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ボルツマン分布
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{{統計力学}} '''ボルツマン分布'''(ボルツマンぶんぷ、{{Lang-en|Boltzmann distribution}})とは、高温で濃度の低い粒子系において、一つの[[エネルギー準位]]にある粒子の数([[占有数]])の分布を与える理論式の一つである。'''ギブズ分布'''とも呼ばれる。[[気体]][[分子]]の[[速度]]の分布を与える[[マクスウェル分布]]をより一般化したものに相当する。 [[量子統計力学]]においては、占有数の分布が[[フェルミ分布]]に従う[[フェルミ粒子]]と、[[ボース分布]]に従う[[ボース粒子]]の二種類の粒子に大別できる。ボルツマン分布はこの二種類の粒子の違いが現れないような条件におけるフェルミ分布とボーズ分布の近似形(古典近似)である。ボルツマン分布に従う粒子は古典的粒子とも呼ばれる。 [[核磁気共鳴]]および[[電子スピン共鳴]]などにおいても、磁場の中で分裂した2つの準位の占有率はボルツマン分布に従う。 == 概要 == ボルツマン分布に従う系において、エネルギーが {{mvar|ε}} に等しい一つの準位にある粒子の数は {{Indent| <math>f(\epsilon) =\lambda\, \mathrm{e}^{-\beta\epsilon} =\mathrm{e}^{-\beta(\epsilon-\mu)}</math> }} で与えられる。分布関数を特徴付けるパラメータ {{mvar|β}} は系の[[温度]]と解釈され、[[熱力学温度]] {{mvar|T}} と {{math|1=''β''=1/''[[kT (エネルギー)|kT]]''}} で関係付けられ、[[逆温度]]と呼ばれる。比例係数 {{mvar|λ}} は[[活量]]で、{{mvar|μ}} は[[化学ポテンシャル]]である。比例係数を除いた {{math|1=e{{sup|−''βε''}}=e{{sup|−''ε''/''kT''}}}} の項は、エネルギー {{mvar|ε}} をもつ粒子の割合を表し、[[ボルツマン因子]]と呼ばれる。エネルギーが {{mvar|ε}} の準位の占有数と {{mvar|ε+Δε}} の準位の占有数の比は {{Indent| <math>\frac{f(\epsilon+\Delta\epsilon)}{f(\epsilon)} =\mathrm{e}^{-\beta \Delta\epsilon}</math> }} となる<ref name="barrow">[[#barrow|バーロー『物理化学』]]</ref>。同じ温度では、高いエネルギー(大きな {{mvar|ε}})の準位の方が一つの準位あたりの粒子数が小さくなる。また、同じエネルギーの準位でも、高い温度(小さな {{mvar|β}}、大きな {{mvar|T}})の条件では一つの準位あたりの粒子数が大きくなる。 複雑な粒子間相互作用がなく、エネルギー準位の分布が占有数によって変化しないことを仮定する。エネルギーが {{mvar|ε}} と {{math|''ε''+''dε''}} の範囲にある準位の数を {{math|''g''(''ε'')''dε''}} とすれば、この範囲にある粒子の数は {{math|''f''(''ε'')''g''(''ε'')''dε''}} で与えられる。系の全粒子数は、全てのエネルギーの範囲で積分して {{Indent| <math>N =\int_{-\infty}^\infty f(\epsilon)\, g(\epsilon)\, d\epsilon =\lambda \int_{-\infty}^\infty \mathrm{e}^{-\beta\epsilon} g(\epsilon)\, d\epsilon</math> }} で与えられる。また、系の全エネルギーは {{Indent| <math>E =\int_{-\infty}^\infty \epsilon\, f(\epsilon)\, g(\epsilon)\, d\epsilon =\lambda \int_{-\infty}^\infty \epsilon\, \mathrm{e}^{-\beta\epsilon} g(\epsilon)\, d\epsilon</math> }} で与えられる。 エネルギー準位の分布が[[離散的]]な場合は、エネルギーが {{mvar|ε{{sub|i}}}} に等しい準位の数を {{mvar|g{{sub|i}}}} として、エネルギーが {{mvar|ε{{sub|i}}}} である粒子の数 {{mvar|n{{sub|i}}}} は {{Indent| <math>n_i =f_i g_i =\lambda\, \mathrm{e}^{-\beta\epsilon_i} g_i</math> }} となり、系の全粒子数と全エネルギーは {{Indent| <math>N =\sum_i n_i =\lambda \sum_i \mathrm{e}^{-\beta\epsilon_i} g_i ,\quad E =\sum_i \epsilon_i\, n_i =\lambda \sum_i \epsilon_i\, \mathrm{e}^{-\beta\epsilon_i} g_i</math> }} で与えられる。 ボルツマン分布は気体の温度が充分に高く、密度が充分に低く、かつ[[量子効果]]が無視されるような系において適用される。{{math|1=''βε''=''ε''/''kT''}} が大きな値を取るような場合、もしくは状態密度が小さい場合のように、古典的粒子として扱うには限界が生じ、かつ粒子の[[波動関数]]が実質的に重複していない場合は、[[ボース分布関数|ボース=アインシュタイン分布]]および[[フェルミ分布関数|フェルミ=ディラック分布]]の両方がボルツマン分布になる。 == 分布 == ボルツマン分布は、その状態のエネルギーとその分布が適用される系の温度の関数として、ある状態の[[確率]]を示す[[確率分布]]である。次のように表される:<ref name="McQuarrie, A. 2000">{{cite book |last=McQuarrie |first=A. |year=2000 |title=Statistical Mechanics |publisher=University Science Books |location=Sausalito, CA |isbn=1-891389-15-7 }}</ref> :<math display="block"> p_i=\frac{1}{Q} \exp\left(- \frac{\varepsilon_i}{kT} \right) = \frac{ \exp\left(- \tfrac{\varepsilon_i}{kT} \right) }{ \displaystyle \sum_{j=1}^{M} \exp\left(- \tfrac{\varepsilon_j}{kT} \right) } </math> ここでは、 *{{math|exp()}} は[[指数関数]] *{{mvar|p<sub>i</sub>}} は状態 {{mvar|i}} の確率 *{{mvar|ε<sub>i</sub>}} は状態 {{mvar|i}} のエネルギー *{{mvar|k}} は[[ボルツマン定数]] *{{mvar|T}} は系の[[熱力学温度|絶対温度]] *{{mvar|M}} は対象となる系でアクセス可能なすべての状態の数<ref name="McQuarrie, A. 2000"/><ref name="Atkins, P. W. 2010">Atkins, P. W. (2010) Quanta, W. H. Freeman and Company, New York</ref> *{{mvar|Q}}(一部の著者によっては{{mvar|Z}}と表される)は正規化の分母であり、カノニカル分配関数である。<math display=block> Q = \sum_{j=1}^{M} \exp\left(- \tfrac{\varepsilon_j}{kT} \right) </math> これは、アクセス可能なすべての状態の確率の合計が1であるという制約から得られる。 [[ラグランジュの未定乗数法]]を用いることで、正規化制約 <math display="inline">\sum p_i=1</math> および <math display="inline">\sum {p_i {\varepsilon}_i}</math> が特定の平均エネルギーに等しいという制約の下で、ボルツマン分布が[[エントロピー]]を最大化する分布であることを証明できる。 :<math display=block>S(p_1,p_2,\cdots,p_M) = -\sum_{i=1}^{M} p_i\log_2 p_i</math> == 例 == === 理想気体 === 分子のエネルギーは単純に粒子の[[運動エネルギー]]で与えられる。 :<math>E_i = {\begin{matrix} \frac{1}{2} \end{matrix}} mv^{2}</math> また[[重力]]が働く場合は[[位置エネルギー]]の項が加わる。 :<math>E_i = {\begin{matrix} \frac{1}{2} \end{matrix}} mv^{2} + mgh</math> この場合の気体分子の垂直分布は以下の式で表される。 :<math>{{N_i}\over{N}} = {{g_i e^{-mgh/(k_BT)}}\over{Z(T)}}</math> == 脚注 == {{reflist}} == 参考文献 == * {{Cite book|和書 |author= Gordon M. Barrow |others= 大門寛、堂免一成 訳 |title= 物理化学 |publisher= [[東京化学同人]] |year= 1999 |ref= barrow }} * {{Cite book|和書 |author= Tai L. Chow | others 鈴木増雄 訳 |title= 科学技術者のための数学ハンドブック |publisher= 朝倉書店 |year= 2002 |isbn = 4-254-11090-1 |ref= Tai }} == 関連項目 == * [[粒子統計]] ** [[フェルミ統計]] ** [[ボース統計]] * [[最大エントロピー原理]] * [[ルートヴィッヒ・ボルツマン]] * [[ソフトマックス関数]] - ボルツマン分布の人工知能の分野での呼び名 == 外部リンク == * {{Wayback|url=http://www.h5.dion.ne.jp/~antibody/boltzmann.htm |title=抗体科学研究所 |date=20041109091455}} * [http://theory.ph.man.ac.uk/~judith/stat_therm/node67.html Derivation of the distribution for microstates of a system] {{Statistical mechanics topics}} {{DEFAULTSORT:ほるつまんふんふ}} [[Category:統計力学]] [[Category:物理化学]] [[Category:ルートヴィッヒ・ボルツマン]] [[Category:物理学のエポニム]]
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