ポロニウム210のソースを表示

{{Infobox 同位体
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'''ポロニウム210''' (Polonium-210・<sup>210</sup>Po) とは、[[ポロニウムの同位体]]の1つ。

== 天然での存在 ==
[[File:Decay_chain(4n+2,_Uranium_series).PNG|thumb|250px|right|<sup>210</sup>Poは[[ウラン系列]]の中に存在する[[核種]]の1つである。]]
<sup>210</sup>Poは、天然に存在するほぼ唯一の[[ポロニウム]]の[[同位体]]である<ref name="book1">桜井弘『元素111の新知識 第2版』講談社、2009年、{{ISBN2|978-4-06-257627-7}}</ref><ref name="book2">セオドア・グレイ『世界で一番美しい元素図鑑』創元社、2010年、{{ISBN2|978-4422420042}}</ref>。[[半減期]]は138.376日という寿命の短い[[放射性同位体]]であるが<ref name="NNDC">[http://www.nndc.bnl.gov/amdc/nubase/Nubase2003.pdf The NUBASE evaluation of nuclear and decay properties ''National Nuclear Data Center''] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20080923135135/http://www.nndc.bnl.gov/amdc/nubase/Nubase2003.pdf |date=2008年9月23日 }}</ref>、天然に豊富に存在する[[ウラン238|<sup>238</sup>U]]から始まる[[崩壊系列]]である[[ウラン系列]]の中に存在する[[核種]]であるため、常に極微量ながら補充される核種だからである。その量は極めてわずかであり、[[天然ウラン]]1トンに対してわずか74μgしかなく、ウランの約135億分の1であり、[[地殻]]に含まれる割合は約178ppt程度である<ref group="注釈">ウランの地殻濃度は約2.4ppm</ref>。しかし、その量における[[放射能]]は約120億[[ベクレル|Bq]]に達する<ref group="注釈"><sup>210</sup>Poの原子量と半減期が既知のため、任意の質量あたりの[[放射能]]の値は計算が可能である。具体的には、1gの<sup>210</sup>Poは166兆Bqの放射能を持つ。詳しい計算は[[ベクレル]]の項目を参照。</ref><ref name="CNIC">[http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/15.html 14．ポロニウム-210（210Po） ''原子力資料情報室'']</ref>。天然ウラン1トンの放射能は約254億Bqであるため<ref group="注釈">天然ウランに含まれる[[ウラン234|<sup>234</sup>U]]、[[ウラン235|<sup>235</sup>U]]、[[ウラン238|<sup>238</sup>U]]の1トンあたりの放射能はそれぞれ約230兆Bq、約800億Bq、約124億Bqであり、それらに同位体比をかければ合計の放射能が求まる。</ref>、天然ウランに含まれる<sup>210</sup>Poの[[比放射能]]は天然ウランの約半分に達する。わずかな量でも強い放射能を有する性質が、後述するポロニウムの発見につながった<ref name="book1"/>。<sup>238</sup>Uから<sup>210</sup>Poに至るまで、7回の[[アルファ崩壊]]と6回の[[ベータ崩壊]]を経由する。また、大気1m<sup>3</sup>には0.2mBqから1.5mBqの<sup>210</sup>Poが含まれている<ref name="CNIC"/>。

厳密に述べれば、ウラン系列では[[ポロニウム214|<sup>214</sup>Po]]と[[ポロニウム218|<sup>218</sup>Po]]、他の崩壊系列では[[ポロニウム211|<sup>211</sup>Po]]、[[ポロニウム212|<sup>212</sup>Po]]、[[ポロニウム215|<sup>215</sup>Po]]、[[ポロニウム216|<sup>216</sup>Po]]が天然に存在する。しかし、半減期が最も長い<sup>218</sup>Poでも3.10分、その他の核種は1秒未満しかないため、全くのゼロというわけではないが、実質的に存在しないと見なすことが出来る。また、<sup>210</sup>Poより寿命の長い核種に[[ポロニウム209|<sup>209</sup>Po]]の102年、および[[ポロニウム208|<sup>208</sup>Po]]の2.898年があるが、これらの親核種はいずれも天然には存在し得ない極めて短命な核種しか存在しないため、これらは天然には全く存在しない<ref name="NNDC"/>。

== 崩壊 ==
[[File:Polonium 210.png|thumb|right|250px|<sup>210</sup>Poが[[鉛206|<sup>206</sup>Pb]]に崩壊する[[壊変図式]]。[[鉛206m2|<sup>206m2</sup>Pb]]に分岐して[[ガンマ線]]を放出することはあるが、それは極めてわずかである。]]
<sup>210</sup>Poは、その100%が約5.4[[メガ|M]][[電子ボルト|eV]]の[[アルファ粒子]]を放出し、[[安定同位体]]である[[鉛206|<sup>206</sup>Pb]]に変化する<ref name="NNDC"/>。稀に[[核異性体]]である[[鉛206m2|<sup>206m2</sup>Pb]]に分岐し、[[核異性体転移]]での崩壊に伴う[[ガンマ線]]を放出することがある。ガンマ線のエネルギーは約4.6MeVであるが、分岐はわずか0.00124%という非常に低確率である。同じようにアルファ崩壊をする核種である[[プルトニウム239|<sup>239</sup>Pu]]や[[アメリシウム241|<sup>241</sup>Am]]などと異なり、エネルギーピークは1つであることを特徴とする<ref name="LNHB">[http://www.nucleide.org/DDEP_WG/Nuclides/Po-210_tables.pdf Po ''Laboratoire National Henri Becquerel'']</ref>。また、アルファ線の作用により、<sup>210</sup>Poの周辺の[[空気]]は励起光を発する<ref name="book2"/>。

<sup>210</sup>Poの親核種としては、[[ビスマス210|<sup>210</sup>Bi]]が最も著名である。<sup>210</sup>Biは先述したウラン系列において<sup>210</sup>Poの前に相当する核種であり、半減期5.013日をもって99.99987%がベータ崩壊によって<sup>210</sup>Poに変化する。そのほか、[[ラドン214|<sup>214</sup>Rn]]のアルファ崩壊、[[アスタチン210|<sup>210</sup>At]]の[[陽電子放出]]がある<ref name="NNDC"/>。

また、<sup>210</sup>Poには、[[核異性体]]である[[ポロニウム210m|<sup>210m</sup>Po]]がある。<sup>210m</sup>Poはわずか98.9ナノ秒で[[核異性体転移]]をして<sup>210</sup>Poに壊変する<ref name="NNDC"/>。

== 歴史 ==
[[File:Pichblende.jpg|250px|thumb|right|[[閃ウラン鉱|ピッチブレンド]]は<sup>210</sup>Poを含む。]]
{{Main|ポロニウム|ピエール・キュリー|マリ・キュリー}}
<sup>210</sup>Poは、初めて発見されたポロニウムの同位体である。<sup>210</sup>Poは[[1898年]]に[[ピエール・キュリー]]と[[マリ・キュリー]]夫妻によって発見された。発見のきっかけは、[[ウラン]]や[[トリウム]]を含む[[閃ウラン鉱|ピッチブレンド]]の[[放射線]]量を測定した結果、ウランやトリウムから推定される数値の約4倍という、はるかに多くの放射線を測定したことである。キュリー夫妻はこれを未知の[[元素]]によるものと推定し、高価なピッチブレンドの代わりに、[[ヨアヒムスタール鉱山]]で産出したウラン鉱石の残渣数トンから数ヶ月の時間を使って成分の抽出・分離を行った結果である。なお、[[1902年]]には別の化学者が同じくピッチブレンドから放射性の[[テルル]]を発見し一時論争となったが、後に同じ物質である事が確認された。ポロニウムの名はマリ・キュリーの故郷であり、当時[[ロシア帝国]]の占領下にあった[[ポーランド]]に因んでいる。マリは当時ポーランドを独立・解放する運動に強い関心を寄せていた。その後12月にキュリー夫妻によって発見された[[ラジウム]]に因み、名称が決定するまでは暫定的に「ラジウムF (Radium F) 」と呼ばれた。なお、発見されたポロニウムの[[原子量]]は、[[ドミトリ・メンデレーエフ]]が[[1891年]]に発表した[[周期表]]で予測した原子量である212に近い数値であった。周期表の発表時は未発見であったため、暫定的に「エカテルル (ekatellurium) 」と呼ばれた。エカテルルすなわちポロニウムの化学的性質は、周期表で予測されたとおりテルルと類似していた。[[1911年]]にマリに贈られた[[ノーベル化学賞]]は、ポロニウムおよびラジウムの発見の功績に対して贈られた<ref name="book1"/><ref name="book2"/><ref name="book3">John Emsley『元素の百科事典』丸善株式会社、2003年、{{ISBN2|4-621-07262-5}}</ref>。

== 生成・用途 ==
先述したとおり、<sup>210</sup>Poはウラン鉱石中にわずかしか含まれていないため、鉱石からの抽出は現実的ではない。人工的に<sup>210</sup>Poを得るには、[[ビスマス209|<sup>209</sup>Bi]]に[[中性子線]]を照射し、[[中性子捕獲]]で<sup>210</sup>Biになったものが<sup>210</sup>Poにベータ崩壊して生じたものを使用する。1kgの<sup>209</sup>Biを原子炉で1ヶ月間照射して得られる<sup>210</sup>Poは3000億Bqであり、質量で約1.7mgである。厚さ0.1mmの<sup>209</sup>Bi板に加速した10MeVの[[重水素|重陽子]]を10日間照射して得られる<sup>210</sup>Poは400億Bqであり、質量で約0.2mgである<ref name="CNIC"/>。

{{indent|<math>\mathrm{^{209}_{\ 83}Bi\ +\ ^{1}_{0}n\ \longrightarrow \ ^{210}_{\ 83}Bi\ \xrightarrow[5.012 \ days]{\beta^-} \ ^{210}_{\ 84}Po}</math>}}

<sup>210</sup>Poが崩壊して放出されるアルファ線は強い電離作用を持つため、[[静電気]]を除去する装置に使われている。これは一般人でもごく普通に入手できる装置である。アルファ線の装置は、[[コロナ放電]]、[[X線]]、[[紫外線]]を用いた装置よりもいくつか優れた性質を持つといわれる<ref>[http://www.idema.gr.jp/news/60/gijutsu1.pdf アルファ線イオナイザー ''IDEMA Japan'']</ref>。後述するとおり<sup>210</sup>Poは極めて毒性が強いが、<sup>210</sup>Poが外部に漏れ出さないように、[[金]]や[[銀]]など、別の金属の間に<sup>209</sup>Biを挟み、先述した中性子線の照射における中性子捕獲によって<sup>210</sup>Poを発生させる事によって安全性を保っている<ref name="book2"/><ref name="NRC">[http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/fact-sheets/polonium.html Fact Sheet on Polonium-210 ''United States Nuclear Regulatory Commission'']</ref>。

<sup>210</sup>Poは、放射性物質が崩壊する際に出す熱を[[ゼーベック効果]]によって電力に変える[[放射性同位体熱電気転換器]] (RTG) に使われる事がある。これは1950年代に[[アメリカ原子力委員会]]によって作られた初期のRTGのいくつかに使用された。<sup>210</sup>Poはわずか1gで約140Wという驚異的な出力を生み出す<ref name="book2"/>。これは現在主流に使われている[[プルトニウム238|<sup>238</sup>Pu]]の260倍である。ただし、[[自発核分裂]]などの他の崩壊モードが全く存在せず、極めてわずかなガンマ線以外は遮断が容易なアルファ線しか放出しない性質は優秀なものの、出力の高さに起因する半減期が短いことから短期間しか使えず、また適切な冷却系がないと、<sup>210</sup>Po固体の温度は500℃に達し<ref name="book3"/>、自己の熱で融解・蒸発してしまうことから<ref group="注釈">ポロニウムの融点は254℃、沸点は962℃である。</ref>、用途が限られてしまう。現在のRTGはより優秀な核種である<sup>238</sup>Puや[[ストロンチウム90|<sup>90</sup>Sr]]などに置き換わっている<ref>[http://cdn.intechopen.com/pdfs/21661/InTech-Radioisotope_power_a_key_technology_for_deep_space_exploration.pdf Radioisotope Power: A Key Technology for Deep Space Exploration ''cdn.intechopen.com'']</ref>。

また、[[1945年]]に[[長崎市]]に投下された[[原子爆弾]]である[[ファットマン]]をはじめとして、初期の[[爆縮レンズ|インプロージョン方式]]原子爆弾の中性子点火剤に用いられた。これは、爆縮によって[[ベリリウム9|<sup>9</sup>Be]]と<sup>210</sup>Poが混合され、<sup>210</sup>Poが放出したアルファ線を<sup>9</sup>Beが受け取り核反応を起こす。すると<sup>9</sup>Beは[[炭素12|<sup>12</sup>C]]に変化し、余った中性子はアルファ線と同じ方向に周期的にたたき出すことを利用している<ref>[http://www.cartage.org.lb/en/themes/Sciences/Chemistry/NuclearChemistry/NuclearWeapons/FirstChainReaction/FirstNuclWeapons/DesignGadget.htm The Design of Gadget, Fat Man, and "Joe 1" (RDS-1) ''Cartage.org'']</ref>。現在でもその性質を利用して、携帯用の中性子線源として利用される<ref name="book3"/>。

: <chem>{}^9_4Be + {}^4_2He -> ^12_6C + ^1_0n</chem>

== 放射能・毒性 ==
<sup>210</sup>Poは半減期が短いため、極めて強い[[放射能]]を持つ。1gの<sup>210</sup>Poは約166TBqの放射能を有し<ref name="CNIC"/>、これは同質量の天然ウランの約65億倍も強い。なお、天然ウランの330倍という数字は、キュリー夫妻が記録した、ポロニウムを含む生成物の放射活性の数字を誤解したものである<ref>[http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/physics/articles/curie/index.html Marie and Pierre Curie and the Discovery of Polonium and Radium ''Nobelprize.org'']</ref>。

<sup>210</sup>Poを1万Bqを吸引した際の[[実効線量]]は22m[[シーベルト|Sv]]、経口摂取した場合は2.4mSvとなる<ref name="CNIC"/>。経口摂取の数値で比較すると、[[原子力事故]]の際問題となる核種である[[セシウム137|<sup>137</sup>Cs]]の18倍<ref>[http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html 12．セシウム-137（137Cs） ''原子力資料情報室'']</ref>、[[ヨウ素131|<sup>131</sup>I]]の11倍も強い実効線量である<ref>[http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/11.html 10．ヨウ素-131(131I) ''原子力資料情報室'']</ref>。[[比放射能]]が強く、アルファ線という電離作用の強い放射線のため、その毒性は放射性物質の中でも極めて強い<ref name="NYT">[https://www.nytimes.com/2006/12/10/world/europe/10nuke.html?_r=0 Regulators Study Tighter Controls on Polonium 210]、2006年12月10日、New York Times</ref>。体重70kgの成人男性の場合、111MBqで致命的であると推定されている。これは質量に換算してわずか670[[ナノ|n]][[グラム|g]]であり、塩粒より小さな程度でしかない<ref name="NRC"/>。[[半数致死量]]の数値で比較すると、[[シアン化カリウム]]<ref group="注釈">いわゆる青酸カリ。</ref>の37万倍、人工物で最も毒性の強い[[VXガス]]の240倍毒性が強く、知られている中で最も毒性の強い物質である[[ボツリヌストキシン]]は、<sup>210</sup>Poの約10倍毒性が強い程度である。なお、致死量を10ng<ref name="book2"/>、安全負荷量を7[[ピコ|p]][[グラム|g]]<ref name="book3"/>とする資料もある。酸化物、水酸化物、および硝酸塩の形態における<sup>210</sup>Poの濃度限度は、排気・空気中で80nBq/cm<sup>3</sup>、廃液・排水中で600μBq/cm<sup>3</sup>である。μSv/Bq換算での実効線量係数は、吸引摂取した場合は2.2、経口摂取した場合は0.24である<ref name="CNIC"/>。
[[File:DunhillEarlyMorningPipeMurrays.jpg|thumb|right|250px|<sup>210</sup>Poは[[タバコ]]の葉に含まれており、喫煙により体内に吸引される。その[[実効線量]]や健康に対するリスクには様々な説がある。]]
一般人が<sup>210</sup>Poを体内に摂取する経路は、主に水中に含まれる酸化物、水酸化物、硝酸塩を経口摂取するものであるが<ref name="CNIC"/>、特に健康上の問題を考えるほど大量の場合を想定する場合には、主に[[タバコ]]に由来する。ウラン濃度の高い[[リン鉱石]]から作られた肥料には[[ラジウム226|<sup>226</sup>Ra]]が含まれており、肥料を使用すると、<sup>226</sup>Raが崩壊して生成される[[ラドン222|<sup>222</sup>Rn]]が大気中から放出される。そして<sup>222</sup>Rnから崩壊した[[鉛210|<sup>210</sup>Pb]]がタバコの葉の毛状突起に付着する。そして<sup>210</sup>Pbが<sup>210</sup>Biを経由して<sup>210</sup>Poへと変化する。<sup>210</sup>Poは煙と共に体内に吸引される。喫煙に起因する[[肺癌]]の少なくとも2%は<sup>210</sup>Poによるものとする推定もある<ref>[http://www.briannarego.com/RegoSciAm2011.pdf Radioactive Smoke ''Brianna Rego'']</ref>。<sup>210</sup>Poのアルファ線は水中で0.04mmという極めてわずかな距離しか進まず、外部被曝は皮膚表面にとどまるため、健康上の問題があるのは内部被曝によるものである<ref name="CNIC"/><ref name="NRC"/>。UNSCEARの報告では、タバコに付着した<sup>210</sup>Poや<sup>210</sup>Pbによる[[放射線]]で10μSv/年の実効線量を推定している。しかし、別の推定は、これよりはるかに強く、例えば{{仮リンク|ウルビーノ大学|en|University of Urbino}}は1日20本の喫煙で<sup>210</sup>Po由来の[[被曝]]が124.8μSv/年<ref>[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17164600 210Po and 210Pb inhalation by cigarette smoking in Italy. ''National Center for Biotechnology Information'']</ref>、[[放射線医学総合研究所]]は200μSv/年の被曝を推定している<ref>岩岡和輝, 米原英典、[https://doi.org/10.3769/radioisotopes.59.733 喫煙者の実効線量評価－タバコに含まれる自然起源放射性核種－] 『RADIOISOTOPES』 2010年 59巻 12号 p.733-739, {{doi|10.3769/radioisotopes.59.733}}</ref>。

体内にある<sup>210</sup>Poの総量は約40Bq (240[[フェムト|f]][[グラム|g]]) で、1日あたり0.1Bqを摂取している。[[肝臓]]、[[腎臓]]、[[脾臓]]に多く蓄積し、およそ100日で体外へと排出される<ref name="CNIC"/>。[[ヒヒ]]を用いたポロニウムの[[クエン酸]]塩の投与実験では、[[肝臓]]に29%、[[腎臓]]に7%、[[脾臓]]に0.6%が蓄積し、[[生物学的半減期]]は50日から150日と個体差が大きいという<ref name="book1"/>。試験は0.1mg以下のレベルで行われており、その化学的挙動は複雑で予測がしにくい<ref name="CNIC"/>。

<sup>210</sup>Poは自然放射性核種として魚介類に多く含まれるが、日本人は魚介類の消費量が多いこととその内臓を食する食習慣のため<sup>210</sup>Po の摂取量が220Bq/年と他国より多く、<sup>40</sup>Kよりも年間実効線量に対する寄与は大きい<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/934/616/H24-2_iinsiryo1,0.pdf|title=ポロニウム210による内部被ばく(日本人の自然放射線による年間実効線が変更された主な理由について)|author=細井義夫|publisher=|format=PDF|accessdate=2014-08-26}}</ref><ref>{{Cite journal
 |author = SUGIYAMA Hideo|title =Internal exposure to 210Po and 40K from ingestion of cooked daily foodstuffs for adults in Japanese cities
 |date = 2009-08 |publisher = 日本毒性学会 |journal = Journal of toxicological sciences |volume = 34 |issue = 4|naid = 110007359657|pages = 417-425}}</ref>。[[原子放射線の影響に関する国連科学委員会|UNSCEAR]]の2000年報告書では食品摂取による<sup>210</sup>Poの預託実効線量の世界平均は年間摂取量30Bqについて0.021mSVと評価されているが、日本分析センターの2005年の評価では、日本人一人当たりの食品摂取による<sup>210</sup>Poの預託実効線量は年間摂取量85Bqについて0.058mSVである<ref>{{Cite journal|url=http://www.kankyo-hoshano.go.jp/08/ers_lib/ers_abs47.pdf|title=日本人一人あたりの年実効線量に係る新たな知見―放射能濃度の分析結果等から線量を計算―|author=森本隆夫、長岡和則、真田哲也、太田智子、佐藤兼章|journal=第47回環境放射能調査研究成果論文抄録集（平成16年度）|publisher=文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課防災環境対策室|date=2005-12|pages =99-103|}}</ref>。

先述したとおり、<sup>210</sup>Poは崩壊時にほぼ純粋なアルファ線を放出し、[[ガンマ線]]はわずかしか伴わない<ref name="LNHB"/>。<sup>210</sup>Poの検出には<sup>210</sup>Poを純粋分離した試料からアルファ線を測定するのが普通であるが、床に付着したものは、アルファ線が空気中をほとんど進まないため、2cm以内に検出器を置かないと検出が出来ない<ref name="CNIC"/>。これらの性質は、暗殺目的に<sup>210</sup>Poを投与させるには極めて都合が良い。なぜなら、<sup>210</sup>Poを含ませた食品等を容器に入れると、アルファ線は紙1枚でも容易に遮断されるほど透過性が低いため外部に漏れず、透過性の強いガンマ線は微量過ぎてガンマ線測定器による検出は不可能であるため、検査を容易にすり抜ける事が可能であるためである。また、同様の理由で運搬者は被曝しないことも都合が良い。2004年に死亡した[[パレスチナ自治政府]]大統領の[[ヤーセル・アラファート]]（ヤセル・アラファト）、2006年に[[リトビネンコ事件|死亡]]した元[[ロシア連邦保安庁]]職員の[[アレクサンドル・リトビネンコ]]は、<sup>210</sup>Poが暗殺目的で使用されたものと疑われているケースである。両者はどちらも内臓系の障害が原因で死亡しており、体内や遺品から<sup>210</sup>Poが検出されている<ref name="NRC"/><ref>[https://www.afpbb.com/articles/-/2888258?pid=9221637 故アラファト議長「毒殺」で使用？ ポロニウムとは]、AFP BB News、2012年7月6日</ref><ref>[https://www.afpbb.com/articles/-/2913479?pid=9906994 毒殺疑惑で捜査、アラファト氏遺体からサンプル採取]、AFP BB News、2012年11月27日</ref><ref>[https://www.cnn.co.jp/world/35024914.html アラファト氏毒殺説で遺体掘り出し 死因鑑定へ]、CNN.co.jp、2012年11月27日</ref>。なお、先述したとおり<sup>210</sup>Poは静電気除去装置に使われるが、これの分解によって<sup>210</sup>Poを取り出すのは、特殊な装置が必要なことと、量が微量すぎるので現実的ではないとされる。<sup>210</sup>Poの投与による急性中毒で死亡させるには一般人には入手不可能なほどの大量の<sup>210</sup>Poが必要であり、したがって暗殺目的で<sup>210</sup>Poを使用する人は、原子力発電所で生成した多量の<sup>210</sup>Poを入手できる環境に関われる、例えば国家機関に従事している人物に限られる事になる<ref name="NRC"/><ref name="CNIC"/>。なお、体内に摂取された<sup>210</sup>Poの推定には、排泄物からの[[バイオアッセイ]]が唯一の方法である<ref name="CNIC"/>。また、わずかな量で致死量に達し、自己の熱で容易に揮発し、しかも検出が困難である性質は、テロリストが[[汚い爆弾]]として利用するには都合が良いため、セキュリティの強化が検討されている<ref name="NYT"/>。

== その他 ==
[[漸近巨星分枝星]]の内部で発生する[[元素合成]]である[[s過程]]において、<sup>210</sup>Poは出現する最も重い元素である。実質的な[[安定同位体]]である<sup>209</sup>Biが中性子捕獲をすることで<sup>210</sup>Biに変化し、それがベータ崩壊することによって<sup>210</sup>Poが生成されるが、s過程における中性子捕獲は速度が遅いため、<sup>210</sup>Poが更なる中性子捕獲によってより重い元素を生み出す前に、<sup>210</sup>Poがアルファ崩壊してしまう。ウランやトリウムのようなより重い元素を生み出すのは、[[超新星]]爆発で発生する[[r過程]]においてである<ref>[http://www.mpa-garching.mpg.de/lectures/ADSEM/WS0910_Goblirsch.pdf S-process nucleosynthesis ''Max-Planck-Institut'']</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|30em}}

== 関連項目 ==
* [[ポロニウムの同位体]]
* [[放射性同位体熱電気転換器]]
* [[爆縮レンズ]]
* [[喫煙]]
* [[放射能兵器]]

{{Isotope|element=ポロニウム
|lighter=[[ポロニウム209|<sup>209</sup>Po]]
|heavier=[[ポロニウム211|<sup>211</sup>Po]]
|before=[[ポロニウム210m|<sup>210m</sup>Po]] ([[核異性体転移|IT]])<br/>[[ビスマス210|<sup>210</sup>Bi]] ([[ベータ崩壊|β<sup>-</sup>]])<br/>[[ラドン214|<sup>214</sup>Rn]] ([[アルファ崩壊|α]])<br/>[[アスタチン210|<sup>210</sup>At]] ([[陽電子放出|β<sup>+</sup>]])
|after=[[鉛206|<sup>206</sup>Pb]] (α)<br/>[[鉛206m2|<sup>206m2</sup>Pb]] (α)
}}

[[Category:ポロニウムの同位体|210]]