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'''ベルヌーイ数''' (ベルヌーイすう、{{lang-en-short|Bernoulli number}}、まれに'''関・ベルヌーイ数'''とも) は[[数論]]における基本的な係数を与える[[数列]]の1つ。関数 {{math|{{Sfrac|''x''|''e{{sup|x}}'' − 1}}}} の[[マクローリン展開]] (テイラー展開) の展開[[係数]]として定義される: ::<math> f(x) = \frac{x}{e^x-1} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_n}{n!} x^n. </math> ベルヌーイ数を歴史上で最初に取り扱ったのは日本の[[関孝和]]であるが、ほぼ同時期に、関とは独立して[[スイス]]の数学者[[ヤコブ・ベルヌーイ]]が発見したことからこの名がついている。関による発見は、死後の[[1712年]]に出版された『括要算法』に記述されており、またベルヌーイによる発見は、死後の1713年に出版された著書『Ars Conjectandi (推測術)』 に記載されている<ref>{{cite journal|last=小川|first=束|date=2008-02|title=関孝和によるベルヌーイ数の発見|journal=数理解析研究所講究録|volume=1583|pages=1-18|publisher=京都大学数理解析研究所|ref=harv|issn=18802818|naid=110006622427|url=https://hdl.handle.net/2433/81481|hdl=2433/81481}}</ref>。 ベルヌーイ数は、べき乗和の展開係数にとどまらず、級数展開の係数や剰余項、[[リーマンゼータ関数]]においても登場する<ref>荒川恒男、伊吹山知義、金子昌信:「ベルヌーイ数とゼータ関数」、牧野書店、ISBN 978-4-79520139-2 (2001年7月).</ref>。また、ベルヌーイ数はすべて[[有理数]]である。 == 定義 == ベルヌーイ数 {{mvar|B{{sub|n}}}} を定義する展開式 ::<math> f(x) = \frac{x}{e^x-1} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_n}{n!} x^n </math> から、関数 {{math|{{Sfrac|''x''|''e{{sup|x}}'' − 1}}}} を繰り返し微分していけばベルヌーイ数を得ることができるが、そのような手段でベルヌーイ数を得るのは容易ではない。 ベルヌーイ数を計算するには、マクローリン展開ではなく、次の[[漸化式]]を用いる。この漸化式から、ベルヌーイ数がすべて[[有理数]]であることがわかる。 ::<math> B_0 = 1,\quad{}B_n = -{1 \over n+1}\sum^{n-1}_{k=0}{n+1 \choose k}B_k. </math> ここで、<math>\left({{n+1\atop k}}\right)</math> は[[二項係数]]である。 === 値 === 以下は、定義の漸化式を用いて、第 29 項までのベルヌーイ数の分子と分母を算出した結果である。 また、オンライン整数列大辞典には10000項までの分母、分子がそれぞれ掲載されている。 *分母{{OEIS|A027642}} リスト<ref>[https://oeis.org/A027642/b027642.txt Denominator of Bernoulli number B_n. Table of n, a(n) for n = 0..10000]</ref> *分子{{OEIS|A027641}} リスト<ref>[https://oeis.org/A027641/b027641.txt Numerator of Bernoulli number B_n. Table of n, a(n) for n = 0..10000]</ref> {|class="wikitable" style="white-space:nowrap; text-align:right" ! style="width:4%;"| ''n'' ! style="width:15%;"| 分子 ! style="width:10%;"| 分母 ! style="width:1%;"| ! style="width:4%;"| ''n'' ! style="width:15%;"| 分子 ! style="width:10%;"| 分母 ! style="width:1%;"| ! style="width:4%;"| ''n'' ! style="width:15%;"| 分子 ! style="width:10%;"| 分母 |- |'''0'''|| 1 || 1 || ||'''10'''|| 5 || 66 || ||'''20'''|| −174 611 || 330 |- |'''1'''||−1|| 2 || ||'''11'''|| 0 || — || ||'''21'''|| 0 || — |- |'''2'''|| 1 || 6 || ||'''12'''||−691 || 2 730 || ||'''22'''|| 854 513 || 138 |- |'''3'''|| 0 || —|| ||'''13'''|| 0 || —|| ||'''23'''|| 0 || — |- |'''4'''||−1|| 30 || ||'''14'''|| 7 || 6 || ||'''24'''|| −236 364 091 || 2 730 |- |'''5'''|| 0 || —|| ||'''15'''|| 0 || — || ||'''25'''|| 0 || — |- |'''6'''|| 1 || 42 || ||'''16'''||−3 617 || 510 || ||'''26'''|| 8 553 103 || 6 |- |'''7'''|| 0 || —|| ||'''17'''|| 0 || —|| ||'''27'''|| 0 || — |- |'''8'''||−1|| 30 || ||'''18'''|| 43 867 || 798 || ||'''28'''|| −23 749 461 029 || 870 |- |'''9'''|| 0 || —|| ||'''19'''|| 0 || —|| ||'''29'''|| 0 || — |} ベルヌーイ数の漸化式は、上記の関数 {{math|''f''(''x'') {{=}} {{Sfrac|''x''|''e{{sup|x}}'' − 1}}}} の逆数をテイラー展開し、その 2 つの積が 1 になることから導出できる。その漸化式は厳密な計算には有用であるが、{{mvar|n}} が大きくなると途中の式の値が非常に大きくなるため、[[浮動小数点数]]を使って計算する場合、精度が著しく悪くなる計算として知られている。 [[奇数]]番目のベルヌーイ数は {{math|''B''{{sub|1}}}} 以外はすべて 0 であり、[[偶数]]番目は {{math|''B''{{sub|0}}}} を除いて正の数と負の数が交互に並ぶ。 ベルヌーイ数の第 3 項以降の奇数項が 0 となることは、 {{math|{{Sfrac|''x''|''e{{sup|x}}'' − 1}} +{{Sfrac|1|2}} ''x''}} が偶関数であることから証明できる。 === ベルヌーイ数の一般項 === [[スターリング数#第2種スターリング数|第2種スターリング数]]との関係から、次のようなベルヌーイ数の一般項を算出する公式が存在する。 ::<math> B_n = \sum_{j=0}^n (-1)^j\,j^n\sum_{m=j}^n \frac{1}{m+1}{m\choose j}. </math> この公式は、[[総和]]記号が二重になっているため、上に示した漸化式ほど手軽にベルヌーイ数を計算する公式ではない。 === 漸近的性質 === ベルヌーイ数と[[リーマンゼータ関数]]の関係から、 :<math>B_{2n} = (-1)^{n+1}\frac {2(2n)!} {(2\pi)^{2n}} \left( 1 + \frac{1}{2^{2n}} + \frac{1}{3^{2n}} + \frac{1}{4^{2n}} + \dotsb \right) </math> が成り立つ。従って[[スターリングの公式]]から、{{math|''n'' → ∞}} のとき、 : <math> |B_{2 n}| \sim 4 \sqrt{\pi n} \left(\frac{n}{ \pi e} \right)^{2n} </math> が成り立つ。 == ベルヌーイ数を用いた級数展開 == ベルヌーイ数は、いくつかの双曲線関数と三角関数の級数展開における展開係数となる。 ベルヌーイ数を展開係数とする関数とその[[ローラン級数]]による表現を挙げる。 まず、[[余接関数]] (cotangent) の[[ローラン級数]]展開は次のようになる。 ::<math> \begin{align} \coth z &= \frac1z + \sum_{k=1}^{\infty} \frac{2^{2k}B_{2k}}{(2k)!}z^{2k-1},\\ \cot z &= \frac1z + \sum_{k=1}^{\infty} (-1)^k \frac{2^{2k}B_{2k}}{(2k)!}z^{2k-1}. \end{align} </math> 第 1 の関係式は、ベルヌーイ数が {{math|''f''(''x'') {{=}} {{Sfrac|''x''|''e{{sup|x}}'' − 1}}}} の展開係数であることを利用して数式変形すれば得られる。 第 2 の関係式は {{math|cot ''z'' {{=}} -''i'' coth (''-iz'')}} であることを利用すれば、第 1 の関係式から導き出される。これらの級数の[[収束半径]]は {{math|{{mabs|''z''}} < {{pi}}}} である。 次に[[正接関数]] (tangent) のテイラー展開は次のようになる。 ::<math> \tan z = \sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^k\,(2^{2k}-4^{2k})\,B_{2k}}{(2k)!}z^{2k-1}. </math> この関係式は、{{math|tan ''z'' {{=}} cot ''z'' − 2cot 2''z''}} を利用して余接関数のローラン級数展開を変形すれば導出できる。 なお、この級数の収束半径は {{math|{{mabs|''z''}} < {{Sfrac|{{pi}}|2}}}} である。この正接関数のテイラー展開の展開係数による数列は[[タンジェント数]]と呼ばれる。 一方、[[余割関数]] (cosecant) は次のようにローラン級数展開される。 ::<math> \csc z = \frac{1}{\sin z} = \frac{1}{z} +\sum_{k=1}^\infin \frac{(-1)^k\,(2-2^{2k})\,B_{2k}}{(2k)!}z^{2k-1}. </math> この関係式は、{{math|csc 2''z'' {{=}} {{Sfrac|tan ''z'' + cot ''z''|2}}}} を利用すれば導出できる。 なお、この級数の収束半径は {{math|{{mabs|''z''}} < {{pi}}}} である。 == べき乗和による導入 == ベルヌーイ数は、もともと、連続する整数のべき乗和を定式化する際に、展開係数として導入された。 現代の表記法によって書くならば、定式化するべき乗和とは、 :<math> S_k(n) \equiv \sum_{j=0}^{n-1} j^k = 0^k + 1^k + 2^k + \cdots + (n-1)^k </math> なる総和である。この総和は、ベルヌーイ数を用いて、 :<math> S_k(n+1) = \frac{1}{k+1} \sum_{j=0}^k {k+1\choose j}B_j\,n^{k-j+1} </math> のように書くことができる。 ベルヌーイ数の漸化式は、べき乗和を定式化した際の考察から得られる。 さらに、ベルヌーイ数の指数型[[母関数]]が {{math|{{Sfrac|''x''|''e{{sup|x}}'' − 1}}}} となることから、その母関数を現在ではベルヌーイ数の定義とする。 [[ヤコブ・ベルヌーイ]]は彼の著書『推測術』でベルヌーイ数を導入した際、べき乗和を上に書いたような {{math|0}} から {{math|''n'' − 1}} にわたる和でなく、{{math|1}} から {{mvar|n}} にわたる和: :<math> \hat{S}_k(n) \equiv \sum_{j=1}^{n} j^k = 1^k + 2^k + 3^k + \cdots + n^k </math> として扱っていた。 ベルヌーイは、その著書で整数のべき乗 {{mvar|n{{sup|c}}}} の和を計算する公式として、次の数式を記している<ref>E. Hairer, G. Wanner, "解析教程 上," 蟹江幸博 訳, シュプリンガー・ジャパン, 新装版, p. 18, 2006.</ref>。 :<math> \begin{align} \int n^c & = {} \frac{1}{c+1}n^{c+1} + \frac{1}2n^c + \frac{c}2 An^{c-1} + \frac{c.c-1.c-2}{2.3.4}Bn^{c-3}\\ & \quad\quad\quad{} + \frac{c.c-1.c-2.c-3.c-4}{2.3.4.5.6}Cn^{c-5} \\ & \quad\quad\quad{} + \frac{c.c-1.c-2.c-3.c-4.c-5.c-6}{2.3.4.5.6.7.8}Dn^{c-7}+ \ldots\ldots \end{align} </math> この数式に記載されている展開係数 <math>A, B, C, D, \ldots</math> がベルヌーイ数 (<math>B_2</math> 以降) である。ベルヌーイが記した数式は、 :<math> \hat{S}_k(n) = \frac{1}{k+1} \sum_{j=0}^k {k+1\choose j}\hat{B}_j\,n^{k-j+1} </math> に相当する。この数式に用いた展開係数 <math>\hat{B}_j</math> は、 :<math> \hat{B}_1 = 1/2\,(= -B_1),\quad \hat{B}_j = B_j\quad(j\neq1) </math> のように、<math>j\neq1</math> においてベルヌーイ数と一致する。一部の文献<ref>例えば、 荒木恒男, 伊吹山知義, 金子昌信, "ベルヌーイ数とゼータ関数," 牧野書店, 2001. </ref><ref>Wikipedia [[ファウルハーバーの公式]] もベルヌーイの記述に基づき、第 1 項を1/2とする記述で説明している。</ref>では <math>B_j</math> の代わりに <math>\hat{B}_j</math> をベルヌーイ数と呼んでいる。 一方、日本ではベルヌーイとほぼ同時期に[[関孝和]]がべき乗和を定式化し、ベルヌーイ数を発見していた<ref>小川束, "関孝和によるベルヌーイ数の発見," 数理解析研究所講究録, 第1583巻, 2008.</ref>。 そのため、ベルヌーイ数を'''関・ベルヌーイ数'''と書いている文献<ref>例えば、 桜井進, 中村義作, "天才たちが愛した美しい数式," PHP研究所, 第1版, p.205, 2008.</ref>もある。 ==一般ベルヌーイ数== '''一般ベルヌーイ数'''は[[代数的数]]で、ベルヌーイ数が[[リーマンゼータ函数]]の特殊値に関連する方法と同じ方法で、[[ディリクレのL-函数|ディリクレの ''L''-関数]]の[[L-函数の特殊値|特殊値]]に関連して定義される。 χ を mod ''f'' の[[ディリクレ指標]]とすると、一般ベルヌーイ数 ''B''<sub>''k'',χ</sub> は、 :<math>\sum_{a=1}^f\chi(a)\frac{te^{at}}{e^{ft}-1}=\sum_{k=0}^\infty B_{k,\chi}\frac{t^k}{k!}</math> により定義される。''B''<sub>1,1</sub> = 1/2 を除き、任意のディリクレ指標 χ に対し、χ(−1) ≠ (−1)<sup>''k''</sup> であれば、''B''<sub>''k'',χ</sub> = 0 である。 正でない整数におけるリーマンゼータ関数の値とベルヌーイ数の間の関係を一般化し、全ての整数 ''k'' ≥ 1 に対し、 :<math>L(1-k,\chi)=-\frac{B_{k,\chi}}{k}</math> が成り立つ。ここに ''L''(''s'', χ) は χ のディリクレの ''L''-関数である<ref>{{harvnb|Neukirch|1999|loc=§VII.2}}</ref>。 == 脚注 == {{脚注ヘルプ}} <references/> == 関連項目 == *[[ヤコブ・ベルヌーイ]] *[[関孝和]] *[[ファウルハーバーの公式]] *[[ベルヌーイ多項式]] *[[ゼータ関数]] *[[三角関数]] {{Normdaten}} {{デフォルトソート:へるぬういすう}} [[Category:数論]] [[Category:有理数]] [[Category:整数の類]] [[Category:数の三角形]] [[Category:ヤコブ・ベルヌーイ]] [[Category:関孝和|へき]] [[Category:数学のエポニム]] [[Category:数学に関する記事]]
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