%BC%BB%E5%B0%84%E6%B3%95%E5%89%87-790653|website=コトバンク|accessdate=2020-11-18|language=ja|last=法則の辞典}}</ref>である。'''プランクの公式'''とも呼ばれる。この公式から導かれるスペクトルと温度特性は、全波長領域において、[[熱放射]]の実験結果から予想される黒体放射のスペクトルと一致する。

[[1900年]]、[[ドイツ]]の物理学者[[マックス・プランク]]によって導かれた。プランクはこの法則の導出を考える中で、物体が光を吸収または放射する時、そのエネルギーは、エネルギー素量（現在ではエネルギー量子と呼ばれている）{{math|''&epsilon;'' {{=}} ''h&nu;''}} の[[整数]]倍でなければならないと仮定した。この'''量子仮説'''<ref>{{Cite web|和書|title=量子仮説とは|url=https://kotobank.jp/word/%E9%87%8F%E5%AD%90%E4%BB%AE%E8%AA%AC-149981|website=コトバンク|accessdate=2021-09-28|language=ja|first=ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,精選版|last=日本国語大辞典,デジタル大辞泉,世界大百科事典内言及}}</ref>（[[量子化 (物理学)|量子化]]）は、その後の[[量子力学]]の幕開けに大きな影響を与えた。
{{Indent|''より一般的な導入として、[[黒体]]の項目も参照''}}

== 概要 ==
プランクの法則において、黒体から輻射される電磁波の分光放射輝度は、周波数 {{mvar|&nu;}} と温度 {{mvar|T}} の関数として
{{Indent|
<math>I(\nu,T) = \frac{2h\nu^3}{c^2}\frac{1}{\mathrm{e}^{h\nu/kT} -1}</math>
}}
と表すことができる<ref name="#1">{{harv|Rybicki|Lightman|1979|p=22}}</ref>。ただし、ここで分光放射輝度 {{math|''I'' (''&nu;'', ''T'')}} は、放射面の単位面積、[[立体角]]、周波数あたりの[[放射束]]を表しており、{{mvar|h}} は[[プランク定数]]、{{mvar|k}} は[[ボルツマン定数]]、{{mvar|c}} は[[光速度]]を表す。分光放射輝度 {{math|''I''(''&nu;'', ''T'')}} は {{math|''h&nu;'' {{=}} 2.82 ''kT''}} の位置にピークをもち<ref>Kittel, Thermal Physics p.98</ref>、高周波数においては[[指数関数的減衰|指数関数的]]に、低周波数においては多項式的に減少する。

また、分光放射輝度を全立体角について積分することで、分光[[エネルギー密度]]に関して
{{Indent|
<math>u(\nu,T) = \frac{4\pi}{c} I(\nu,T) =\frac{8\pi h\nu^3}{c^3}\frac{1}{ \mathrm{e}^{h\nu/kT} -1}</math>
}}
と表すこともできる<ref name="BrehmMullin">Brehm, J.J. and Mullin, W.J., "Introduction to the Structure of Matter: A Course in Modern Physics," (Wiley, New York, 1989) ISBN 047160531X.</ref>。ここで分光エネルギー密度 {{mvar|u}} は単位体積、単位周波数あたりのエネルギーの[[量の次元|次元]]（単位は J/(m{{sup|3}} Hz)）を持ち、周波数が {{mvar|''&nu;''}} と {{math|''&nu;''+d''&nu;''}} の間に存在する単位体積あたりのエネルギーは {{math|''u''(''&nu;'', ''T'') d''&nu;''}} によって与えられる。この式を周波数について積分すれば、全エネルギー密度を得る。黒体の輻射場は[[光子|光子気体]]と考えることができ、その場合、全エネルギー密度は光子気体の[[熱平衡状態]]を指定する[[状態量]]の一つとなる。

プランクの法則において、分光放射輝度は波長 {{mvar|&lambda;}} の関数として
{{Indent|
<math>I'(\lambda,T) =\frac{2 hc^2}{\lambda^5}\frac{1}{ \mathrm{e}^{hc/\lambda kT} -1}</math>
}}
という形であらわすこともできる<ref name="#1"/>。
ここで波長と周波数は {{math|''&lambda;'' {{=}} ''c''/''&nu;''}} という関係式によって結びついている<ref>{{harv|Rybicki|Lightman|1979|p=1}}</ref>。この関数は {{math|''hc'' {{=}} 4.97 ''&lambda;kT''}} の位置にピークをもつ。これは[[ヴィーンの変位則]]でより一般的に用いられるピークである。

また、分光エネルギー密度についても、波長が {{mvar|''&lambda;''}} と {{math|''&lambda;''+d''&lambda;''}} の間にあるエネルギー密度を {{math|''u' ''(''&lambda;'', ''T'') d''&lambda;''}} とし、波長 {{mvar|''&lambda;''}} の関数として表示すれば、
{{Indent|
<math>u'(\lambda,T) = \frac{4\pi}{c} I'(\lambda,T) = \frac{8\pi hc}{\lambda^5}\frac{1}{ \mathrm{e}^{hc/\lambda kT} -1}</math>
}}
と表すこともできる。ここで分光エネルギー密度 {{mvar|u'}} は単位体積、単位波長あたりのエネルギーである。

周波数範囲 {{math|[&nu;{{sub|1}}, &nu;{{sub|2}}]}} または波長範囲 {{math|[''&lambda;''{{sub|2}}, ''&lambda;''{{sub|1}}] {{=}} [''c''/''&nu;''{{sub|2}}, ''c''/''&nu;''{{sub|1}}]}} において放射される放射輝度は、{{math|''I''(''&nu;'', ''T'')}} または {{math|''I' ''(''&lambda;'', ''T'')}} の積分として求められる。

{{Indent|
<math>\int_{\nu_1}^{\nu_2}I(\nu,T)\,\mathrm{d}\nu = \int_{\lambda_2}^{\lambda_1}I'(\lambda,T)\,\mathrm{d}\lambda</math>
}}
なお、周波数が増加するとき波長は減少するため、2つの積分では上限・下限が入れ替わっている。

次の表に、数式の中に現れるそれぞれの記号の定義と[[国際単位系|SI単位]]・[[CGS単位系|cgs単位]]を示す。

{| class="wikitable"
|-
!記号
!意味
!国際単位系
!cgs単位系
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|I}}, {{mvar|I'}}
| [[分光放射輝度]] または [[エネルギー]]（単位[[時間]]、[[表面|表面積]]、[[立体角]]、周波数（波長）あたり）
|J⋅s<sup>−1</sup>⋅m<sup>−2</sup>⋅sr<sup>−1</sup>⋅Hz<sup>−1</sup>, または J⋅s<sup>−1</sup>⋅m<sup>−2</sup>⋅sr<sup>−1</sup>⋅m<sup>−1</sup><!--Don't combine the meters here-->
|erg⋅s<sup>−1</sup>⋅cm<sup>−2</sup>⋅Hz<sup>−1</sup>⋅sr<sup>−1</sup>, または erg⋅s<sup>−1</sup>⋅cm<sup>−2</sup>⋅sr<sup>−1</sup>⋅cm<sup>−1</sup>
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|&nu;}}
|周波数
|[[ヘルツ]] (Hz)
|ヘルツ
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|&lambda;}}
|波長
|[[メートル]] (m)
|センチメートル (cm)
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|T}}
|黒体の温度
| [[ケルビン]] (K)
|ケルビン
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|h}}
|[[プランク定数]]
|[[ジュール]]⋅秒 (J⋅s)
|[[エルグ]]⋅秒 (erg⋅s)
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|c}}
|[[光速]]
|[[メートル毎秒]] (m/s)
|センチメートル毎秒 (cm/s)
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|e}}
|[[ネイピア数|自然対数の底]], 2.718281...
|''[[無次元量]]''
|無次元量
|-
|style="text-align:center;"|{{mvar|k}}
|[[ボルツマン定数]]
|ジュール毎ケルビン (J/K)
|エルグ毎ケルビン (erg/K)
|}

== 歴史的背景 ==
1859年、[[グスタフ・キルヒホフ|キルヒホッフ]]は黒体の放射する輻射場の熱平衡分布は温度のみに依存することを明らかにし、その翌年、[[黒体|空洞放射]]が理想的な黒体輻射を実現することを示した。それ以降、ある温度 {{mvar|T}} における黒体輻射のエネルギー密度の分布を振動数 {{mvar|&nu;}}（もしくは波長 {{math|''&lambda;'' {{=}} ''c''/''&nu;''}}）の関数として求めることが、実験と理論の両面から活発に進められた。プランクの公式以前、黒体輻射の分布式としては、[[レイリー・ジーンズの法則|レイリー・ジーンズの公式]]と[[ヴィーンの放射法則|ヴィーンの公式]]が考案されていた。ヴィーンの公式は[[ヴィルヘルム・ヴィーン]]が1896年に発表した公式であり、短波長（高周波数）領域においては実験データと一致するものの、長波長（低周波数）では一致しなかった。一方、レイリー・ジーンズの公式（1900年に不完全な形でレイリーが発表）は反対に長波長（低周波数）領域で実験結果とよい一致を示すものの、短波長（高周波数）領域では合わなかった。

[[マックス・プランク]]は1900年10月（論文発行は1901年<ref name="planck">{{Cite journal|last=Planck|first=Max|authorlink=マックス・プランク|url=http://theochem.kuchem.kyoto-u.ac.jp/Ando/planck1901.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|title=On the Law of Distribution of Energy in the Normal Spectrum|journal=[[アナーレン・デア・フィジーク|Annalen der Physik]]|publisher={{仮リンク|Wiley-VCH Verlag|de|Wiley-VCH Verlag|en|Wiley-VCH}}|volume=4|page=553 ff|language=[[英語|English]]|year=1900|month=October|archiveurl=https://web.archive.org/web/20111006162543/http://theochem.kuchem.kyoto-u.ac.jp/Ando/planck1901.pdf|archivedate=2011年10月6日|deadurldate=2017年9月}}</ref><ref name="planck2">{{Cite journal|last=Planck|first=Max|authorlink=マックス・プランク|title=Ueber das Gesetz der Energieverteilung im Normalspectrum|url=http://www.physik.uni-augsburg.de/annalen/history/historic-papers/1901_309_553-563.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|journal=[[アナーレン・デア・フィジーク|Annalen der Physik]]|publisher={{仮リンク|Wiley-VCH Verlag|de|Wiley-VCH Verlag|en|Wiley-VCH}}|language=[[ドイツ語|German]]|volume=309|issue=3|pages=553–563|date=October 19, 1900}}</ref><ref name="planck3">{{Cite journal|first=M.|last=Planck|authorlink=マックス・プランク|date=December 14, 1900|title=Zur Theorie des Gesetzes der Energieverteilung im Normalspektrum|url=http://www.christoph.mettenheim.de/planck-energieverteilung.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|journal=[[ドイツ物理学会|Deutsche Physikalische Gesellschaft]]|language=[[ドイツ語|German]]|volume=2|pages=237–245|archiveurl=https://web.archive.org/web/20150807054128/http://www.christoph.mettenheim.de/planck-energieverteilung.pdf|archivedate=2015年8月7日|deadurldate=2017年9月}}</ref>）に、ヴィーンの公式より良い公式を得ようとする過程でプランクの公式を考案した。プランクによるこの公式は、全ての波長領域において非常によく実験データと一致した。次に、この法則の導出方法を構築する過程で、プランクは物質中の荷電振動子の異なるモードについて、電磁エネルギー分布を考えた。これらの振動子のエネルギーが離散的になっていると仮定したところ、プランクの法則を導出することができた。具体的には、エネルギーは振動数 {{mvar|&nu;}} に比例するエネルギー素量（'''エネルギー量子'''） {{mvar|E}}、すなわち
{{Indent|<math>E=h\nu</math>}}
の整数倍の値のみ取りうるということである。

プランクはこの[[量子化 (物理学)|量子化]]の仮定を、[[アルベルト・アインシュタイン]]が[[光電効果]]の説明のために[[光子]]の存在を仮定するよりも5年'''前'''に行っていた。この時点では、プランクは量子化は空洞壁面にあるであろう微小の'''共鳴子'''（{{lang|en|resonator}}、現在でいう[[原子]]）にのみ適用されるものであり、光それ自身が離散的なエネルギーの束や塊を伝播する性質を有しているとは仮定しなかった。更には、プランクはこの仮定にはなんら物理的重要性はなく、公式を導くための単なる数学的な道具に過ぎないと考えていた。しかしながら、'''エネルギーの量子化'''は物理学史上、初めて導入された[[量子論]]的概念であり、その後の[[量子力学]]の形成に大きな役割を果たした。プランクによるエネルギーの量子化仮説とアインシュタインの光量子仮説は、ともに量子力学の発展における基礎となっている。

なお、プランクの公式では黒体は全ての周波数の電磁波を放出するとしているが、これは非常に多数の光子が測定される実験でのみ実際に適用できる。例えば[[室温]] (300 K) における表面積が1平方メートルの黒体は、1000年に一度程度しか可視領域の光子を放出せず、よって通常の実験などにおいては黒体は室温では可視光線を放出されないといっても差し支えない。実験データからプランクの法則を導出する際などのこの事実の重要性については<ref name="Ribaric">{{Cite journal|author=Ribaric, M.|author2=Sustersic, L.|url=https://arxiv.org/pdf/0810.0905|format=[[Portable Document Format|PDF]]|title=arxiv:0810.0905|publisher=[[arXiv]]|date=October 6, 2008}}</ref>で議論されている。

== 他の輻射法則との関係 ==
[[Image:RWP-comparison.svg|thumb|300px|温度 8 mK における[[黒体放射]]の、[[ヴィーンの放射法則|{{color|blue|ヴィーン}}]]、{{color|green|プランク}}、[[レイリー・ジーンズの法則|{{color|red|レイリー}}]]の3式の比較]]
以下にあげるように、プランクの法則から他の黒体輻射の近似的公式を導くことができる。

<math>h\nu \gg kT</math>を満たす高周波数（短波長）においては
{{Indent|<math>\begin{align}
I(\nu, T) \sim \frac{2h\nu^3}{c^2} e^{-h\nu/kT}, \\
I'(\lambda, T) \sim \frac{2hc^2} {\lambda^5} e^{-hc/\lambda kT}
\end{align}</math>}}
となり、[[ヴィーンの放射法則]]に漸近する。

また、<math>h\nu \ll kT</math>を満たす低周波数（長波長）においては
{{Indent|<math>\begin{align}
I(\nu, T) \sim \frac{2\nu^2}{c^2}kT, \\
I'(\lambda, T) \sim \frac{2c}{\lambda^4}kT
\end{align}</math>}}
となり、[[レイリー・ジーンズの法則]]に漸近する。

また、プランクの法則の周波数（波長）についての積分
{{Indent|<math>j^\star(T) = \int^\infty_0 I(\nu,T)\mathrm{d}\nu \int \mathrm{d}\Omega = \pi  \int^\infty_0 I(\nu,T)\mathrm{d}\nu
= \sigma T^4, \quad \sigma = \frac{2\pi^5 k^4}{15 c^2 h^3}
</math>}}
より、単位面積、単位時間当たりに放出される輻射場のエネルギーが ''T''{{sup|4}} に比例するという[[シュテファン＝ボルツマンの法則]]が得られる。

さらに、<math>\partial I'(\lambda, T) / \partial \lambda = 0</math> よりプランクの法則の分光放射輝度 {{math|''I' ''(''&lambda;'', ''T'')}} が最大となる波長 {{mvar|&lambda;}} を求めることにより、[[ヴィーンの変位則]]が得られる。

==原子による輻射場の吸収・放出==
[[File:Einsteinkoeffizienten.svg|thumb| 原子の[[2準位系]]における輻射場の吸収と放出の過程。係数 {{math|''B''<sub>12</sub>}}で表される誘導吸収により、原子は輻射場を吸収し、準位1から準位2の状態に遷移する。また、係数 {{math|''A''<sub>21</sub>}}で表される自然放出と係数 {{math|''B''<sub>21</sub>}}で表される誘導放出により、輻射場を放出して準位2から準位1に遷移する。]]
{{main|アインシュタイン係数}}
空洞炉中の輻射場（電磁場の熱放射）は空洞炉の壁の物質での吸収、放出を介して、熱平衡状態にある。1916年と1917年の論文において、[[アルベルト・アインシュタイン]]は輻射場が気体分子によって吸収、放出されるとし、その過程の議論からプランクの公式が導かれることを示した<ref>{{Cite journal|first1=A.|last1=Einstein|authorlink1=アルベルト・アインシュタイン|title=Zur Quantentheorie der Strahlung.|journal=Physikalischen Gesellschaft Zürich. Mitteilungen|year=1916|volume=18 |page=47|ref=einstein1916 }}</ref><ref>{{Cite journal|first1=A.|last1=Einstein|authorlink1=アルベルト・アインシュタイン|title=Zur Quantentheorie der Strahlung|journal=Physikalische Zeitschrift|year=1917|volume=18|page=121|url=http://inspirehep.net/record/858448/files/eng.pdf|ref=einstein1917}}、{{Citation|title=The Collected Papers of Albert Einstein, The Berlin Years: Writings, 1914-1917|volume=6|publisher= Princeton University Press|url=http://einsteinpapers.press.princeton.edu/papers}}に収録（open access、&sect;38）、英訳版が{{Cite book |title= Sources of Quantum Mechanics|editor= B. L. van der Waerden |publisher=Dover Publications|year=1967|ref=vanderWaerden1967}}に収録。</ref><ref>[[#takabayshi2002|高林（2002）、&sect;4.6]]</ref><ref>[[#hiroshige1968|広重（1968）、&sect;15-7]]</ref>。アインシュタインは[[ボーアの原子模型]]で記述されるように、分子は特定の離散的なエネルギー準位をとる定常状態にあり、輻射場の放出と吸収により、異なるエネルギー準位に遷移するものとした。そして、放出と吸収の[[遷移確率]]を導入し、その[[詳細釣り合い]]の条件とウィーンの変位則からプランクの公式と[[ボーアの原子模型#量子条件と振動数条件|ボーアの振動数条件]]が導かれることを示した。なお、この論文の中で、[[自然放出]]、[[誘導放出]]の概念とそれらを記述する[[アインシュタイン係数|アインシュタインのＡ係数、B係数]]が初めて導入された<ref>{{Cite journal|first1=Daniel|last1=Kleppner|authorlink1=ダニエル・クレップナー|title=Rereading Einstein on Radiation|journal=Physics Today|year=2005|volume=58|page=30|doi=10.1063/1.1897520|ref=kleppner2005}}</ref>。

原子のエネルギー準位が {{math|''E<sub>i</sub>''}} ({{math|''i'' {{=}}1,2,&hellip;)}} と離散的な値をとるとすると、温度 {{mvar|T}} にある {{mvar|N}} 個の原子の集団において、原子がエネルギー {{math|''E<sub>i</sub>''}} の状態にある確率は[[ボルツマン統計]]によって、
:<math>P_i =\frac{g_i e^{-E_i/kT}}{Z} </math>
で与えられる。但し、{{math|''g<sub>i</sub>''}} は準位の[[縮退]]度、{{mvar|Z}} は[[分配関数]]である。よって、 エネルギー準位 {{mvar|E<sub>i</sub>}} にある原子数 {{mvar|N<sub>i</sub>}} とエネルギー準位 {{mvar|E<sub>j</sub>}} にある原子数 {{mvar|N<sub>j</sub>}} の比は
:<math>\frac{N_i}{N_j}=\frac{N_i/N}{N_j/N}=\frac{P_i}{P_j}=\frac{g_i}{g_j} \exp \left(-\frac{E_i-E_j}{kT} \right)</math>
となる。ここで特定の[[2準位系|2準位]] {{mvar|E<sub>m</sub>}}、{{mvar|E<sub>n</sub>}} ({{math|''E<sub>m</sub>'' > ''E<sub>n</sub>''}})での輻射場の吸収、放出を考える。下側準位 {{mvar|E<sub>n</sub>}} にある原子は輻射場の吸収によって上側準位 {{mvar|E<sub>m</sub>}} に励起するが、その単位時間当たりの遷確率 {{mvar|R<sub>nm</sub>}} は下側準位にある原子数と輻射強度に比例し、
:<math>R_{nm}=B_{nm}u(\nu, T)N_n</math>
と表される。この吸収過程は[[誘導吸収]]と呼ばれる。逆に上側準位 {{mvar|E<sub>m</sub>}} にある原子は輻射場の放出によって、下側準位 {{mvar|E<sub>n</sub>}} に遷移する。放出の過程には周囲に輻射場が存在せずとも生じる自然放出と輻射場によって誘起される誘導放出が存在する。自然放出は上側準位の原子数、誘導放出は上側準位の原子数と輻射強度の積に比例することから、下側準位への遷移率 {{mvar|R<sub>mn</sub>}} は
:<math>R_{mn}=A_{mn}N_m+B_{nm}u(\nu, T)N_m</math>
と表される。平衡状態では詳細釣り合いの条件 {{math|''R<sub>mn</sub>''{{=}}''R<sub>nm</sub>''}} が成り立つことから、
:<math>u(\nu, T)=\frac{A_{mn}N_m}{B_{nm}N_n-B_{mn}N_m}=\frac{A_{mn}}{B_{nm}\frac{g_n}{g_m}e^{\frac{E_m-E_n}{kT}}-B_{mn}}</math>
が得られる。{{math|''u''(&nu;, ''T'')}} が温度の増大とともに無限大になる条件から
:<math>g_nB_{nm}=g_mB_{mn}</math>
であり、さらに {{math|''u''(&nu;, ''T''){{=}}''&nu;''<sup>3</sup>''f''(''&nu;''/''T'')}} の関数形であるというウィーンの法則の結果から、
:<math>\frac{A_{mn}}{B_{mn}}=\alpha \nu^3</math> ({{mvar|&alpha;}}: 定数）
とボーアの振動数条件
:<math>E_m-E_n=h \nu_{mn}</math>
が成り立つ。その帰結としてプランクの公式
:<math>u(\nu, T)=\frac{\alpha \nu^3}{e^{h\nu/kT}-1}</math>
が得られる。

==光子の統計性==
{{see also|光子気体}}
現代的な観点からは、[[輻射場]]を[[熱平衡]]状態にある[[光子]]（光量子）の集団として扱い、その量子論的な[[粒子統計|統計性]]を考慮することでプランクの公式が導かれる。光子は[[スピン角運動量|スピン]]が1の質量のない[[ボーズ粒子]]であり、[[ボーズ統計]]に従う。ボーズ統計では[[同種粒子]]は区別できず、任意個の粒子が同じエネルギー状態をとることができる。また、その分布は[[ボーズ＝アインシュタイン分布]]で与えられる。光子の粒子数は原子からの放出・吸収で保存されず、光子に[[化学ポテンシャル]]をゼロとするボーズ＝アインシュタイン分布を適用することでプランクの公式が導かれる。ボーズ統計の導入とボーズ統計からのプランクの公式の導出はインドの物理学者[[サティエンドラ・ボース]]によって、与えられた<ref>{{Cite journal|first1=Barry R.|last1=Masters|title=Satyendra Nath Bose and Bose-Einstein Statistics|journal=Optics and Photonics News|date=2013|volume=24|page=40|doi=10.1364/OPN.24.4.000040|ref=masters2103}}</ref><ref>[[#takabayshi2002|高林（2002）、&sect; 7.2]]</ref><ref>[[#hiroshige1968|広重（1968）、&sect;15-9]]</ref>
。1924年、ボースは[[アルベルト・アインシュタイン]]に手紙ともに論文の原稿を送り、ドイツ語への翻訳と出版を依頼した。ボースはこの論文で、光子の1粒子[[相空間]]を体積 {{math|''h''<sup>3</sup>}} のセルに分割し、各セルの中で光子が取りうる状態数を数え上げ、光子の統計性から黒体輻射におけるプランクの公式が導けることを示した。この議論の中で同種粒子は識別できず、同じ状態を任意個の粒子が占められるという性質、すなわち、ボーズ統計が導入された。アインシュタインはこの論文の重要性を認め、ボース単著の論文として、ドイツの学術誌 [[Zeitschrift für Physik]]で出版した<ref>{{Cite journal|first1=S.N.|last1=Bose|authorlink1=サティエンドラ・ボース|title=Plancks Gesetz und Lichtquantenhypothese|journal=Zeitschrift für Physik|date=1924|volume=26|page=178||doi=10.1007/BF01327326|ref= bose1924}}, 英訳版 {{Cite journal|first1=S.N.|last1=Bose|authorlink1=サティエンドラ・ボース||title=Planck’s Law and Light Quantum Hypothesis|journal=Am. J. Phys.|date=1976|volume=44|page=1056|url=http://hermes.ffn.ub.es/luisnavarro/nuevo_maletin/Bose_1924.pdf|doi=10.1119/1.10584|ref= bose1924b}}</ref>。アインシュタイン自身もこの結果に触発され、この統計性を粒子数が保存される単原子[[理想気体]]に拡張し、より一般的な形でのボーズ＝アインシュタイン分布を導いた <ref name="einstein1925a">{{Cite journal|first1=A.|last1=Einstein|authorlink1=アルベルト・アインシュタイン|title=Quantentheorie des einatomigen idealen Gases. Zweite Abhandlung|journal=Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss., Phys. Math. Kl. Bericht|date=1925|volume=1|page=3|url=https://web.physik.rwth-aachen.de/~meden/boseeinstein/einstein1925.pdf}}、{{Citation|title=The Collected Papers of Albert Einstein, The Berlin Years: Writings & Correspondence, April 1923–May 1925|volume=14|publisher= Princeton University Press|url=http://einsteinpapers.press.princeton.edu/papers}}に収録、&sect;427（open access）</ref> <ref name="einstein1925b">{{Cite journal|first1=A.|last1=Einstein|authorlink1=アルベルト・アインシュタイン|title=Zur Quantentheorie des idealen Gases|journal=Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss., Phys. Math. Kl. Bericht|date=1925|volume=3|page=18|}}。</ref>。

== 導出 ==
{{Indent|''以下のプランクの法則の導出は<ref name="BrehmMullin">Brehm, J.J. and Mullin, W.J., "Introduction to the Structure of Matter: A Course in Modern Physics," (Wiley, New York, 1989) ISBN 047160531X.</ref>などでみられる。より一般的な導出は[[箱の中の気体]]を参照。''}}

伝導壁をもち電磁波で満たされた一辺の長さ {{mvar|L}} の立方体を考える。立方体の壁では、電場の平行成分と磁場の直交成分はあってはならない。箱の中の粒子の波動関数との類似により、場は周期的な関数の重ね合わせとして表される。壁に直行する3つの方向についての3つの波長 {{mvar|&lambda;{{sub|1}}}}, {{mvar|&lambda;{{sub|2}}}}, {{mvar|&lambda;{{sub|3}}}} は
{{Indent|<math>\lambda_{i} = \frac{2L}{n_{i}}</math>}}
となる。ここで ''n{{sub|i}}'' は整数である。''n{{sub|i}}'' のそれぞれの組について、2つの線型独立な解（[[モード]]）がある。量子論にしたがい、一つのモードのエネルギー準位は
{{Indent|<math>E_{n_{1},n_{2},n_{3}}\left(r\right)=\left(r+\frac{1}{2}\right)\frac{hc}{2L}\sqrt{n_{1}^{2}+n_{2}^{2}+n_{3}^{2}} \qquad \mbox{(1)}</math>}}
によって与えられる。

量子数 {{mvar|r}} はモードの中の光子数に対応している。{{mvar|n{{sub|i}}}} のそれぞれの組の2つのモードはスピン1をもつ光子の2つの偏光状態に対応している。ここで注意すべきは、{{math|''r'' {{=}} 0}} においてもモードのエネルギーは零ではないことである。この電磁場の真空エネルギーは[[カシミール効果]]によるものである。これ以降、温度 {{mvar|T}} の箱の内部エネルギーを真空エネルギーとの相対値で計算してゆく。

[[統計力学]]に従い、特定のモードのエネルギー準位についての確率分布はカノニカル分布になる
{{Indent|<math>P_{r}=\frac{\exp\left(-\beta E\left(r\right)\right)}{Z\left(\beta\right)}</math>}}
で与えられる。ここで&beta;は
{{Indent|<math>\beta\ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\   1/\left(kT\right)</math>}}
で定義される[[逆温度]]である。

分母 {{mvar|Z(&beta;)}} は単モードの[[分配関数]]であり、{{mvar|P{{sub|r}}}} を正しく規格化する。

{{Indent|<math>Z\left(\beta\right) = \sum_{r=0}^{\infty}\exp(-\beta E(r)) = \frac{1}{1-\exp(-\beta\varepsilon)}</math>}}

ここで
{{Indent|<math>\varepsilon\ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\  \frac{hc}{2L}\sqrt{n_{1}^{2}+n_{2}^{2}+n_{3}^{2}}</math>}}
は単一光子のエネルギーである。<!--[[分配関数]] ([[:en:partition function (statistical mechanics)#Calculating the thermodynamic total energy]]) で説明しているように、-->あるモードにおける平均エネルギーは分配関数によって
{{Indent|<math>\left\langle E\right\rangle = -\frac{\mathrm{d}(\log Z)}{\mathrm{d}\beta} = \frac{\varepsilon}{\exp\left(\beta\varepsilon\right)-1}</math>}}
のように表される。

これは[[ボース＝アインシュタイン統計]]に従う粒子の場合の公式である。全光子数に制限がないため、[[化学ポテンシャル]] {{mvar|&mu;}} は零である。

箱の中の全エネルギーはあり得る全単一光子状態についての総和 <math>\left\langle E\right\rangle</math> に従う。これは {{mvar|L}} が無限大となる熱力学的極限において厳密に成り立つ。この極限では {{mvar|&epsilon;}} は連続となり、よって <math>\left\langle E\right\rangle</math> を&epsilon;について積分することができる。この方法により箱の中の全エネルギーを計算するには、与えられたエネルギー範囲にどの程度の光子状態があるのかを評価する必要がある。今エネルギー {{mvar|&epsilon;}} と {{math|''&epsilon;''+d''&epsilon;''}} の間にある単一光子状態の総数を {{math|''g''(''&epsilon;'') d''&epsilon;''}} と表すとする。ここで {{math|''g''(''&epsilon;'')}} は評価しようとする[[状態密度]]である。この場合には
{{Indent|<math>U = \int_{0}^{\infty}\frac{\varepsilon}{\exp\left(\beta\varepsilon\right)-1}g(\varepsilon)\,\mathrm{d}\varepsilon \qquad \mbox{(2)}</math>}}

と書くことができる。

状態密度を計算するためには、等式(1)を
{{Indent|<math>\varepsilon\ \stackrel{\mathrm{def}}{=}\  \frac{hc}{2L}n</math>}}
と書き換える。ここで ''n'' はベクトルの[[ノルム]]（長さ）
{{Indent|<math>n=\sqrt{n_{1}^{2}+n_{2}^{2}+n_{3}^{2}}</math>}}
である。

零以上の整数成分のベクトル <math>\vec{n}</math> について、それぞれ2つの光子状態がある。言い換えると、ある {{mvar|n}}-空間領域での光子状態の数は、その領域の体積の2倍である。{{math|d&epsilon;}} のエネルギー範囲は {{mvar|n}}-空間では {{math|d''n'' {{=}} (2''L''/''hc'') d''&epsilon;''}} の厚さの殻に対応する。<math>\vec{n}</math> の要素は符号が正でなくてはならないため、この殻は丁度球の八分の一領域にわたる。よってエネルギー範囲 {{math|d''&epsilon;''}} にある光子状態の数 {{math|''g''(''&epsilon;'') d''&epsilon;''}} は
{{Indent|<math>g(\varepsilon)\,\mathrm{d}\varepsilon = 2\frac{1}{8}4\pi n^{2}\,\mathrm{d}n = \frac{8\pi L^{3}}{h^{3}c^{3}}\varepsilon^{2}\,\mathrm{d}\varepsilon</math>}}
で与えられる。

この式を方程式 (2) に代入して
{{Indent|<math>U =L^{3}\frac{8\pi}{h^{3}c^{3}}\int_{0}^{\infty}\frac{\varepsilon^{3}}{\exp\left(\beta\varepsilon\right)-1}\,\mathrm{d}\varepsilon \qquad \mbox{(3)}</math>}}
を得る。

この方程式から、周波数の関数 {{math|''u''(''&nu;'', ''T'')}} または波長の関数 {{math|''u''(''&lambda;'', ''T'')}} として分光エネルギー密度を容易に導出することができる。

{{Indent|<math>\frac{U}{L^3} = \int_0^{\infty}u(\nu,T)\, d\nu</math>}}
ここで
{{Indent|<math>u(\nu,T) = {8\pi h\nu^3\over c^3}{1\over e^{h\nu/kT}-1}</math>}}
である。この {{math|''u''(''&nu;'', ''T'')}} は'''黒体スペクトル'''として知られる。これが単位周波数、単位体積あたりの分光エネルギー密度の関数である。

更に
{{Indent|<math>\frac{U}{L^3} = \int_0^\infty u'(\lambda,T)\, \mathrm{d}\lambda</math>}}
も導くことができる。ここで
{{Indent|<math>u'(\lambda,T) = {8\pi h c\over \lambda^5}{1\over e^{h c/\lambda kT}-1}</math>}}
である。

これは同様に、単位波長、単位体積あたりの分光エネルギー密度の関数である。ボース気体とフェルミ気体の計算に現れるこの形の積分は[[多重対数関数]]によって表される。しかし今回の場合には閉形式の積分を初等関数を用いて表すことができる。方程式 (3) において
{{Indent|<math>\varepsilon = kTx</math>}}
と置換すると、積分変数を無次元量の割り算にすることができ
{{Indent|<math>u(T) =\frac{8\pi (kT)^{4}}{(hc)^{3}} J</math>}}
である。ここで ''J'' は
{{Indent|<math>J=\int_{0}^{\infty}\frac{x^{3}}{\exp\left(x\right)-1}\,dx = \frac{\pi^{4}}{15}</math>}}
によって与えられる。

よって箱の中の全電磁エネルギーは
{{Indent|<math>{U\over V} = \frac{8\pi^5(kT)^4}{15 (hc)^3}</math>}}
によって与えられる。ここで ''V'' = ''L''{{sup|3}} は箱の体積である。（註: これは[[シュテファン＝ボルツマンの法則]]では'''ない'''。すなわち、黒体によって放射される全エネルギーではない）放射は全方向 {{math|4&pi;}} に等しく起き、またその伝播速度は光速 ''c'' であるため、分光放射輝度は
{{Indent|<math>I(\nu,T) = \frac{u(\nu,T)\,c}{4\pi}</math>}}
である。よって
{{Indent|<math>I(\nu,T) = \frac{2 h\nu^3 }{c^2}~\frac{1}{e^{h\nu/kT}-1}</math>}}
を得る。

この式を波長についての {{math|''I' ''(''&lambda;'', ''T'')}} の形式へと変換するためには、{{mvar|&nu;}} を {{math|''c''/''&lambda;''}} で置き換え、
{{Indent|<math>I'(\lambda,T) = I(\nu,T)\left|\frac{d\nu}{d\lambda}\right|</math>}}
の式を計算する。

== 百分率 ==
プランクの法則のグラフの形状は温度に依存しない。よって波長に温度をかけた値を基準として、全放射輝度の百分位点を示すことができる。以下の表では、1行目は放射輝度の百分位点、2行目には対応する波長に温度をかけた値 {{math|''x'' {{=}} ''&lambda;T''}} [μm⋅K] を示した。例えば、20% の 2676 というのは、0 - 2676 [μm⋅K] が全放射輝度の 20% を占めるということを意味している。

{| class="wikitable" style="text-align:center; margin:2em auto;"
|-
!百分位点
|style="width:4em;"|10%
|style="width:4em;"|20%
|style="width:4em;"|'''25.0%'''
|style="width:4em;"|30%
|style="width:4em;"|40%
|style="width:4em;"|'''41.8%'''
|style="width:4em;"|50%
|style="width:4em;"|60%
|style="width:4em;"|'''64.6%'''
|style="width:4em;"|70%
|style="width:4em;"|80%
|style="width:4em;"|90%
|-
!''x'' = &lambda;''T'' [μm⋅K]
| 2195 || 2676 || '''2898''' || 3119 || 3582 || '''3670''' || 4107 || 4745 || '''5099''' || 5590 || 6864 || 9376
|}

波長と周波数のピークはそれぞれ 25.0 % と 64.6 % にあり、表中に太字で示した。41.8 % の点は波長と周波数の中間ピークである。これらはそれぞれ、プランクの式のうち {{math|1/&lambda;{{sup|5}}, &nu;{{sup|3}}, (&nu;/&lambda;){{sup|2}}}} が最大となる点である。

どのピークを用いるかは応用する場合による。便利な選択は、[[ヴィーンの変位則]]による25.0%の波長ピークである。いくつかの目的には、全放射輝度を1/2に分ける中央値（50 % の点）がより適している。放射輝度は短波長では指数的に、長波長では多項式的に減少するため、後者は波長ピークよりも周波数ピークにより近い。同じ理由により、中間ピークは中央値よりも短い波長に位置する。

太陽は {{mvar|T}} = 5778 K の黒体放射体とする近似が非常によく成り立ち、10 % - 90 % の百分位点を以下のように表にすることができる。2行目はナノメートル単位の波長である。

{| class="wikitable" style="text-align:center; margin:2em auto;"
|-
!百分位点
|style="width:4em;"|10%
|style="width:4em;"|20%
|style="width:4em;"|'''25.0%'''
|style="width:4em;"|30%
|style="width:4em;"|40%
|style="width:4em;"|'''41.8%'''
|style="width:4em;"|50%
|style="width:4em;"|60%
|style="width:4em;"|'''64.6%'''
|style="width:4em;"|70%
|style="width:4em;"|80%
|style="width:4em;"|90%
|-
!波長 [nm]
| 380 || 463 || '''502''' || 540 || 620 || '''635''' || 711 || 821 || '''882''' || 967 || 1188 || 1623
|}

これは大気の上部に到達する放射輝度である。400 nm 以下（[[紫外線]]）の放射輝度はおよそ 12 % であり、一方 700 nm 以上（[[赤外線]]）は全体の 51 % である。大気はこの分布を大きく変化させる。具体的には大部分の紫外線とかなりの赤外線を吸収し、可視光線の比率を上昇させる。

== 歴史に関する補遺 ==
一部の物理学の教科書を含む、量子理論の説明の多くは、プランクの法則の説明において重大な間違いを犯している。この間違いは1960年代よりも前に物理学史の研究者によって指摘されたものの、現状が示しているようにこの間違いを根絶するのは難しい。Helge Kraghの論文により、実際には何が起きたのかについてのはっきりした説明が与えられた<ref name="helge">Kragh, Helge [http://physicsworld.com/cws/article/print/373 Max Planck: The reluctant revolutionary] Physics World, December 2000.</ref>。

広く知られている通説に反し、プランクは光を量子化しなかった。この根拠としては、プランクの1901年のオリジナルの論文<ref name="planck" /><ref name="planck2" /><ref name="planck3" />と、その中に参考文献としてあげられている彼の1901年以前の論文があげられる。また、著書 "Theory of Heat Radiation" においてプランク定数はヘルツ振動子 (Hertzian oscillator) を示していると説明している。'''量子化'''の概念は別の第三者によって、現在では量子力学として知られるものの中に開発された。この流れの中で次に重要な段階を踏んだのはアルベルト・アインシュタインであった。アインシュタインは光電効果を研究し、光は塊や光子として放出されるだけでなく、吸収もされるという模型と方程式を提出した。そして1924年、[[サティエンドラ・ボース]]がプランクの法則を理論的に導出することができる光子の統計力学を考え出した。

また別の通説に反し、プランクは[[紫外発散]]の問題を解決しようとしてこの法則を導いたわけではなかった。紫外発散とは[[ポール・エーレンフェスト]]によって与えられた用語であり、黒体放射に古典統計力学の[[エネルギー等配分の法則]]を適用すると、空洞の全エネルギーが無限大になってしまうという矛盾である。プランクは等配分則が普遍的に成り立っているとは考えておらず、よって「発散」の問題にも気づいていなかった。紫外発散は5年ほど後の1905年にアインシュタイン、[[ジョン・ウィリアム・ストラット (第3代レイリー男爵)|レイリー卿]]、[[ジェームズ・ジーンズ]]によって独立に発見された。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|30em}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|title= 量子力学史|author1= 天野清|authorlink=天野清|series=自然選書|publisher=[[中央公論社]]|year=1973|ref=amano1973 }}
* {{Cite book |和書|title= 物理学史II|author1= 広重徹|authorlink=広重徹 |series=新物理学シリーズ6|publisher=培風館|year=1968|ref=hiroshige1968 }}
* {{Cite book |和書|title= 量子論の発展史|author1= 高林武彦|authorlink=高林武彦 |series=ちくま学芸文庫|publisher=筑摩書房|year=2002|ref=takabayshi2002 }}
* {{Cite book |和書|author1= チャールズ・キッテル|authorlink=チャールズ・キッテル |author2= ヘルバート・クレーマー|authorlink2=ヘルバート・クレーマー|others=山下次郎、福地充（訳）|title= キッテル 熱物理学 第2版|publisher= 丸善.|year=1983|ref=kittel1983 }}
* {{Cite book |和書|title= 熱力学・統計力学|author1= W. グライナー|author2= H. シュテッカー|author3= L. ナイゼ
|others= 伊藤伸泰、青木圭子（訳）|series =グライナー物理テキストシリーズ|publisher=シュプリンガー・フェアラーク東京|year=1997|ref=greiner1997}}
* {{citation|last1=Rybicki|first1=G. B.|first2=A. P.|last2=Lightman|year=1979|title=Radiative Processes in Astrophysics|publisher=John Wiley & Sons|location=New York|isbn=0-471-82759-2}}
* {{cite book|author=Thornton|author2=Stephen T.|author3=Andrew Rex|year=2002|title=Modern Physics|publisher=Thomson Learning|location=USA|isbn=0-03-006049-4}}

より詳しくは、
* {{cite book|author=Peter C. Milonni|year=1994|title=The Quantum Vacuum|publisher=Academic Press}}

== 関連項目 ==
* [[キルヒホッフの法則 (放射エネルギー)|キルヒホッフの法則]]
* [[ヴィーンの変位則]]
* [[ヴィーンの放射法則]]
* [[レイリー・ジーンズの法則]]
* [[シュテファン＝ボルツマンの法則]]
* [[佐久間＝服部方程式]]

== 外部リンク ==
* [http://www.vias.org/simulations/simusoft_blackbody.html Radiation of a Blackbody（英語）] - プランクの法則のシミュレーションソフト

{{黒体放射}}
{{Normdaten}}

{{DEFAULTSORT:ふらんくのほうそく}}
[[Category:統計力学]]
[[Category:量子力学]]
[[Category:熱放射]]
[[Category:自然科学の法則]]
[[Category:マックス・プランク]]
[[Category:物理学のエポニム]]