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ホモロジー代数学
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[[File:SnakeLemma01.png|thumb|350px|ホモロジー代数学における基本的な結果である[[蛇の補題]]で用いられる図式。]] '''ホモロジー代数学'''(ホモロジーだいすうがく、{{lang-en-short|homological algebra}})は、一般の代数的な設定のもとで[[ホモロジー (数学)|ホモロジー]]を研究する[[数学]]の分野である。それは比較的新しい分野であり、その起源は19世紀の終わりの、{{仮リンク|組み合わせ論的トポロジー|en|combinatorial topology}}([[代数トポロジー]]の前身)と[[抽象代数学]]([[環上の加群|加群]]や {{仮リンク|syzygy|en|Syzygy (mathematics)}} の理論)の、主に[[アンリ・ポアンカレ]]と[[ダフィット・ヒルベルト]]による研究にまでさかのぼる。 <!-- [[多項式]][[環 (数学)]]上の[[環上の加群|加群]]に関する Hilbert の仕事。 ---> ホモロジー代数学の発展は[[圏論]]の出現と密接に結びついている。概して、ホモロジー代数はホモロジー的[[関手]]とそれから必然的に生じる複雑な代数的構造の研究である。<!-- 一般的な科学的意味での構造 (structure) であって、普遍代数の狭い意味での代数的構造ではない-->数学においてきわめて有用で遍在する概念の1つは'''[[鎖複体|チェイン複体]]''' (chain complex) の概念であり、これはそのホモロジーと[[コホモロジー]]の両方を通じて研究できる。ホモロジー代数は、これらの複体に含まれる情報を得、それを[[環 (数学)|環]]、加群、[[位相空間]]や、他の 'tangible' な数学的対象のホモロジー的[[不変量]]の形で描写する手段を提供してくれる。これをするための強力な手法は[[スペクトル系列]]によって与えられる。 まさにその起源から、ホモロジー代数学は代数トポロジーにおいて非常に多くの役割を果たしている。その影響の範囲は徐々に拡大しており現在では[[可換環論]]、[[代数幾何学]]、[[代数的整数論]]、[[表現論]]、[[数理物理学]]、[[作用素環論]]、[[複素解析]]、そして[[偏微分方程式]]論を含む。[[K-理論]]はホモロジー代数学の手法を利用する独立した分野であり、[[アラン・コンヌ]]の[[非可換幾何]]もそうである。 == ホモロジー代数学の歴史 == ホモロジー代数学は1800年代にトポロジーの1つの分野としてその最も基本的な形が研究され始めたが、[[Ext関手]]や[[Tor関手]]のような対象の研究が独立した主題になるのは1940年代になってからであった<ref name="Weber">History of Homological Algebra, by Chuck Weibel, pp.797-836 in the book The History of Topology, ed. I.M. James, Elsevier, 1999</ref>。 == チェイン複体とホモロジー == {{main|鎖複体}} '''[[鎖複体|チェイン複体]]''' (chain complex) はホモロジー代数学の中心的な概念である。それは[[アーベル群]]と[[群準同型]]の列 <math> (C_\bullet, d_\bullet)</math> であって、任意の2つの連続した[[写像]]の合成が 0 になるという性質をもったものである。 : <math> C_\bullet: \cdots \longrightarrow C_{n+1} \stackrel{d_{n+1}}{\longrightarrow} C_n \stackrel{d_n}{\longrightarrow} C_{n-1} \stackrel{d_{n-1}}{\longrightarrow} \cdots, \quad d_n \circ d_{n+1}=0.</math> <!-- ''d''<sub>''n''+1</sub> o ''d''<sub>''n''</sub> = 0 for all ''n''. --> ''C''<sub>''n''</sub> の元は ''n''-'''チェイン'''(''n''-chain)と呼ばれ、準同型 ''d''<sub>''n''</sub> は'''バウンダリ写像''' (boundary map) や'''微分''' (differential) と呼ばれる。'''チェイン群''' (chain group) ''C''<sub>''n''</sub> は余分な構造をもっているかもしれない。例えば、[[ベクトル空間]]や、固定された[[環 (数学)|環]] ''R'' 上の[[環上の加群|加群]]かもしれない。微分は余分な構造もそれが存在するならば保たなければならない。例えば、[[線型写像]]や ''R''-加群の準同型でなければならない。表記の都合のため、アーベル群(より正確には、アーベル群の[[アーベル群の圏|圏]] '''Ab''')に注意を制限しよう。名高い[[ミッチェルの埋め込み定理]]によって、結果は任意の[[アーベル圏]]に一般化される。すべてのチェイン複体はさらに2つのアーベル群の列を定義する。'''サイクル''' (cycle) ''Z''<sub>''n''</sub> = Ker ''d''<sub>''n''</sub> と'''バウンダリ''' (boundary) ''B''<sub>''n''</sub> = Im ''d''<sub>''n''+1</sub> である。ただし Ker ''d'' と Im ''d'' は ''d'' の[[核 (代数学)|核]]と[[像 (数学)|像]]を表す。2つの連続するバウンダリ写像の合成は 0 なので、これらの群は互いの中に次のように埋め込まれている。 : <math> B_n \subseteq Z_n \subseteq C_n. </math> アーベル群の[[部分群]]は自動的に[[正規部分群|正規]]である。したがって、''n'' 次 '''ホモロジー群''' (''n''th homology group) ''H''<sub>''n''</sub>(''C'') を ''n''-サイクルの ''n''-バウンダリによる[[商群]] : <math> H_n(C) = Z_n/B_n = \operatorname{Ker}\, d_n/ \operatorname{Im}\, d_{n+1}. </math> として定義できる。チェイン複体は、すべてのそのホモロジー群が 0 であるときに、'''非輪状''' (acyclic) または'''[[完全列]]'''、'''完全系列''' (exact sequence) と呼ばれる。 チェイン複体は[[抽象代数学|代数学]]や[[代数トポロジー]]においてよく現れる。例えば、''X'' が[[位相空間]]であれば、その[[特異チェイン]] ''C''<sub>''n''</sub>(''X'') は標準 ''n''-[[単体 (数学)|単体]]から ''X'' の中への[[連続写像]]の形式的な[[線型結合]]である。''K'' が[[単体的複体]]であれば{{仮リンク|鎖 (代数トポロジー)|label=単体的チェイン|en|Chain (algebraic topology)}} ''C''<sub>''n''</sub>(''K'') は ''X'' の ''n''-単体の形式的な線型結合である。''A'' = ''F''/''R'' がアーベル群 ''A'' の[[群の表示|生成元と関係式]]による表現、ただし ''F'' は生成元で張られた[[自由アーベル群]]で ''R'' は relations の部分群、であれば、''C''<sub>1</sub>(''A'') = ''R'', ''C''<sub>0</sub>(''A'') = ''F'', そしてすべての他の ''n'' に対して ''C''<sub>''n''</sub>(''A'') = 0 とすることによって、アーベル群の列が定義される。これらのケースではすべて、''C''<sub>''n''</sub> を複体にする自然な微分 ''d''<sub>''n''</sub> が存在する。その複体のホモロジーは位相空間 ''X''、単体的複体 ''K''、あるいはアーベル群 ''A'' の構造を反映している。位相空間のケースでは、[[特異ホモロジー]]の概念に到達する。これはそのような空間例えば[[多様体]]の性質を研究する際に基本的な役割を果たす。 哲学的なレベルでは、ホモロジー代数学は、代数的あるいは幾何学的対象(位相空間、単体的複体、''R''-加群)に伴ったチェイン複体は、ホモロジーは最も容易に得られる部分でしかないが、それらについてたくさんの価値ある代数的情報を含む、ということを教えてくれる。専門的なレベルでは、ホモロジー代数学は複体を巧みに処理しこの情報を抽出するためのツールを提供する。ここに2つの一般的な例がある。 * 2つの対象 ''X'' と ''Y'' がそれらの間の写像 ''f'' で結ばれている。ホモロジー代数学は ''f'' によって誘導される、''X'' と ''Y'' に伴うチェイン複体とそれらのホモロジーの間の関係を研究する。これは複数の対象とそれらをつなげる写像の場合に一般化される。[[圏論]]の言葉で言えば、ホモロジー代数学はチェイン複体とこれらの複体のホモロジーのさまざまな構造の[[関手]]的性質を研究する。 * 対象 ''X'' は複数の記述ができる(例えば、位相空間としておよび単体的複体として)、または、複体 <math>C_\bullet(X)</math> は自然でない選択を含む ''X'' のある '表現' を使って構成される。''X'' に伴ったチェイン複体の ''X'' の記述の変更の効果を知ることが重要である。一般的には、複体とそのホモロジー <math>H_\bullet(C)</math> はその表現に関して関手的である。そしてホモロジーは(複体自身でないけれども)選択した表現とは実は独立であり、したがってそれは ''X'' の[[不変量]]である。 == 基本的な手法 == === 完全列 === {{Main|完全列}} [[群論]]の文脈では、[[群 (数学)|群]]と[[群準同型]]の列 :<math>G_0 \;\xrightarrow{f_1}\; G_1 \;\xrightarrow{f_2}\; G_2 \;\xrightarrow{f_3}\; \cdots \;\xrightarrow{f_n}\; G_n</math> は、次のようなときに'''完全''' (exact) という。各準同型の[[像 (数学)|像]](あるいは[[値域]])が次の準同型の[[核 (代数学)|核]]に等しい。 :<math>\mathrm{im}(f_k) = \mathrm{ker}(f_{k+1}).\!</math> 群と準同型の列の長さは有限でも無限でもよいことに注意する。 同様の定義はある種の他の[[代数的構造]]に対してもすることができる。例えば、[[ベクトル空間]]と[[線型写像]]の完全列や、[[環上の加群|加群]]と[[加群準同型]]の完全列がある。より一般的に、完全列の概念は、[[核 (圏論)|核]]と[[余核]]ともった任意の[[圏 (数学)|圏]]において意味をもつ。 ==== 短完全列 ==== <!-- :<math>A \;\xrightarrow{f}\; B \;\twoheadrightarrow\; C</math> --> 完全列の最もよく現れるタイプは'''短完全列''' (short exact sequence) である。これは :<math>A \;\overset{f}{\hookrightarrow}\; B \;\overset{g}{\twoheadrightarrow}\; C</math> の形の完全列である。ただし ƒ は[[モノ射]]で ''g'' は[[エピ射]]である。この場合、''A'' は ''B'' の[[部分対象]]であり、対応する[[商対象|商]]は ''C'' に[[同型]]である。 :<math>C \cong B/f(A)</math> (ただし ''f(A)'' = im(''f''))。 アーベル群の短完全列は5つの項をもった完全列として書くこともできる。 :<math>0 \;\xrightarrow{}\; A \;\xrightarrow{f}\; B \;\xrightarrow{g}\; C \;\xrightarrow{}\; 0</math> ただし 0 は[[自明群]]や0次元ベクトル空間といった[[零対象]]を表す。0 の配置によって ƒ は単射であり ''g'' はエピ射になる(下記参照)。 ==== 長完全列 ==== 長完全列は[[自然数]]で添え字づけられた完全列である。 === 五項補題 === {{Main|5項補題}} 任意の[[アーベル圏]]([[アーベル群]]の圏や与えられた[[可換体|体]]上の[[ベクトル空間]]の圏など)や[[群 (数学)|群]]の圏において以下の[[可換図式]]を考える。 [[file:5 lemma.svg]] 5項補題は次のものである。2つの列が[[完全列|完全]]で、''m'' と ''p'' が[[同型]]射で、''l'' が[[エピ射]]で、''q'' が[[モノ射]]であれば、''n'' も同型である。 === 蛇の補題 === {{Main|蛇の補題}} 任意の[[アーベル圏]]([[アーベル群]]の圏や与えられた[[可換体|体]]上の[[ベクトル空間]]の圏など)において、[[可換図式]] [[File:Snake lemma origin.svg]] を考える。ただし2つの列は[[完全列|完全]]で、0 は[[零対象]]である。すると ''a'', ''b'', ''c'' の[[核 (代数学)|核]]や[[余核]]に関連した完全列 <math>\ker a \; {\color{Gray}\longrightarrow} \ker b \; {\color{Gray}\longrightarrow} \ker c \; \overset{d}{\longrightarrow} \operatorname{coker}a \; {\color{Gray}\longrightarrow} \operatorname{coker}b \; {\color{Gray}\longrightarrow} \operatorname{coker}c</math> が存在する。さらに、射 ''f'' が[[モノ射]]であれば、射 ker ''a'' → ker ''b'' もモノ射であり、''g''' が[[エピ射]]であれば、coker ''b'' → coker ''c'' もエピ射である。 === アーベル圏 === {{Main|アーベル圏}} [[数学]]において、'''アーベル圏''' (abelian category) は、[[射]]や対象を足すことができ、[[核 (圏論)|核]]や[[余核]]が存在し望ましい性質をもった[[圏 (数学)|圏]]である。動機付けるプロトタイプのアーベル圏の例は[[アーベル群の圏]] '''Ab''' である。理論の起源は [[アレクサンドル・グロタンディーク]] (Alexander Grothendieck) によるいくつかの[[コホモロジー論]]を統合しようとする試験的な試みである。アーベル圏はとても''安定'' (stable) である。例えば、{{仮リンク|正則圏|label=正則|en|regular category}}であり、[[蛇の補題]]を満たす。アーベル圏のクラスはいくつかの圏論的構成で閉じている。例えば、アーベル圏の[[鎖複体|チェイン複体]]の圏や、{{仮リンク|小さい圏|en|small category}}からアーベル圏への[[関手]]の圏は、再びアーベル圏である。これらの安定性によってアーベル圏はホモロジー代数学やその先で必要不可欠なものである。理論は[[代数幾何学]]、[[コホモロジー]]、そして純粋に[[圏論]]において、主要な応用をもつ。アーベル圏は [[ニールス・アーベル]] (Niels Henrik Abel) にちなんで名づけられている。 より具体的には、圏が'''アーベル圏'''であるとは以下を満たすことである。 * [[零対象]]をもつ。 * すべて二項の[[積 (圏論)|積]]と二項の[[余積]]をもつ。 * すべて[[核 (圏論)|核]]と[[余核]]をもつ。 * すべての[[モノ射]]と[[エピ射]]は{{仮リンク|正規射|en|normal morphism}}である。 === Ext 関手 === {{Main|Ext関手}} ''R'' を[[環 (数学)|環]]とし、Mod<sub>''R''</sub> を ''R'' 上の[[環上の加群|加群]]の[[加群の圏|圏]]とする。''B'' in Mod<sub>''R''</sub> とし、固定された ''A'' in Mod<sub>''R''</sub> に対し ''T''(''B'') = Hom<sub>''R''</sub>(''A,B'') とおく。これは[[左完全関手]]でありしたがって右[[導来関手]] ''R<sup>n</sup>T'' をもつ。Ext 関手は :<math>\operatorname{Ext}_R^n(A,B)=(R^nT)(B)</math> で定義される。これは任意の[[移入分解]] :<math>0 \rightarrow B \rightarrow I^0 \rightarrow I^1 \rightarrow \dots </math> をとり :<math>0 \rightarrow \operatorname{Hom}_R(A,I^0) \rightarrow \operatorname{Hom}_R(A,I^1) \rightarrow \dots</math> を計算することによって計算できる。すると (''R<sup>n</sup>T'')(''B'') はこの複体の[[ホモロジー (数学)|ホモロジー]]である。Hom<sub>''R''</sub>(''A,B'') は複体から除かれていることに注意せよ。 関手 ''G''(''A'')=Hom<sub>''R''</sub>(''A,B'') を使って別の定義が与えられる。固定された加群 ''B'' に対し、これは{{仮リンク|反変関手|label=反変|en|Covariance and contravariance of functors}}[[左完全関手]]であり、したがって右[[導来関手]] ''R<sup>n</sup>G'' ももっており、 :<math>\operatorname{Ext}_R^n(A,B)=(R^nG)(A)</math> と定義できる。これは任意の[[射影分解]] :<math>\dots \rightarrow P^1 \rightarrow P^0 \rightarrow A \rightarrow 0, </math> を選び、 :<math>0\rightarrow\operatorname{Hom}_R(P^0,B)\rightarrow \operatorname{Hom}_R(P^1,B) \rightarrow \dots</math> を計算して双対的に続けることによって計算できる。すると (''R<sup>n</sup>G'')(''A'') はこの複体のホモロジーである。Hom<sub>''R''</sub>(''A,B'') が除かれていることに再び注意する。 これらの2つの構成は[[同型]]な結果をもたらすことがわかり、したがって Ext 関手を計算するのにどちらを使ってもよい。 === Tor 関手 === {{Main|Tor関手}} ''R'' を[[環 (数学)|環]]とし、''R''-'''Mod''' によって左 ''R''-加群の[[加群の圏|圏]]を、'''Mod'''-''R'' によって右 ''R''-加群の圏を表記する。(''R'' が[[可換環]]であれば、2つの圏は一致する。固定された加群 ''B'' in ''R''-'''Mod''' を選ぶ。''A'' in '''Mod'''-''R'' に対し、''T''(''A'') = ''A''⊗<sub>''R''</sub>''B'' とおく。すると ''T'' は '''Mod'''-''R'' からto the [[アーベル群の圏]] '''Ab''' への[[右完全関手]]である(''R'' が可換なときには、'''Mod'''-''R'' から '''Mod'''-''R'' への右完全関手である)。そしてその左[[導来関手]] ''L<sub>n</sub>T'' が定義される。 : <math>\mathrm{Tor}_n^R(A,B)=(L_nT)(A)</math> とおく。すなわち、[[射影分解]] : <math>\cdots\rightarrow P_2 \rightarrow P_1 \rightarrow P_0 \rightarrow A\rightarrow 0</math> をとり、''A'' の項を取り除き、射影分解を ''B'' でテンソルして複体 : <math>\cdots \rightarrow P_2\otimes_R B \rightarrow P_1\otimes_R B \rightarrow P_0\otimes_R B \rightarrow 0</math> を得る。(''A''⊗<sub>''R''</sub>''B'' は現れず、最後の矢はただの零写像であることに注意する。)そしてこの複体の[[ホモロジー (数学)|ホモロジー]]をとる。 === スペクトル系列 === {{Main|スペクトル系列}} 環上の加群の圏のような[[アーベル圏]]を固定する。'''スペクトル(系)列''' (spectral sequence) は非負整数 ''r''<sub>0</sub> の選択と3つの列の集まりである。 # すべての整数 ''r'' ≥ ''r''<sub>0</sub> に対して、対象 ''E<sub>r</sub>''。([[紙]]のシートのように)''シート'' (sheet) と呼ばれる。''ページ'' (page) や''ターム'' (term) と呼ばれることもある。 # ''d<sub>r</sub>'' <small>o</small> ''d<sub>r</sub>'' = 0 を満たす自己準同型 ''d<sub>r</sub>'' : ''E<sub>r</sub>'' → ''E<sub>r</sub>''。''境界写像'' (boundary map) や''微分'' (differential) と呼ばれる。 # ''d<sub>r</sub>'' に関する ''E<sub>r</sub>'' のホモロジー ''H''(''E<sub>r</sub>'') による ''E<sub>r+1</sub>'' の同型 [[Image:SpectralSequence.png|frame|The E<sub>2</sub> sheet of a cohomological spectral sequence]] 二重に次数付けられたスペクトル列は把握するには途方もない量のデータをもっている。しかし、スペクトル列の構造を明確にする、一般的な視覚化のテクニックがある。3つの添え字 ''r'', ''p'', ''q'' がある。各 ''r'' に対し、グラフ用紙のシートを1枚もっていると想像しよう。このシートの上に、''p'' を水平な向きに、''q'' を垂直な向きにとる。各格子点に、対象 <math>E_r^{p,q}</math> があるのである。 ''n'' = ''p'' + ''q'' がスペクトル列の別の自然な添え字であることは非常によくある。''n'' は北西から南東に対角線上を動き、各シートを渡る。ホモロジーの場合には、微分は bidegree (−''r'', ''r'' − 1) をもっているので、''n'' が1つ減る。コホモロジーの場合には、''n'' は1増える。''r'' が 0 であるときには、微分は1つ下か上に対象を動かす。これはチェイン複体上の微分に似ている。''r'' が 1 であるときには、微分は1つ左か右に対象を動かす。''r'' が 2 であるときには、微分はちょうど[[チェス]]の[[ナイト (チェス)|ナイト]]の動きのように対象を動かす。より大きい ''r'' に対しては、微分はナイトの動きを一般化したような感じで作用する。 === 導来関手 === {{Main|導来関手}} 2つの[[アーベル圏]] '''A''' と '''B''' の間に共変[[左完全関手]] ''F'' : '''A''' → '''B''' が与えられているとしよう。0 → ''A'' → ''B'' → ''C'' → 0 が '''A''' における短完全列であれば、''F'' を施すことで完全列 0 → ''F''(''A'') → ''F''(''B'') → ''F''(''C'') を得、次のことを疑問に思うだろう。この列を右に続けて長完全列にするにはどうすればいいだろうか。厳密に言えば、これは不良設定問題である。なぜならば与えられた完全列を右に続けるたくさんの異なる方法が常に存在するからである。しかし、('''A''' が十分 "nice" であれば)それを行う1つの{{仮リンク|カノニカルな|en|canonical form}}方法が存在し、それは ''F'' の右導来関手によって与えられる、ということがわかる。すべての ''i''≥1 に対して、関手 ''R<sup>i</sup>F'': '''A''' → '''B''' が存在し、上記の列は以下のように続く。0 → ''F''(''A'') → ''F''(''B'') → ''F''(''C'') → ''R''<sup>1</sup>''F''(''A'') → ''R''<sup>1</sup>''F''(''B'') → ''R''<sup>1</sup>''F''(''C'') → ''R''<sup>2</sup>''F''(''A'') → ''R''<sup>2</sup>''F''(''B'') → ... . これから ''F'' が完全関手であることと ''R''<sup>1</sup>''F'' = 0 であることが同値であることがわかる。なのである意味 ''F'' の右導来関手は ''F'' が完全であることから「どの程度離れているか」を測る。 == 関手性 == 位相空間の[[連続写像]]はすべての ''n'' に対してそれらの ''n'' 次[[ホモロジー群]]の間の準同型を引き起こす。この[[代数トポロジー]]の基本的な結果はチェイン複体のある種の性質による自然な説明を見つける。いくつかの位相空間を同時に研究することは非常によくあることだから、ホモロジー代数において多数のチェイン複体を同時に考察するということになる。 2つのチェイン複体の間の'''射''' (morphism) <math> F: C_\bullet\to D_\bullet</math> はアーベル群の準同型 ''F''<sub>''n''</sub>:''C''<sub>''n''</sub> → ''D''<sub>''n''</sub> の族であって微分と交換するようなものである。これの意味するところは、すべての ''n'' に対して、''F''<sub>''n'' -1</sub> • ''d''<sub>''n''</sub><sup>''C''</sup> = ''d''<sub>''n''</sub><sup>''D''</sup> • ''F''<sub>''n''</sub> ということである。チェイン複体の射はそれらのホモロジー群の射 <math> H_\bullet(F)</math> を誘導する。これはすべての ''n'' に対して準同型 ''H''<sub>''n''</sub>(''F''): ''H''<sub>''n''</sub>(''C'') → ''H''<sub>''n''</sub>(''D'') からなる。射 ''F'' は、それがすべての ''n'' に対して ''n'' 次ホモロジーの同型を誘導するときに、'''[[擬同型]]''' (quasi-isomorphism) と呼ばれる。 代数や幾何で生じる、[[特異ホモロジー]]を含む、チェイン複体の多くの構成は、次の[[関手]]的性質をもっている。2つの対象 ''X'' と ''Y'' が写像 ''f'' で結ばれていれば、伴ったチェイン複体は <math>C_\bullet(X)</math> から <math>C_\bullet(Y)</math> への射 ''F'' = ''C''(''f'') によって結ばれており、さらに、写像 ''f'': ''X'' → ''Y'' と ''g'': ''Y'' → ''Z'' の合成 ''g'' • ''f'' は、合成 ''C''(''g'') • ''C''(''f'') と一致する、<math>C_\bullet(X)</math> から <math>C_\bullet(Z)</math> への射 ''C''(''g'' • ''f'') を誘導する。ホモロジー群 <math>H_\bullet(C)</math> もまた関手的であるということが従い、それゆえ代数的あるいは幾何学的対象の間の射はそれらのホモロジーの間の両立する (compatible) 写像を引き起こす。 次の定義は代数やトポロジーでよくある状況から生じる。3つのチェイン複体 <math>L_\bullet, M_\bullet, N_\bullet</math> とそれらの間の2つの射<math>f:L_\bullet\to M_\bullet, g: M_\bullet\to N_\bullet</math> からなる三つ組みは次のようなとき '''exact triple''' あるいは'''複体の短完全列''' (short exact sequence of complexes) と呼ばれ、 : <math> 0 \longrightarrow L_\bullet \stackrel{f}{\longrightarrow} M_\bullet \stackrel{g}{\longrightarrow} N_\bullet \longrightarrow 0,</math> と書かれる:任意の ''n'' に対して、列 : <math> 0 \longrightarrow L_n \stackrel{f_n}{\longrightarrow} M_n \stackrel{g_n}{\longrightarrow} N_n \longrightarrow 0 </math> はアーベル群の[[短完全列]]である。定義によって、このことは ''f''<sub>''n''</sub> は[[単射]]で、''g''<sub>''n''</sub> は[[全射]]で、 Im ''f''<sub>''n''</sub> = Ker ''g''<sub>''n''</sub> であることを意味する。[[ジグザグ補題]]と呼ばれることもある、ホモロジー代数学の最も基本的な定理の1つによると、この場合、'''ホモロジーの長完全列''' : <math> \ldots \longrightarrow H_n(L) \stackrel{H_n(f)}{\longrightarrow} H_n(M) \stackrel{H_n(g)}{\longrightarrow} H_n(N) \stackrel{\delta_n}{\longrightarrow} H_{n-1}(L) \stackrel{H_{n-1}(f)}{\longrightarrow} H_{n-1}(M) \longrightarrow \ldots </math> が存在する。''L'', ''M'', ''N'' のホモロジー群は循環的に互いに従い、''δ''<sub>''n''</sub> は ''f'' と ''g'' によって決定されるある準同型であり、'''[[蛇の補題|連結準同型]]''' (connecting homomorphism) と呼ばれる。この定理を位相幾何学的に表現すれば、[[マイヤー・ヴィートリス完全系列]]や{{仮リンク|相対ホモロジー|en|relative homology}}の長完全列が現れる。 <!--以下は原文のコメント--> <!-- Requires more work Functoriality of ''homology'' is so fundamental a property that homological algebra takes it for granted. On the other hand, ''chain complexes'' may or may not be functorial in their 'arguments', the objects whose inner struncture they are supposed to reflect. This difference serves as a source of constant tension in homological algebra. On the one hand, homology yields invariants of [[de Rham cohomology|smooth manifolds]], [[group cohomology|groups]], [[Hochschild homology|algebras]], and so on; and these invariants have extra algebraic structure, such as multiplication in cohomology of manifolds, or the [[Mayer-Vietoris sequence]] relating homology of ''U'', ''V'', their union and their intersection. On the other hand, to ''describe'' or even ''define'' this structure, one must inevitably work with the complexes themselves. In particular, many constructions in homological algebra, such as [[connecting homomorphism]], involve intermideate non-canonical choices, which, however, do not affect the final outcome on the level of homology. --> == 基礎的な見地 == コホモロジー論は、[[位相空間]]、[[層 (数学)|層]]、[[群 (数学)|群]]、[[環 (数学)|環]]、[[リー代数|リー環]]、そして[[C*-環]]といった、多くの異なる対象に対して定義されてきた。現代的な[[代数幾何学]]の研究は[[層コホモロジー]]なしではほとんど考えられないであろう。 ホモロジー代数学で中心的なのは[[完全列]]の概念である。これらは実際の計算を行うのに使うことができる。ホモロジー代数学の古典的な手法は[[導来関手]]のそれである。最も基本的な例は関手 [[Ext関手|Ext]] と [[Tor関手|Tor]] である。 様々な応用が念頭にあり、主題全体を一定の基礎の上に置こうとすることは自然だった。主題が落ち着くまでにいくつかの試みがあった。大体の経過は以下のように述べられる。 * [[Henri Cartan|Cartan]]–[[Samuel Eilenberg|Eilenberg]]: 彼らの 1956 年の本 "Homological Algebra" において、これらの著者は[[射影分解|射影]]および[[移入分解|移入加群分解]]を用いた。 * 'Tohoku'(東北): [[Alexander Grothendieck]] による名高い論文におけるアプローチ。1957年に[[東北数学雑誌|Tohoku Mathematical Journal]](東北数学雑誌)の Second Series に現れ、(アーベル群の[[層 (数学)|層]]を含むために)[[アーベル圏]]の概念を使っている。 * [[Grothendieck]] と {{仮リンク|ジャン・ルイ・ヴェルディエ|en|Jean-Louis Verdier}} (Jean-Louis Verdier) の[[導来圏]]。導来圏は Verdier の1967年の学位論文までさかのぼる。これは多くの現代理論で使われる{{仮リンク|三角圏|en|triangulated category}} の例である。 これらは計算可能性から一般性へと進展する。 一段とすぐれた (''par excellence'') 計算のスレッジハンマーは[[スペクトル系列]]である。これは例えば2つの関手の合成の導来関手を計算するのに必要である Cartan–Eilenberg や Tohoku のアプローチにおいて必須である。スペクトル系列は導来圏のアプローチでは重要性は落ちるがそれでも具体的な計算が必要なときにはいつでも役割を果たす。 はじめのコホモロジーを ''{{仮リンク|torsor|en|torsor}}'' として拡張する '非可換' 理論の試みがなされている([[ガロワ・コホモロジー]]において重要である)。 == 関連項目 == * [[アブストラクト・ナンセンス]]、ホモロジー代数学と[[圏論]]に対する用語 * [[:en:Derivator|Derivator]] * [[ホモトピー代数学]] * [[環論]] * {{仮リンク|ホモロジー代数学のトピック一覧|en|List of homological algebra topics}} == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == * [[Henri Cartan]], [[Samuel Eilenberg]], ''Homological algebra''. With an appendix by David A. Buchsbaum. Reprint of the 1956 original. Princeton Landmarks in Mathematics. Princeton University Press, Princeton, NJ, 1999. xvi+390 pp. ISBN 0-691-04991-2 * [[Alexander Grothendieck]], ''Sur quelques points d'algèbre homologique''. Tôhoku Math. J. (2) 9, 1957, 119–221 * [[Saunders Mac Lane]], ''Homology''. Reprint of the 1975 edition. Classics in Mathematics. Springer-Verlag, Berlin, 1995. x+422 pp. ISBN 3-540-58662-8 * [[Peter Hilton]]; Stammbach, U. ''A course in homological algebra''. Second edition. Graduate Texts in Mathematics, 4. Springer-Verlag, New York, 1997. xii+364 pp. ISBN 0-387-94823-6 * Gelfand, Sergei I.; [[Yuri Manin]], ''Methods of homological algebra''. Translated from Russian 1988 edition. Second edition. Springer Monographs in Mathematics. Springer-Verlag, Berlin, 2003. xx+372 pp. ISBN 3-540-43583-2 * Gelfand, Sergei I.; Yuri Manin, ''Homological algebra''. Translated from the 1989 Russian original by the authors. Reprint of the original English edition from the series Encyclopaedia of Mathematical Sciences (''Algebra'', V, Encyclopaedia Math. Sci., 38, Springer, Berlin, 1994). Springer-Verlag, Berlin, 1999. iv+222 pp. ISBN 3-540-65378-3 * {{Weibel IHA}} {{Normdaten}} {{DEFAULTSORT:ほもろしいたいすうかく}} [[Category:ホモロジー代数|*]] [[Category:数学に関する記事]]
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